ショートコント

スロ男

「私のヒーロー」


「カランコロンカラーン♪ いらっしゃいませ」


「いや、いらっしゃいませの台詞はこっちだよ。しかも自動ドアだよ。……いらっしゃいませ」


「おすすめは?」


「いや、ここクリーニング店だから。おすすめとかねえよ!」


「いや、あるでしょ。毛布なら20kg対応がいいですよとか、スニーカーならこっちの専用のとか」


「それコインランドリーだろ! ここはクリーニング店だから! てか、あんた、何も持ってねえじゃねーか!」


「ええ、身一つで来ました」


「なにしに来たんだよ! 冷やかしなら帰って」


「クリーニングしてもらうまで帰れま10!」


「急に変なコーナー始めないでもらえる? 帰って」


「では、まずこのカツラを」


「ヅラかよっ! 請けねーよ、そんなの! 大変なんだよクリーニング屋も。革製品とか、絶対縮むから受けられないっていってるのに文句言わないからって無理矢理請けさせといてあとで弁償しろとかいってきたり」


「大変ですね」


「お、おう……。いや、あんたに同情されても。同情するより帰って。ほんとに」


「ところがどっこい、本日はこのカツラだけじゃないんです。このルンバも——」


「ちょっと待てぇい! おまえ、いまルンバどこから出した⁉︎ というか、お掃除ロボットのクリーニングなんてウチではやってないわ! なんか修理とか請け負うところへいってくれ!」


「はあ、クリーニングを名乗るならちゃんと引き受けてもらえないと。困りますねえ」


「みんなわかってんだよ、クリーニング屋って書いてあったら服のクリーニングだって! 『ちゃぶ屋』って書いてあったからって『ちゃぶ』食いに来る奴とかいるか⁉︎」


「『ちゃぶ』ってなんですか?」


「知らねーよ! いいから、ほんと帰って」


「ところがどっこい、この上着を——」


「その『ところがどっこい』って流行ってんの? え、なにいってんの、みたいな目で見んなよ! 悪かった、俺が悪かったから……。ハイハイ、上着ね。

 革じゃねーかよッ!」


「人の上着を床に叩きつけないで!」


「さっき同情したのはなんだったんだ! 革製品は受け付けてないってさっき言ったでしょ。しかもこんな年代モノの革ジャンとか」


「これは思い出の革ジャンなんです。いつまでも使い続けたくて。それで……クリーニングしていつまでも……キレイに……」


「泣くな泣くな。投げ捨てて悪かったから。でも、引き受けられるものとそうでないものがあるんだよ、わかってくれよ。な?」


「客に対する態度じゃない」


「おまえは客じゃない!」


「あー、なるほど。ここは客を選り好みする店、と」


「おまえ、急にメモとか始めるなよ。なんか怖いな」


「星三つです!」


「なんでだよッ!」


「そういうこだわりのあるお店にこそ、ぜひこの革ジャンをクリーニングしてもらいたい。ワタクシはそう考えております」


「だから、革製品は無理だって。そういうのはウチみたいな格安チェーン店じゃなく、専門の高級なとこへ行ってもらえる?」


「ダメなんです……」


「断られたの?」


「こういう大衆的なところじゃないと足がすくんで」


「失礼だな」


「お金も無一文だし」


「ウチでもタダじゃやらねーよ!」


「お代はこのルンバで」


「やってねーよ、そんなの」


「壊れてますけど」


「なおさらダメじゃねーか! いやダメとかじゃねえな、そういうことじゃなくてさ!」


「いまならこのヅラもつけます」


「いや、ヅラとか余計にいらんわっ!」


「私が」


「おまえが着けんのかいっ! いや、おまえが着けるべきだな、ウン、おまえこそ着けるべきだわ」


「代わりにこの赤いマフラーとセットで、ということではどうでしょう」


「お金じゃないと困るんだよねえ」


「いや、クリーニングするのを、革ジャンと赤いマフラーということで」


「そっち⁉︎ なんでそれで通ると思った? おまえの頭はドーナツの真ん中か⁉︎」


「ドーナツの……真ん中……?」


「考え込まなくていいから! ほんと帰って……」


「『ちゃぶ』……?」


「いや、ちゃぶは本当に考えなくていいから!」


(SE:「キャー」という女性の悲鳴。そのあとの謎の高笑い)


「はっ、いま聞こえました⁉︎」


「悲鳴だったな、怪人でも出たのかな?」


「助けに行かないと!」


「あんたが?」


「いえ、あなたが」


「なんでだよッ! ……と言いたいとこだが、まあ、しょうがあんめえ。上着も置いとけっ、俺が個人的にクリーニングしといてやる」


 変身、と叫んで場を出ていくクリーニング店員。


「私のヒーロー……」

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