妖子さんの妖気な日常
ミステリー兎
第1話 狭間様
夕暮れ時の校舎。オレンジ色の粒が斜めに降り注ぎ、影が少し薄気味悪く細長い形に拡がる。自分の体よりも少し大きな影に丸ごと吞まれて地面に吸い込まれてしまうのではないかと時々思ってしまう。
「妖子ちゃん、一緒に帰ろう~!」
私、
「ごめんね、古文の単語帳を教室に忘れちゃってさ、明日単語の小テストじゃん?」
「勉強熱心だね。古文苦手なの?」
「単語の意味、ややこしいんだよね。山の端と山際とか」
今日、古文の先生が「枕草子」を題材にその違いについて教えてくれた。私の勝手な解釈で間違っているかもしれないが山の端とは山の上部の空に接する境界、つまりギリギリ山。そして山際とは空の山に接する境界、つまりギリギリ空だと思っている。
境界とはそもそも何を指すのだろうか。山の端と山際のように表現がややこしくなるような紛らわしい場所を境界というのかもしれない。なんにせよ境界とは不思議な空間だ。
「あっ、靴紐ほどけちゃった。ごめん妖子ちゃん、ちょっと待ってて」
校門――。学校とそれ以外とを隔てる境界。
「
「……ん? 今、何か言った?」
校門の黒い影がもぞもぞと形を変える。顔は無く、右半身が上下逆様にくっついたような風貌をしたソレが静かに彼の横に現れた。
狭間様とは何かと何かの境界線に現れる妖怪であり、その境界を長い時間跨いでいる者を影で覆い隠してどこかへ連れ去ってしまう。
「美晴!」
まだ靴紐が解けたままの彼の手を少し強引に学校の外へと引いた。動くことも喋ることもしないソレはズブズブと墨のように地面に消えていった。
「な、何!?」
「
人間の世界と妖怪の世界。その境界にいる私はある意味、狭間様の仲間みたいなものだろうか。ただ彼を知らぬ世界へ連れて行こうなどとは思っていない。知らなくても問題のない世界だってたくさんあるし、教えてもそれは彼の人生の枷にしかならない。
「初めて会った時はミステリアスな女の子だと思ってたけど実はめちゃくちゃ優しいんだね、妖子ちゃんは」
「……っ……」
久嶋美晴は高校初めての友達に間違いはないのだが顔がタイプというのは訂正しよう。性格もかなりタイプだ――。
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