第2話 均衡鬼
人間誰しもが直そうと思っても直せない癖というものがある。噓をつく時に目をそらしたり、考える時に腕を組んだりと人の癖は千差万別だ。
「わりぃ! 肩当たっちまった!」
「その肩のケガ、大丈夫? 佐藤くん野球部だったよね」
「今、右肩がぶつかったんだっけ? ならわりぃ倉田さん! 左肩もぶつけてもいいか?」
「はぁ!? 何ソレ、キモ!」
教室の後ろのドア付近で男女の会話が聞えてきた。佐藤くんに肩をぶつけられたのは女子のリーダー的ポジション、倉田さんだった。私から見ても今の佐藤くんの言動はキモイと言われても仕方ないだろう。
私は彼のことをこっそり美晴に聞いた。
「まじかよ! 前に言ってたあの悩みかもしれないな……」
「悩み?」
「右利きのピッチャーなんだけどこの前に右肩をケガしたんだってよ。それから左でも投げれるように練習始めたらしいんだけど、それから何事も均等にしなければ気が済まなくなったんだってよ」
「それって……?」
「右手で何かに触れたら左手でも触れないと気が済まないとか言ってたな……あと右足で踏んだ白線を左足でも踏まないといけないだとか」
「ふぅ~ん、ありがと美晴」
癖にしては重症すぎる。彼は妖怪に憑りつかれているのかもしれない。
「
階段を飛ばし飛ばしに駆け降り、部活へ向かおうとしている佐藤くんを見つけた。バットが身体の中心に来るように両手で握っていた。
そしてその後ろに――。
両手を肩の真横にぐっと拡げて十字架のようなポーズをし、頭に二本の角を生やした鬼がぴったりとくっついていた。十字架の形を崩さぬままスーッとスライドしていくように動く様はかなり奇妙であった。
「この人は違うよ……」
私は均衡鬼の右腕を勢い良く下に降ろした。すると自ら反対の左腕も下におろして十字架のポーズから気を付けの姿勢になり、だんだんと姿が見えなくなっていった。
「稲荷さん、どーしたの?」
「ううん、練習頑張ってね」
「お、おう」
次の日、学校へ行くと倉田さんの前で頭を上げて昨日のことを謝っている佐藤くんの姿があった。
癖には良い癖と悪い癖の他に誰かの癖がある。まあ、誰かというのは均衡鬼なのだが……。右で投げていたボールを左で投げる。きっと自分と同じ癖を持っているのだと均衡鬼は勘違いして悪気はなく憑りついてしまったのだろう。
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