真相
秋色
真相
――午後十時半。カクテルバー『グレープフルーツムーン』で
「それ、カシスオレンジ? カワイイの、頼むんだ」
「からかってんのかよ。こういうのがいいんだよ。下にいく程、色が濃くなってさ」
「そう言えば何か不思議な色合いのカクテルだよな」
「だろ?」
「うん。でも地元の友人ってやっぱりいいな。ここは変わらない。こうしてたまに同窓会に参加する度いつも思うよ」
「だからこうして二次会のカクテルバーにも寄ったのか? 俺は正直、迷ったよ。地元にずっといるからさ。大半は珍しくもないメンバーの同窓会なんて。でもさ、ユウ、同窓会の余韻に浸ってる割にえらく端っこに座ってるな」
「端っこでみんなを見てるのがいいんだよ」
「何だか上から目線。ウソ。冗談だよ。さすが都会に住んてるだけあって洗練されてるよな、ユウは。テレビ局に勤めてるって聞いてたけど? SSOって」
「まぁーね。やっと下積みを抜け出した位だよ」
「すげーよ。いいなぁ。雲の上みたいな職場だな。あの局、いい番組、作るじゃん」
「え? SSOファン? んなわけないよなぁ? 関東の局だし。こっちじゃ番組、放送されてないだろ」
「いやいや色々あるよ。『食いしん坊日記』とか『宵待ち散歩』とか」
「あ〜。あれらは全国区だねぇ」
「なんたって俺的には子どもの頃見た『プリズム☆ファイター』が最高だったな。小六の時、見てた」
「え? 見てたの? あれ、こっちで放送してたっけ?」
「してたよ。日曜日の六時半」
「あれ、こっちじゃ国民的アニメの裏番だったんだ。笑える」
「何で? 張り合えるくらい名作だけど? 俺ん中じゃ」
「あれが? まさか。特撮ヒーロー物の中では記録出すくらい低視聴率だったって業界じゃ有名なんだけど?」
「え? 信じられん。名作なのに」
「アツヒロってさ、秀才だけど本当分からないとこあったよな、昔っから。小六で特撮ヒーロー物を見てたってのも驚きだし。確かにコアなファンの多い伝説の番組だったという話だけどな。一体どういうところが良かったんだ?」
「あの主人公の迅が同世代くらいで共感できた」
「んー、あれまだ俳優が十代だったんだよな」
「うん。プリズムを太陽にかざして『プリズム、プリズム』って呪文を唱えるのが好きだった。あの俳優さん、どうしてるのかな?」
「内海雅春だろ? 舞台中心にやってるよ。自分で企画した朗読劇とか海外文学の芝居で結構認められてる。映画にも出てるぞ」
「だから見ないんだ、テレビで」
「ああ。それにプリズム☆ファイターの後、一時期、引退してたんだよ」
「まじで? それが復帰したんだ」
「うん。ほら、ウィキ、見てみ。二十代後半から地方の劇団に入って、三十才で名のある映画監督から声がかかったって。あ、有名な舞台演出家から声がかかったのもこの頃だって。それにおい、見ろよ」
「何?」
「映画監督から声がかかったのは、その監督がプリズム☆ファイター当時の彼の演技を認めてたからだって」
「ウッソ、本当?」
「で、おまえはさ、何であの番組がそんなに好きだったの? 主人公以外に。人気のある特撮モノ、他にいっぱいあったろ? 再放送でも」
「何ていうか、悪役も良かったんだよ。特にレインレイン。酸性雨が原因で生まれた怪獣とか。周りを吹雪で覆う孤独な怪獣のブリザードとか。悪役の背景が悲しいんだ」
「そういや、史上初の社会派特撮ヒーロー物とも言われてたらしいな」
「あ〜、ビデオに録っときゃよかったな。それにさ、相手によってプリズム☆ファイターは、闘い方を変えるんだ。手加減したり」
「おいおい」
「あれ、気が付いてたの、俺だけじゃないはず。ブリザードは、ずっと昔に遭難した登山者で、恋人に会いたくて麓まで降りてきたんだ。だからブリザード自体が怪獣化してる事に苦しんでて、プリズム☆ファイターに頼むんだ。自分を倒してほしいって。あの時はプリズム☆ファイターは急所を外したなぁ。他にもあるんだ」
「他にもって?」
「プリズム☆ファイターの八百長疑惑」
