第36話 自らの選択
「効かんなぁ」
渾身の一撃を受け止めた王に愉悦が浮かぶ。
一時間ほど、攻防が続いた。
王の暴力を捌ききれない俺に、少しずつ終わりのときが近づいてくる。
「はぁはぁはぁ」
「──お前、ワシの奴隷にならんか? 命だけは取らんでやろう」
「冗談だろ。自由を奪われるなら死んだ方がマシだ」
「なぜ縛りを拒絶する? なにも考えなくてもいい、言われるがまま行動すれば、生きていけるのだぞ?」
「確かに楽だろうな。でもさ、俺たちは楽するために生まれたんじゃないんだ。植物について知りたいやつもいれば、人を助けたいやつもいるし、綺麗な景色を見たいやつだっている。それが幸せってもんだ。」
異世界にきて感じたことをそのまま口から垂れ流す。
「みんな幸せになりたいから努力して、考えて、次の道を決める」
「その通りだ異世界人。だがな、国民たちはそんなことも忘れて、愚かにも毎日せっせと働いておる。考えることを放棄したやつらは、幸せなどもう求めてはおらん。そうなった国民をワシは奴隷と呼ぶ。お前もきっと気に入るぞ」
「聞こえたか?」
瞬間。城がボロボロと崩れだす。
壁も床も屋根も、もろい土のように。
俺と王の周辺の足場だけが残り、王に支配された国を一望できるほど開放的になった玉座の間。
瓦礫の一部に触れているレイル。
「なんだ、一体何がおこっておる!?」
「全て国民に聞いてもらった。お前と俺の考え」
レイルが必要になると城に伝声管を通していた。俺と出会うずっと前から。国民を悪い夢から引きずり戻すために。
国民たちは考えざるを得ない状況にたたされた。
続けざまに俺は国民たちに叫びつける。
「選ぶのは自分だ! 俺について自由を得るか、王について楽を得るか! 選ぶんだ人間の尊厳を取り戻せ!」
少しの間をおいて全国民を対象にスキルを行使する。
『陣形─偃月(えんげつ)の陣』
俺を先頭にレイルたちを側におき、国民たち両翼を下げた「Λ」の形に転移する。
守備を捨て、士気たかく攻撃に特化した形。
「全員って訳にはいかなかったが七割の国民は俺についた」
今までの比ではないほどに強化された俺をみて、王は顔をしかめる。
「奴隷の分際でワシを裏切りよっただと。あり得ん、王は────ワシだ!!」
感情をあらわに王が俺に向かって跳ぶ。
王の手が俺に届く寸前。植物が王に絡み付いた。
圧倒的なパワーで植物を引きちぎるが、引きちぎられるより早く圧倒的な生命力が王を絡めとる。
「……転次郎くん、今」
「や、やめろォ!」
ぐっと握りこんだ拳には、トローシャを仕止めた時の数倍の威力がこめられている。
「クク国を解放する」
国民たちの力を乗せた拳は、こどものように暴れる王の顔面へと放たれた。
────城が崩壊して五年が経過した頃。
クク国の城の跡地は広場となっている。
広場中央の大きな木が落とす影で俺は待ち合わせ中だ。
子供たちの楽しげな笑い声が跳び跳ねる中、待ち人では無いが良く知った陽気な声が聞こえてくる。
「あんちゃん久しぶり! 帰ってたんだねぇ」
「久しぶり。レイルの国は順調?」
「管理してないからわかんねぇや、へへ」
昔見たときと同じ気の抜けた顔でレイルはヘラヘラと笑う。
「天井なしの自由がレイル領の売りだもんな」
王との戦いのあとクク国は三つの領地に分けた。
そのひとつのルールが存在しない、荒くれものたちが集まる領地を治めているのは目の前のレイルだ。
ちなみに今いる広場は最低限のルールが存在する領地だ。
人の物を盗まないとか道徳的なルールが存在するため、ほとんどの国民がこの領で暮らしている。
「……あ、転次郎くんだ」
巨大化した植物で移動中の領主に目をつけられたようだ。
ネアは領主としてしょっちゅう領を巡回している。
「……久しぶりだね……またすぐにでていっちゃうの?」
「二日は滞在する予定だよ」
「……新種発見したから持っていってね」
「ありがとな。領主、大変か?」
「……ううん……割りと平気」
容姿に幼さが残る健気なネアをみんなで助けようと、ファンクラブが治安維持活動をしているため、領内でトラブルは起きないらしい。
「……ナディンは元気?」
「元気だよ。ウルフィルを同時に三体狩るくらいにはね」
「ナディンの強さもあんちゃんみたく化け物じみてきたねぇ」
領地を三つに分けた後、俺とナディンは一緒に旅をしている。ナディンが主をひとりで行かせられないと勝手についてきている構図だ。
「お陰で安全に旅できてるよ。たぶんネア領で買い物してるから会いたかったら探へば見つかるよ──ネア」
顔を真っ赤にしてうつ向くネア。
いやー、青春だねえ。
「にしても、いつぶりに帰ってきた?」
「んー、二年ぶりかな」
長い間旅に出ていると国の中も大きく変わっていて面白い。色々探索したいが二日後には旅に出るしあまり時間はなさそうだ。
今日、国に帰ってきたのはアリシアとの約束を果たすためだから。
「転次郎さーん! お待たせしましたあ! って何でレイルさんたちがいるんですか」
アリシアがフグみたいに膨れている。
「たまたま会ったんだ」
「そ、そうでしたか」
ほっぺがしぼみ笑みが戻る。
「だから、みんなで一緒に──」
またフグになる。
おもしろい。
「あんちゃん、性格悪いよ」
「ごめんごめん、つい。──デートだよな?」
「二人っきり! でデートです」
不服だったのかアリシアは訂正部分を強調する。
「領地は誰かに任せてるの?」
「ふっふっふ、私はもう領主を卒業しました!」
アリシアは三つ目の領地を任されていたが、後継を見つけて管理権を譲ったと言う。
アリシア領は売上を細かく計算され、税金を納める必要がある。一方で福利厚生や保証が行き届いているためより安全に安定した生活を望む国民が集まる。
「良く後継が見つかったな」
「この日のために頑張ったんです!」
「分かったよ。今日はいっぱい遊ぼうな。」
「ヒューヒュー」
レイルが小学生のようなからかい方をしているが無視して商店街へ歩き出す。
夢にまでみた異世界生活はこれからどんなふうに俺を楽しませてくれるのか。ワクワクがつきない。
ピンク色の唇をもじもじさせるアリシアを横目にそんなことを思う。
「て、転次郎さん! 手……繋ぎましょぅ?」
【おしまい】
労働力として召喚されたバックパッカーは、素行が悪く国民ポイントがなくなったので早速処分されそうです。~なら俺は建国して自由に生きてみせる!~ むんばす @munbas
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