5 ミラー夫人、左遷。

「なんだ、貴様らは?」


 狼狽するミラー夫人を数多くのスマホカメラが追い詰める。


「は? 中継ですけど?」

「中継?」


 そこに戦闘員たちが割り込んで迷惑動画配信者たちを引き離し、何事かをミラー夫人に耳打ちした。


「なんだと? 撤収?」


 寝耳に水の指令だったらしい。


「動画でこの屋敷の秘密と私の姿が拡散されただと? ほかの怪人たちのプロフも?」

「……許さぬ、ザムザム=ギル! そしてこの未開の地球人どもめ!」


 迷惑動画配信者たちは一瞬強い光に包まれ、一斉に昏倒した。


「覚えておけ、プラニセイバー! 必ずやこの地球に戻ってくる!」

「へえ?」


 ブルーの気の抜けた声がミラー夫人を逆なでしたらしい。


「覚えておけ!」


 あとには気を失った迷惑動画配信者たちと、強化服を解除したナミとアオイが残った。


   * *


「みなさん! 馨さん!」


 母親たちが勢いよく飛び込んでみると、スター☆トンゴロン先輩は阿賀川と何か話しているところだった。


「お母さま? 阿賀川先生は戻られましたよ!」

「無事だったのね」

「え? 無事?」


 星町三小天文クラブの面々は何をしていたか。


「終わらないよう」

「助けてよう」


 宿題組が部屋のテーブルに集まって、青柳や佐倉井をつかまえ宿題を手伝わせていた。


「どうしたの?」


 ルルウラ=レイは、阿賀川をつかまえ小声で尋ねる。


「こっちにミラー夫人が来て、生徒たちに何か仕掛けていたら、と心配していたんだが、そんなことはなかった」


 そういえば、表の方が騒がしい。


「あ、イエロー」


 通信が入った。


「え? 迷惑動画配信者?」


 阿賀川の声に、佐倉井と青柳も反応する。


「わかった。

 お母さま方、このお屋敷はもう安全なのですが、」

「怪人は?」

「何らかの事態が発生したらしく。強制的に撤収させられたそうです。まだ詳細はわかりませんが。とにかくもういなくなりました」

「よかった」

「え。怪人?」


 生徒たちが騒ぎ始める。


「何でもない、何でもないんだが、

 表に迷惑動画配信者が何人も倒れているそうなので、救急車を呼びますよ」


   * *


「ん?」


 ザムザム=ギルは閉店間際の〈ゴンゴン〉のテーブルで、食後のコーヒーを嗜んでいた。


「そろそろ閉店だね」

「あら、いいんですよ、コーヒーは急いで飲んでもおいしくないんですから」


 ヘイタの妹のユリが笑顔で言うのに、ザムザム=ギルはにやりとする。


「どうも、しばらくここのカレーともお別れなんだねえ」

「え、お仕事忙しくなっちゃうんですか?」

「まあ、そんなもんだねえ」

残座ざんざさん、お仕事はクリエイターでしたっけ? 動画配信?」

「まあ、そんなもんだねえ」

「遠くに取材に行っちゃうとか? いいなあ」

「まあ、そんなもんだねえ」

「帰ってきたら、またいつでも大食いチャレンジしてくださいね」


 それからしばらくの間、星町でザムザム=ギルの姿を見た者はなかった。

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星町三小天文クラブ~星団戦隊プラニセイバー 倉沢トモエ @kisaragi_01

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