信じて託したあの子が私のベッドで彼氏と寝ていた

澤田慎梧

信じて託したあの子が私のベッドで彼氏と寝ていた

 疲れ切って帰宅すると、彼がエリと一緒に寝ていた。私のベッドで。


「ナニ……してるの?」

「何って、見りゃ分かるだろう」


 悪びれる様子もなく、挑発的に答える彼。

 その手は今も現在進行形で、エリの敏感な部分を愛おしそうに撫でまわしている。

 エリは夢現の中にあるのか、眼を閉じたまま彼の腕に抱かれ、僅かに身じろぎしていた。


 ――突然の出張が決まったのが三日前。

 一人では食事もままならないエリの預け先を探し回って、見付からなくて途方に暮れていたところ、彼が「俺に任せろよ」と言ってくれた。

 けれども、不安があった。エリは世界一綺麗な子だ。おまけにとても人懐っこく、するりと懐に入って相手を堕落させてしまう魔性の女だ。


 その魅力の前には、年齢も性別も関係ない。気付けば依存し、依存させられている。

 私の友人も既に何人かエリの餌食となっていて、定期的に「貢物」をもってくる始末だ。


 彼のことは信用していたけど、はたしてエリのことを任せても良いものか。エリに擦り寄られて、その気にならない人間などいないのだ。

 悩みに悩んだけど時間は待ってくれない。私は仕方なく彼に合鍵を預け、出張先に向かった。


 そうして、帰ってみればこれだった。

 エリはまるで、長年連れ添った恋人に甘えるかのように彼の胸に顔をうずめ、安らかな寝息を立てている。

 ――私にだってあんな甘え方をしたことなんてないというのに!


「お、妬いてるのか?」

「――っ」


 私の内心を見透かしたかのように、彼がニヤリと笑う。

 そうだ、私は嫉妬している。

 私の恋人の腕の中で眠るエリに対して――よりも、たった数日で私よりもエリに懐かれている彼に対して。


 嫉妬の炎で頭の中がぐつぐつと煮えたぎり、どうにかなってしまいそうだった。

 誰よりもエリに心酔し依存し崇めているのは、他でもないこの私なのだから。


「エリは俺のこと、気に入ったみたいだぜ。なあ、どうせなら三人で住んじゃうか?」


 軽薄な提案をしながら、エリの頬に唇を寄せる彼。

 エリはただ、恍惚の表情を浮かべながら彼の口づけを受け入れ、喉をゴロゴロと鳴らしていた――。


(おしまい🐈)

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