第2話

 プテラ=ウィング。それは私がプテラノドンメモリーの力を使って変身した、いわゆる変身ヒーロー系のやつだ。

 全身を紫を基調としたアーマーを纏い、プテラノドンの頭をイメージした頭部と、翼をあしらった背中のウィングが特徴だった。


「なんだ、お前。邪魔をするなら、お前も殺す!」

「殺されてたまるか。いいか、一般市民に手を出した。つまりお前は、私の殲滅対象せんめつたいしょうだ。覚悟しろ!」


 目の前には人狼の姿をした怪人。

 これだけの狂気。集団的に集まっていた人のエネルギーに感化されて、ふって湧いたようなものだろう。

 だけど、ここまで酷いとなると致し方ない。私が殲滅する。


「俺を倒すのか?無理だな、何故ならここでお前が俺に倒されるからだ!」


 なんてお決まりのセリフだろうかと、私は内心を思いながらも、非常に機敏きびんかつ高速で接近してきた怪人の攻撃を躱す。

 しかし鋭い銀色の爪が、私の腕アーマーを引き裂こうとする。


(なるほど、だったら!)


 私は避けた。

 すると銀色の鋭い爪が、アーマー下のベース部分に傷をつけた。だけどそのぐらいだった。


「な、なに!?」


 驚く怪人。しかし驚くのはまだ早い。

 攻撃は入ってはず。なのに、自分の爪が折れたのだ。その驚愕きょうがくの光景に呆気に取られる一方、私はほぼ無傷だった。


「な、なにをした!?」

「ん?攻撃を避ける際に、少しこっちからカウンターをね」


 そう言って私が取り出したのは専用武器、バクオンアックスだった。

 斧の形状をしているこの武器は、一見するとただのオモチャのようだけど、声や音を媒介ばいかいに斧の刃部分が高速で振動して、敵を切り裂く。まさに、私にぴったりの武器だった。


「斧で先に爪を折れば、こっちは無傷で済む。真っ二つに折ると気づかれかねないから、少し亀裂きれつを入れておいたんだよ」

「な、なんだと!?」

「さて、次は私の番だ。容赦ようしゃはしないぞ」


 私はそう宣言すると、勢いよく飛び出した。

 心臓の心拍数を利用して振動を送り、背中のウィングからジェットを起こしてのだ。


「そっちが陸なら、こっちは空中戦だ!」


 私は人狼型怪人共々、空中に舞い上がると、そのまま手を離した。


「グルァッ!」

「そっちは飛べないもんね。終わりだ!」


 私は落下の速度を上げながらアスファルトの地面目掛けて落ちていく人狼型怪人に必殺技を放つ。


「ロストスプリーム!」


 喉の奥から身体全身を通して、アーマーは伝わる。

 強烈な音の波紋が形成され、そのまま衝撃波が人狼型怪人を取り囲んだ。

 “失われた叫び”。それはまさにプテラノドンと私の融合技だった。


「グルァァァァァァァァァァ!」


 人狼は叫び声を上げた。

 しかしそれは誰にも聞こえることはなく、ロフトスプリームによって全身の骨から骨まで、砕け散ってその場で消えてなくなった。

 終わり方はあっけない。それがヒーローと怪人との戦いだった。



「ふぅ、疲れた」


 ロスト系のメモリーは通常メモリーよりも体力を使う。

 適性が合っても、訓練を積んでおかないと反動で身体が動かなくなるらしい。

 だけどいい汗をかいた。遊園地は被害に見舞われて、今日は閉園することになってしまった。会長ごめんなさい。明日からのバイトはなさそうです。なんてことをついつい考えて、暮れていく夕日を眺めていた。


「電車あるかなー」


 この騒ぎで電車が通っているか。

 ふとスマホを確認すると、走っているようで安心した。幸い私が変身した姿は誰にも見られていない。安心安心。


「帰ろっと」


 私は閉園した遊園地を後にする。

 その帰り際、


「あっ、お姉ちゃん!」

「ん?あっ、お母さんと会えたんだね」

「うん!」


 よかった。あの後ちゃんとお母さんに会えたんだ。


「あのすみません。この子のこと」

「いえ大丈夫です。それより、ちゃんと見つかってよかったですね」

「ええ、本当にありがとうございました」

「ありがとう、お姉ちゃん!じゃあね」

「それでは」

「はい、じゃあねー」


 私は手を振った。

 夕日の中帰っていく親子の姿を見て、私はこう思う。


「守れてよかった」


 そんなヒーローみたいな言葉が心の底から溢れるのは、きっと最高のことなんだろうと思いつつ、私は閉園した遊園地から本当に去っていきました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダークヒーローのバイト日和 水定ゆう @mizusadayou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