ヒーローしゅきしゅき!をこじらせると、悪の女幹部になっちゃうんです♡

宇枝一夫

愛しのアルファーマン様♥️

 四月某日、夕刻。

 

(ハァ、大学入学したけど、やりたいことなんて……)


 サークル勧誘をスルーし、大学の門を出た緋色朱希ひいろしゅきは、ため息をつきながら駅までの道を歩いていた。


(いっそ彼氏を……ってないなぁ。そもそも今まで好きになった男子なんていなかったし……あれ?)


 やがて朱希は辺りに人気ひとけがないことに気がついた。


(そうだ、今日この辺りにある


『収賄疑惑の国会議員の事務所があるビル』


を悪の秘密結社、《ブラックホール団》が襲うと予告状がぁ!!)


"ひゅ~~~……ドッカーン"


 空から落ちてきたのは、十メートルはある巨大ロボットだった!


"ひっ……ひっ……"


 腰を抜かした朱希は、逃げることも助けを呼ぶ声も出ない。


 そこへ、一筋の流星が朱希の前へ降り立った!


(だ……誰?)


 彼は赤かった!

 風にはためくマントも!

 アルファーをあしらった仮面も!

 そして、たくましい全身と、盛り上がる股間を包み込むスーツも!!


『悪がはびこるところ必ず現れる! αアルファーマン! ここに参上!!』 


(これが正義のヒーロー、α……マン)


 彼は強かった!

 彼のパンチやキックは的確にロボットの急所へ直撃し!


 彼は立ち上がった!

 ロボットの放つミサイルを受けても! 国会議員の事務所のビルへ叩きつけられても!


 彼は放った!

 額のアルファーマークに左右の人差し指を当て、必殺技を!


『アルファ~~ビィ~ム!!』


”ドッカ~ン!”


 ロボットは雲散霧消し、パイロットは這々ほうほうていで逃げ出した……。


「大丈夫ですか、お嬢さん」

「は……はい!」

「よかった。では私はこれで。とぅ!」


 彼は再び流星となって空を駆けていった。


(α……マン)


 そのとき、朱希の中で何かが芽生え、そして……爆発した!!


(え~なにアレめっちゃ強いしかっこいいんですけどあれがうわさのスーパーヒーローって私のことをお嬢さんだなんてきゃ~! さらにあんな間近で”もっこり”見ちゃったきゃ~きゃ~! いやだぁもう信じられなぁ~い! あはぁ~もうしゅきしゅき大しゅき! ちゅきちゅきラブラブすぅぱぁはぁとよぉ~~!!)

 

 三年後、就活生となった朱希は、最終面接のため、ある場所へ向かう。


『フッフッフ……ようこそブラックホール団の最終面接へ。我が輩はブラックホール総統だ。まずはここまで生き残ったことを褒めてやろう。下っ端戦闘員と違い、この面接に合格すれば幹部候補生となり、働きによっては将軍も夢ではないぞ』


「それでは自己紹介からお願いします」


「○○大学△△学部四年生、緋色朱希です。(以下略)」


「緋色さんは大変成績が優秀ですね。我が団より正義の組織、《アルファー研究所》を希望される方がよいのでは?」


 面接官の質問に、朱希の体から真っ赤なオーラが舞い上がる。


「奴は……αマンは、私のすべてを奪っていきました。今度は私が奴のハートを奪う番です! そうすることで、やっと私は平穏結婚な日々を送れるのです!」


『フッ。なるほど、いいオーラを持っておる。ここまでαマンへの憎しみが強い就活生は初めてだな。よし! 内定をやろう!』


 そして翌年度、ブラックホール団の入団式

 ブラックホール総統の挨拶が始まった。


『よいか! この世の悪はただ一つ! 我がブラックホール団だけだ! テロリストから疑惑の国会議員まで悪を名乗る奴はすべて抹殺せよ! そして入団したからにはこれまでの名を捨てるのだ! 我が輩が直々に名前をつけてやるからありがたく思え!』


