うっかり女神の転生ミスで出会えた私だけのヒーロー

帝国妖異対策局

第1話 妖異回収部隊

 妖異回収部隊というのは「汚い、きつい、気持ち悪いの3K職場」として知られている不人気職業だ。

 

 転生した勇者や一般の転生者が捕獲した妖異を回収するのが主な任務になっている。妖異というのは魔物とは違う。魔物というのは人間から見て不利益を生ずる生物ということであって、彼らとて属する世界の一員だ。


 しかし妖異は違う。妖異は世界の理の外から侵入してくる異物だ。外見も行動も全て異様で、普通の人間なら見ただけで正気を失うことも珍しくない。


 妖異が世界に侵入してきた際、当該地域を担当する女神がクエストを発注し、それを受けた勇者や一般転生者が狩猟に向かう。妖異を捕獲した場合、それを回収に向かうのが妖異回収部隊というわけだ。


 具体的な作業は地味だ。妖異を捕獲した勇者や一般転生者のところに次元扉を開き、妖異回収袋に対象を詰め込んで持ち帰る。以上。


 単純に見えるから、ほとんどの人がこの仕事の厳しさを知らない。出来て当たり前。妖異を討伐したばかりの勇者や一般転生者は、たいていの場合、戦闘直後で気が立っているので、わたしたちへの当たりもキツイ。


 中には、妖異から素材が取れると思い込んで、わたしたちがそれをネコババしていると決めつける人たちだっている。というかほとんどの人はそう考えているんじゃないだろうか。


 それにしても妖異を討伐したことがある勇者やベテランの一般転生者なら、死亡した妖異が最後には泡状になって消えてしまうということは知っているはずだ。それでもクレームを付けてくるというのはどういう了見なのだろう。


 ツバを吐かれたり、底辺扱いの悪口を言われるなんて珍しくもない。そうした勇者たちと袋に詰め込まれた妖異の区分が、わたしにはつかない。


 周囲からキツク当たられる分、仲間内の結束が強いかと言えば、そんなこともない。皆、与えられた任務を黙々とこなしてさっさと帰りたい。それだけに集中している。


 隊長からして、トラブルがあってもひたすら問題の早期鎮火に徹するだけ。チームもお互いのミスをカバーすることはあっても、それは単に早く帰りたいから。わたしもその一人だけど……。まぁ、そんなつまらない職場なのだ。


 そんなつまらない仕事を、まるで魔法のように素晴らしいものに変えてくれたのが、田中様だった。


「あっ、回収班の皆さん、いつもありがとうございます! 凄く助かってます!」


 妖異ショゴタンを捕獲した田中様は、わたしたちの姿を認めると何度もヘコヘコと頭を下げる。


 うっかり女神が転生処理でミスを連発したために、現在、天上界では転生者への対応に混乱が生じている。そんな中、一風変わった天使によって転生させられたのが田中様だ。


 最初、田中様を見たときはパッとしない少年だなと思った。しかも天与のスキルが【幼女化】という変態……一風変わったものだったので、田中様も変態……一風変わった少年なのかなと思っていた。


 でも違った。


 それは田中様の捕獲した妖異の回収に何度か向かっているうちにわかった。田中様は、わたしたちの仕事の苦労を知っていた。それだけでなく労ってくれていた。


「隊長さん、息子さんが無事、帝国防衛大にご入学されたと聞きました。おめでとうございます!」

「あ、ありがとうございます! わざわざお祝いに拳骨イチゴの箱詰めまで頂いてしまって、息子も大変喜んでおりました。妻からも田中様にお礼を伝えるように言われてます」

「あっ、いえ、こちらこそいつもお世話になってばかりだというのに、スーパーの商品しか贈れなくて申し訳ない限りです」


 どこから情報を仕入れているのか、田中様はこんな感じでわたしたちに気を遣ってくれる。一般転生者の田中様は神ネットスーパーの利用が許されており、スーパーの商品であれば、異世界に居ても手に入れることができるのだ。


「あっ、白畑さん。お誕生日おめでとうございます!」

「えっ!?」

「スーパーのもので申し訳ないですが、花束とケーキを後でお送りしますので」

「あ、ありがとうございます!」


 転生者から見ればモブにしか過ぎない妖異回収班の、その中でも地味子でしかないわたしに目を掛けてくれていた!?


