第9話 淹れたてコーヒーブレイク


長髪の男は俺に小刀を向けていた。俺は突然のことで何がなんだがわからなかったが、取り敢えず今の状況で1番最適であろう質問を男にした。


「…お前は誰だ?」


そう聞くと男は、俺のことを見下しながら答えた。


「答えてやる義理はない。そして勝手に喋る権利もお前にはない。俺の言うことを聞け。」


男は、少し間を置いてから再び話し始めた。


「この宿の人間を殺されたくなければ、黙って俺について来い。」


俺は少し考えてから話し出した。


「知らない奴にはついて行くなと俺の国では教わる。それにお前についていってもその約束を破らない保証はないだろう?」


「ないな。しかし、言うことを聞かないなら今すぐ実行する。」


「保証してくれないと安心してついていけないだろう?」と言いながら俺は椅子から立ち上がろうとした。


それを見た男は俺を睨んで手に持っていた刀を振った。すると、男と俺の距離は4mほど離れていたにも関わらず、俺の後ろの机に斬られた跡がついた。


「動くなと言った筈だ。俺は斬撃を長くするスキルを持っている。この距離からでもお前を斬れる。そしてこの俺の命より大切な愛刀、ダークソードは決して獲物を逃がさない。妙な動きはするな。黙って俺に誘拐されろ。」


なんだそのシンプルなネーミングは。そんなことを思いつつも、俺は冷静に返答した。


「なんで俺を狙う?俺は今日ここに来たばかりだぞ。」


「狙いはお前じゃなくアリッサだ。お前を人質にアリッサにはこの国を出て行ってもらう。」


「それならアリッサを直接誘拐すればいいんじゃないのか?」


「それは無理だ。」


男は少し言い淀みながら答えた。


「彼女には勝てる気がしない。あの大人ウリボーを瞬殺しているのを見た。しかし、お前は町のチンピラにも負けていた。お前みたいな雑魚の方が狙いやすい。」


確かに。真っ当な答えだ。っていうかそっから見てたのか?


「大の大人が少女に助けられるなんてまっぴらごめんなんだが。」


「なら仕方ない。気絶させて無理矢理連れて行く。安心しろ、峰打ちにしてやる。」


男はそう言うと刀を振りかぶった。

突然戦闘態勢に入った男を見て俺は焦った。


やばい、どうしよう!このままではやられてしまう!そう思った俺は咄嗟に右手の平を前に突き出して叫んだ。


「オーバー・ザ・ドリーム!」


男は刀を思いっきり振り下ろした。しかし、刀は空を切っただけで何も起こらなかった。


あ、あれと困惑している男に向かって俺は言った。


「ど、どうだ!俺のスキルでお前のスキルを弱体化した!お前の斬撃はここまで届かない!」


男は何回か刀を振り回したが、俺に斬撃は届かなかった。


「くそっ!しかし、そのスキルがなくても刀を持っている俺の方がリーチが長い!まだ、俺の方が有利なことには変わりない!」


そう言って男は俺に向かって飛びかかって来た。


それを見た俺は机の上にあったマグカップを持って、中に入っているコーヒーを男の顔面に向かってかけた。


「淹れたてコーヒーブレイク!」


あっつ!と熱々のコーヒーをかけられて男は怯んだ。


「そのコーヒーは淹れたてだ!」


そう言って俺は座っていた椅子を持ち上げ、その椅子で男を殴った。


椅子で殴られた男は扉の前まで吹っ飛び、そして刀を手放した。


俺は刀を拾って、倒れている男に向けた。


「動くな!動いたら斬るからな。」


俺の言葉を聞いたにも関わらず、起き上がった男は俺に向かって言った。


「お前に人が斬れるのか?人を殺したことがあるのか?」


少し笑みを浮かべて、俺は答えた。


「ああ、前にいた国では5人ほどやったぜ。」


男も同じく笑みを浮かべて言った。


「ハッタリだな。」


試してみるか?と俺は返したが、その顔には一滴の汗が流れていた。


男はそれを見たのか、俺に向かって飛びかかって来た。


俺はそれを避けるように後ろに下がろうとした。


と、その時男の後ろの扉が開いた。


「ナーニしてるデースカ?」


そこには目を擦って眠そうにしているアリッサがいた。


男はそれを見て、驚愕していた。それと同時に顔から汗が吹き出し、焦り散らかしていた。


「アリッサ!こいつを捕まえてくれ!」


俺がそう叫ぶと、男はアリッサと反対側にある部屋の窓に向かって「ヒィイイイ!!」と叫びながら走り出した。命より大切な愛刀は俺に奪われていたのだが、そんなものに目もくれず女みたいな走り方で走っていた。


それを見たアリッサは、物凄い速さで男の右横に移動し男に蹴りをくらわせた。


その蹴りを食らった男は吹っ飛び、部屋の壁にぶつかった。


男は気絶していた。


俺とアリッサはその男を動けないようにロープで縛りつけた。


この男は一体何者なのか。それを聞き出すまで眠れそうになかった。

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