(KAC20228)再婚はしません

麻木香豆

私だけのヒーロー

「なぜ社長は再婚されないのですか」


 そんなの大きなお世話よ。毎回聞かれるの。この手の女性誌、週刊誌。


 ほんとどのインタビュアーもデリカシーないわね。もう時代は令和よ。


 私はエステティックサロン、ビューティーマサコを経営している。一時期ハワイに移転していたが日本に戻ってきた。


 今はセルフエステが主流だが、やはり人の肌で触れてほしい……施してほしい、そんなお客様もいてなんとか経営は続いている。


 景気が低迷すると自分のことに手をかけなくなるし、美に関しても後回しになってしまう。


 一時期エステサロンを半数以上潰して自宅で自分でもできる化粧品やサプリ、栄養食、美顔器に力を入れてきた。


 そしてまたエステサロンも活気を取り戻してエステティシャンの教育も力を入れている。


 私はその話をしたいのにまずプライベートなことから聞くなんて。


「元警察官だった幼馴染と結婚されてお子さんも3人、でも……離婚されてしまったとのことですが。そんなお美しくておきれいな社長はなぜ再婚されないのかと……」


 たしかに子供の頃からずっと一緒にいた人と結婚したわ。

 彼はとても正義感が強くて熱くて剣道が得意で頭もキレる人だった。


 でも女癖が悪くて私友達、同級生、先輩、彼の警察時代のバディ、同期、後輩、ナンパした女の子、被害者の女の子、詐欺師の女を筆頭に犯罪者や殺人犯、挙句の果てには男にも手を出していた。


 私はそれを全部調べ上げて何も知らない彼に娘出産後に子供の名前の候補にその人たちの名前を全部述べたら白目剥いて白状したわ。


 それから3人年子で子供を授かったことになるけど、最初の妊娠の時に色々分け合って彼は警察官をやめたの。


 正義感の強さと感動の腕前で警察官を勧められて高校卒業からずっと警察官で。

 私も当時学生に、化粧品会社の就職で忙しくて同棲しつつもたまにいられる時間が幸せで。


 ええ、そのときも彼は上手に他の人と密会してましたよ。かと言って私たちの間になにもしてなかったわけではありません。一緒にいた時は求め合ってました。


 で、彼が30過ぎた頃に大きな事件に巻き込まれて(これまた犯罪者の女に惚れて事件に深入りし過ぎたんです)、半年ほどの入院の大怪我。彼は生死を彷徨っていましたが目を覚ましました。奇跡でした。


 ……生きていてよかった……目が覚めなかった間、私は仕事の有休を全部使い果たすほど、世界の終わりかと思うほど……。


 ええ、その入院中も彼の体の関係にあった人たちが入れ替わり立ち替わりお見舞いにきましたよ。

 彼女(彼)たちは彼女という私という存在を知っていたようです。

 ここで修羅場が起きてもおかしくはないのですが、皆さんは口々に彼のよかったところを言うものですからそれは彼が死んでから言いなさいよ、と言いそうになりましたが当時の私にはもう絶望のふた文字しかなかったのですから。


 え、そんなの私らしくないと。今ではだいぶ強くなりましたわ。

 私は子供の頃から両親共に経営者で家でお手伝いさん以外誰もいない状態で育ってきました。友達もほとんどできず、泣き虫で弱虫で。そんな私を支えてくれたのが小学の時に転入してきたのが彼です。


 彼は私とは反対に幼児期に母親を父親に殺され児童養護施設をたらい回しにされて今の里親に引き取られたのです。

 彼の里親がとても陽気で優しいご家庭のおかげか彼……シバという名前なんですけどね。これは本当のお父さんが適当につけた名前なんです。シバ犬から取ったとか。

 それはさておき、シバは本当に優しくて一人でいた私に声をかけてくれました。


 私は女ですから経営者になることはないと親は花嫁修行ばかりさせてきたのですが、シバはいち早く私の才能を見抜いてくれて親に説得させて中学から共に特進クラスのある学校に受験をしました。シバは元々頭が良く余裕でしたが引っ込み思案で自信のない私を助けてくれました。


 お陰で合格し、高校もハイレベルの学校へ共に進めました。その時に彼から告白されて付き合うことになりました。

 ええ、その時にはもう彼の女好きは始まってました。私と体の関係を持ったあたりからでしょうか。元々社交的で人たらしな彼でしたから。


 きっと経験のある方と致してから私と体を交わるにつれて色んなことを……。


 私はもちろん他の方とは経験はありません、シバだけです。


 今でも2ヶ月に一回は会いますよ。一時期行方不明でしたが……3人の子供たちのために会いにきてくれます。

 やっぱり親を失い、寂しい思いをしてきた彼だからこそなんでしょう。

 子供たちに彼の恨みつらみを話すこともできますよ、でもそれはまだ彼女たちの年齢からしたらできません。

 でも子供たちにとっては父親だということは変わりありませんから。悪くは言いません。子供たちもシバ……お父さんのことは好きだと言ってます。


 私はヨリを戻そうとしないかって? しませんよ。離婚するときも私はハワイに進出するときで、何もできなくてフリーターになって相変わらず他の人と密会していた彼に愛想つかして離婚しましたから。

 彼はまた他のところで誰かと一緒にいるのでしょう。


 それに私はもうあの頃の弱い私ではないです。でも彼がいたからこそ今の私がいるのです。弱い私を守ってくれた、そして彼が警官になった理由の一つは強くなりたい、私のことを守りたいと。収入の安定のことを言ってたかと思います。公務員だから。


 まぁやめてしまったんですけどね、彼は。今は色々あっててんてんしていたけどこの間警察学校の指導員として復活したというのは聞きましたよ。


「シバさんの別れてからはお付き合いは誰かとされたのですか?」


 ……離婚してから一度も誰ともお付き合いしてませんし、寝てもいません。私は今会社と社員たちと娘たちを守らなくてはいけないの。


 だから今も今後も再婚することは考えていません。


 ……と言ってみたけど、この質問自体なかったことにしてちょうだい。


 え、私にとって彼はって?


 そうね、子供たちにとっては父親。私は彼のことは元夫になるけども……結婚生活もほぼ育児ばかりだったから元夫、と呼ぶよりかは……私だけのヒーロー。


 だなんて照れ臭い。



 他の人たちも彼と仲良くなったろうけども……私以上に優しくされてないはずよ。


 未練がある? そんなことないわ。ああ、もっとまともな質問してくれない?



 終

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

(KAC20228)再婚はしません 麻木香豆 @hacchi3dayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