機動大刑吏ガラド
轆轤百足
その名は機動大刑吏
ここは美しい緑が拡がる樹海であった。
彼は、そこに佇んでいる。
体高32メートル。
重量54トン。
シンシュウと呼ばれし島国で開発されし、戦国の世で用いられていた甲冑を模したらしい自律思考型二足歩行機動兵器である。
これと言って特殊な兵装は備わっておらず、大出力動力源による凄まじい馬力、超合金による極めて堅牢な装甲を最大の武器としている。
さらに搭載された高出力電磁波発生装置により、あらゆる電子機器を麻痺させ、ローレンツ力で敵弾をはじく強力な
「
その名をつけたのは、彼を設計した博士であった。
ガラドは、この世に静寂なる秩序と安息をもたらさんがために作れたのだ。
『この世界で、もっとも偉大な意思に服従し、悪しき者を選別してこれを殲滅する』
そうガラドにはプログラムされている。
言うなれば、偉大なる意思の指示だけに従い、世を乱す悪を探して根絶やしにすることだ。
彼は悪を裁く巨大な執行人なのだ。
……やや物騒かもしれないが、それでも彼は私にとってのヒーローだ。
実際ガラドのおかげで、安定した秩序に至ろうとしている。
「ゴオォー!」
ガラドの目が発光して雷鳴のような雄叫びをあげた。
偉大なる意思による指示によって、彼は発進したのだ。
やはり彼はヒーローだ。
悪しき者達を圧倒的な戦力で蹂躙してゆく。
悪が作りし建造物を鉄拳で粉砕し、戦車を蹴り飛ばし、怪力で大岩を投げ、電磁波で航空機の機能を停止させる。
なんとも清々しい光景だ。
ガラドによって殲滅されし者達、そんな彼等は総称して『人類』と呼ばれている。
そう、機動大刑吏ガラドを開発した者達だ。
彼等は今のところ、この世でもっとも悪しき者なのだ。
文明と科学の発展による環境破壊、同族同士殺しあい、果てには原水爆実験。
だからこそ、私はガラドに命令しているのだ。
そんな人類を滅ぼせと。
……そうガラドを指揮しているのは、私なのだ。
どうやら彼は、この私を世界で最も偉大なる存在と認識したらしいのだ。
そんな私を人類はこう呼んでいた……『
……私は今まで何もできなかった、物を言うこともできず、自然が破壊されゆく様を傍観することしかできなかった。
しかし今は違う、ガラドと言う最大のヒーローがいるのだから。
人類と言う悪しき存在が滅されれば、世も静寂の安寧に包まれるだろう。
人類文明が滅びて数十年。
やはり、この世は穏やかな安泰へと至った。
緑も水も生き生きしている。
そして、この世界を作ることに貢献してくれたガラドは休眠に入った。
また人類のような知性体が出現するかもしれない、それに備えてエネルギーを蓄えているのだ。
それにしても、人類は何のために生まれたのだろう。
環境を破壊し、同族で殺し合い、発展して崩壊する。
そんなことのために存在したのだろうか?
……いや、違う。ガラドだ!
彼を開発するために人類が存在したのだ。
私、つまり惑星に自衛能力を提供するために人類文明は発展したのだ。
人類が発達させてきた文明は、この世に守護者を生み出すためのものだったのだ。
それが人類の存在意義であり役割だったのだ。
機動大刑吏ガラド 轆轤百足 @douti
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