第3話「見つからない」

「誰もいねえ……」


 空飛ぶ絨毯で空を飛んでから、1時間ほど路地をさまよった。


 さすがに腹も減ってきた。


 空飛ぶ絨毯は「飛べ!」って言ったら飛んで、「降ろして!」って言ったら降ろしてくれた。


 大きい声で言わないとダメみたいだ。


 暇だし、一人で漫才してみっか。


 一人漫才――それは、漫才と呼べるのかもわからない、一人二役でやる漫才である。


 ――それをやっちゃう俺は、相当狂ってると自分でも思うよ。観客も誰もいないし。


「はいどうも~、みんなの心は俺たちの窓、どうも〝俺たちの窓〟でーす!」


 と、そんなこんなで漫才は終わり――


「はぁはぁ…………」


 ――俺はめちゃくちゃ疲れて、息を切らしていた。


 なにこれめっちゃ疲れた。


 一人二役きっつ。


 謎の漫才師魂で最後までやり切ったけど、途中からもう限界超えてた。


 なんだかもう、どうにかなっちゃえよ。


 元の世界にいたほうがマシだよ。


 ニートでもまだ何かできるよ。


 だって人いるし。


 この世界には、人ひとりもいないのか?


 俺は歩いて歩いて歩き続けて—―


「いた……」


 ――やっと人を見つけた。見つけたのだが…………



「死んでる……」


 無惨にも頭から血を流して死んでいる。


 鈍器かなんかで殴られたっぽい。


 人間がやったのか、それとも別の何かか。


 こんな迷路みたいな路地の中で、なんで人死んでるんだよ。


 もう人死んでたら駄目よ。


 死んでいるのは、中年のおばさんみたいだ。


「うげーっ、もうヤダ……」


 俺は吐きそうになりながらも歩く。


 そしてその後、空飛ぶ絨毯を取り出して、


「飛べ!」


 俺は空を飛んで上へ行こうとする。


 がんっ! 飛行には高度の限界があるようだ。


 周りの建物の上まで行くのは不可能。


 周りの建物はけっこう高いが、それでもかなりの低空飛行である。


 俺は低空飛行で飛びながら、人を探した。


 見つからない、見つからない。


 どこを通ってどこを通っていないのかなんてわからないが、ただ飛び続けた。


 そんなとき俺は、スマホに着信が入ったのを確かめようとして、スマホに意識を逸らした。


 それが迂闊だった。


 俺が気配を感じてふと前方――遠くの方を見ると、俺を狙撃銃で狙う少女の姿が見えた。

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