第11話 クソヘボリン錠剤

「とにかく!これ以上詮索するなら貴方達を潰す。それだけよ!」


そういうとボスことアリッサの姉は通話を切ってしまった。


「待つデース!お姉ちゃん!」


通話が切れた後にアリッサが叫んだが当然、返事はなかった。


少しの沈黙の後、俺はアリッサに聞いた。


「アリッサ、なんで相手がお姉ちゃんだってわかったんだ?」


すると、アリッサはこちらを向いて答えた。


「ワターシがこの国に来たのは、お姉ちゃんを連れて帰るためデース。お姉ちゃん…メリッサ・ブラックペッパーは元々ワターシの住んでた街で少し有名な不良だったのデスガ、最近はこの国の何処かを根城にしているらしいと聞いてマーシタ。」


俺に水晶を手渡してからアリッサは続けた。


「そしてお姉ちゃんはよく『社会的に孤立し、勝手に世の中を恨みながらくたばりなさい』と言ってマーシタ。なので、もしかしてと思ったデース。」


「嫌な口癖だな。それ。」


声にボイスチェンジャーかけたり、口調を変えたり、頑張ってバレないようにしていたけど、1番判別できそうな口癖は見逃してたということか。この組織の人間は全員抜けてるのか?


「ミスターシラヌイ!お姉ちゃんを止めに行くデース!」


「ああ、そうだな。よし、ジェル!メリッサのところに案内しろ。」


俺がジェルの方を見ると、ジェルは俯いたまま答えた。


「俺はメリッサ様の居場所を知らない。そもそも、もう俺は組織の人間ではない。…メリッサ様に見捨てられたからな!」


顔を上げたジェルは涙目で鼻水を垂らしながら叫んだ。


「お前、さっきとキャラが変わり過ぎじゃないか?まぁいいや。なら、メリッサがどんな人間でどんな組織のボスをやってるのかを教えてくれ。」


「お願いデース!教えて欲しいデース!」


俺とアリッサに言われて、少し考えたジェルは俺達のことを見て言った。


「メリッサ様の邪魔をしないと約束するなら話してやろう。」


それを聞いて俺は答えた。


「聞いた後で考えさせてもらうよ、邪魔するかどうか。」


ジェルは、メリッサと組織について話し始めた。


「メリッサ様はこの国に来られてから、この辺に蔓延る無法者達を集め、犯罪組織をお作りになられた。組織の名前は刃破無雨兎バハムートという。」


なんか、暴走族みたいな名前だな、と思ったが話が途切れそうなので黙っておいた。


ジェルはそのまま続けた。


刃破無雨兎バハムートは、盗みやら闇取引やらで資金を得て、それをある研究に費やしている。それが飲んだ者に黒いオーラを纏わせる薬、『クソヘボリン錠剤』の開発だ。」


「もっと他に名前なかったのか!全然ヤバそうな薬に聞こえないんだけど!百歩譲ってクソヘボリンは良いとしても後ろの錠剤って絶対つけなくていいだろ!」


俺は我慢出来ずにジェルの話の腰を折った。


「錠剤が嫌なら粉タイプもあるぞ。」


「そういう話じゃねぇ。まあいいや。話の続きを頼む。」


ジェルは話を戻した。


「黒いオーラを纏った者は、基礎能力もスキルのレベルも上昇する。つまり、弱い者を強くすることができる。メリッサ様の目的はそれだ。あの方は弱者が強者に虐げられるのを激しく嫌っている。だから、弱者が強者に刃向かえるようにクソヘボリン錠剤の開発に力を入れてらっしゃる。お前らが倒した黒いオーラを纏った獣も実験体の内の一つだ。」


そしてジェルは今までより強い口調で言った。


「メリッサ様は強者からすればただの犯罪者かもしれないが、弱者にとっては救世主だ!だからお前達に止める権利などない!」


ジェルがそう叫んだ。他の部屋に聞こえそうだからやめて欲しい。


と、ジェルの話を聞いていたアリッサが今度は叫んだ。


「でも、動物達を使って実験シタリ、町に危険を及ぼすなんて悪いことデース!お姉ちゃんは間違ってるデース!」


アリッサとジェルはしばらく睨み合っていた。頃合いを見て俺はその睨み合いの仲裁に入り、2人を順番に見てから口を開いた。


「まあまあ、睨み合いはその辺にして。メリッサの目的はわかったが、やっぱり町を危険を及ぼすのは良くない。アリッサ、俺達はメリッサのことを探そう。そしてやめさせよう、犯罪も実験も。」


アリッサは大きく頷いて真っ直ぐコッチを見ていた。

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この異世界はどこかズレている! 正妻キドリ @prprperetto

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