第63話

「いやだよ」

「──え?」


 目の前にいるクラスメイトの神宮寺は笑いながらそう言った。

 断られると思っていなかった俺はその場に固まってしまう。


「ど、どうしてなんだ?」


 そしてかろうじて言葉を捻り出した。

 神宮寺は市川さんと仲が良かったはず。


「蒼が南から嫌がらせ受けてるって、それは蒼本人から言われたのか?」

「……いや」

「じゃあ、小宮はその現場を見たのか? それとも他に見た奴が?」

「それは……」

「話にならないな。証拠も何もないのになんで俺が友達の南を疑わなくちゃいけないんだ?」

「……」


 神宮寺の言葉はごもっとも。

 俺も市川さんが嫌がらせを受けている現場を直接見たわけじゃない。すべては崎野さんやアキからの話に市川さんの態度。それらの状況証拠からそう言っているだけだ。


「それでも神宮寺は市川さんとその……な、仲良かったわけだろ? 市川さんが最近様子がおかしいことに気がついてるんじゃないのか?」

「確かに蒼とは仲良いし、ただの友達で終わる関係ではないと思ってるよ」

「……っ」


 自分で言った言葉がそのまま跳ね返ってきた。


 なんだか異様に胸の奥が痛んだ。

 俺の知らない市川さんの一面を知っているとまざまざと見せつけられたような気がしたのだ。


 市川さんが俺と付き合うまで神宮寺たちと同じグループで仲良くしていたことは知っている。そこにそれ以上の関係があったのかどうかは市川さんからは何も聞いていない。


「まぁ、俺は南のこともよく知ってるし、蒼をいじめるような子じゃないと思ってる。小宮が勘ぐっているようなことはないと思うよ。……そもそも君が蒼をそこまで気にする理由は何なんだ?」

「それは……」

「あ、もしかして、蒼が好きだとか?」

「…………」

「はは、もしかして図星? 別に諦めろっていうわけじゃ無いんだけど、もう少し現実見たほうがいいんじゃないか?」

「それってどういう意味だ?」

「そのまんまの意味。確かに蒼は魅力的な子だと思う。好きになるのは自由だけど、君みたいに何の取り柄もない平凡な人間とじゃあ釣り合わないと思うよ」

「ッ」

「たとえ万が一があったとしても、そんなギャップに苦しむのは自分だし、なんなら蒼だってそのことで苦しむかもしれない。まっ、俺が言いたいのは──身の程を弁えろってこと」


 神宮寺はすれ違いざまに俺にそう吐き捨てた。神宮寺は言いたいことを言い終えたのかそのまま、俺に背を向けてその場を後にする。


 結局、神宮寺に協力はしてもらえそうになかった。

 神宮寺に言われた言葉が何度も頭の中で反芻する。


 身の程を弁えろ。


 そんなこと俺が一番分かっている。それに神宮寺が言った通り、そのことでいろいろ悩んだことも事実だ。


 だけど、それを神宮寺から言われるのはなぜか無性に腹が立った。そして悔しかった。


「ああ、まぁ」


 そんなやり場のない感情を抱えていると、神宮寺は振り返った。


「でもそこまで気になるなら聞いておくよ」


 先ほど、断られたことから一転。神宮寺の言葉に驚く。


「……ぁあ。頼む」

「まぁ、あんまり期待はするなよ」


 かろうじて言葉を絞り出したが、神宮寺は鼻で笑ってその場を去っていった。


「…………」


 神宮寺ってこんな嫌な奴だったのか?

