暴力後悔系年上幼馴染ヤンデレ彼女の育て方

赤茄子橄

本文

ドスッ。ドガッッ。ボゴッッッ。


「ごめん、ごめんね、りょう。でもあなたが悪いんだからね......。ごめんなさい......」


ドスドスドスッ。


「うおえっっっっっ!うっぷ。げほげほげほっ」


2人きりの部屋のリビングの真ん中、絨毯の上で横たわっている彼のお腹に何発も蹴りを入れる私。

キックが当たって、服越しだけど肉と肉がぶつかるような鈍い音と、その攻撃で受けたダメージを反映するように彼がえずく声だけが部屋にこだまする。


部屋のガラス窓に映った私の表情は、醜く口角を釣り上げつつ感情のない両目をしながら涙を流す、そんな異常な様相を呈していた。

見る人が見たらホラーにしか見えないかもしれない。


だめだ。こんな女じゃ、繚に嫌われて捨てられちゃう。

もっと痛めつけて、骨の髄までわからせておかなくちゃ。


でも......。


「うぅ......もう殴りたくないよぉ......」


普通なら、横たわった彼の腕やらお腹やらを蹴ったり殴ったりしてる私が言って良いセリフじゃないんだろうけど......。

そんなことはわかってるん、だけ、どっ!


ボコッ。


蹴るのをやめられない。


「ごほっ。ふぅ......。ははは。嫌ならそろそろやめもらいたいなぁ?」


彼は、苦しそうにえずきながらよだれを垂らしているのに、なおも強気に口角を上げて笑みを作って挑発まがいのセリフをはいてくる。


「ま、まだそんな生意気なことが言えるんだ......。繚のいじわる。そんなこと言って、やめたらまた他の女の子のこと見るんでしょっ!......うぅ......もっと私のことだけ見て、よっ......!」


バキッ。バギッッッッ!!!!



どうしても自分では制御できない。やめられないの......。

嫉妬も、暴力も。


ごめんなさい。ほんとに、ごめんなさい......。

不安を我慢できない私を許して、繚......。



「おえっっっ............。はぁっ、はぁっ......大丈夫。大丈夫だよ、絆夏きずな。僕はどれだけ絆夏に痛めつけられても、どんだけ非常識で最低な・・・・・・・暴力を振るわれた・・・・・・・・としても、君の元を離れたりなんて、絶対にしないからね」


私が申し訳無さそうな顔をしてたのを見て、そういうことを言ってくれたのだろうな。

こんなヒドイことをしてる私にまで気を遣って、お腹も背中も真っ青な痣だらけになるまでボコボコに痛めつけられてる最中にも、そんなことを優しい声と表情で囁いてくれる私の最愛の彼氏、秋津島繚あきつしまりょう


正直、イマドキ流行りもしない暴力ヒロインなんて、いつ繚に振られてもおかしくないとは思ってる。

今は痛みと私への恐怖でそうやって優しくしてくれてるんだろうけど、こんな関係は薄氷の上で成り立ってるに過ぎないことくらい、私だってとっくの昔に気づいてる。


私達の関係は健全じゃない。

というか、私が不健全にしてる。


繚は何も悪いことをしてないのに、彼は賢いしカッコいいからすぐに周りの女の子が寄ってきてしまって、私はその子たちに嫉妬するのをやめられない。

暴力で彼の心を支配して、その不安を落ち着けるようになって早6年。


こんな不健全な関係は、普通なら早急に解消しないといけないことはわかってる。

だけど、彼を放置してたら勝手にどこかに行っちゃうかもしれないし、私は大好きな彼を一生放してあげるつもりなんてない。


そのためには、繚が私から離れられないように、痛みと恐怖を与え続けて、心の底から私に縛り付けておかないといけないの......。


だから、お願い。

私のこと、嫌いにならないで。大好きでいて。私のことだけ、見て、てっ!



