俺んちのいそうろうが変態好きの変態だった

星色輝吏っ💤

第1話「俺んちの居候」

 ミリは、俺の作った飯を食っている。


 白米に、豚の生姜焼きに、作った俺自身でもよくわからない盛り盛りの漬物とかを食っている。


 俺はミリのためだけに作ったので、食わない。俺はお腹が減ってない。一食ぐらい抜いても、大丈夫だろ。


 ミリはこの後、道場で今週最後の空手の練習だし、たくさん食っておいて問題ない。


 ミリというのは、俺の幼稚園の頃からの幼なじみ。小学校のころ親に捨てられたらしいから、俺の家で預かっているのだ。


 俺の両親は、二人とも仕事で遅くまで帰らない。今は俺とミリの二人きりだ。


 女子と二人きりなんてドキドキするシチュエーションだが、少なくともミリの前では何も思わない。この生活に慣れすぎているからだ。


 ………………沈黙。


 誰も言葉を発さない、静寂に包まれた空間。


 ミリは学校では陽キャ中の陽キャで、俺みたいな地味陰キャとは、天と地ほどの差がある存在だ。


 ミリは学校の中では喋ってくれない。というか、学校の中では、俺に喋りかける人なんてほとんどいない。ほとんどと言っても、何か大事な用事がある場合に限られる。俺と喋りたいヤツなんて、一人もいないのだろう。



「ごちそうさま!」



 珍しく学校の時のような大きな声でそう言って、ミリは立ち上がる。それを見て、食器を洗ってしまおうと動く俺。



「今日元気いいな」



「そ、そんなことはないけど」



 ちょっと早口だった。


 絶対何かあるな。ミリは結構分かりやすいんだ。あ……もしかして、彼氏でもできたか?


 俺がニヤニヤしながら食器を洗い始めると、ミリはこちらを向いて、


「ねえ……ツカサ」


「どした?」


 ミリが話しかけてくるなんて、なんと珍しいことか。


「私が私の部屋の私の机に置いといた私の本知らない?」


「いや知らんな。俺がお前の部屋に入ることなんてないし……」


 入ったら絶対怒るだろ、お前。掃除すらさせてくれないなんて……。まあ何か見られたくないものでもあるんだろう。


「じゃあいい」


「分かった。もしどっかで見つけたら言うよ。てかお前、本なんて読むのか?」


「そんなの……どうでもいいでしょ」


 ミリは冷たい返事を返す。決して仲が悪いとかそんなんじゃない。これが普通だろ。女ってホント難しい。


 いつまでだろう。ミリと楽しく話せたのは。恥じらいもなくワイワイ話せたあの頃に戻りたい。


「行ってきます」


「おう! 空手の帯忘れてくなよ」


「当たり前でしょ。空手家の命よ」


 俺が昔のことを思い出していると、ミリがかばんに荷物を詰め込んで出発するところだった。俺は適当に返事をして、ふう……とため息をつく。


 それからこの後のプランを練る。


「まあテレビでも見るか……」


 テスト期間ではあるが、休息も必要だ。昨日たくさん勉強したし、今日はちょっとくらい休んでもいいよな。


 ガチャッ!


 ドアが開く音が聞こえた。ミリが出ていったみたいだ。


 ミリ……フルネームでは、『線野せんのミリ』という。見た目は、ザ・スポーツ少女と捉えるかもしれないし、清楚系美少女と捉えるかもしれない。難しいラインだ。ちなみに俺は「美少女!」と捉える。


『!』がつくほど、何度見ても可愛い。


 そして俺の方が――無果汁むかじゅう――ではなく。


 ――『無果汁はてしなつかさ』である。


 ジャーッ。キュッ。食器類を洗い終え、一段落。


 …………いや。


 机を吹いて、軽く周りを掃除する。


 ふう〰〰。やっぱりここで一段落かな。


「さあテレビでも見……そうだ。さっきミリが言ってた本探してみるか……」


 2階に上がり、元空き部屋のミリの部屋をのぞくと、とてもきれいに整頓されていた。


 正に女の子の部屋、という感じ。ここに友達や彼氏なんかを呼ぶとか、そういうのは俺の家だからないと思うが、それでもこの綺麗さだ。ミリは結構几帳面なんだな。いい一面が見れた。こういうのは、家族でもないと知れないんだろうな。


 机の上を見ても……何もない。これ……引き出しとかは開けない方がいいのだろうか。


 ちょっとだけなら……いいよな。これだけ几帳面なのだから、引き出しを開けた瞬間者が飛び出すなんてことはないよな。


 恐る恐る一番上の引き出しを開ける。すると中には――


「ラブレター⁉」


 ――愛の手紙らしきものがぎっしり。さすがに飛び出すことはないにしても、かなりの量だ。


 これミリがもらったやつか? それともミリが贈るやつ? めっちゃ気になる!


 俺は迷わずそのうちの1枚を手に取る。中を見ると――


「『ずっとあなたのことが好きです。愛しています。何度も何度もキスしたいくらい愛しています。本当に本当に嘗め回して、虐めて……――』


 ……って、こいつ相当ヤバいぞ! 大丈夫なのか?


『――僕の1番の楽しみはあなたを見つめる事なんです。いつもあなたを見つめています。僕と付き合ってください。

 もしその答えがYESなら、次の土曜日に、三谷公園の南側のベンチまで来てください。待っています。愛しています。ミリさんの脇』


 ……って脇っ⁉」


 熱烈なミリの“腋”へのラブレターだった。差出人は、『大川宗助』と書かれている。きっと変態だ。


 これはミリの身(主に脇)が危ないのでは……?


 俺はほかのラブレターも見てみる。すると――


『あなたが好きです。愛しています。来週の月曜日に羽川ビル3階までこれますか?私はそこで待ってます。あなたが来てくれるのを待っています。線野ミリさんのおへそ。            ―――丸川隼人』


『愛してるよ、線野ミリちゃんの抜け毛。そこで線野ミリちゃんにお願いです。あなたには髪の毛以外には毛が全然ないと思うので抜けた髪の毛を私に恵んでくれないでしょうか。切った髪の毛ではなくて、抜けた髪の毛です。鮮度が全然違うので。恵んでくださる場合はご連絡ください。

                          ――――白木』


『I love you. I fell in love with the shape of Miri's shoulder blades. please marry me. I want to touch your shoulder blades someday.

                 ――――Owen《日本語訳:愛しています。ミリさんの肩甲骨のカタチに惚れました。結婚してください。いつかあなたの肩甲骨を触りたいです。――――オーウェン》』


『J'adore les triceps de Milli. Je veux le toucher.

                      ――――Raphaël Genet《日本語訳:ミリの上腕三頭筋が大好きです。 触りたいです。――――ラファエル・ジェネ》』


 ……等々。――全部変態からの手紙だった。


 率直な感想を述べよう。


「気持ち悪っ!」


 ミリにラブレター送る奴の中には外国人もいるってのか……? 脇に付き合ってくださいとか、肩甲骨に結婚してくださいとか、一番困るのミリじゃん!?


『脇』の大川って奴の場合、次の土曜日――つまり明日、ミリが三谷公園へ行くかもしれないってことだろ……って、いや、ないない。ミリに限っていくわけがない。……でも。


「よーし。明日、ミリがもし出かけようとしてたらどこに行くのか聞いてみよ! 怪しかったら尾行して……ってまあ、ミリが変態に構うわけないけどな。ないけどな! ハハハ…………」

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俺んちのいそうろうが変態好きの変態だった 星色輝吏っ💤 @yuumupt

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