私のヒーローは・・・あのキャラ

北浦十五

須羽ミツ夫くん



幼い頃の私のヒーローは須羽ミツ夫くん、でした。




こう書いても判らない人は多いと思います。



藤子・F・不二雄氏のパーマンのパーマン1号と言えばお判りになるかも知れません。



保育園に通っていた頃に夕方の再放送を良く観ていました。



同じ時間帯にドラえもんも放送していましたが、何故か私はパーマンに夢中でした。


私はよく憶えていないのですが、母によれば風呂敷を首に巻いて「パワッチ!」と言って近所を走り回っていたそうです。


再放送は私が小学校の低学年まで放送されていました。


普通の小学生と言うよりも学校の成績もあまり良くないし運動も苦手と言うあまりパッとしないミツ夫くんがパーマンセットを身につけて正義のヒーローになる、と言う設定に当時の私はワクワクしました。


パーマン3号である星野スミレちゃんもとても可愛くて愛らしく、私は子供心にもミツ夫くんとスミレちゃんの関係にドキドキしていました。


しかし、再放送は終わってしまいました。


ミツ夫くんとスミレちゃんの関係もどうなったのか、当時の私には良く判りませんでした。


しかし、パーマン1号の須羽ミツ夫くんはずっと私のヒーローでした。





それは私が小学校5年生の時でした。



伯母の家に遊びに行って「私はパーマンが好き」と言っていたら伯母が自室から2冊のマンガの単行本を持って来て「あなたにあげる」と言ってくれました。


それはパーマンの単行本でした。


私が「貰ってもいいの?」と尋ねると伯母は「良いのよ。私もパーマンは大好きだから」と優しく微笑んでくれました。


私は「ありがとう」とお礼を言って、自分の家に帰ってからパーマンを読みふけりました。


その内容はアニメよりもずっと内容の濃いものでした。


私は次の点に深い感銘を受けました。



ミツ夫くんは自分の意志でパーマンをやっているのだ



と言う事に。


のび太は困った事になるとドラえもんに泣きついて色々な未来の道具で助けて貰います。


私はこれを否定している訳ではありません。


子供には子供なりの苦労や悩みはあります。


未来の道具にも色々な種類がありそれは子供の好奇心をくすぐるものであり、困ったときに助けてくれるドラえもんの存在は子供達の夢を育てる傑作であると思います。


ただ、私はミツ夫くんが自分で決めてパーマンをやっている事に感銘を受けたのです。


それは単行本の中でも異色作と言える「パーマンはつらいよ」で如実に表現されています。


パーマンは正義のヒーローですから一般の人達はパーマンを褒めたたえます。


しかし、ミツ夫くんは自分がパーマンである事を知られてはいけません。


皆はパーマンを称賛しますがミツ夫くんを褒めてくれる人は誰もいません。


ミツ夫くんは自分の心情を吐露します。



「僕は一生懸命やってるんだ。みんなの、みんなのために。それなのに、みんな僕のことを悪く言う!」



実際にミツ夫くんはパーマンの仕事が犯罪の起きる夜中が多い為に学校で居眠りをしたり宿題をやって来なかったりで先生に怒られてばかりいます。クラスメイト達はそんなミツ夫くんの事を笑っています。


そして、ついにそんな不満が爆発します。バードマンに「パーマンを辞める」と告げたのです。するとバードマンは、次のパーマンが見つかるまでパーマンセットを預かってくれと言います。ミツ夫くんは渋々それを承諾します。


やがて台風による水害が発生します。バッジが鳴りますがミツ夫くんはそれを無視します。様子を見に来たパーマン仲間に「僕はパーマンを辞めたんだ」と言って押し入れに隠れてしまいます。パーマン仲間達は仕方なく「自分達だけでやろう」と言って去って行きます。


残されたミツ夫くんは布団に潜り込んで寝ようとしますが水害で困っている人達の事を考えると眠る事が出来ません。


起き上がったミツ夫くんはパーマンになって家を飛び出します。


そこにはバードマンがいました。バードマンはミツ夫くんに問いかけます。


「出かけるの? 何の得にもならず人に褒められもしないのに何故、行くんだい?」


ミツ夫くんは答えます。


「わからない・・・。でも行かずにはいられないんです。訳は後で考えるよ、急がなきゃ」


そう言ってミツ夫くんは水害救助の為に仲間達のところへ飛んで行きます。



これを読んだ小学5年生の私の目からは涙が溢れて来ました。



ですから私にとってのミツ夫くんはマンガ版のミツ夫くんになります。




ミツ夫くんは今でも私だけのヒーローなのです。







おしまい


藤子・F・不二雄氏に敬意を込めて



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