ドスンッ。


私の最後の蹴りがみぞおちにクリティカルヒットしてしまったのか、繚は『うっ』と小さな声をあげたあと、意識を失ってしまった。



*****



「............ん。朝......?」


「あ、繚......。起きたんだ。良かったぁ......」


「あぁ、おはよ、絆夏きずな。......痛っ」



目が覚めて起き上がろうとしたら体中に鈍痛が走った。

記憶は鮮明だし、意識もはっきりしてる。


ただ、胴体の辺りに蓄積されたダメージが僕を布団に縛り付けようとする。


だけど今日は平日だし、講義も数コマ分入ってる。

実際のところ、1回くらい休んでも単位は取れるだろうし、今日は実習もないから絶対に行かないといけないわけじゃないけど、今日くらいの体の調子ならちゃんと出席しないと。


体感、骨が折れてるわけでも、血管や内臓が破裂してるわけでもなさそうだし、問題ない。



「あぁっ、無理に起きちゃダメだよ。昨日あんなにボロボロになっちゃってたんだもん......。傷に響いちゃうよ......」


「いてて......。いやいや、大丈夫だよ。心配してくれてありがと、絆夏。でも、折れてはいなさそうだし、今日は行くよ」


「お礼なんて......。私のせいなのに......。ね、今日は安静にしてよう?私もお仕事お休みして看病するから......」


「あはは、嬉しいけど、今日くらいの状態で講義を休んでたら僕は大学卒業できなくなっちゃうよ」


実際、これくらいのダメージはほとんど毎日のことなんだから、今日休んでたら僕は単位を1つもとれなくなってしまう。


「うぅ......。本当にごめんなさい............。私のせいで......。元はと言えば、繚が私を不安にさせるのが悪いんだけどね......?」


「............」


ベッドから起き上がれないままの僕の横で、涙を流して謝りながら僕に罪を擦り付けてきている彼女は、僕の1つ年上の幼馴染で最愛の彼女、修羅絆夏しゅらきずな

その苗字が示す通り、僕に抱いた嫉妬心を発散するために修羅のように苛烈な暴力を振るってくる。日常的に。


美人で可愛く、心の底から愛しきっている彼女でなければ、すぐにでも警察に突き出しているところだ。




まぁそれはともかく......。





あぁ、今日も罪悪感に苛まれながらも独占欲には抗えなくて、僕に振るってしまった暴力に後悔して悲しむ絆夏も、まじで、最っっっっっっっ高に可愛いな。


ぜひ、もっと僕への執着心を激しく拗らせて、僕に依存していってもらいたいところだ。



「ほら、気にしないで。絆夏の可愛い顔が台無しだよ。それに昨日お風呂入ってないんでしょ?僕はぼちぼち朝ごはん作っておくから、お風呂に入っておいで?」


髪や肌の脂分が、昨晩つきっきりで看病してくれたんだろうことを物語っている。

一晩入浴していないおかげで絆夏の女性らしい匂いが強く漂ってきて理性に悪い。


「で、でも......っ」


「僕はほんとに大丈夫だから、ね?」


なおもって看病を続けようとする絆夏の言葉を制止して、朝の支度を始めるように促す。


絆夏はそれを受けてもまだ納得しきれない様子を見せつつも、しぶしぶ浴室に向かった。





心配してくれるのは僕の計画通りで大変結構なことだけど、僕の行動がここまで制限されてしまうほど心配されてしまうのは些か過剰だね。


それもこれも、昨晩のお仕置きに、僕がうっかり気絶なんてしてしまったからだ。

ここのところしばらくは、気絶するのは回避できてたのに。


もしかしたらちょっとだけ疲れが溜まってたのかもしれないな。

うん、そこの部分は要反省だな。


さて、じゃあ宣言通り、朝ごはんでも作りますかっ。



......いてて。

それにしても、さすがに全身打撲は痛いな。


起き上がるのもやれやれって感じだ。


でもこれも、僕らの愛を深めるために必要なこと。


僕は全身に響く痛みに愛を見出しながら立ち上がって、朝食を作るためにキッチンへと移動した。



*****



白いノズルの先からシャーっと温かいお湯が流れ出て、私の身体を心地よく濡らしていく。

一晩シャワーを浴びなかった分の汗だとか汚れだとかが流れ落ちていくのが気持ちいい。


............繚ってば、さっき私の匂い嗅いで、ちょっと興奮してくれてたなぁ。

ふふっ、嬉しいな♫


でも..................。


「また繚にたくさん傷を負わせちゃったな......」


