萩市立地球防衛軍★KACその⑧【私だけのヒーロー編】

暗黒星雲

椿だけのヒーロー

 私がこの宇宙に誕生してから一億年の時が流れた。

 私は絶対防衛兵器。


 血も涙もない、殺戮の為だけに存在する者。

 侵略者に対し、殲滅の鉄槌を与える者。


 そんな私に人の温もりを与えてくれた。

 愛を与えてくれた人。


 獣王ザリオン。


 あなたと出会ってから、もう500万年以上の時が過ぎた。

 でも、私の気持ちは揺らがない。


 あなたの事が好き。

 出会ったあの日から。


 あなたと離れ離れになってしまった1000年間は本当につらかった。

 でも、今はこうして一緒にいられます。


 あなたが好き。

 愛してます。

 大好きです。


 これから先もずっと。

 一万年も、一億年も、あなたを愛し続けます。


 私は兵器なのに、あなたは人として接してくれたから。

 女神クレドとして、人間とは隔絶された存在であった私を愛してくれたから。

 

 あなたは私だけのヒーローです。


※※※


 会議室にて一生懸命手紙を書いている女児がいた。

 時に、涙を流しながら。

 時に、恥ずかしそうに微笑みながら。


 まだ、上手く字が書けないにもかかわらず。


 そこへ一人の青年が訪れた。


「椿さん。何してるの? お絵描きかな?」

「見ちゃダメです。正蔵さまでも見ちゃダメ」

「え? そう言われると見たくなるなあ。手紙でも書いてたの? 皇帝陛下宛てかな?」

「だから、詮索しないでください」

「うーん。気になるなあ。ちょっと見せてよ」

「ダメったらダメ!」


 見た目が三歳児の椿を正蔵がからかっているのだが、椿はというとほとほと困り果てていた。そこへ総司令のミサキが入って来た。


「正蔵君、ここにいたんだ。ねえ、ちょっと見て欲しいんだけど」

「何でしょうか?」

「これよ、これ」


 ミサキが手に持っていたのは下着のカタログであった。もちろん女性用で、Gカップ以上の巨乳サイズ特集号だった。


 途端に正蔵の顔が緩む。同時に、椿の眉間に皺が寄る。


「こっちの黒いのと、こっちの赤いの。どっちが好き?」

「ミサキさんならどちらでも似合いますよ」

「そうじゃないの。正蔵君の好みを聞いてるのよ。やっぱり白? レースのとか? これ、乳首が透けてるね」


 見事な巨乳モデルの写真を見せられ、正蔵の目は泳ぎまくっていた。


「おお俺は下着なんか気にしませんから」

「中身重視って意味かな? でもね、女はやっぱり着飾りたいものなのよ。下着も含めてね」


 怪しく笑うミサキの胸が揺れる。もちろん、ミサキが故意に揺らしているのだが、正蔵の目線は彼女の胸元に釘付けになっていた。椿はというと、いわゆる白い目で正蔵を睨んでいるのだが、本人はそれに気づいていない。そこへララが入って来た。


「こんなところにいたのか。トレーニングの時間だ。走るぞ」

「はい? 今からですか?」

「春休みだから鍛えてくれと言ったのは貴様だ! さっさと支度しろ!」

「わかりました」


 颯爽と会議室から出て行くララに、正蔵は渋々とついて行った。


「うーん。邪魔が入ったわね。次の作戦を練りましょうか」


 ミサキは怪しく微笑みながら、会議室から出て行った。一人残された椿は、ぷうッと頬を膨らませている。そして、先ほど書いていた手紙を広げ、ため息をついた。


「正蔵さまったら巨乳に弱すぎです。もう、いつになったら私だけのヒーローになってくださるのかしら」


 そんな椿をすぐ傍で見つめていたお下げの少女がいた。重巡洋艦最上のインターフェイスだ。意外と影が薄いようで誰も彼女に気づいていなかった。そんな影の薄い最上は、椿が書いていた手紙をしっかりと読んでいた。


「も、最上さん。これ読んじゃダメです!」

「ご、ごめんなさい。でも素晴らしいです。愛が大きくて、深くて、純粋で、何と言っていいのかよくわからないですけど、凄く羨ましいって思いました」

「うー、恥ずかしい」

「そんな風に椿さまに想われているなんて、素敵な方なんですね」

「まあ……そうですけど。私だけのヒーローですし」

「それだけ素敵な方であるなら、多くの人が自分のヒーローだって、思っても不思議じゃないです」

「そうですか?」

「ええ。そうです。私も彼の事を、私だけのヒーローだって思う事にしました」

「え?」

「その人にとってのヒーローって、人の数だけあるものだと思います。でもそれは、人の恋路を邪魔する事じゃないんです。だって、ヒーローだって思う事は、言い換えるなら感謝の気持ちを表現しているからなのです」


 最上の一言で、椿は何か気付いたようだ。


「大丈夫です、椿さまの恋路を邪魔したりはしませんから。多分、総司令も長門さんも、私と同じ気持ちだと思いますよ」

「うえええん」


 堰を切ったように椿の目から涙が溢れ始めた。最上は椿を抱きしめ、彼女の背を撫で続けていた。


 絶対防衛兵器アルマ・ガルム。人の姿を模したインターフェイスを持つもの。愛を知り、愛を育む事がインターフェイスの役割である。彼女達が守るべき星が愛に溢れている限り、アルマ・ガルムは絶対無敵の力を発揮すると言われている。 



 

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