第78話 勇者発見……ご遺体で
「まさか……勇者が死んでいたなんて……」
吹雪の荒れ狂う中、マルラナ山頂にある古代神殿の入り口で、俺たちは氷漬けになっている男の死体を発見した。
(ココロチン、これ本当の本当に勇者なの?)
(間違いありません。それに……信じられない……彼の支援精霊たちも全て消失しています)
クエストに出発して一か月。俺はライラと鬼人のフワデラさんの三人は、マルラナ山の案内人を買って出てくれた二人の戦士でパーティを組んで、ドドミ=ゴが現れるという山頂の古代神殿跡を目指した。
途中、ドドミ=ゴの幼体であるミ=ゴが群れを成して襲ってきた。ミ=ゴは蚊を人間の大きさに巨大化したような化け物だ。
ただ蚊と違って頭が花のめしべが捩じくれたような肉塊で超気持ち悪い。ブーンブーンと唸る羽音が、耳元を飛んでいる蚊の音そのもので不快になる。
他のパーティーメンバーは初めて目にする異様なバケモノに驚いていた。後で聞いたら案内人でさえ初めて見たらしい。
だがミ=ゴはショゴタン狩猟の経験があり、それ以降、スキルのプラグイン拡張や光線発射ポーズの訓練を重ねてきた俺の敵ではなかった。
「ジョワッ!」
ビィィィィィィィィィィィィィ!
持続時間も伸びた【幼女化ビーム】を丁寧に狙ってミ=ゴに当てていく。
ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!
ミ=ゴは1秒だけ幼女になってすぐに元の姿に戻る。
ポンッ! ポンッ! ポンッ! ポンッ! ポンッ! ポンッ!
短時間で幼女から元の姿に戻ると身体にダメージを受けてしまうのだが、これが1秒ともなると致命的なダメージが入るのだ。
地面にはミ=ゴたちが倒れ込み、身体をヒクヒクと痙攣させていた。そこへ他のメンバーたちが止めを刺していく。
一瞬であれ幼女になった彼らを殺すのは……問題ない。どうせこいつら碌なことしてないだろうからな。
後で神殿を探索したときに判明するのだが、本当に碌なことしてなかった。
そうやってミ=ゴを倒し続けていくと、やがてミ=ゴの襲撃が止んだ。俺たちはそのまま山頂近くの神殿へと足を進めた。
神殿の入り口前にある広場に入ると、頭上からドゥーン、ドゥーンと響く重低音と風圧が俺たちを襲った。
俺たちの目の前には3mはあろうかという
頭部のめしべが俺たちに向かって折れ曲がる。凄まじい殺意がそこから発せられていた。
ぎぃぃぃぃぃぃぃぃ!
奇妙な音と共にその頭部が大きく膨らみ、大きく裂け……
「ジョワ!」
もちろんそんなの見学する気のない俺は【幼女化ビーム】を放った。【妖異効果推測プラグイン】で【幼女化】に必要なビームが1回であることは分かっていたが、それでも俺は念入りにビームを照射した。
ボンッ!
頭が妙に長い、背中に蚊の羽を生やした幼女が出現した。
≫ ドドミ=ゴを幼女化しました。残り時間 364日 23:58:53
≫ EONポイントを200,000獲得しました。
(捕獲しますか?)
(よろしく!)
(回収班、40秒で到着するとのことです)
吹雪で数mも見えない中、黒い空間が現れて回収班6名が飛び出してきた。回収班は大きな黒いシートで幼女(ドドミ=ゴ)を包み込む。
引き上げの際、黒髪を後ろに束ねた女性隊員の白畑さんが俺の方をチラッと見たので目が合ってしまった。
俺の背後でザッと音がしたかと思うと、いつの間にか目の前にライラが立って何事か警戒している。俺が何事かと驚いていると、回収班の隊長さんが空間から半分身体を出して、
「田中さん! いつも差し入れありがとうございます! 回収班を代表して御礼申し上げます! ではまた!」
と言った後、黒い空間は消えて行った。
空間の消失と共にドドミ=ゴの姿も消えたので、驚いた北方人が声を上げる。
「魔物が消えた!?」
回収班の姿は俺以外には見えないので、俺は簡単に状況を説明する。
「シンイチ様、その回収班の中に女性はいますか?」
ライラがそんなことを俺に尋ねる。
「んっ? あ、あぁ、女性が一人いたよ。他にもいるけど、今日は一人だったな……」
「美しい方ですか?」
「んっ、そうだね。美人だよ」
「そうですか……」
このとき、俺はライラの反応に特に疑問を抱くことはなかった。
「シンイチ殿! こちらに来てくれ! 遺体がある!」
周囲を警戒していたフワデラさんが呼ぶので駆け付けると……。
首と胴体が離れた男の遺体が倒れていた。
(田中様! この遺体……勇者です!)
(えぇぇぇぇぇ!)
(ク、クエスト完了通知を受領!)
(ぴろろん! 2件のクエストが成功しました)
≫ ★成功★ 女神クエスト:妖異 ドドミ=ゴの狩猟
≫ クエスト報酬が支給されます。
≫ (捕獲)EON 70万ポイント(支援精霊ボーナスあり)
≫ ★成功★ 女神クエスト:勇者を探せ
≫ クエスト報酬が支給されます。
≫ EON 20万ポイント(支援精霊ボーナスあり)
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う、嬉しい! けど、今はそれどころじゃねーな!
こんなところで勇者が死んでるとか……魔王はどうすんの?
「シンイチ殿!」
フワデラさんが遺体の首を指さして俺の方を向く。
「どうしました?」
「この勇者……頭が空っぽです!」
ちょ、フワデラさん! 死者に対して酷くない!?
【 関連話 】
うっかり女神の転生ミスで出会えた私だけのヒーロー
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