いつもいつも繚に手を上げてしまった後に自己嫌悪に陥る。

もはや私の日課といって差し支えない。


昨晩は繚が気絶するまで追い込んでしまった。最近はしばらくなかったのに......。


でもそれもこれも、繚が悪いんだからちゃんと反省してほしい。


昨晩のお仕置きの原因は、昨日のお昼に遡る。

私がお仕事のお昼休憩に、ごはんのお供として、繚の携帯端末に仕掛けている盗聴器の音声をイヤホンを通して聞いていたときだ。


そこから流れてきた、誰とも知らない女と繚の楽しげな話し声を聞いて、私は全身を硬直させたんだったな。



<・・・・・・・・うなの?・・・・・・・だよねっ。秋津島くんが・・・・・くれたら・・・・・・・じゃん!どうかな?>


<あはは、僕なんかを誘ってもらって嬉しいな。ありがと。でもそんな集まりに僕なんかが参加しちゃったら、女の子たちの空気が悪くなっちゃうんじゃない?>


<そんなわけないよ!むしろ・・・・・・・・・・・・・・かな?>


<んー、そうだなぁ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で、どうかな?>


<そっかぁ、わかったぁ。それじゃあ秋津島くん、また連絡するね〜>


<うん、ばいばーい>



なんて話してた。

......ところどころ聞き取れなかったけど、私以外の女の子と楽しくおしゃべりしてた時点で盛大な裏切りだよっ!


しかもよくわからないけど繚ったら、女の子に何かにお誘いされて、満更でもなさそうな反応をしてるように聞こえた。

後で聞いたら、合コンにお誘いされたって言ってた。

ちゃんと断ってくれたって言ってたけど、合コンなんてイヤらしい催しのお話が女の子から舞い込んできてる時点でダメダメ。



本当に信じられないよまったく。

私がクリニックの医療事務としてお仕事してる間に、繚は大学で女の子とよろしくやってる......?


そう思ったらもう私は自分を制御できなくなってた。

クリニックの営業時間中はなんとかギリギリで正気を保てたけど、家に帰って繚を見た瞬間、我慢の限界を振り切っていた。


次に私の意識が戻ったときには、繚は部屋の真ん中で蹲っていて、さんざん殴って蹴られての後だったみたいで。

正気を取り戻した私は、いつものように強烈な罪悪感にかられてたくさん謝ったんだけど。


それでも繚の裏切り行為のせいで私の胸に去来した大きな不安と嫉妬心は抑えられなくて、これまた例によって謝りながら蹴り続けてしまった。



暴力はダメだし、このままじゃ繚に嫌われちゃうかもしれないって気持ちと、全部繚が悪いんだし、しっかりお仕置きして屈服してもらって、私への気持ちを繋ぎ止めておかないといけないって気持ちとが、いつもいつも私の中で葛藤して、おかしくなっちゃいそうになる。




..................やっぱり、それもこれも繚が悪いんだ。





私はきゅっとシャワーを止めて、シャンプーを2回プッシュして、目をぎゅっとつむって頭を洗いながら、真っ暗な世界で昔の出来事に思いを馳せる。




私と繚が出会ったのは幼稚園のころ。

私たちは1歳差だから、私が年中さんに上がったときに、繚が年小さんとして入園してきた。


学年が違ったから、最初は接点とかほとんどなかったんだけど、運動とか動き回るのがあんまり好きじゃなかった私が、他の友達みんなが外で暴れまわっている自由時間にも関わらず幼稚園の隅っこで1人本を読んでいた繚に話しかけるようになったのは、ある意味当然の流れだった。


あの頃の繚はあんまり周りに興味なさそうで、話しかけてもそっけない返事ばっかり返ってきたんだよね。



「君はなんでご本読んでるのー?みんなと遊ばないのー?」


「......本が好きなだけ。みんなと遊んでも別にそんなに楽しくないから......」



なんて感じだったなぁ。


彼と知り合ってから私は、基本的に彼の隣で、本を読む彼の横顔を見ながら、ときどき話しかけたりして過ごしてた。


しばらくしてから彼と私の家が近いことがわかってからは、半ば無理矢理彼を近くの公園に連れ出したり、お互いのお家に遊びに行ったりするようになった。

そのころは私もまだ愛とか恋とかわからなかったし、繚は1人の時間が好きそうだったのに私にベタベタ構われて鬱陶しそうにしてたけど、それでも私は繚の隣りにいるのがすっごく居心地よかったし、繚も口にはしてなかったけど、実はそこまで悪く思ってなかったんだと思う。


