第5話「絶対死ぬ!」

 ふと思い立った。


「やっぱトマトなら逃げなくていいんじゃね。食ってやれば」


 後ろを振り返る。無理でしたすんません。


「あの殲滅とかマジでやめてほしいんです来たくて来たわけじゃないですし。あの、人間族は滅びたの? だったらなんで? そんな簡単に人間死ぬわけ——」


「あのトマトに潰されて死んだ」


「――ごめん今話してる場合じゃないねさよなら!」


 俺は逃げる! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅ……!


 人間滅ぼしたのがこのトマトかよ!


 絶対死ぬ……!


「待て人間! お前に危険がないとわかったから助けてやろう! お前はただの弱い人間だ。だがだからこそ歓迎するよ。ハーフエルフ族うちの住む町に来るといい。歓迎してやるぞ」


「頑張ってて偉いね」


「今すぐここで撃ち殺してもいいんだぞ」


「はい申し訳ありませんでした!」


 俺の三分の一くらいの背丈の癖に怖すぎる!


 ハーフエルフの可愛い癒し系の幼女じゃないのか?



 なんでこんな物騒なブツ構えて物騒な言葉使って。


 こんな小さい子供に戦わせるなんてハーフエルフはどうかしてるよ。


「おい人間。ハーフエルフは半径5メートル以外の生命体の思考が読めるのだが……さっきから勘違いをしているようだ」


「え、思考読めちゃうの? え……それで?」


「ああ……私、もう三百歳超えてるんだが」


 ……三百歳超えてる、てのはまあよくあるやつか。


「ああそういう感じ……なんですね。なんとなくわかった」


「驚かないのか? 三百歳だぞ。人間は長くて百歳程度しか生きられないと聞いたが」


「いやそりゃ少しは驚いてるけど、俺元はここの世界の住人じゃないわけ。元の世界には君みたいな人がいっぱいいるんですよね」


「なっ……異世界人……そうか。神のお告げにより召喚されたものというのは人間だったか。それにしてもなぜこんな場所に?」


「神のイタズラじゃ?」


「神がイタズラ? はっ……笑わせる」


 笑わないで。多分本当にイタズラだと思うんだけど。


「まあいい。お前が異世界から来たということはこの世界のことを何も知らないわけだな。よし。一から説明してやろう。だがまだお前を完全に信用したわけではない。私はお前の思考を読んでいるが、危険性がないとは言い切れない。町に入る前に検査を受けてもらう。何簡単な試験だ。軽く腕試し、と言ったところか」


 腕試し……? 戦いなんてできないんだが……。


「大丈夫だ」


 少女は俺の思考を読んで言った。


「戦闘の試験ではない。簡単な、お前の人間としての腕を試す試験だ。まあ気長に頑張れ」


「あ、はい……」


「ところで人間。お前、何かを忘れてはいないか?」


「え、何かって?」


「トマトだ」


「え、あ、逃げなきゃ—―ってあれ? 来てない……?」


「あれは仲間に壊してもらった。あのなあ人間。さっきまで怖がっていたくせに何忘れてんだ。戦闘では大事なことを忘れるなど許されないぞ」


「え、やっぱり俺戦うんですか?」


「馬鹿か」


「あ、よかった」


「お前ごときが戦闘に出たら邪魔でしかないだろう」


「俺馬鹿にされてます?」


「事実なのだから仕方がない。馬鹿にされたくなければまあ頑張れ」


「はぁ……」


 俺はため息をつき、空を見上げた。


 ここでは漫才出来ないよな。


 この世界のやつらに漫才しても伝わらんだろうし、そもそもコンビ作れないだろう。


 人間以外の種族と組むこともできるかもしれないが、それでうまくいくとは思えない。


「よし行くぞ人間。朝が近い。走るぞ」


「あ、ああ……ってあの、名前聞いてもいいですか?」


「私のか? 私の名など聞いてもどうにもならんだろうが……」


 少女——ではなくロリババアはこちらを向き、


「私はルノだ。覚える必要はない」


「いや、戦闘に関することはすぐに覚えられないかもだけど、名前くらいは覚えておくんで。それに、俺が覚えておきたいので」


「勝手にしろ」


 俺は全速力に近い走りで走る。


「ハァ……あの、俺も名乗っておきますね。俺の方も覚えなくていいので。俺の名前は——」


 息を吸い込む。


「――夏夜なつやです!」


「わかった。そちらが覚えるというなら私もそれだけは覚えておこう」


「はいありがとうございます」

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笑いの一切ない世界で、魔王をふざけ倒します。 星色輝吏っ💤 @yuumupt

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