第七話:ただいま

「東京、着いたわね」


「コンクリートジャングルって言葉もあったらしいがこうなると自然の強さが分かりますね」


 私と夏凜ちゃん、そして雲雀ちゃんは無事東京までたどり着くことが出来ました。徹夜でバイクに乗り続けていたのでかなりお尻は痛いです、そう言う意味では無事ではないのかもしれません。しかしなんとかここまで着くようにガソリンを補給し、パンクもなく滞りなく東京の都市部入り口まで来ました。


「さて、バイクで行けるのはここまでかな?」


「だね」


 雲雀ちゃんは一人話が分からないようにポカンとしています。


「ここで降りるの?」


「ここから先はビルの残骸が多いからね、パンクさせちゃうと後が面倒だからここから先は徒歩だよ」


 ガラスがそこかしこにころがり、金属のボルトなどもころがっているのでバイクを走らせたらパンクするでしょう。修理が出来ないわけではありませんが、私たちの持つ資源は有限です。危険を冒す理由も無ければ、目的地周辺で徒歩でたどり着ける以上バイクを使う理由はありません。


「地図は大丈夫?」


 私は夏凜ちゃんに聞きます、こんな事は聞くまでもないことは分かっているんですがね。


「問題無いよ、ここからだとタワーまで歩いて九十分くらいのところね」


 幸い雲雀ちゃんの目的地は分かっています。東京タワー、もう放棄されて久しいですし、高層建築物以上の意味は無く、従来の機能は当に果たしていなくなっていますが、目印としてはこれ以上ない役目を果たしています。


「話はこれくらいにして行こうか、雲雀、タワーまで行けば住所は分かるんだね?」


「うん、いろいろ変わってるけど昔の道は分かるよ、道がなかったらそう言うことなんだと思う」


 諦めはいいようですね、雲雀も五百年も家が存在しているかは非常に疑問に思っているようです。何しろ世紀末が五回くらい来る計算ですからね。家がそうそう残っているはずもありません。


 しかし、雲雀もそんなことは百も承知なのでしょう。これは雲雀の心にけじめをつけるのが目的であって、親族に会うための度ではありません。


 私たちはぬるい空気の中を目指すところに向けて歩いていきました。


「ねえ、私の家ってもう無いのかな?」


「ないでしょ、五百年持つ家とか洞窟くらいじゃない?」


「そうだよね……」


 夏凜ちゃんの冷静な話にもめげないことは褒めていいのでしょう。私は元から家族というものがほぼいなかったので気になりませんが、家族がいるのが当たり前だった世代からすればそれは厳しいことなのかもしれません。


 私たちの旅は順調に進んで、あっけなく最終目的地である東京タワーにたどり着きました。錆び付きながらも未だ倒れていないのは人類の意地を感じさせてくれます。


「二人とも、ついて来てくれる?」


「いいよ」


「構わないわ」


 ここまで来て最後の一歩に付き合わないという選択肢も無いでしょう。どんな結末が来るとしても最後まで見届けようとは思っています。


「じゃあこっちだよ!」


 私たちは答えを知っていても雲雀についていきます。建物の大半は朽ち果てていて、コンクリート製の建物にもツタが這っているような状態でも、人間が生きていた証として僅かに残っています。


 地図とコンパスで夏凜ちゃんは地図に印をつけながら、私は呑気に観光気分で歩いていきます。


 そしてしばらく歩いた後、本当の目的地にたどり着きました。そこには崩れ果てた、以前は立派な木造建築であっただろうお屋敷がありました。予想はついていたことです、鉄は錆びコンクリートですらひび割れているというのに、どんな建物だったら残っていると思えるでしょうか?


 当然のこととして崩れ去ったその家を雲雀は涙を湛えながら眺めています。


「そう……だよね……やっぱりみんな……もう居ないんだ」


 私たちはただ雲雀を待ちました。どんな生き方をするにせよ私たちは最後まで見届けなくてはなりません。


 雲雀は手のひらで目を拭って私たちに向きました。


「ありがとう! おかげでさっぱりしたよ!」


「そう……」


「うん、そうだね」


 そして雲雀は私たちに手を伸ばして言いました。


「私も二人と一緒に生きていっていいかな?」


 夏凜ちゃんはやれやれと頷いて言います。


「お客様にはしないからね? ちゃんと自分の面倒は自分で見なさいよ」


「よろしく、こんな時代だけどやっていけるかぎりは一緒だよ」


 そして私たちは雲雀の家に背を向けました。


「食料集めて帰る?」


「この辺はもう漁り終わった後じゃないかな?」


「じゃあ帰ろっか!」


「そうだね」


「そうね」


「「「私たちのホームへ!」」」

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