トリと一緒にお宝探し

にゃべ♪

無人島でお宝探し

 私は相良水穂。どこにでもいる普通の中学2年生。ある日、帰宅したら丸っこいぬいぐるみの鳥のようなトリって言う謎の生き物が現れた。トリは「一緒に宝探しをするホ」とか言って、無理やり私を自分の目的に突き合わせる。

 おかげで平和だった私の日常はどっか行っちゃった。これからどうなっちゃうの?


 今、私達は無人島にいる。経緯はいつものように鶴の一声、いやトリの一言だ。


「今度のお宝はサクッと見つかるから、すぐに戻って来られるホ」


 あの言葉をあっさり信じた私が馬鹿だった。転移した場所が無人島だった時には軽く後悔したけど、島は小さく、これならお宝もすぐに見つかるだろうと前向きに捉えたのが間違いだったのだ。


「ないじゃん」

「あるぇホ?」


 島が小さいので捜索範囲も狭く、その分早く探し終わると言うトリの言葉は真実だった。けど、探したら見つかると言う保証はどこにもなかったのだ。

 ここは無人島、情報を持っている人がいる訳でもない。全ては自力で探さなければいけない。歩きまわって見つからないと言う事は、土を掘れと? スコップ系の道具は何ひとつ持ってきてないんですけど?


「ないみたいだし、帰る」

「お宝を見つけないと帰れないホ」

「はぁ?」


 またトリが変な事を言い出した。ここは無人島。トイレはどこでもしていいかもだけど、ご飯は自分で調達しないといけない。もし日が暮れても見つからないとなると、寝るところも用意しないといけない。トリはそこらへんの木に止まって休めばいいだろうけど、私は布団がないと眠れない。て言うか布団で眠りたい。


「どうしたホ?」

「私、サバイバル無理だから!」

「だから早く探し出すホ! きっとまだ探せていない場所があるはずホ!」


 トリはお宝の事しか考えていない。そこで私はストライキを決行する。何もかも投げ出してその場に座り込んだのだ。この無人島は気候条件が良く、レジャーで来たなら十分楽しめる環境だ。道具さえあれば魚を釣ったり出来るだろうし、木陰で休めば気持ちのいい風が頬をなでてくれる。

 何の準備もなく放り出されたから、こうして不満が溜まっているだけで。


 座り込んで30分もした頃、私のお腹がグウと鳴る。多分お昼ごはんの時間になったのだろう。トリも空腹になって来たらしい。大きくため息を吐き出して、私の側に寄ってきた。


「仕方ないホねー」


 彼は自分のお腹の中からノートとペンを取り出した。私はその行為に目を丸くする。


「え? そのお腹どうなってるの? 四次元ポケット?」

「ちょっとしまえるようになっているだけホ。それよりこれを使うホよ」

「何これ?」

「夢の叶うノートホー!」


 トリはそう言うと、ノートとペンを私に押し付ける。このノートに自分の願望を込めてキャラを描くと、それが具現化すると言うものらしい。他の機能もあるのかも知れないけど、トリがそれ以上言わなかったから分からない。


「こんなのがあるなら自分で描けばいいじゃん」

「残念ながら、ボクが描いても具現化はしてくれないんだホ」

「じゃあ、私だけのヒーローを描けばいいのね」

「いや、サバイバルの出来るキャラを描いて欲しいんだホ。そうすればお宝探しに専念出来るホ」


 あくまでもお宝は自分達で見つけなければいけないと、トリは強く訴える。私はその考えに真っ向から反対した。


「何言ってんの! 要はお宝が見つかればいいんでしょ!」

「そのノートを使っても、お宝を探し出すキャラは作れないんだホ」

「そんなのやってみないと分からないじゃん!」


 私はトリに対する対抗心で、絶対にお宝を探し出すって設定のヒーローを描いた。冒険家キャラにしても良かったんだけど、ヒーローの方が不可能を可能にするっぽい感じがしたんだよね。


「出来た!」


 私の願望をたっぷり詰め込んだヒーローは、すぐに等身大のマッチョマンで具現化する。これなら敵が出て来ても安心だ。まぁ技とかは特に設定してないけど。

 彼は――名前は仮にトレジャーマンとしておくか――生み出された瞬間に私に対して深く頭を下げる。


「レディ、私にお任せを」

「じゃあ、なる早でお宝をよろしく!」


 私の命を受けたトレジャーマンは、マントをなびかせて空高く飛んでいった。あの様子だと、すぐに良い知らせも届きそうだ。私が創った子だ、きっと期待に答えてくれるだろう。

