第3話 外手

 大学の研究チームが運動によって得られる効果としてストレス解消と記憶力アップ、仕事効率アップ、メンタル疾患予防などが期待できる発表した。

 この発表を受けてというわけではないが私も経験上そう思う。神住高校のバスケ部に所属している私の一番のストレス解消法はフリースローだ。


 ――バシュッ


 遠くから放ったボールは綺麗なカーブを描いて小さなネットに吸い込まれていく。ネットを鳴らす爽快な音がさらに爽快さを加速させる。フリースローの全てが気持ちいい。この爽快感だけのためにバスケを始めたと言っても過言ではない。


 ――バシュッ


 それにしても今日は良く決まるな……。


 10本フリースローを打っていつもだいたい入る本数は6か7なのだが今日はもう連続8本は決まっている。


「稲荷ちゃん今日調子良いね、私はテスト期間のせいでシュートの打ち方忘れちゃったよ~」


 この人は3年生の先輩でバスケ部レギュラー、3Pポイントシューターの志歩先輩だ。バスケ部内でテスト期間のせいでシュートを忘れるというのは割とあるあるな話で私もそれを経験したことがある。


「先輩は3Pよく入る方じゃないですか。しかも試合中はほとんど落ちないじゃないですか」

「それは何か興奮して感覚で打ってる的な? 練習を体が覚えてる的な?」

「凄いですね」

「でも今日は入んないんだよ~。見てて? あっちのゴール」


 ――ガンッ


 3Pラインから押し出されたボールは惜しくもゴールのふちに弾かれてしまった。


「ん? よく見えなかったけど……アレは……」

「どーしたの稲荷ちゃん」

「いえ、もう一度見せてください」


 今度は先輩が放ったバスケットボールではなく、ゴールの方を集中して見るようにした。すると……リングサイドからにょきにょきと薄茶色の腕が伸びてソレが先輩のボールを弾いていたのだ。


外手はずして……」

「今私に外してって言わなかった????」

「あっ⁉ いやっ! 違います!! ……先輩、こっちのゴール使ってください」

「冗談冗談! ありがとね」


 危ない危ない。先輩のゴールが外れることを願う憎たらしい後輩部員になるところだった……。

 その後、放課後の練習が始まると外手が居ないゴールではシュートが決まり、居るほうはシュートが外れる状態になってしまった。もし私がダンクが出来たらソノ腕ごとゴールにぶち込んでやりたいと何度も妄想した。とりあえず、大事な試合ではこちらのゴールには現れないで欲しいとだけ願って練習終わりの体育館にお辞儀した。

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