目の前の後輩が自分を推していると気づいていないWeb作者JKの話
藤浪保
目の前の後輩が自分を推していると気づいていないWeb作者JKの話
「で、最新話、すっごく面白かったんですよ。ほんと先生は天才です!」
俺は
「それは良かったわね」
目の前に座る先輩は、無表情のままで答えた。
「あっ、すみません。俺、また自分のことばっかり……」
「いいのよ、別に」
「やっ、本当に、すみません」
素っ気ない態度で言われて、俺はますます恐縮してしまう。
いつもこうだ。
雑談をしていたはずなのに、いつの間にか小説の話になっていて、気づけば俺は推し作者の話を一方的にしている。
毎回同じような話を聞かされて、先輩はうんざりしているだろう。
小学校からの親友ですら、お前の話にはついていけない、と
大して親しくもない後輩の話なんて、何も面白くないに違いない。
それなのに、先輩は適当にあしらったりはせずに、律儀に聞いてくれる。
だから俺もつい話してしまい、熱く語り終えた後に、毎度後悔するのだ。
ようやく話が終わったと思ったのか、先輩は手元のノートパソコンの画面に視線を移した。
俺と先輩は今、
なぜこうして二人きりでいるかというと――。
入学したての頃、放課後に親友の部活が終わるのを待っている間ゆっくりWeb小説を読める場所はないか、と探していて、ちょうど良い場所を見付けて入り浸っていたら、そこに先輩がやってきた。
先輩は一年の頃から利用していたらしく、先約がいて、それも先輩であるならば譲るべきだろう、と思って出て行こうとした所、ここにいていいと言ってくれたのだ。
静かな場所であるなら図書室や自習室に行く手もあったが、本を読むわけでも勉強するでもなくひたすらスマホをいじっているのは気まずくて、他人の目を気にしなくていい場所はありがたく、俺は先輩の厚意に甘えることにした。
生徒会長である先輩は、ノートパソコンで生徒会の仕事をし、俺はWeb小説を読む。
そんな静かな時間が、俺の放課後の定番の過ごし方となった。
仕事をするなら生徒会室の方がいいのでは、と聞いてみたら、静かな場所で集中したいから、と言われた。
合間の雑談で、必ず一度はこうやって先生の素晴らしさを力説してしまうわけだが、今の所、先輩に出ていけとは言われていない。
大半は静かにしているから、大目に見てくれているのだろう……と思いたい。
カタカタと先輩がキーボードを打つ規則的な音が聞こえてくる。
俺はそれをBGMに、新たな傑作を探して、Web小説サイトの海に飛び込んだ。
いや、その前に、もう一回先生の最新話を読んでおこう。
* * * * *
キーボードで文字を打ち込みながら、私は内心でため息をついた。
生徒会の仕事をしていると嘘をついているけれど、本当は小説を書いている。
でも、連載を続けても、新作を書いても、ほとんど読まれない。
なのにやめないのは、書くのが楽しいからだ。
私の書く物語の中では、良い子の優等生の
だからといって、読んでもらいたいという気持ちがない訳ではない。
書くからには読んでもらいたいし、楽しんでもらいたい。
だから、目の前の後輩が推す作者のことが
全然読まれないのが不思議だ、と言っていたけれど、これだけ熱烈なファンがいるのだから、有名なランカーなんだろう。先生と呼ぶくらいだから、書籍化もしているかもしれない。
身バレしたくないから、と後輩は作者の名前は教えてくれない。
でも、きっとフォロワーがたくさんいて、すごく面白い話を書くに違いない。
読まれていない、っていうのは、面白い割に、という意味であって、本当に読まれない作者っていうのは、私のような作者の事を言うんだ。
でも――。
私にだって、ファンはいる。
処女作を連載している時にふらっと読みに来てくれたそのユーザーさんは、最新話まで一気読みをしたあと、長文のレビューを書いてくれた。私にとって初めてのレビューだった。
その後も、更新すれば必ず読んでくれて、時々コメントも入れてくれる。
この人のために書いているんじゃないか、って思う時もあるくらい、私は助けられていた。
この人が読んでくれるんだから、と書くのがつらくなった時も頑張れた。
昨日だって、更新したらすぐに、面白かった、ってコメントを入れてくれた。
私にとってはヒーローみたいな人。
どんな人かはわからない。男の人かもしれないし、おばあさんかもしれないし、もしかしたら小学生の男の子かもしれない。
どんな人だっていい。
その人がレビューを書いているのは今のところ私の作品だけだ。
だから今はまだ、私だけのヒーロー。
よし。
気持ちが上向いてきた。
次の話も楽しんでもらえるように、頑張ろう。
目の前の後輩が自分を推していると気づいていないWeb作者JKの話 藤浪保 @fujinami-tamotsu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます