夢を叶えてくれるクールなヒーロー
秋雨千尋
たった一人の視聴者
人気のない配信者は滑稽だ。
新作のアイスの感想も、好きな漫画やハマっているゲームについても、楽しく真剣に話しているのは自分だけで、視聴者は気まぐれに画面から消えていく。ひどい時にはリクエストされた曲を歌っている最中に、書いた人が黙って消える場合もある。
「あ〜、忙しかったのかな」
そう自分に言い聞かせても、心のダメージは計り知れない。もちろん、視聴者だって暇ではない。いつでも好きなタイミングで見られる動画サイトと違い、配信は、やる側と見る側のタイミングがバッチリ合わなくては同じ時間を過ごせないのだ。仕事やプライベートのあれこれもあるし、私がやっているのはスマホの配信アプリであるため、電話やメールにラインのスタンプ、色んな邪魔が入ってくる。
「そろそろ時間ですね、来てくれてありがとうございました」
誰もいなくなった画面に手を振り、終了ボタンを押す。何度辞めようと思ったか分からない。それでも他にやることもないので意地で配信を続けていた。
ぼんやりTwitterを眺めていると、見慣れないDMが届いていた。【視聴者数を伸ばす驚きの秘訣を教えます】と書かれた有料記事のリンクが貼られている。一瞬だけ迷ったが、ブロックをした。
今日も同じ時間、夜七時にアプリを起動する。しばらく誰も来なくて、寂しいからハマっている曲を歌っていると、ピコン。最初の視聴者さんがきた。
【■○☆が入室しました】
初めての人だ。私は元気に「こんばんは!」と挨拶をした。久しぶりに降った雪にはしゃいだ話や、朝ご飯にグラノーラを食べていたら肌ツヤが良くなった話など次々と繰り出す。視聴者さんは何を食べましたか?と声をかけてみるが、反応はない。好きな漫画やゲームの話ものって来ない。私はいよいよ悲しくなってきた。入室したもののトイレに行っている可能性もあるし、いきなり寝落ちしたのかも、他の部屋と間違えだけど言い出せないだけかもしれない。
だが配信とは、やる側と見る側との交流こそが目的だ。励ましたり共感したりしたいのだ。学校になじめず引きこもりな私の話がつまらないのは理解している。でもせめて、反応だけは欲しい。
「最近…楽しかったこと、ないですか」
泣きそうになりながら絞り出した質問には、ピコンと返事がやってきた。私は胸躍らせてそれを読み上げる。
「えーと、人を呪いころしたこと?ワイルドですね!どうやるんですか?なになに、コメントを読み上げたタイミングで呪いが発動すると、なるほど!」
背後に広がるゴミだらけの部屋に、誰かが立っているのを感じる。私は視聴者さんに向けて全力で笑顔を向けた。
「すごい!良かったらコラボしませんか?きっと人気チャンネルになりますよ、だって引きこもりと幽霊なんて前例がないじゃないですか」
背後から冷えた指先が首筋に忍び寄る。私は構わずピースサインを決めながら画面をスクショした。
「ねえ、配信タイトルは何にしますか?」
指先がピタリと止まり、背後の存在は耳元にボソボソと語りかけた。翌日スクショした画像と共に【心霊配信。呪われたい人おいで】とTwitterで宣伝したところ予想以上にバズり、冗談もガチの人も合わせて大量の視聴者が押し寄せて、幽霊が書いたコメントを読み上げてスマホの前で呪われていった。
視聴者数トップになった。
「やった!これでトップライバーね!幽霊さん、あなたは私だけのヒーローよ」
夢を叶えてくれるクールなヒーロー 秋雨千尋 @akisamechihiro
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