だって、私が狸寝入りして繚の肩に頭を載せたとき、口元がニヤけてるの見てたもん。



ともかく、そんなふうに一緒にいるようになった私たち。

それで段々繚のことを知るようになっていった。


1人で本を読んでいたのは、本当にただ純粋に「本を読んでるのが好きだった」という理由だけで、実は運動神経がものすごく良いこと。

本が好き、を公言するだけあって、勉強がとてもよくできること。

お絵かきとかお歌とか、そういう芸術周りに関しては、ちょっと......というか結構才能がない可愛いところ、とか。


そんな繚のいろんな側面を見ているうちに、私の方は小学校の真ん中頃には完全に繚のことが男の子として好きで、私自身そのことを自覚していた。


ただ、1つとは言っても学年が違うから、私達が一緒にいる時間は少しずつ学校の時間に侵食されるようになっていったんだよね。

もちろん、下校のときとか放課後家に帰ってからの時間とかは、2人で過ごし続けてたけど。


まだ告白もお付き合いもしてなかったけど、繚の隣にいるのは私だって、勝手に思い込んでいた。



事件が起きたのは私が小学校5年生、繚が4年生のときだった。

繚が同じ学年、つまり4年生の女の子に告白されて返事を保留にしている、という噂を耳にしたことだ。


そのころの繚は、幼稚園のころとは違って社交性を大いに身につけて、周りの人たちに合わせて笑顔を振りまいて、何があっても嫌な顔ひとつしない、そんな好青年?好少年?っぷりを披露してた。

それに見た目も、元の素材の時点で十分格好良いのに、当時の男の子にしては珍しく?身だしなみにも気を配って小綺麗にしてた。

さらには、昔からかわらず勉強がすっごくできたし、教科だけじゃなく豆知識みたいな知識も豊富で、話してて面白いと評判になってた。


そんなわけで彼は当時の段階ですでに上級生にもある程度名前を知られるようなモテモテ男子に成長してしまっていたのだ。

それでも私は、昔からほとんど毎日一緒にいるんだから、私と繚は実質お付き合いしてるようなもんだって思い込んでいた。


そんな中で小耳に挟んだ先の噂話。



これが繚から聞かされたものだったら、私の心境はえらく変わっていたと思う。

その噂を聞いたのは、小学校の階段で数人の女の子たちがヒソヒソと恋バナを楽しむみたいに話してるところを耳にしたときだった。

彼女たちによると、繚は1週間考えさせてって言ってたらしく、私が階段で噂を聞いた次の日が答えを伝える日だったんだとか。



............繚に何も話してもらえなかった。


そのショックが、私の中の何か糸みたいなもの、今思えば多分嫉妬の糸だったんだろうな、それを、今にも切れそうなくらいギリギリまで強く張らせるのを感じた。




その日、いつも通りを装って繚と帰宅して、彼の部屋に入って。

部屋についた途端、繚はあまりにもいつもと変わらない様子で自分のベッドに腰掛けて、読んでる途中の本を、挟んでいた栞の部分を開いて読み始めた。


コトは明日なのに、私に話すつもりはなさそう。

そう思ったから、私の方から繚を問いただした。


「ねぇ、繚。たまたま噂で聞いたんだけど、告白されて保留してるって......ほんと?」


この時点で、まだ噂が単なる噂でしかなくて、デマで、告白を保留になんてしてないって可能性もあったから。

繚にはそう「ただの噂だ」って答えてほしくて、そう聞いてみた。




でも返ってきたのは良くないお返事で。


「ん?あぁ、よく知ってるね。そうなんだよねぇ、実は先週、同級生に告白してもらっちゃってさ......。今のところ僕の方は彼女に気持ちがあるわけじゃないから申し訳ないって言ったんだけど、それでも良いからって言われて、ちょっと考えさせてって伝えてる状態なんだよね」



ちょっと頬を赤らめながら、満更でもなさそうな表情でそんなことをのたまう繚に、私の中の糸は更に強く張り詰める。


「そうなんだ......。でもそんなお話、私、繚から何も聞いてないよ?......なんで黙ってたの?後ろめたいことでもあったの?」


このときでさえ、私的には、もしかしたら繚は私のことが好きで、私には言いにくかったりしたのかもしれない、っていう淡い期待を抱いてた。

もちろんそんな希望は悲しいくらい簡単に打ち砕かれたけど。


「へ?別に後ろめたいこととかは無いかな?別にわざわざ絆夏ちゃんに言うようなことじゃなかったからかな?友達に聞いてみても、お姉ちゃんとそういう話はしないって言ってたし、そういうものかなぁって」



............お姉ちゃん......?

