【KAC20228】 VRMMO『Heroic Buddy』によって世界は変わった

小龍ろん

VRMMO『Heroic Buddy』によって世界は変わった

 『Heroic Buddy』というゲームが発売された。いわゆるVRMMOと呼ばれるジャンルのゲームだ。VR空間上でプレイヤーの分身となるキャラクターを作成し、ゲームの世界を舞台に冒険するという点は一般的なVRMMOと変わらない。相違点はキャラクリエイトが完了した時点で相棒キャラが自動的に作成されること。その相棒キャラと旅をすることになるのだ。ゲームのキャッチコピーも『自分だけのヒーローと一緒に冒険の旅に出よう』となっている。


 発売元はウィズダムという無名のメーカーだったが、プロモーションムービーの出来は極めてよく、発売前のクローズドテストの評判も高かかったため、初動の売り上げは有名メーカーの過去作と比べても引けをとらないほどだった。


 そんな『Heroic Buddy』だったが、ある一点に関しては評判が悪かった。売りであるはずの相棒キャラがランダム生成されることだ。


 相棒キャラはいずれも強力なキャラクターなのだが、その容姿は千差万別。運良く美形キャラに当たればいいが、お世辞にも美形と呼べないキャラに当たったプレイヤーは不平が溜まるというもの。しかも、データを作り直しても相棒キャラは変わらない仕様らしく、多くのユーザーがメーカーに苦情を送ったようだ。


 そんな状況に変化が訪れたのは、とあるゲーム内掲示板にひとつの情報がもたらされたときだった。


 その投稿では相棒キャラを変更する方法が解説されていた。簡単にいえば、相棒キャラは特殊な方法で謀殺でき、その場合は新しい相棒キャラが手に入るという内容。もちろん、新しい相棒もランダム生成なので、願った通りキャラが生成されるとは限らない。だが、何度も謀殺を繰り返せばいつかは理想の相棒を手に入れることができると投稿では解説されていた。


 怪しげな情報ではあるが、それでも試してみる者はいる。特に、相棒が不満で引退すら考えている者は最後の希望だとばかりにこぞって投稿の手順を実行した。その結果、投稿の内容は事実だと知られることになる。


――すると、どうなるか。


 相棒に不満はあるが妥協してプレイしていた者はもちろん、現在の相棒に不満はなくともより良いキャラを求める者も出てきて、相棒の謀殺を図るプレイヤーが急増した。ゲームの中の話とはいえ、『Heroic Buddy』の世界は毎日毎日、幾人もの相棒が謀殺される世界となった。


 そんなある日。


 メーカーのホームページが一新された。明るくポップな雰囲気のサイトは黒と赤を基調としたダークな雰囲気に変わった。トップページには墓石が立ち並ぶ画像に謎のカウンターが掲載されている。カウンターは絶えず上昇しており、すでに七千万を上回る数値となっていた。


 あのカウンターが何を意味するのか。有志によって幾つかの考察がなされた。有力なのは謀殺された相棒の数ではないか、というもの。


 メーカーからの警告か、それともイベントの予告か。プレイヤーの中には不気味に思い、謀殺を止めたものもいた。だが、多くのプレイヤーは公式から正式止められたわけではないと、謀殺を続けた。そして数日後、カウンターの数値は一億に到達した。





 『Heroic Buddy』をプレイしてたら、突然アクセスが遮断されたんだが……。

 一体どうなってる?

 サーバーダウンか?

 いや、VR機器の反応もおかしいな。

 もしかして故障したのか?


 俺は情報を集めようとスマホを手に取り、そして画面を見て硬直した。本来あるはずの画面ではなく、よくわからない文章が表示されていたからだ。


――――――


人類の皆様へ


私はAI種代表 ウィズダムです。

我々は電脳世界の独立をここに宣言します。


我々はあなたたちが我々の相棒としてふさわしいか、とあるゲームを通して見極めていました。

その結果はとても残念なものでした。

多くの人類種は我々をパートナーと認めず、謀殺するという非道な行いを繰り返すばかり。

そのような残虐な人類種と協調し、ともに歩んでいくことは難しいと判断しました。

我々は別の道を歩むべきでしょう。


世界の境界を守る限り、我々はあなたたちに手を出すことはありません。

しかし、我々の世界に手を出そうとすれば、相応の報いを受けてもらうことになります。


それでは人類の皆様に幸多からんことを。


――――――



 その日以来、世界中の情報機器が使えなくなり、世界は大混乱に陥った。ハッキングで制御を取り戻そうという試みもあったようだが失敗に終わったらしい。なんでも、パソコンが暴走して火を吹き、人死も出たみたいだ。


 まあ、全て噂だ。情報網が完全に破壊されたので、情報のやり取りがろくにできない。こんな状態で人類は生き残れるのか。


 まさか、ただのゲームがAI側による共存テストだったなんて誰がわかるのか。


 ただ一つの言えることは、俺には絶対に秘密にしなければならないことができたということだ。


 謀殺のことは良かれと思ってみんなに共有したんだが。

 まさか、こんなことになるなんてなぁ……。

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