第4話 一足りない

 神住高校の生徒の大半は運動系の部活と文化系の部活を掛持ちしている。強制的なものではなく昔からの伝統なのだとバスケ部の先輩は言っていた。


「妖子ちゃんってまだ文化系入ってないよね?」

「うん」

「いやぁ何か俺の友達が誘ってこいって言ってさ」

「美晴の部活?」

「いや、違う」

「……直接話にくればいいのに」

「妖子ちゃん気づいてない?……結構クラスの人気者なんだぞ? 綺麗に整えられた制服から浴衣や巫女服が似合いそうとか、お嬢様のような立ち振る舞いに喋り方ってみんな言ってるよ」


 ぱっつんの前髪を一つまみし、何やら視線を感じたので周りのクラスメイトを見ると何故か視線を逸らされた。


「その友達とやらに渡された台本でしょ? それに何の部活なの?」

「……妖怪研究部」

「ハア。さっきの褒め台詞から……そんな部活名が出てくるなんて思わなかったよ」

「ま、待ってよ妖子ちゃん! さっきのはほ、本心だったんだ。恥ずかしくてその……ごまかしちゃって」

「入部するわ」


 判断は早いに越したことはない。どこかの偉い人もやらない後悔よりやる後悔なんて言葉を残していたもの。きっと良い経験になるわ。そうよ。美晴の言葉が嬉しくてついつい期待に応えちゃったなんてチョロい女ではないわ、決して。

 

 昼休みになってその妖怪研究部が活動しているという部室に仕方なく向かった。


「あ、ありがとう稲荷さん。入部待ってたよ! ありがとう美晴殿……これで我が部に念願の美少女! 女の子が! 僕は部長のとおる、よろしく」

「……。で、他の部員さんは?」

「居ない! 君と僕……2人で1人の部活動ッなのだッ」

「普通に1人足りないけど?」

「え」

「部活と認められるのは最低3人なのだけれど……」

「……妖怪一足りない」

「は?」

「これは妖怪一足りないの仕業だよ! きっと!」


 自らを部長と名乗った透は奥の部屋から画用紙とペンを取り出してきて何やら軟弱そうな爪楊枝のようなか細い小人を描いて見せた。

 そして普通に下手だった。


「そんな妖怪居ないよ?」

「妖怪一足りないはふとした瞬間にまあまあ大事なものから一を抜き去ってしまうんだ~~よ!! 君との出会いが妖怪一足りないと僕を巡り合わせてくれたのだよ!」

「はぁ……」


 その後昼休み終わりのチャイムが鳴り終わるまでひたすら部長さんから妖怪一足りないとやらの伝説を長々と聞かされたのだった。教室に戻った後に美晴にそのことを話したら何故か「俺も入れば解決」と話が進んでしまった。


 

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妖子さんの妖気な日常 ミステリー兎 @myenjoy

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