短編69話 数あるものすっごいヒーロー
帝王Tsuyamasama
短編69話 数あるものすっごいヒーロー
「生徒会からのお知らせだ。みんな、食べながら聴いてほしい」
たくさんの学生服男の子・セーラー服女の子・と、先生による手を合わせましょういただきますいただきますが、ランチルームに響き渡ったところで、
もちろん私、
身長は高め。ド直球に『シュっとしてハンサム』っていう言葉が当てはまる、かっこいい男の子。見た目に加えて性格までも。
「再来月に文化祭があるわけだが、先生との会議の結果、新たに文化祭実行委員会を立ち上げることが決まった。これには他の委員会との兼務をしつつ、また特別委員会の時間にはこちらを優先してもらいたい。具体的な流れとしては……」
(はぁ~……今日もかっこいいなぁ)
声も低すぎない絶妙な爽やかさ。まあ小学校のときからかっこよかったと思うけどっ。
私は
……今は中学生になって、ますますぱわーあっぷしていく翔ちゃん。私がのんびり学校の時間を過ごしている間に、どんどん離されていっている気がする。
行動力があって、ついには生徒会長なんかなっちゃうから、私、なんとか接点持てたらいいなぁ~って思って、学級委員であるクラスの副級長に立候補して……
(でも思ったほど接点になってないっ)
いざ委員会の時間になっても、一年生から三年生までの級長・副級長・書記が、生徒会役員の人たちと一緒になって、会議室に集まるのだけど……なんというか、直接のやり取りみたいなのはないし……
(文化祭実行委員会かぁ)
これになれたら、今よりも接点持てるようになるかな? 文化祭までの間限定って感じだけど……。
「なお、級長・副級長・書記は兼務を避けてもらう。この人たちは、クラスのみんなとの、大事な橋渡し役だからな」
(がくっ)
そうだよねぇ……。
ブロッコリー食べよ。もぐもぐ。私このシチュー結構好き。
あれから数日。ヒーローとおしゃべりしていない日が続く。
あ、なんで翔ちゃんがヒーローかってね。
困っている人を助けるのなんてもちろん。勉強の成績もいい方だし、運動神経抜群で画になる感じだし、友達も多いし、笑顔がすてきだし。周りの人たちからも、いいお話や武勇伝とかしか聞かないし。
しゃべる機会は減ったとはいっても、体育館やランチルームへの移動のときとかに顔を合わせたら、おしゃべりはしてくれる。でも他の子とおしゃべりしているのを、私が見つける機会の方が、圧倒的に多いのだけどね。
ま、まあそのっ。なんだか翔ちゃんのことが気になっているのっ。だからついつい目で追っちゃって、ついつい他の子とおしゃべりしているのを見つけちゃうっていうか……。
今年はクラスが違うから、教室にいる間は、ぼーっと翔ちゃんを考えることに集中できる、みたいな……あれ、ぼーっとなのに集中って変だよね?
ほらほら、教室のドアに翔ちゃんの幻が見えるよ。私を見つけたのかな。ちょっと右手を上げて、二年四組のクラスに入ってき…………えっ?
「
(えええ~っ!?)
「えああうんうんいいよっ、なにっ?」
「ど、どした?」
「あわ、べ、別に、気にしないでっ」
(突然現れて、まっすぐ見られながら声かけられちゃうんだもんー!)
そしてその爽やか笑顔。
(で、でもなんだろ。なんだろっ。私なにか変なことしたかなっ。見すぎなのがばれたとかっ!?)
「雪、副級長だったよな?」
(………………)
私の中で、なにかの数値がひゅ~んと落ちた。
「うん」
「教室の中を見たら、ちょうど雪が見えたからさ。伝言頼めるか?」
やっぱりちょっとなにかの数値が回復した。
「うん。なに?」
「今日の文化祭実行委員会についてなんだけどさ。委員会の集合場所が、会議室から体育館へ変更になったんだ。会議室は、先生たちが使う用事があるらしい」
「それを
「ああ。先生からも話があるとは思うけど、急なことだから、一応念押しにね」
さすが翔ちゃんだぁ。
「じゃあ、教室に戻ってきたら、伝えておくね」
「さんきゅっ」
ああもうっその手の角度! 男子はヒーロー実技試験でもあったの!?
(え、ええっと。私もなにか言った方がいいのかな)
ちょっとでも、翔ちゃんと長くおしゃべりしたいし。
「ね。翔ちゃんって、どうして生徒会長になろうと思ったの?」
生徒会役員もそうだけど、委員会は前期と後期があって、半年ごとに所属する委員会が立候補制で決まる。
生徒会は半年ごとに全部入れ替わる感じだけど、普通の委員会、例えば美化・放送・ボランティア・広報などなどは、同じのを続ける人が多そうな印象。
「一回やってみたかったんだよな、生徒会長」
(す、すごいなぁ)
私、一回もそんなこと思ったことないよ……あ、翔ちゃんの目がちょっと変わった? 私イスに座っているから、上からそんなかっこいい目で見られちゃって……。
「前の生徒会長が、部活の先輩だったんだよ。生徒会の話を聴かせてくれたし、みんなで学校を作っていく感じなのが、なんか楽しそうっていうかさ」
ハンドボール部な翔ちゃん。私あんなぴょんぴょん跳ねられない。
「てかかっこいいだろ? 生徒会長ってさっ」
ええそうですとってもかっこいいです薬名生徒会長様っ!