 このときから田中様はわたしにとってとても気になる人となった。


 ある時、勇者が捕獲した妖異の回収で、わたしが手間取ってしまいクレームが入った。そのことが原因でわたしは隊長とぶつかってしまい。チームが険呑な雰囲気になったことがあった。


 ちょうど、そのタイミングで田中様が捕獲した妖異の回収指示が入った。通常、回収作業は数十秒内で撤収する。しかし回収先が田中様の場合、隊長やわたしたちと軽い雑談をすることが多い。


 班の不穏な空気から上場を察したのか、田中様は、隊長が先日の勇者のクレームの件で、わたしを一生懸命かばっていたことを褒めていた。隊長は、なぜそんなことをご存じで?という表情で固まっていた。


 隊長がわたしをかばう? 怒声をくらった記憶しかないんだけど?


 と、最初は疑念しか浮かばなかったが、田中様の話を聞くうちに色々と心当たりな出来事が浮かび上がってきた。


「妖異の回収なんて命懸けの任務。チームの皆さんが一丸になる秘訣ってなんですか? やっぱり隊長さんみたいに一人一人にしっかりと目配りすることだったり? いや、俺も小さい村の酋長になったもので、そういのが気になりまして……」


 隊長に向かって田中様がそんな話をしていた。


 田中様の言葉を聞いて、わたしはようやく隊長が自分のことをいつも守ってくれていたことに気が付いた。いや、これまでだって気づかなかったわけではない。隊長は、わたしが問題を起こしたときにいつだって庇ってくれていた。


 ただ、わたしはそれを「部隊の体面を守りたいから、問題を広げたくないから」なんて捻くれた視点でしか見て来なかったのだ。そうじゃなかった。わたしの脳裏に走馬灯のように、思い当たる場面が次々と再生されていく。


 隊長は、隊長はいつだってわたしのことを、わたしたちのことを気遣ってくれていたじゃん! わたしは思わず隊長に声を掛ける。


「た、隊長! ありがどう……それとごめんなさい」


 わたしは泣いてしまった。他のメンバーたちも口々に隊長に日頃の感謝を述べていた。


「な、泣くな白畑! 皆もいい加減にしろ! 俺は隊長としての務めを果たしているだけで、お前らにキッチリ働いて貰っているだけで……むしろ無理ばっかりさせちまって……お前たちには本当に……ありがとう」


 田中さまが隊長とわたしたちに向かって腰を90度に曲げて頭を下げた。


「妖異回収班の皆様! いつも危険な妖異の回収、本当にありがとうございます! この度は皆様の素晴らしいチームワークの一端を拝見できました。これからもお世話を掛けると思いますが、何卒よろしくお願いします!」


 涙を吹きかけた隊長がビシッと敬礼の姿勢を取る。わたしや他のメンバーもそれに続く。


「ハッ! 妖異回収班一同、勇者様や転生者様のお役に立てるよう今後とも精一杯務めていく所存です!」


 敬礼を解いた隊長が田中さんに、


「田中さん、ありがとう」


 一言お礼の述べた後、わたしたちにいつもの号令を飛ばした!


「回収班! 撤収!」

「「「了解!」」」


 黒い空間に入る前、チラっと田中様と目が合った。


 田中様はわたしの方を見て小さく手を振りながら、小さな声で、


「白畑さん、頑張ってね!」


 と言ってくれた。


 この日以降、わたしは隊長や他のメンバーとも打ち解けることができるようになった。今ではこの部隊はわたしにとって家族のようなものとなっている。


 全てが田中様のおかげだった。彼はわたしを孤独から救ってくれたヒーローだった。わたしだけのヒーローだ。


 ただ最近、気になることがある。


 田中様の後ろにいつもストーカーのようにまとわりついている女。ライラとか呼ばれていたっけ。


 わたしの田中様に近づき過ぎてて何かイヤだ。


 もしかして、わたしの田中様を誘惑しようとしているんじゃ……。


 もしそうだったら……


 許さない!


 絶対に!


 絶対にだ!


~ おしまい ~






☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆*:.。. o(≧▽≦)o

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https://kakuyomu.jp/users/teikokuyouitaisakukyoku/collections/16816927861476862289

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