 そして朱希の番。

『そなたは面接で覚えておる。ならば今からおまえの名は《ブラッディー》だ! その名の通り、αマンを血祭りに上げてやれ!』


「……ありがたき幸せ。必ずやαマンを、(腹上ふくじょう)死に導いてご覧に入れましょう!」


『フフフ……期待しているぞ』


 こうしてブラックホール団の一員となった朱希は、めきめきと頭角を現していった。


 格闘から武器の扱いにサイバー攻撃まで。


 そして下っ端戦闘員を率いて、次々と他の悪を倒していった。


 やがて朱希は小隊長(主任待遇)へと昇進し、漆黒の軍服と個室が与えられた。


 ある日のこと。


「ブラッディー隊長。《ジャングル》から荷物が届いていますが?」

「わかった」


 朱希の身長以上ある細長い箱をかかえた朱希は、部屋のドアを開ける……。


 そこは壁一面、αマンのポスターが、棚にはαマンのビデオやフィギュアが所狭しと置いてあった。


 さらにベッドにはαマンの添い寝シーツとクッションと抱き枕があり、唇の所にはよだれで、股間部分は“謎の汁”でテカテカになっていた……。


 そんな”痛部屋いたべや”に荷物を置き封を切ると、等身大のαマンのフィギュアが現れた!


(キタァ~~!)


 早速組み立てて、ベッドの脇に置いた。


(いやんもう給料全部はたいて買った甲斐があったわぁ凜々しいお姿にたくましい胸板から股間の”もっこり”までもう完璧パーペキ再現!! ……じゅるり。今夜は寝かせない……きゃあぁぁ~! むしろ眠れないのは私の方かもぉ~~!!)


 数日後、ブラックホール団の食堂では、三人の部下が食事をしながら雑談をしていた。


 戦闘員A(格闘、斥候せっこう担当、以下A)

「そういえばこの前、隊長の部屋へサインをもらいに行ったら、アルファーマンのビデオを目を皿のように見ていたな……」


― ※ ―


『失礼します隊長、サインを……って何をしておられるんですか?』

『見てわからぬか? αマンの弱点を探しておるのだ』


― ※ ―


 戦闘員B(火器、肉の盾担当のデブ、以下B)

「ボクチンの時は、でっかいアルファーマンのフィギュアに向かって銃を構えていたブヒ」


― ※ ―


『失礼しますブヒ。隊長、ボイド博士が新しい爆弾について……何をしていらっしゃるブヒ?』

『見てわからぬか? 常日頃より奴の心臓はぁとを打ち抜こうとイメージトレーニングしておるのだ』



― ※ ―


戦闘員C(刀剣、罠担当、サムライかぶれ、以下C)

「拙者が部屋を訪ねた時は、ベッドの上で抱き枕を羽交い締めにしていたな……」


 ― ※ ―


『失礼します。合同トレーニングの時間です……。隊長、何を?』

『見てわからぬか? こうやって接敵すれば、アルファービームに当たらぬ。さらに関節技を決めれば一石二鳥だ』


― ※ ―


 食堂のテレビからニュースが流れる。


『次のニュースです。αマンが銀行強盗を捕まえました!』


A「くそぅαマンめぇ! でかいツラしやがって!」

B「何より女にもてるのが気に食わないブヒ!」

C「いつか目にもの見せてくれようぞ!」


「ほう、いい面構えだな」


ABC「「「ブ、ブラッディー隊長!」」」


「そのままでよい。次の作戦、期待しているぞ」


ABC「「「はっ!」」」


 そして朱希はカウンターへと向かう。 


「すいませ~ん。オムライス大盛りでお願いします」

「はいよ」


 トレーとケチャップを持ち席に着くと、オムライスの上にケチャップで文字を書き始めた。


 ……『αMan』と。


 そして文字の中心にスプーンをぶっ刺すと、αマンのニュースを睨むように見ながら黙々と食していた。


A「さすが隊長だ。食事の時もαマンのことを」

B「ケチャップを血に見立てて、血祭りにするつもりだねブヒ」

C「うむ、我らも見習わなければ……」


 しかし朱希は……。


(んもうαマン様のニュース見ながらケチャップ文字のオムライスを食べるなんて最高! 大学時代の合コンで『αマン様ラブ』って言ったら、男女両方からドン引きされたしぃ~。やっぱりここは天職よねぇ~!)


