第六話:みちのり
やかましい音を立てながら私のバイクが走っていきます。幸い未だに化石燃料が手に入るのはやさしい天の采配でしょうか。
「天音! 怖いよ!」
「我慢しなさい、下手に動いて転ぶと肉塊になるわよ」
私の言葉に恐怖を感じたのかおとなしくなった。夏凜の方は何事も無く走って行っている、荷物が動かないというのは随分と乗りやすそうだなとは思う。私の方の後ろに乗っている
道路がかろうじて生きているのでなんとかその上を走ることが出来ます。昔は自然保護などという概念があったそうですが、今ではすっかり人類は自然に負けてしまっています。路側帯には草が生え、まるで負け犬になった人類を煽っているのではないかとさえ思います。
後ろから伝わってくるぬくもりも、ぬるい空気の中では暑苦しいだけです。ぼんやりと走っていると夏凜ちゃんが止まれと手で合図をしました。
「食事にしましょう」
どうやらお昼ご飯のようですね。食料が三人分必要になったのでもう少し渋るかと思いましたがいつも通りの時間に食べるようですね。
「やった! ご飯だ!」
雲雀ちゃんは楽しそうにしていましたがその顔から光が消えるのに総時間はかかりませんでした。何故なら夏凜ちゃんが出したものが缶詰だったからです。贅沢なことを言ってはならないのですが、まあ美味しくはないですね。
「缶詰なんだ……」
夏凜ちゃんは不平をこぼす雲雀ちゃんに不満があるようです。
「これでも随分貴重な食料なのよ? それともその辺で狩りでもしたほうがよかった?」
「缶詰を食べます……」
「夏凜ちゃん、食料は東京まで持ちそうですか?」
夏凜は少し困った顔をして私に答えました。
「この子がどれだけ食べるかだけど、たぶん足りると思うわね……ただ……」
「ただ?」
「片道ね、帰りの食料は無いわね。東京に骨を埋めるならありだと思うけど」
「東京かあ……廃墟生活になるよねえ?」
人類が滅んだときに都市部はあらかた物資を回収された。暴れ回って奪い取った人もいたらしいが、それももう過去の話、今では人工物に溢れた大きな廃墟となっています。あまり住みたいとは思いませんね。
「当たり前でしょう? 山奥で自然溢れた生活も出来るけどね、だったら東京に行く必要なんて欠片も無いじゃない」
「雲雀ちゃん、あなたは実家へ帰ったらどうしようと思ってるの?」
雲雀は困った顔を浮かべる。五百年も経ったのだから当然知り合いなどいない。一人で生きていけるほどこの子は強くないはずです。私たちも悠長にこの子を送っていけるほど余裕はないのですが、幸い都市部にある保存食を失敬しながら進んでいける。
「私は東京で何とか住んでいくよ、父さんや母さんの思いでもあるしね」
そう、断言する雲雀。揺らぐことのない瞳でそう断言する様はその言葉が嘘でないことを物語っていた。
「そう……そこまでは送るから後は頑張ってね」
夏凜ちゃんはドライです。東京でお別れを決めてしまうとそこまでの関係と決めているようです。こんな時代にそうでないと生きていくのが大変なのは理解します。私に二人を養うほどの甲斐性はありません、現在は二人で必死に生きているのが現実ですからね。
「私はどうすればいいのかなあ……」
「五百歳を超えてるんだし年の功ってものはないのかな?」
私はそんな軽口を叩いてみます。
「私はおばあちゃんじゃないよ……」
「でしょうねー……」
「さて、食べ終わったみたいだし走るわよ」
「もう!? 休まないの?」
雲雀ちゃんは不平があるようですが、私には事情が分かります。
「あのね、今は二人分の食料を三人にわけてるの、そんなに余裕はないんだよ」
新人よりも役に立たないと言っては少し申し訳ない気もするんですが、雲雀ちゃんは戦力に含めていません。今は三人の旅ではなく、二人と一人の旅なんです。
「徹夜で走れば明日には都内には着くわね」
夏凜ちゃんは無情にも徹夜ルートを提案します。私もほとんど異存はありません、生きていくにはコストがかかるのです。
そうして私は食べ終わったので雲雀ちゃんの手を引いてバイクの方へ向かいました。一日走っていたのでたぶんお尻が痛いのでしょうがもう少し我慢しもらわないといけませんね。
「行きましょう、夏凜ちゃん」
「そうね、天音も覚悟はしてる? 都内を走るのは大変よ」
「知ってる、でもいつかは行かなきゃならないでしょう?」
「分かってるじゃない」
こうして私たちは雲雀をバイクの後ろに乗せ、それぞれ乗ってからエンジンをかけました。うなりを上げながら私たちは走っていくのでした。
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