つまるところそれは黒歴史である

闇谷 紅

どこかで処分しようと思っていたと未だに言えずにいる

「僕の考えたヒーロー」


 子供のころに空想の翼をホバリングするハチドリばりに動かして、そんな英雄像を作り上げたことはないだろうか。私の場合は、一人称の僕の部分が私に置き換わるのだろうが、そんな細かいところはどうでもいい。


「あの頃は本当に子供だったわ……」


 思わず遠い目をする私の前、年季の入った勉強机の上にぺいっと放り出された一冊のノート。他者の目を引き付ける美しい蝶の写真の下に平仮名で「がくしゅうちょう」とあるソレは、私が勉強以外の目的で幼いころに使っていた、いわば妄想帳である。


「と言うか私、何であの頃に特撮ヒーローとかに夢中になってたし」


 今思うと頭を抱えたくなるが、きっと上下の兄弟が男で、何する時もだいたい一緒になっていたのが原因だと思う。


「はぁ」


 結果として私は兄や弟と張り合いつつ自身の考えたカッコイイヒーローのすばらしさを競い合っていた、思い出すだけで精神的な拷問となる過去があったのだ。


「ふっ、これが若き日の過ちと言う奴ね」


 なんて月並みなセリフでごまかせないことを知ってしまうぐらいに私は大人になっていて。


「大変フワ! 地球がピンチなのフワ!!」

「疲れてるのね、きっと」


 日曜日の朝にお子様が見そうなアニメ(女の子向け)に登場しそうなナニカが宙に浮かんでジタバタする幻覚まで見えているのだ。ひょっとしたらお医者さんにかからないといけないレベルで私の精神はお疲れモードらしい。


「疲れてるで済まさないでフワ! お兄さんも弟さんも同じ反応だったフワ!」

「黙りなさい、ゆるふわ謎生物! 今現実逃避しなくていつ現実逃避しろって言うのよ!」


 うっかりしかりつけてしまったが、幻覚と会話するとか私の精神的負荷はもう結構やばいところまで来ているのかもしれない。


「というか、無意識のうちに兄さんやヒロまで巻き込もうとするとか。『血は争えないものね』とか言っておけばいいとでも思ったのかしらね?」


 私は幻覚で兄弟を同レベルに引きずり下ろす願望でも無意識に抱いていたというのだろうか。


「だーかーらー、現実逃避してる場合じゃないフワ! 地球がピンチなんフワよ!」


 ちょっぴり愕然としているところで謎生物はさらに喚く。


「……一応『あっそう』で片付けてもいいのだけれど、ぶっちゃけ、そういうのって国のお偉いさんとか国同士のお偉いさんとか軍隊や警察のお偉いさんに訴えるべき内容なんじゃないの?」

「フワッ?!」


 私のマジレスに謎生物はあっけにとられた表情をするが、お子様向けのエンタメでないなら餅は餅屋、権力や武力を有する相手にこそまず話を持って行くべきだろうに。


「そ、それじゃダメなんフワ! 地球を救うには、ピュアな夢の力を強くイメージしたものを持つ人の協力こそ必要なんフワ! 例えばそのノート!」

「え゛」


 冷めた目で見ていた私の顔は思わず引きつる。


「そのノートに書かれてる子供のころに想像した『私だけのヒーロー』みたいなものこそが必要フワ!」


 だが、謎生物はそれこそが一番求めていたモノとのたまいやがりました。


「ボクはそう言ったモノに力を与えて世界を救うことが出来るフワ!」


 ただし、それには想像の主の同意と協力が必要だという。


「ちなみにお兄さんと弟さんには断られたフワ! あなたみたいにノートも保存してなかったし」

「は? というか、後半付け足す必要ある?!」


 というかちゃっかり自分達だけ黒歴史を処分済みとか、どういうことと置いて行かれたような気がして目の前が暗くなる私の周囲では引き続き謎生物が喚いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

つまるところそれは黒歴史である 闇谷 紅 @yamitanikou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