 そんな中!


”ドゴォオォ~ン!”

”ビービービービー!”


 爆発の振動が基地を揺さぶり、警報が鳴り響いた。


『緊急警報! 緊急警報! 第一秘密出入口にαマンが侵入! 総員、第一級戦闘態勢をとれ!』


「おまえ達、一番槍は我がブラッディー隊が頂くぞ!」

「「「はっ!」」」


(αマン様が……来てくださった!)


 脳内お花畑の朱希であった。


『ブラックホール総統はご在宅かぁ!?』


 廊下を歩くαマンの前を、ブラッディー隊が立ち塞がる。


「よく来たなαマンよ。まさに飛んで火に入るなんとやら……」

「おお、確か貴女はブラッディー隊長でしたな。総統へのお目通りを……」


(きゃぁ~αマン様が私の名前を覚えていてくださったぁ~)


「ふっ! 総統に会いたくば、我らを倒してみよ!」

「なるほど、力なきモノに目通りはかなわぬとな」

「左様、ものどもやれぃ!」


A「必殺! ブラック神拳!!」

B「メテオバズーカ! 発射!」

C「奥義! 二刀双龍ツイン・ドラゴン!」


『マシンガンアルファーパァ~ンチ!』


”ドドドッカカカァァァ~~~ンンン!!!”


 下っ端戦闘員は一瞬でやられてしまった。


「ちょうどよい。貴女とはサシで勝負をしたかった……」

「望むところ! 参る!」


 両者、目にもとまらぬスピードで攻撃を繰り出した。

 まさに一進一退、互角の攻防。


「「「す、すげぇ……」」」


 下っ端戦闘員はただただ見とれていた。

 ボロボロになった朱希の軍服から覗く、白い肌や下着に……。


「どうしたαマン、もう息切れか? 前屈み・・・顔が赤いぞ・・・・・


「な、なんのこれしき! アルファ~」


「いまだ! アルファービーム、破れたりぃ!」


 朱希は一気に間合いを詰めると、αマンの両手首をつかんで左右に広げた。


「どうだ、これでは自慢のビームは撃て……きゃあ!」


 バランスを崩した朱希は、αマンを押し倒す形になった。


”ドッスゥ~ン!”

 

 煙が晴れて下っ端が見たのは、互いに唇を重ねた両者であった。


 朱希が唇を離し立ち上がると、


”ブシュ~~!”


 αマンの鼻から多量の血が噴き出した。


 ……古今東西ヒーローは、女性に免疫がないのである。


「「「やったぁ~!」」」


(……やだ、私、αマン様と……ふぁふぁふぁ~しゅとファーストき、き、き、、きっしゅキッスをおぉぉ~!)


 両手で口元を押さえた朱希もまた、

「ぶはぁ!」

 指の間から大量の鼻血が流れ、その場で崩れ落ちた。


A「隊長!」

B「まさか隊長、口移しでαマンに毒をブヒ?」

C「なんと壮絶な! 早く軍医殿を!」


 結局、αマンが秘密基地にやってきたのは、悪を倒すため互いに手を取り一時休戦にしようとの使者であり、爆発はボイド博士の爆弾がテスト中に爆発したことが原因だった……。


  完

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ヒーローしゅきしゅき!をこじらせると、悪の女幹部になっちゃうんです♡ 宇枝一夫 @kazuoueda

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