 普通に爽やかなイケメンで人気な奴だと思っていたんだが。

 それか、単純に俺みたいな奴にはもともとこういう態度だったか。


 そのことが何かかなりの引っ掛かりを覚えた。


 ◆


「はぁ……」

「おい、さっきから何回目だぁ? そのため息は。何か悩みがあるなら話してみろ。気になるだろ」

「あ、いや……」


 無意識だった。ナカの前でため息を吐きすぎたのか、そのことが気になったナカが聞いてきた。


「別に話したくないならいいんだけどな。でもさ、ここ数日のお前見てるとな」

「そんなに俺おかしい?」

「ああ、おかしいね。俺が昼飯を誘ってもいつもフラッと一人でどこかへ行きやがる。俺はお前についに彼女ができて、密会しているのではないかと疑っている」

「…………お、おう……」


 やけに鋭い。ちょっと前の出来事ではあるが、ほぼほぼ合っている。もっとも今悩んでいることを言い当てられたわけではないが、少し動揺してしまった。


「俺の予想では女の子への接し方を知らないお前が地雷を踏んだんだろう。そして怒った彼女の対応に関して困っている。どうだ!? 違うか!?」


 ざっくりな内容なので否定しきれないところではあるが、遠からずでほぼ当たっている。


「その反応、図星だな。ったく、水臭えな。親友に隠し事なんざ……お前がそういうの苦手なのは分かってるけどよ。たまには俺にも頼ってくれよ。親友だろ?」


 まさかナカからそんな風に言ってもらえるとは考えてもいなかった。それにナカに相談するなんてこと考えたこともなかった。

 少し、胸が熱くなった。


「黙ってたことは許してやるからよ。ほら、話してみろ。お前が困っていることを。そしてこの人生経験豊富なナカ様がアドバイスをしてやるよ」

「…………!」


 思えば、付き合いが長いだが……。目の前で得意げになるナカを見て、少し元気が出た。


 やっぱりもつべきものは友だと思った。


「分かった話すよ」

「お、そうこなくっちゃな! じゃあ、まずだが、お前に彼女ができたっていうのは合ってるのか?」

「ま、まぁ……」


 ちょっと気恥ずかしい思いもあるが、市川さんを助けるためには少しでも他の人の助けが必要だ。こんなところで躊躇してられない。


「マジかよ!? え、いつ!? いつの間に!? 俺に黙って!!! このやろう!!!」

「え、ちょ!? ナカ!?」


 ナカは俺の返事を聞くと急にキレだした。挙げ句の果てには俺にヘッドロックをかましてくる。

 さっきまでの感動的な語りは!?


「おらおらおらぁ!! どこのどいつだ、言ってみろ!!! まさか本当にできてるとは思わねぇじゃねぇか!!」

「思ってなかったのかよ!? ちょ、くるし……っ」


 そろそろ限界が来たのでナカにタップすると、ナカは息を荒げながら俺を解放した。


「ごほっごほっ!! 落ち着けって……」

「はん。親友の俺様に黙っていた罰だな。さぁ、馴れ初めを話してもらおうか」


 さっき許すって言ってたのはどうした!?


「そ、その前に訂正しておくけど」

「訂正?」

「ああ、彼女ができていたのは本当だけど、実は……振られた」

「……………………どんまい」


 ナカはしばらく無言を貫いた後、俺の方を優しく叩いた。


「なるほどな。もう手遅れだったか。それで悩んでたってわけな」

「そういうこと」

「ふっ、男ならウジウジしてないで次いけ次!! 女など星の数ほどいる!!」


 これがナカなりの慰め方なんだろう。優しく諭したかと思えば、急にキレて……今度は慰めてきた。情緒どうなってんだか。


「俺がウジウジしてることは否定しないけど、それが単に振られただけじゃねぇんだ」


 まだ確定というわけではないが。


「どういうことだ? 未練がましい男は嫌われるぞ」

「話聞けって。まるで俺が現実逃避してるみたいに言うなって」

「説明求ム」

「ああ」


 俺はナカに振られた経緯と今市川さんがどういう目に遭っているかを話した。


「なるほどなぁ〜そういうことか。確かにそれはお前のことが嫌いになったってわけじゃなさそうだな。普通に考えれば、洋太を巻き込まないためか」

「……ああ」

「なんつーできた彼女だ!! 羨ましい!!! それで? その彼女って誰なんだ?」


 ああ、そういえばまだ言ってなかったか。


「市川さん」

「……………ん? 誰だって?」

「だから。市川さん。市川蒼!!」

「…………」

「…………?」

「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!?」


 ナカはまた絶叫した。



 ──────────


 みなさんお久しぶりです。

 年末はいかがお過ごしでしょうか。更新が遅くなって申し訳ございません。


 久しぶりすぎてちょっとキャラとか変わってたらすみません。見直したり、思い出しながら書きました。


 言い訳になりますが、実は、ここのところかなり忙しく書けておりませんでした。

 また、今現在行われているカクコンにも参加しようと思い、そちらの作品を合間を縫って書いておりましたので、このように更新が遅くなってしまいました。


 また、こちらの作品は必ず、完結させようと思っておりますのでそこはご安心ください。


 それでもまずはカクコンを書き切れるように新作の方に注力しますので申し訳ございませんが、こちらの作品の更新はまたしばらくお待ちさせてしまうかもしれません。ご了承ください。


 ちなみに新作は下記となります。


https://kakuyomu.jp/works/16817139558660048790/episodes/16817330647743303738


 本日公開しておりますのでそちらも見ていただき、評価いただけますと嬉しいです。

 この作品で色々学んだことを元に書いているつもりなのでお楽しみいただけるかと思います。

 主人公は、どんどん活躍させますし、クズキャラはあんまり出ません笑


 よろしくお願いします。

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