私の少尉さん

ムネミツ

第1話 私の少尉さん

  お墓参りに行く度に思い出す、最後は私だけのヒーローだったひいお祖父ちゃんの事を。

 「あさひ、女の子でも武道は修めておきなさい」

 細マッチョで白髪の角刈りの、眼鏡をかけたひいお祖父ちゃんが私に語る。

 この時もそれなりの年だったが、背筋も曲がらずボケもせず健康的だった。

 伊達に陸軍少尉だったわけじゃないっって言ってたっけ。

 「何で、ひいお祖父ちゃん?」

 幼い私は、ひいお祖父ちゃんに尋ねてみた。

 「それはね、自分や友達や家族を悪い奴らから守れるようになるためだよ♪」

 「それって、テレビのマモルンジャーとかみたいな?」

 「そうだねえ、テレビのヒーローみたいにまで慣れるならそれに越した事はない」

 私はヒーローの出て来るテレビを見ていて、ひいお祖父ちゃんも一緒に見ていた。

 時々、こんな武器があれば仲間達も日本も守れたんだがなあとか言いながら。

 この頃の私は、ひいお祖父ちゃんの言葉の意味なんて考えてなかった。

 そして、ひいお祖父ちゃんに紹介してもらった空手の道場に通う事になる。


 空手を始めた小学一年生の頃から、ひいお祖父ちゃんはずっと私の稽古の送り迎えをしてくれたり家に帰ってからは稽古のおさらいで私を鍛えてくれていた。

 「旭、強くなったね♪」

 「うん、大会でも勝てるようになってきたもん♪」

 「ああ、そして強くなって来たからこそ強くなった力の使い方には気を付けないといけないよ?」

 私が小学六年生の終わり、春から中学生になると言う頃にひいお祖父ちゃんはボケもせずはっきりした口調で私を諭した。

 「大丈夫だよ、もうそこらの奴なら負けないから♪」

 私がそう言うとひいお祖父ちゃんは真面目な顔で語った。

 「その気持ちが落とし穴だよ旭、おじいちゃんの部隊もそうだったんだ」

 ひいお祖父ちゃんは、若い時に行ったという戦争の時の事を語り出す。

 「南方に行って敵の部隊をやっつけられるようになって来たから、勝てるようになって来たからこそおじいちゃんの上司は南方で間違えたんだ」

 「その人は、何を間違えたの?」

 私はひいお祖父ちゃんに尋ねた。

 「最悪の間違いだよ、弾も食料もなくなって来て部隊の中で病気も出てきた中でねひいお祖父ちゃんが病気で倒れてた間に部下に敵の陣地を攻めさせたんだ」

 驚きの内容だった、何でそんな無茶をさせたんだろうと私は思った。

 「それで、部隊やその上司はどうなったの?」

 「上司はわからない、見捨てられてしまったからな部下達は全滅でひいお祖父ちゃんは病気が治まってさまよってた所でを現地の人達に助けられて帰れたんだ」

 ひいお祖父ちゃんは、悔やんだ表情で答えた。

 「だからね、お前にはそう言う調子に乗った無茶はして欲しくないし毎日無事に家に帰って来てもらいたいんだ♪」

 ひいお祖父ちゃんは最後に優しい笑顔で答えてくれた。

 

 中二の夏休み、塾の帰りにひいお祖父ちゃんが私を迎えに塾の前まで来てくれた。

 「もう、ひいお祖父ちゃんも年なんだから無理しないでよね♪」

 「陸軍少尉を馬鹿にするんじゃない、私はそこらの年寄とは違うんだ」

 夜の街を二人で家まで歩く、確かにもう高齢なのにボケずに元気に動き回れるのは超人的だと思った。

 「ひいお祖父ちゃん、お腹減ったからコンビニ寄って行こう♪」

 「旭、健康的な暮らしの為にも食事は時間を守って食べなさい」

 ひいお祖父ちゃんのお説教を無視して、私がコンビニに入ろうとした時に出て来たのが刃物を持ったコンビニ強盗だった。

 「旭、危ない!」

 ひいお祖父ちゃんが私を突き飛ばして、私に変わって強盗の前に割り込む。

 「何だこのジジイ、ざけんな!」

 「ふざけているのは貴様だ、恥を知れ!」

 ひいお祖父ちゃんは強盗の足を踏み、強盗の顎に向けて掌底を打ち上げた。

 そして、刃物を落とした所で強盗に背負い投げをして取り押さえてしまった。

 「旭、お前は先に帰りなさい!」

 「わ、わかった!」

 私が先に家に帰ると、警察から家に電話がありひいお祖父ちゃんが表彰される事を聞いた。

 後日、警察署で警察の偉い人から賞状を手渡されたひいお祖父ちゃんを見た時に

ひいお祖父ちゃんは私だけのヒーローとなった。

 

 そんな出来事があってから一週間ほど経た朝、ひいお祖父ちゃんは安らかに永眠した。

 「お疲れ様、私の少尉さん」

 ひいお祖父ちゃんとのお別れの日、葬儀場で私は棺の中で眠るひいお祖父ちゃんに語りかけた。

 二度と動く事の内ひいお祖父ちゃんを見てこの人は、私を守る為に全力を出しきってくれたんだと感じた。

 

 そして現在、高校二年になり進路に迷う私はお墓の前で祈りながらひいお祖父ちゃんとの事を思い出していた。

 ずいぶん長くお参りしてたわねとお母さんに言われたが、私は適当に流した。

 「ひいお祖父ちゃん、私悩んでた高校出た後の進路決めたらから♪」

 お墓参りの帰り際に振り返って呟く。

 ひいお祖父ちゃんのように誰かを守れるようになろう、そう思った私は今の日本でひいお祖父ちゃんのようになるにはと調べて見た。

 その結果、警察ではなく自衛隊を選び第一志望に防衛大学への進学を考えたのだった。

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私の少尉さん ムネミツ @yukinosita

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