ほんまに助かったわ、おおきに

ぬまちゃん

魔法少女はお年頃?

 たたたたた。

 がさがさ。ごそごそ。

 ぶは。


 後ろを気にしながら通りを駆け抜けて来た、フリル大盛で露出ちょっと多めなコスチュームに身を包んだ少女は、一時的に身を隠すために道の横の垣根を通り抜けて、見も知らぬ住宅の庭に入り込んで一息つく。


 はぁ、はぁっ。

 はぁ、はぁ、はぁっ。

 

 あちゃー、やってもうた。あいつらの罠にはまって、命の次に大事にせなあかん魔法少女のマジカルスティックを取られてもーたわ。とりあえず表通りから外れた場所に逃げこんで、アイツらの目ぇーから逃れたから少しだけ時間稼げるんちゃうか。

 まさか、大阪から東京に逃げて来た魔物が東京の魔物たちと共闘するなんて考えられへんかったわ。なんぞ特別な理由があるんやないか?

 

 グェ、グェ。

 グア、グア?


 ギャッ、ギャッ!

 ギョッ、ギョッ!


 やば。見つかってもーた、かも。

 ウチのいる場所、どこぞ分からへん家の庭やねんけど、迷惑かけてまうかもしれへんな。はよー、別の場所に移らへんと。


 彼女がそうして思案にくれていると……


 ガラガラ!


 庭に面した掃き出し窓が大きな音と共に勢いよく開いたと思ったら、藍色に桜の花の模様が入った和装の寝間着を羽織ったお年寄りが、道に向かって落ち着き払ってつぶやく。

 

「まぁったく、ギャッ、ギャッて、こんな夜中に五月蝿いわねえ。どこの野良犬かしら? いや、違うわね。どこの野良魔獣かしら、もう。老人は眠りが浅いんだから、大きな音を立てないで欲しいわね」


「夜分遅くに申し訳おまへん。今からすぐに出て行きよるさかいに」


 庭の隅の方に隠れていた魔法少女のコスチュームを着ている彼女は、庭に出て彼女に気が付いた老女に向かって思いっきり頭を下げてから、急いで庭から出て行こうとする。


「ちょっとお待ちなさい。もしかしたら、貴女って例の大坂から転校してきた魔法少女さん?」

「え、何でウチのこと知っとるんでっか?」


「ほほほ。それは、ちょっと秘密ですわ。それよりも、庭の前の道路にいる魔獣を退治しないといけないんじゃないの。どうして庭に隠れてるのかしら?」

「へ、おばあちゃん。驚かへんの? ウチ、夜中に変なコスプレ衣装で人んちの庭におるんやで」


「それはね……、私も昔は魔法少女をやってたからよ」

「へー、そーなんや。おばあちゃん、ウチらの先輩なんやね。──実は、恥ずかしい話なんやけど。ウチ、アイツらの罠にはまって魔法少女のマジカルスティックを取られても―て、今退治する方法がないんや」


「あら、それなら私が貴女の代わりに退治しておいてあげるわ。ちょっとまっててね」

「へ?」


 老女はそう言うと、部屋に戻ってマジカルスティックを持って戻って来ると、スウィッと軽やかに振りながら呪文を唱える。


「テクマク〇ヤコン! テクマク〇ヤコン! 魔法少女になーれ!」


 あーら不思議、老女がいた場所には、可愛らしいフリル付きだがデザイン的には少し年代が古いミニスカートをまとった少女が、少しはにかみながら立っていた。そして、関西弁の魔法少女を残してスッと庭の垣根を飛び越えて表通りに行ってしまった。


 グエ!

 ガボ!


 彼女が表通りに行ってしばらくすると、まばゆい光が垣根越しに見えたと同時に、魔獣達の断末魔の悲鳴が聞こえて来た。


「おまたせー。あ、貴女のマジカルスティックも取り返して来たわよ。はい、お返しするわね。魔獣の一匹がお腹の中に取り込んでたわ」


 庭に戻って来た彼女は、唖然としていた関西弁の魔法少女に取り返したマジカルスティックを渡すと、にこやかに話しかけてくる。


「おばあちゃん、ありがとーぉうー。おおきにー、ウチ助かったわあー。おばあちゃんって、私にとってのヒーローやな」


 関西弁の魔法少女は、スティツクを受け取ると嬉しそうに彼女にお礼を述べてから垣根を飛び越えて去って行った。


 * * *


 はあ、さすがに今日は疲れたわね。何十年ぶりかしら魔獣退治なんてしたの。とっくに引退したはずなのに、誰かが困っているのをみるとつい働いちゃうわね。


 魔法少女の変身を解いて老人に戻った彼女は、腰に手を当てながら夜空の星を見上げて昔を懐かしむと、窓を閉めて再び眠りについた。


(了)

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