笑顔をいつまでも見たくて猫に力を借りたら……
ゆーにゃん
君にいつまでも笑っていてほしくて
僕にはずっと推しているアイドルがいた。その子は努力家で、笑顔が可愛くて、応援してくれるファンのためにいつだって頑張れるアイドルだった。そして、猫好き。
そんな彼女に降りかかった悲劇。交通事故。幸い命に関わることにはならず、しかし足に怪我を負いリバビリが必要。
リバビリをしたからといって以前のように歌って踊れかは医師は分からないと。それでも彼女はステージに立ち、待っていてくれるファンのために歌いたいと強い意志を持っていた。
どうして、僕がそんなことを知っているかと言うと、彼女のブログを読んでいたからだ。そこに書かれていた彼女の気持ち。
僕にできることは何もないけれど、どうしても彼女の力になりたかった。だって、彼女『舞』は――僕の幼なじみだから。
舞は歌うことが好きで、ダンスも幼い頃から習っていた。ずっと近くで見てきていたから。
僕は、都市伝説に縋った。馬鹿なのかもしれないし、幼稚な思考回路なのかもしれない。それでも、舞に笑ってほしくて、悔しくて泣いているその涙を止めたくて。
その都市伝説は、精霊猫がいて強い意志や想いに引き寄せられ、代償を払えば何でも一つだけ願いを叶えてくれるというもの。
縋って、頼み込んだ僕の前に二足歩行する黒くて大きな猫に会った。
『人の子よ。何を望む?』
「ぼ、僕は……笑っていてほしい人がいるんです。その子の力になりたい」
『何を差し出す?』
「もし、舞の力になれるのなら僕の全てを」
『良かろう。その望み叶えてやろう。ただし、代償は人の子の言葉と体だ』
そう言って僕の頭に触れる大きな黒い猫。きっとこの黒猫が精霊猫なのだろう。目を閉じ猫に身を任せた。
「――――」
こ、え?
「――ちゃん」
この、こえは……。
「猫ちゃん。目を開けて……。すぐ、病院に連れて行ってあげるからね! だから……」
ああ、やっぱり舞の声だ。
でも、どうして猫に話しかけているんだろう?
それに、僕あのあとどうしたんだっけ?
なんだか、体が重くて動かないし視界もぼやけて見にくいな……。それに、まだ眠たい……。
…………。
……あ、れ?
ここどこだ?
僕、眠たくてまた眠ったはず。
「よかった! 目が覚めたみたいね」
あっ、舞!
って、ん? んん?
視界が低い? というか、舞がしゃがんで僕に話しかけている?
んんんんっ???
「ちょっと、痩せてるだけでどこも悪くないって。君、飼い猫かな?」
「みゃぁ……」
「可愛い〜」
……声が、言葉が出てこない。もしかして、これが精霊猫の言っていた代償ってこと?
舞の瞳に映り込むのは白い毛並みの子猫。僕だ。
……そっか、これが代償なんだ。僕は、人間の体と言葉を失くすかわりに、舞のそばにいられる猫になった。
猫の手を借りて、僕は猫に成り代わった。
それでもいい。そう望んだのは紛れもなく僕自身。
「みゃっ」
「どうしたの? ひゃっ、くすぐったいよ」
膝をよじ登り、舞に抱かれ頬に擦り寄る。
「どうしよう……。首輪とかないし、もしかして野良猫かな? 飼えないわけじゃないけど。君は、ここにいたい?」
「なぁー!」
「あはは。すごい大きな鳴き声。じゃあ、私と一緒にいてくれる?」
「にゃっ!」
「そっか。いてくれるんだね。ありがとう」
松葉杖が視界に映り込む。まだリバビリが続いているんだろうな。昔みたいに笑えてるわけじゃないのも、間近で見て分かった。
猫の手と力を借りて、猫になった僕に何ができるのかはまだ分からないけど、舞のためにずっと推し続けこれからも推していくために、できることはなんでもしよう。
「名前、何がいいかなー?」
「んなぁ〜」
舞。僕にやれることなんて小さなことだけど、絶対に笑顔を取り戻すから。またステージに立って、歌って踊って笑ってくれるように僕、頑張るから。
だから、泣かないで。いつまでも笑っていて。
笑顔をいつまでも見たくて猫に力を借りたら…… ゆーにゃん @ykak-1012
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