第7話 カタコト少女はチートな気分

一瞬、何が起きてるのかわからなかった。


さっきまで後ろにいた小柄な少女は、瞬間的に移動し、巨大な猪に飛び膝蹴りを喰らわせていた。


その膝蹴りをくらって、巨大な猪がよろめいてる間に、少女は地面から勢いよく飛び、もう一撃蹴りを繰り出した。


その蹴りで吹き飛んだ猪は、飛んだ先にあった木にぶつかって止まった。


「なんなんだ…あの子は?」


少年の近くまで走って寄ってきた宿主は、同じく近くに走ってきた俺に聞いた。


「いや…俺にもさっぱり…」


アリッサは一体何者なんだ?そんな疑問で頭が埋め尽くされていると、いつの間にかアリッサを見失った。


それは猪も同じだったようで、目をギョロギョロと動かしてアリッサを探している。


すると、猪の上空から何かが爆発したような音が聞こえてきた。


それと同時に猪の脳天に炎を纏ったアリッサが肘を下にして物凄い勢いで落ちてきた。


アリッサのエルボーをモロに喰らった猪は、顎を地面に思いっきり打ちつけて気絶してしまった。


猪の頭からジャンプしたアリッサは俺達の前に着地した。


「終わりましたデース!」


そう言ってアリッサはニッコリしていたが、俺達は呆気に取られたままだった。


「お前は一体何者なんだ…。」


俺が困惑しながら聞くと、アリッサは目線を俺に向けて言った。


「実践経験あるって言ったデース!ミスターシラヌイとは違って、私のはちゃんとしたやつデース!」


アリッサは、再びニッコリと笑ってから猪こと大人ウリボーに目を向けた。


それに合わせて俺もそちらに目をやった。猪が纏っていた禍々しい黒いオーラはいつの間にか消えていた。


「あの黒いオーラ的なものはなんだったんだ?」


「わからないデース。でも、ワターシのママも似たようなオーラを、怒った時に纏ってた気がシマース!」


「たぶん、それとこれとは違うんじゃね?なんか明らかにおかしかったよな?一体なんなんだ?」


アリッサを見ると、腕を組みながら首を傾げていた。俺もそれと同じポーズをアリッサにして見せた。しばらく考えていると、後ろから宿主の声が聞こえてきた。


「息子を助けてくれてありがとう!お嬢ちゃん…それと兄ちゃん!この恩は一生忘れねぇ!しかし、今は早くここを離れた方がよくないか?」と、息子を抱き抱えながら宿主は言った。


若干、俺に礼を言うか迷ってた気がするんだが。まぁいいや、確かに宿主の言う通りだ。


俺は、そうですねと宿主に答えて、また来た方向に向かって歩き始めた。


「まぁ、アリッサが居れば何が来ても、指先ひとつでダウン取れそうだけどな!」


そう言ってアリッサを見ると、彼女は遠くの方を見ていた。その視線の先には絶壁があった。


「どうした?アリッサ?」


「アソコの崖の上から誰かがコッチを見てる気がしましたデース。」


俺が見た時には誰もいなかった。でも、あの戦闘を見た後だと、アリッサが遠くからの視線に気づく警戒心を持っていてもおかしくないなと思った。


「そうか…でも、取り敢えず町に帰ろう。また、獣に遭遇しても面倒だしさ。」


俺がそう言うと、アリッサは絶壁の上に警戒しつつも、こっちへ振り向いて俺の後を追いかけてきた。




無事に森を抜けて町に戻ってきた。


宿主はレイ君に静かに、しかし怒っているのは伝わってくるような口調で言った。


「レイ。森には入るなと普段から言っていただろう。それなのに何故入った?どれだけ心配したと思ってるんだ?」


すると、レイ君は言いにくそうに答えた。


「…だって、年上の奴らに『お前の父ちゃんは強面なくせに喧嘩もしたことない腰抜けだ!だから、息子のお前も腰抜けだ!』って言われて、それが悔しくて腰抜けじゃないって証明する為に、森に最近出るようになった獣を倒せば見返してやれると思って…」


それを聞いた宿主は、困った顔をしてしまった。自分が原因だと知って言葉が出なくなってしまったのだろう。


そんな宿主の後ろから俺はレイ君に向けて言った。


「君のお父さんは腰抜けなんかじゃない。だって、君を探す為に危険な森の中を1人で駆け回ってだんだから。猪を見た時も君を守る為に臆する事はなかった。」


そう言って俺はレイ君の前に行って、同じ目線になるように屈んだ。


「だからそいつらの言ったことは気にしなくていい。なぜなら、君のお父さんは俺達よりもずっと勇敢で強いからだ。」


俺はそう言ってレイ君に微笑んだ。それに答えるようにレイ君は笑顔で大きく頷いた。そして、俺とアリッサに向けて言った。


「お兄ちゃん達は冒険者なの?さっき、めちゃくちゃ強くてカッコ良かった!」


「イェース!ワターシ達は、冒険者デースヨ!そこらの獣なんてイチコロデース!」


アリッサは調子に乗って答えた。俺もそれに便乗し、腕を組んで仁王立ちして自信満々に答えた。


「ああ!最強の冒険者だ!そこらの獣達が結託して、集団で襲って来ても楽勝だろうね!」


それを聞いたレイ君は、目を輝かせながら答えた。


「すげー!僕、大人になったら冒険者になりたいんだ!あの獣には腰を抜かしたけど、練り消しってモンスターには勝てたんだよ!僕も早くお兄ちゃん達みたいに強くなりたい!」


俺は組んでいた腕を下ろした。俺はさっき、練り消しに腰を抜かしていた。少年はもう俺を超えていた。


調子に乗るのはやめようと思った。

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