第4話「トメェェイィトォォ!」

「誰だあれ……?」


 ファンタジーっぽく一目で種族が違う! ってこともない。


 普通に幼稚園保育園に通っていそうな幼女。


 そんな幼女が小さな手で狙撃銃を構えているのがはっきりと視認できた。


「おいおい、あんなロリっ娘が物騒なモン構えてなにやって—―じゃない! 死ぬっ!」


 俺は逃げる。迷路みたいになってはいるが、高い屋根の上から狙われているため、結構危ない。出来るだけ高い建物のある方へ、姿勢を低くして猛ダッシュ。


「ロリっ娘と仲良くなるイベントはないのかよ〰〰っ!」


 とりあえず今は逃げるしかない。


 逃げて、逃げて、逃げまくる……。


「つまんねぇ〰〰神様ぁ! 転生後にはなんかないんすか! 前よりもひどいっすよ! この世界荒廃してますよ!」


 ――バンッ!


「危っぶねぇ……!」


 間一髪、弾丸が俺の体のわずか30センチほど右を通り抜けた。


 やべえ!


「はい右!」


 右の路地に逃げる。


「はい左!」


 左の路地に逃げる。


「もういっちょ左!」


 左の路地に逃げる。


「まだまだ左!」


 左の路地に逃げる。


「はいさっきの場所!」


 そりゃ左ばっか行ってたら戻ってくるわ。


 というか、弾丸が飛んでくる一が毎回違う……後ろは振り返れないけど、やっぱり向こうも移動してるよな……。


「移動しながら狙撃してくる幼女って…………まあファンタジーなら見た目が年相応じゃない可能性もあるのか」


 俺はどうこの状況を切り抜けようかと思考を巡らせた。


 と、その時だった。


 ――ぎゅぴーん!


「なんだ?」


 まるで…………いや何にも例えられないような奇妙な音が響いた。


 音が鳴った方を見るとそこには――


「あれは……」


 ――巨大なトマトがあった。


「トメェェイィトォォ!」


 俺は叫んでトマトから逃げた。


 巨大――というのは、ちょっとやそっと大きくなったとかじゃない。


 もう建物超えてる。どこから来たんだ?


「やばい! でっかくなっちゃったどころじゃないぞ! ……そういえばあの幼女は?」


 幼女の姿が見当たらない。というか、今はそれどころではない。


 巨大なトマトが…………ごろごろ転がって追ってきたのだ。


「助けてぇ〰〰! トメイトに潰されるぅ〰〰!」


 なんでこんなトマトが大きいんだ。


 ケチャップにされるときの仕返しか!


 そうなんだろ! そうだっと言ってくれ!


「逃げっ――」


 ――ダッ。


 俺は立ち止まる。


 気づいたからだ。


 目の前の少女に。


 さっきの幼女ではない。やっと出会えた。


 白髪の、エルフ――いやハーフエルフとかかもしれない。


 やっとファンタジーに入り込めた。しかし彼女の目は怯えていた。


 トマトが来ているのだから当然だと思うかもしれない。でもそれが違うのだ。


 彼女ははっきりと俺の方を見て、震えていた。そして――


「なっ、なんで人間族がいる! 生き残りか! したはずなのに! 殺させない! 絶対に!」


 彼女は震えながらも叫んだ。


 そして盛大に嚙んだ。


「絶対に!!!」


 胸を張り、謎の強調をする少女。



 ……俺は巨大トマトに迫られながら、沈黙するのであった。

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