ダークヒーローのバイト日和

水定ゆう

第1話

 私はヒーローにもヴィランにも興味はない。

 だけど私が求めているのは、「世に蔓延る裁かれない悪を裁くための力」。そんなダークヒーローの映画に憧れて、私は今日もに学生生活を送っています。



「えっ、バイトですか?」


 私は生徒会長から突然そんなことを言われてしまった。


「そうなの。その日は生徒会の役員会が入ってたの、すっかり忘れちゃってて」

「は、はぁー?」

「だからお願い。この通り!ねっ、学校にも届いてた急募のバイトだから。その日以外は私が出る予定だから、一日だけ。お願い!」


 生徒会長は手をピタッと合わせて、丁寧にお辞儀をする。腰を低くして、私に頭を下げていた。しかも廊下の真ん中だよ。

 こんな姿誰かに見られたら、私が変に誤解されちゃうかもだし、あぁもう仕方ないな。


「わかりました。それで、何のバイトなんですか?」

「えーっとね」



 それからバイト当日。

 私はーー


「はーい、皆んなー、こんにちわー!今日は夢の幻想郷、ドリームユートピアで楽しんで行ってねー!」


 私はマイク越しに台本に書かれている決まり文句を精一杯の明るくて可愛らしく喋っていました。

 まさか生徒会長が引き受けたバイトが遊園地のスタッフのアルバイトだったなんて。全然想像しなかったよ。あっ、でも生徒会長だったら社交的だし、向いてるかも。


「音羽さん、今日は一日よろしくね」

「はい。任せてください」

「うんうん頼もしいわね。それじゃあ、ドリームコースターの方お願い」

「はい」


 私はアナウンス用の部屋を後にして、少し遠いけど担当アトラクションのスタッフにつく。

 端から端までだけど、グリッタスの私なら余裕の距離だ。


「皆んなー、今日はきてくれてありがとう。ドリームコースターは夢いっぱい笑顔いっぱい。時々恐怖がゾゾっとするけど、爽快気分で突っ走ろう!そんな快感が楽しめるドリームコースター、出発ー!」


 何だこの適当に詰め込んだような台本は。

 と、本心を隠しつつも笑顔で私はアナウンスしていました。

 その合図に合わせて、ジェットコースターが発進した。皆んな楽しそうでいいなー、なんて私はニコッと笑っていた。


「いやー、音羽さんはいいね。明るくて元気で愛想笑いも上手で」

「あっ、いえこれを愛想笑いじゃないですけど」

「えっ、そうなの!?」

「は、はい」


 まあわかってたけど、皆んな愛想笑いなんだなー。なんて、そんなこと言っても仕方ないんだけどね。


「あっそうそう。この後、少し休憩行ってきていいからね」

「あっ、はいわかりました」


 てな感じで私は休憩をすることにしました。


「うーん、やっぱりなー」


 私は腕組みをしながら歩いていました。


「時給1200円なのはいいけど、ここまで片道580円。うーん、交通費もらっておけばよかったかな」


 時給1200円の休憩込みの7時間バイト。

 片道580円で帰りの分も含めると、1160円になるのか。うーん、バイクの方がよかったかなー。


「いやでも、私情で使っていいのかな?」


 私はまだ15歳だけど、特別にバイクの運転が許されている。

 でもただのバイクじゃない。戦闘用兼移動用のもので、黒崎さんから許可もらわないといけないかも。あー、じゃあよかったのかなー。

 なんて考えながら歩いていると、


「ママー、ママァー!」

「どうしたの?お母さんとはぐれちゃったの?」


 迷子の子を見つけました。

 放っておけなかったので、自然と身体が動いて宥めるように話しかけています。


「う、うん」

「そっかー。じゃあ一緒に迷子センターに行こっか。そこに行けば、きっとお母さんもすぐに来てくれるはずだよ」

「本当ぉ?」

「うん。だから、お姉ちゃんと一緒に行こ」


 私は手を繋いであげました。

 女の子も私に安心してくれたのか、手を握ってくれます。そういえば私も最近、お母さんに電話してなかったなー。そんなことをついつい思い出してしまいながら、迷子センターまで歩いて向かいました。

 そんな時でした。私の身体が急に痙攣けいれんを起こして、反射的に上着のポケットに腕を突っ込みます。


「グルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」


 ドクンドクンと心拍数が加速する。

 絶対いる。この気配、この感覚。間違いない。


「逃げて」

「えっ!?」

「いいから、逃げてー!」


 私は女の子を突き飛ばした。

 するとその瞬間、遊園地の中央広場で爆発が起こった。


「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」


 爆炎が巻き起こり、遊園地に遊びに来ていた人達が巻き込まれる。

 悲鳴が残響になった、耳の奥を揺らした。


「殺す……人間を、殺す!」


 マズいことになった。

 あれは怪人だ。しかも人間に対して敵意を剥き出しにして、関係のない人まで巻き込んでいる。

 ヒーロー相手なら放っておくけど、流石にこうなっちゃ私のポリシーに反する。


「プテラメモリーをセット。認証完了、ロスト変身!」


 私は上着のポケットから、てのひらに収まる大きさの、メモリーチップを取り出す。

 それを左腕のブレスレットにセットして、認証完了ボタンを押すと、私の身体を眩い光が包み込んだ。そして次の瞬間、私は決めポーズと共に、変身を完了させていた。


「悪を裁くは紫の翼。プテラ=ウィング、ここにあり!」


 

 

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