私は、繚にとってお姉ちゃんみたいなもの......だったってことなの............?


あっけらかんとそう言い放った繚に、私の糸は完全に断ち切られてしまい............気づいたときには私は繚の身体をボコボコに痛めつけていた。


意識がクリアになってからもしばらくは私の身体は勝手に動き続けていて、まるで客観的な夢を見てるみたいだった。






「おらっ、私のこと女の子として大好きって言えっ!言ってよ!お願いだから言いなさい!私のお婿さんにしてくださいってお願いしろ!私とチューしたいって言いなさい!」


「............ぐすっ。僕は絆夏ちゃんのことが好きです......。僕を絆夏ちゃんのお婿さんにしてください..................。チュー............させてください」


「......えぇ、えぇ。それでいいのよ。私のこと裏切って他の女の子のところに行ったりしたら、もっとひどいんだから。絶対私を、寂しくさせないで、ねっ!」


ドゴッ。



きっとシャツを脱がせば青アザだらけだろう彼のお腹に、最後に脅しを込めて一撃蹴りを撃ち込む。

当時から、力も運動能力も絶対に彼のほうが強くて、彼が望めば私はたちまち反撃されてしまっただろうに、彼は一切反抗せずに、私の方を怯えたように見つめながら私の指示に素直に従って聞きたい言葉を口にしてくれた。


その姿が可愛くって、でも私に告白のことを黙って居たのがまだ許せなくって、彼に求めさせたキスに、年不相応な激しく長いやつで応えて、私のことを刻みつけてあげた。


痛みでうずくまる繚の唇に、十分以上口づけを続けて、そうして『ぷはっ』と離したとき、しびれるような快感と同時に、正気に戻ってしまって、彼を傷つけてしまった罪悪感が急激に襲ってきた。


「ご、ごめんなさいっ!私......私、そんなつもりじゃなくって......っ。だけど......どうしても止められなかったの......。繚が私以外の女の子のところに行っちゃうかもしれない、私はずっと傍に居たのに女の子として見られてないってことが許せなくて......。それで、それで......っ!ごめんね......」



罪悪感に押されるように口をつく私の言い訳の言葉に、繚はボロボロの身体を起こして、優しく抱きしめてくれたんだったなぁ。


思えば、私の暴力が怖くて優しくするふりをしてくれてたのかもしれないけど......。


その後、体中の痣が両親だったり友達だったりに気づかれないようにしてくれたのにも、告白を保留していたという女の子にお断りを入れてくれたというのにも、申し訳無さと嬉しさが綯い交ぜになった複雑な気持ちを抱くことになった。


繚が中学校に上がってからは、私は我慢を忘れてみんなの前でも暴力を振るうようになった。

暴力に関しては完全に私が悪いし、当然周りのみんなは繚を心配するんだけど......。


でも繚は、そんな私をかばうように、「僕が絆夏にお願いして殴ってもらってるんだ」なんて嘯いて、変態の汚名を一身に受けながらも、人徳厚く笑顔で居続けた。

............そういうところも、更に繚のことを大好きになる要因になっちゃってるんだけど......。


そういえば、繚が私のことを『絆夏きずな』って呼び捨てにするようになってくれたのも、中学に上がった頃からだったなぁ。








......とまぁ、私と繚のお付き合い開始がこんな感じだったせいで、私は今でも繚を痛みと恐怖で私に縛り付け続けることを余儀なくされているわけだ。


とは言え、小学校の間に私が暴力を振るったのはそのとき限りだった。


私が次に我を忘れて繚を痛めつけてしまったのは、私が中学1年生のときだったな。


繚が小学校にいて、私は中学校。

彼と同じ空間に居られないだけでも十分不安になってた。


そんな中で繚は、あろうことか同級生の女の子とすっごくお話してたり、友達に強くお願いされて断れなかったなんて言って小学生同士の合コン(笑)に出向いたりして、それまで以上に私の不安を駆り立てるようなことをし続けてきてたんだよ。


そんなの............しっかり痛めつけて私の方を向いてもらわないと困るじゃない?

