第8話 赤髪ホールドアップ

「俺の名前は、ダンプ・ノックアウトだ。よろしくな。」


めちゃくちゃケンカしてそうな名前を名乗った宿主は、俺とアリッサに感謝の意を示した。


「お前達は恩人だ。金は要らない。泊まっていってくれ。空いてる2部屋を貸そう。」


俺達は宿に戻って来ていた。


あの後、町の警備の人が来て、勝手に森に入るなと怒られたが、すぐに帰ることができた。


そして、宿に戻るとダンプさんと奥さんに改めてめちゃくちゃ感謝され、お礼に晩飯と部屋を無料で提供してくれた。




「そしてその、黒いオーラを纏ったイノシシ…大人ウリボーはアリッサがいつの間にか倒してたというわけだ。」


「なるほどな〜。」


俺はじいさんに今日あった出来事を部屋で話していた。


「一体、アリッサは何者なんだろうか?あと、あの黒いオーラは?何かわからないか?」


「うーん、アリッサのことはわからんが、その黒いオーラの方はわかるぞ。」


「おお、そうなのか!なんなんだ、あれ?教えてくれ。」


「黒いオーラを纏った獣はここ最近、この辺りでよく見られておる。その黒いオーラを纏った獣は他の個体より凶暴さと強さが増すのじゃ。ワシはそれに人為的なものを感じた。君を召還したのは、それの調査をしてもらおうと思ったからじゃ。」


そうだったのか。そういえばなんで俺を召還しようと思ったのか聞いてなかった。


「この町はずっと平和でのう。じゃから、あまり警備も防衛も機能しておらんのじゃよ。そんな町の周りに凶暴な獣を放ってみろ。それはもうプロボクサーの前で素人が構えもせず、ぼーっとリングの上に立っとるみたいなもんじゃぞ。」


「じゃあ、そのオーラを纏う獣を生み出している元凶を見つけて倒して捕まえればいいんだな?」


俺はじいさんに自信あり気に聞いた。すると、じいさんは少し驚き聞いた。


「フレンよ、やってくれるのか?」


「いや、俺は無理だ。俺はそいつらを見つけてもたぶん倒せないし、間違いなくフルボッコにされる。」


俺は堂々と答えた。


「だが、アリッサならそいつらを倒せるかもしれない!彼女に頼もう!俺はこの町が危険に晒されてるのを放っておけない!まだ、来て1日しか経ってないし、そんなにいい思い出ないけど。」


「アリッサ頼みじゃな、つまり。」


そんな話をしているとコンコンと扉をノックする音と「フレンさーん!コーヒーをお持ちしました!開けてもいいですか?」


俺は腰掛けてた椅子から立ち上がり、はーいと返事をした。


扉が開いてそこにはトレーにコーヒーの入ったマグカップを2つ乗せたダンプさんの奥さんが立っていた。


「失礼します。コーヒーをお持ちしました!」


「ありがとうございます。タダで色々していただいた上にここまでお気遣いいただいて…」


「いえいえ、コーヒーは別料金です。」


「えっ?」


驚いた俺を見て、奥さんはふふっと笑った後「冗談です〜!」と言って微笑んだ。俺が座ってた椅子の前にある机にコーヒーを1つ置いてから、奥さんは俺の方に向き直って言った。


「改めて、昼は主人と息子を助けていただいてありがとうございました。」


「いえいえ、俺はほぼ何もしてないというか…。アリッサですね。ダンプさんとレイ君を助けたのは。」


「いいえ、フレンさんは私が助けを頼んだ時すぐに動いてくれました。とても心強かったです。お二人は恩人です。私にできることは何でもお申し付けください。」


「じゃ、じゃあもう一泊させてもらえませんか、な、な〜んてね…」


冗談みたいな口調で本音を言いながら、俺はマグカップに入ったコーヒーを飲んだ。


「!アッツッッ!」


俺は慌ててマグカップを机の上に置いた。それを見ていた奥さんは大丈夫ですか?と心配そうに俺に聞いてきた。


慌てて俺は答えた。


「いや〜まだ熱かったですね!ちょっと冷まします。」


すると、奥さんは言いにくそうにしながら答えた。


「えっと…実はそれ、保温魔法がかかっていて、時間が経っても冷めないようになってるんです…。」


「えっ、何ですかそれ?どれくらいで冷めます?」


「一時間はその温度のままです。」


「じゃあ1時間飲めないじゃないですか!これ!」


「ごめんなさい。主人がいつもそれなのでつい癖で、ふふっ。」


ふふっじゃねぇ!と思ったが、ツッコミは心の中に留めておいた。


「アリッサちゃんにもこのコーヒーを持って行こうと思ってたんだけど…」


「ご主人以外にこの温度のコーヒーを出さない方がいいと思いますよ?それにアリッサはさっき疲れたから寝ると言ってましたから、もう寝てるかもしれないです。」


じゃあ、やめとこうかしら。と奥さんは言って、扉の方へと向かった。やがて、扉の外に出るとこちらを振り向いて言った。


「では、ごゆっくりなさってくださいね、フレンさん。おやすみなさい。」


それに俺もおやすみなさいと返すと奥さんはこちらに微笑み、扉をゆっくりと閉めた。


俺は、椅子に腰掛けると机に頬杖を突き、窓の外の月を眺めた。すると、じいさんが声をかけてきた。


「お話は終わったかのう?」


「ああ、でも今日は色々あり過ぎて疲れた。話すなら明日にしようか。」


「そうじゃな。ワシも寝るとしよう。では、また明日かける。」


おやすみ。じいさんがそう言った後、ガチャ、ツー。と電話みたいな音が俺の脳内に響き渡った。なんだこの魔法?ただの電話じゃないか?


俺も寝ようと思い椅子から立ち上がりろうとした瞬間、ゆっくりと再び扉が開く音がした。


奥さんが俺に何かを聞きに戻って来たんだなと思って、「どうしたんですか?奥さん。」と聞きながら俺は振り向いた。


そこには赤い長髪の背の高い男が立っていた。


その男は、扉を閉めて部屋の明かりを消すと俺に向き合って言った。


「そこを動くな。騒いだり、妙な真似をしたら殺す。」

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