 私は木陰で寝転がると、のんびり果報を待つ事にする。


「後は待つだけ~」

「上手く行くはずないホ……」


 あの子を見てもまだトリは信用していないようだ。どちらが正しいか、時間が答えを出してくれるだろう。そして、この賭けは私の勝ちとなる。

 私が昼寝しようとまぶたを閉じたその時には、もうトレジャーマンが戻ってきていたからだ。


「見つけてきました」

「お~よくやった!」

「そんなバナナホ!」

「ほ~ら見つけてきたじゃん! 流石私だけのヒーロー!」


 彼が探し出してくれたのは、ポイントカードくらいの大きさの不思議な模様が記されたカード。何て言うか古代文明のお宝っぽい。これで島から出られると、私はウキウキでカードを受け取った。

 しかし、その淡い期待はカードを触った瞬間に打ち砕かれてしまう。


 なんと、触った途端にカードから巨大なサメが出現したのだ。しかも普通のサメなら水の中以外で活動出来ないのに、そいつはフワフワと空に浮かんでいる。


「あのはカードはサメを封印していたやつだったんだホ! お宝じゃないホー!」


 今頃になってトリは叫ぶけど、もう遅いよ。このサメがヤバいのは見たら分かるもん。大きさだけでもドキュメンタリーとかで見るホオジロザメくらいあるそいつは、一旦空高く飛び上がった後に私達に向かって突っ込んできた。


「シャーク!」

「キャー!」

「レディに手出しはさせーん!」


 このピンチに、トレジャーマンが私の前に立つ。やっぱりヒーローって設定にして良かったよ。このままサメをやっつけて!

 けれど、大きな口を開けたサメは彼にがぶりと噛み付くと、そのまま海の彼方に放り投げてしまった。


「トレジャーマァーンッ!」

「シャアアーーク!」


 海に沈んだ彼に向かってサメはまた突っ込んでいく。あの様子だとトレジャーマンは犠牲になってしまうだろう。彼を倒したサメは私達をまた襲ってくる。そんな予感を感じた私は、すぐに対抗策を打ち出した。


「トリ、トリ砲だよ! あれなら……」

「アレは疲れるからイヤホー!」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょーっ!」


 水の都で偶然編み出したトリのくちばしから出すビームのトリ砲。アレが当たればサメだって倒せるはず。けれど、肝心のトリが嫌がって私に体を触らせようとしなかった。

 追いかけっ子をしている内に海上からサメが飛び出す。トレジャーマン、1分も持たなかったよ……。


「シャアーク!」

「じゃあ、光魔法!」


 とっさに撃ち込んだ光魔法は、サメに直撃してその動きを止める。どうやら効果はあるらしい。私はすぐに追加で魔法を何度も撃ち込んだ。


「これで何とかなってーッ!」

「シャアアアークッ!」


 何度も撃って耐性が出来てしまったのか、サメは光魔法を弾いてしまった。でも私にはまだ手が残っている。すぐに左手をサメに向かってかざした。


「ならば闇っ!」

「シャークゥー……」


 闇魔法を撃ち込むと、サメは闇に飲まれて消えていく。その様子を目にしたトリは、あの禁句を口にした。


「やったかホ?!」

「ちょ、それ言っちゃダメなやつ!」


 私の懸念通り、突然別の空間に闇が出現したかと思うと、そこからサメが復活して襲ってきた。超高速で向かってきたので、対処が間に合わない。


「キャアーッ!」


 私は死を覚悟したものの、けれど何も起こらなかった。ゆっくりまぶたを開けると、そこには傷だらけでビショビショのトレジャーマン。彼が私を守ってくれていたのだ。

 これには流石のサメも驚いたのか、そのつぶらな瞳をパチクリさせていた。


「シャーク……?」

「もう油断はしない! ものすごいビィィム!」


 デザインで設定していた額のクリスタルからビームが発射され、それを至近距離で浴びたサメは跡形もなく消滅。こうして危機は去ったのだった。

 完全に安全になったのを確認した私は、命の恩人のヒーローに思いっきり抱きついた。


「やったぁ! すごいよトレジャーマン! 有難う」

「残念ですが、お別れです……」

「え?」


 トレジャーマンはすうっと姿を消していく。私が事実を受け入れられずに呆然としていると、トリがこうなってしまった理由を口にした。


「ノートで具現化したキャラが限界以上の力を出したんだホ。消えるのも当然ホ」

「そんな……」

「でも普通はあんなパワーは出せないはずなんだホ」

「さよなら、トレジャーマン……」


 私が自分の生み出したヒーローの死を悲しんでいると、フッと景色が変わる。どうやら自室に戻ってきたようだ。

 見慣れた景色が飛び込んできて、私はキョロキョロと顔を左右に振る。


「あれ? 確かお宝を見つけるまで帰って来られないんじゃ?」

「うーん、謎だホ……」

「誤魔化すなあー!」

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