「ま、雪と一緒に会議出るのも、おもしろいけどなっ」
ああ……私のこと、見えていたんだね……覚えてくれていたんだね……。
横を向いたのは、時計を見たから。その動きが照れ隠しだったらたまらないけど、翔ちゃんなんだから、かっこいい振り返り方をしただけだよね。うん。
「あ、刈本来たわ。わり、直接言うわっ」
私の出番が終了しちゃったことと、手を
翔ちゃんはそのまま、教室に戻ってきた早菜ちゃんの元へと向かっていった。イスと机を軽やかによけて進む姿すらも、鮮やか。
(はぁ……)
ああ、いけない。またため息。私ほんとにどうしちゃったんだろう。
(うう~……)
……やっぱりこれ。こ、こくはくぅ~とか、した方がいいのかな……。
今日も下校の時間になっちゃった。
とぼとぼ校門に向かって歩く私。日に日に帰るときの歩く速さが、遅くなっていっている気がする。
(……でっ)
部室棟がある方向から、たくさんの学生に混じって、男の子友達と楽しそうにおしゃべりしている翔ちゃん発見。
(部活でも、委員会でも。もちろん友達付き合いでも。いつでもどこでも、みんなのヒーローなんだね、翔ちゃん……)
なんでこんなに離れちゃったんだろう。う、ううん。私が勝手に置いてけぼりって、思い込んでいるだけだと思う。翔ちゃんはそんな、だれかを突き放すような人じゃないもん。
(ああ、通りがかる女の子たちとも、ばいばいみたいなのしてる)
私だって、昔は翔ちゃんとばいばいしてたもん。ほんとだよっ。
(……やっぱり告白は。もうちょっと後でもいいかなぁ)
今じゃ、なんだか遠い人すぎる気がして……だからこうやって近づいてくるなんて、夢みたいっていうか。どんどん離れていく翔ちゃんも、昔はこのくらい近づいてきてく…………れてっ!?
「雪、今帰り? 久しぶりに一緒に帰るか?」
「あわわあわ!」
「ど、どしたっ?」
「えああうんうん別になんでもないよ!」
夢じゃなかったあー!
「ひょっとして、今日教室でしゃべったから、今日は俺のこと待ってたとかっ?」
うええっ?! そ、それはどういう方向でとらえればよろしいのでしょうかっ。
「た、たまたま見つけて?」
「そっかっ。いつも一人で帰ってんの?」
ああちょっちょっと! 自然に私の左隣に並びつつ、左肩から右側へと掛けている学校指定の紺色
(なんでそんなにも、動きひとつひとつが流れるように軽やかなんだろう……)
なにか拳法でも習っているとか……?
「うん。ほとんど」
だって、ほとんど毎日ぼーっとしながら帰っているんだもん。
「じゃあこれからさ。帰り時間合ったら、一緒に帰ろうぜ」
(…………えっ?)
あの。繰り返し再生機能があれば、それ押したいのですけど……ないよね……。
(ああえとっ、も、もちろんお返事はっ)
「う、うんっ」
ああだめ、下校中にその笑顔。
(でもその笑顔は……みんなのヒーローな翔ちゃんは、みんなにスマイルしてあげているんだよね)
「あ、そうだ雪っ」
「ひゃいっ!?」
もはや『なに?』でもなかった私の反応。
「今度の日曜、ひま?」
「え……?」
えと、に、日曜日?
「実はさ……あ、これみんなには内緒だぞ?」
内緒? え、えっ? 日曜日? あれ、学生服の内ポケット? あれ? えっ? その紙? えっ? 二枚?
「母さんが懸賞で、遊園地のチケット当ててさ」
お母様すごい。
「……じ、実は~。誘うために、今日、話しかけた、っていうか……?」
うん? あの数値がメーター振り切ってガラス砕け散っています。
「…………どう?」
……これはもう! もう!
(私だけのヒーローって、本気で思っちゃっていいよね!? ねっ!?)
「い、いきたいっ! いいの? 私でいいの? 私翔ちゃんと一緒に遊べるだけでもうれしいのに、遊園地とか、そんな……」
思わず両手がほっぺたの位置に。翔ちゃん、なんかちょっとだけ止まってる?
「……ぷっ。だったらもっと早く誘ってたらよかったなっ。変に緊張しちゃってさっ」
ああもうだから下校中にだめですってばその照れ笑い!!
短編69話 数あるものすっごいヒーロー 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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