私は繚を傷つけたくなんてないけど、繚が離れていってしまうかもしれないっていう恐怖が勝手に私の身体を動かすんだ......。




だから......ごめんね、繚。これからも痛みと恐怖で、私に心を囚われ続けてね......。



気づいたときには私はシャンプーも身体も自動化されたように無意識のうちに洗い終わっていた。


とりあえず、お風呂出たら、もう一回謝ろう......。



*****



ガチャッ。


部屋の扉を開けて恐る恐る入室してきたのは、もちろん絆夏。


「りょ、繚......?」


「ん、お風呂上がったんだね。ちょうど朝ご飯できたところだよ、早くこっちに来て食べよ?」



何やら気まずそうな顔をして戻ってきたところを見るに、シャワーを浴びながら昔のこととか思い出したりして、僕に暴力を振るってることを申し訳なく感じて、また謝ろうとしてるんじゃないだろうか。

そう直感したので、謝罪を口にされてしまう前にこちらから仕掛ける。


事実、ご飯が温かいんだから、早く食べてほしい気持ちもある。



「い、いただきます......」


「はい、いただきます............いてて......」


「りょ、繚......。痛むの......?」


「......あはは、さすがに、ちょっとね」


「うぅ............」



僕のこれみよがしな『痛い』アピールに、絆夏が朝ご飯のトーストとスクランブルエッグをモグつきながら申し訳無さそうな表情を見せる。



「大丈夫だよ、絆夏。僕は絆夏のこと、今日も大好きだからね。いくら絆夏が僕に非常識な暴力・・・・・・をしてきたとしても、ね?」


「わ、私も繚のこと大好きっ。......ほんとにごめんね。私が弱いばっかりに繚に痛い思いをさせて............」


「その分、僕のこと愛してくれたらいいから」


「うん、うんっ」



絆夏は半泣きの表情のまま、黒のショートボブを小さく揺らして嬉しそうに微笑む。


うーん、やっぱりかわいい。

これだからわざと絆夏を・・・・・・嫉妬させる・・・・・のはやめられない。


嫉妬心にかられて僕を独占しようとする絆夏の、恍惚と罪悪感の混じり合ったなんとも言えない表情がたまらなく好きだ。


最初に暴力を振るわれたとき、つまり絆夏に告白させられた・・・・・ときは、心底驚いたものだった。

けど、今となってはあのときのおかげで絆夏の心を僕に縛り付ける材料が増えて嬉しい限りだよ。



「ところで絆夏?」


「なぁに?」


「今晩はもしかしたら学部の子たちと一緒に課題やってくることになるかも」


「............学部の子たちって......。繚の学部、女の子ばっかりじゃなかった......?」


「あー、うん、まぁそうだね。看護学部の栄養学科なんて、女子率激高だからね」


「一緒に課題やるって......まさか女の子がいたりする、のかな?」


「そうだね。僕以外は女の子たちだね」


「............................................................もしかして繚は、私に足を切り取られたいのかな?」





あぁ。あぁ!

この深くて昏い愛情を発露させたハイライトのない目!

僕への偏愛を拗らせて、傷つけてでも独り占めしようとするでっかい感情!

僕が離れるかもしれないって不安でいっぱいのその表情!


何もかもたまらない!


不安にさせてごめんね、絆夏......。

僕も悪いと思ってるんだよ?


でもやめられないんだ。

この瞬間が絆夏からの愛を一番感じられるんだから......。



「どうしてそんなひどいことするの?............もしかしてわざと私に嫉妬させようとしてるの......?」


「......何がだい?僕が絆夏の嫌がることなんてするはずないでしょ?」


「............そっか。繚ってば、まだわからないんだ......。もっと身体に教えてあげないといけないんだね......。うぅ、繚のこと傷つけちゃうのは嫌だけど、繚のせいなんだから、仕方ないよね?」


「......絆夏............」




バキッ。


「うりゃ!おりゃ!......はぁっ、はぁっ............。私を不安にしないで!私だけ見てて!............痛くしてごめんね、でも、繚のせいだから!私のこともっと大好きになれっ!」



ドスンッ。


やっぱり暴力後悔系年上幼馴染ヤンデレ彼女は最高だな。

......命さえ落とさなければ。

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