「何だ、それ。見方が小学生どころか、もはや素人じゃないんだけど」
「実際そうなんだよ。でも悲しい相手以外は本気で、しかも闘い方が相手によって違ったんだ。極め技も鮮やかでさ」
「それはな、本当はSSO局のトップシークレットの一部なんだよ」
「え? 何がトップシークレットって?」
「おまえ、プリズム☆ファイターの最終回って見た憶えがあるか?」
「それがないんだよ。これだけ熱心に見てたんだけど、ある日普通の回で突然放送終了だった」
「そうだろ? あれは番組自体が放送中止になったんだ。プロデューサーと監督もギクシャクしてきて、それにスポンサー側もクレームを付けてきた。おまけに俳優も自分で内容変えてたり」
「何だ、それ。メチャクチャじゃん!」
「だろ? しかもこれはウィキには出てないから! 本当トップシークレットなんだよ」
「スポンサーが何にクレーム付けた?」
「まずアツヒロが言ってたようにプリズム☆ファイターが敵によっては、めちゃ弱かった事。これ、口にするの本当はタブーとされてる。でもヒーローが弱いんじゃ関連商品が売れないからさ。しかも公害関連の怪獣には特に甘い。スポンサーの中には洗剤のメーカーとかもあったから、それが不味かった」
「でも、それが自分には魅力だったんだけどな。制作サイドはそういう風に作ってたんだよね、きっと。プロデューサーと監督がギクシャクしたのもそれが原因?」
「ああ。プロデューサーは元々、新時代のかっけーヒーローを目指してた。でも脚本家や監督に割と任せてた。そうしたら脚本家は親族に公害被害があったりして、すっかり社会派特撮ヒーローものになってしまったんだ」
「は、はあ」
「それで監督でそこを調整出来ればよかったんだけど、そこでアクション俳優のブンさんが関わってくるんだ」
「ブ、ブンさん?」
「ん。ブンさんは、プリズム☆ファイターの中に入ってたスーツアクターだよ。着ぐるみに入ってた人。でもそんじょそこらの人じゃない。単身、外国に行って本格的にカンフーの修行をしたたけあって、あらゆるカンフーの技を習得してた。詠春拳とか普通、日本人は習得しないようなのを。香港の映画撮影所でかなり脇役もやってたり」
「なんと!」
「しかも芝居について独学してたから、脚本に依らず、相手の怪獣の状況によって闘い方を変える。おまえの言う通りだったんだよ」
「へえ。じゃーさ、ブンさんがプリズム☆ファイターの生命線だったわけだな。怪獣化してる事に苦しんでる相手に、プリズム☆ファイターは急所を外し、逃がそうとしたの、衝撃だったんだ、子どもの時」
「うん。アクションシーン始まると脚本からかなり離れてたって。こうやって話してると、やっぱあの番組、名作だったんだな。俺もウワサばっかだからな。あの番組、見ときゃ良かったよ」
「見とくべきだったよ。でもそんなんで放送中止になるんだな。ま、脚本通りじゃないから仕方ないか」
「いや、それでも続けようとしたんだけど、主演俳優の迅役の内海雅春がウツっぽくなって降板したいって言ったんだ」
「そんなに撮影が辛かったんだな」
「いや、撮影自体は楽しんでたんだけど」
「じゃ、何が原因だったんだろ?」
「家で飼ってた犬が亡くなったんだよ。シェパードで小さい頃から飼ってた愛犬らしい。それで心が壊れてさ」
「ふうん……」
「それ、もう濃いオレンジ色だけになったな。カシスオレンジ」
「ああ」
「あのさ、おまえの好きだったヒーローものの内情、話し過ぎてしまったな」
「どうしてそんな事を?」
「いや、失望したんじゃないかなって」
「全然。なんかさぁ、ますます好きになったよ。人間らしくてさ」
「え? マジで?」
「うん。何かやっぱり俺のヒーローなんだって確信したよ。ありがとな。有意義だったよ、今夜は参加して良かった」
〈Fin〉
真相 秋色 @autumn-hue
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます