第10話 世の中を恨みながらくたばりなさい

「なんでもないです!本当に!」


俺は物音を聞いて駆けつけて来たダンプさんと奥さんに言った。


「本当か?なら、静かにな。恩人と言えどルールは守ってもらわないと。」


すいませんでした!と謝りながら扉を閉めた俺は、アリッサに聞いた。


「周りに変な気配はないか?アリッサ。」


「ないデース!安心して良いデースヨ。」


「そうか。さて…」


俺とアリッサはロープで縛り上げた男の方を向いた。


「お前は一体何者だ?」


男はこちらを睨んであくまで冷静に答えた。


「お前達に話すことは何もない。殺せ。口を割るくらいなら死を選ぶ。」


「なんかクールなキャラを装ってるけど、さっき絶叫しながら女みたいな走り方で逃げてたよな?しかも命より大切って言ってた刀を置いて。もうとっくにキャラ崩壊してるんだけど、まだそのキャラ続ける気か?」


俺は呆れながら言った。


「まぁいいや。アリッサ、この男はお前が大人ウリボーを倒したのを見ていた。たぶん、あの森でお前が感じた視線の正体はこいつだ。しかもこいつは俺がチンピラにボコられていたのも知っていた。つまり、俺達のことを最初から監視していたということだ。」


「ふっ、ただの憶測だろう。確証もない。全てお前の妄言に過ぎないというわけだ。そして、俺は絶対に情報を喋らない。特にボスのことについては絶対にな。」


今、こいつにボスがいることが判明した。


「…ボスがいるんだな?」


男はしまった!とわかりやすく顔に出したが、すぐに冷静を装い直した。


「ボスがいることはわかってもそれ以外のボスの情報はわからないだろ。あの方は聡明な女性であられるからな。」


これを繰り返していけば、その内ボスに辿り着けるんじゃないか?


「たぶんこいつのボスはあの黒いオーラを纏った獣を作り出してる元凶だ。じいさんがあれは人為的なものに見えたと言ってたからな。あくまで推測だけど。」


「お前が獣に酷いことをしたのデースカ?許せマセーン!動物達が可哀想デース!」


そう言う割にアリッサは容赦なく大人ウリボーをボコしてた気がするが。


「何を言われても口は絶対に割らん。時間の無駄だぞ。」


いや、もう結構喋ってる気がするが。


そんなことを思っていると男の服からプルルルという音が聞こえてきた。


「ボ、ボスから連絡だ!」


その言葉を聞いて俺は抵抗する男のポケットに手を突っ込んで、中のものを取り出した。


ポケットからは小さな水晶が出てきた。どうやら音はここから鳴っているらしい。


「これどうすればいいんだ?」と俺がアリッサに聞くと、アリッサは俺から水晶を受け取り、手のひらの上に乗せて、「魔力を注ぎ込むデース」と言った。


すると、水晶からボイスチェンジャーで加工されたみたいな声が聞こえて来た。


「…ジェル、状況を報告しなさい。」


ボスと思われる人物はゆっくりと言った。


「ボ、ボスぅ〜!す、すいません!敵に捕まってしまいましたぁ〜!助けていただけないでしょうか!?」


もうクールキャラが完全に消えた男ことジェルは叫んだ。


すると、ボスの落ち着いた声が聞こえてきた。


「敵に捕まる軟弱者は必要ない。もうお前は組織の人間ではない。さようならジェル。貴方は社会的に孤立し、勝手に世の中を恨みながらくたばりなさい。」


いくらなんでも辛辣過ぎないか?


「そ、そんな〜!」


ジェルはボスに辛辣なことを言われて嘆いた。


「ジェルを捕まえた者達へ告ぐ。貴方達はこれ以上我々への詮索をするな。守らないようならこちらも容赦はしない。いいな?」


「悪いがそれは約束出来ない。この町に危険が及ぶならその原因は消させてもらう。お前達の組織がそうならこちらも容赦しない。」


しばらく間を置いてからボスは再び話し出した。


「なるほどよくわかった。じゃあせいぜい覚悟しておくのだな。」


すると、いきなりアリッサが俺から水晶を取り上げてボスに向かって叫んだ。


「悪いことはやめるデース!動物にも町にも危害が及ぶことはやめて欲しいデース!これ以上やるならこっちも全力で止めるデース!」


急に大声でそう言ったらアリッサにボスは少し困惑していたようだが、やがてゆっくりと答えた。


「そう…だが我々は止まらない。」


「なら、コッチも全力で止めるデース!だから、覚悟しておくデース…お姉ちゃん!!」


えっ…今なんて…?


お姉ちゃん?


アリッサの?


俺とジェルは困惑していたが、1番困惑していたのはボスだった。


「…えっ…ウソ…なんでバレたの…?声質も…口調だって変えて喋ったのに…えっ…なんでわかったの…?」


ボスはずっとそう言っていた。


「ア、アリッサ!どういうことだ…?」


俺がそう言ってアリッサを見ると何故かアリッサも困惑していた。


「ホ、ホントにお姉ちゃんなのデースカ…?」


「いや、お前もわかってなかったのか!?」


アリッサは疑惑が確信に変わったらしい。


それを聞いたボスは慌てて言った。


「私は貴方のお姉ちゃんではないわ。」


「いや、無理があるだろ。」


もう遅い。ボスの正体はアリッサの姉だと判明した。

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