4 ミラー夫人を追い詰めろ
「先生、戻ってないの?」
お母様に言われるまま佐倉井、青柳を連れて戻ったスター☆トンゴロン先輩は、まだ二人が戻っていないことに驚いた。
「やっぱり何かおかしいなあ」
「馨くん、」
青柳が本名の、しかも漢字で呼びかけると、途端に真面目な顔つきになる。
「さっき、お母様の様子について何か話してくれたね?」
「はい。何かがいつもと違う気がして。特に声が」
この屋敷で何かが起こっている。スター☆トンゴロン先輩も、だんだんそれを察してきたようだ。
* *
「ここだな」
ルルウラ=レイは、階段の踊り場に来た。
見た目は何の変哲もない鏡なのだが、よくよく覗きこんでみると。
「……何やってるの?」
鏡の中では、マコッチたちが、こちらにむかって何か踊りを見せつけている。
それが星町町内会で踊られる〈星町盆踊り〉であることを、ルルウラ=レイは知らない。
「あ、レッドも動画を見たのかな」
阿賀川がしきりに手のひらをこちらに当てるようにと身振りをしてくる。
「大丈夫。そのつもりで来たんだから」
ルルウラ=レイが両手の平を鏡面に当てると、まるで水のようにさざなみが立った。
「急いで!」
まずマコッチがお母さんたちに押し出されて、次はマコッチのお母さん、サオリン先輩のお母さん、最後に阿賀川に支えられながらスター☆トンゴロン先輩のお母さんが出てきた。
「よかった。無事で」
「マコトくんが踊ろう、って思いついてくれたおかげよ、きっと」
「あら、天文クラブの新しい生徒さん? ありがとう」
マコッチはルルウラ=レイを知らないのだが、助けてもらったのでなんとも言えないでいた。
「急いで、阿賀川先生」
「あ、ああ」
ルルウラ=レイが〈先生〉と呼んだので、なんとなく髪は水色だけれども見知らぬ生徒の一人らしい雰囲気ができ、
「武山、お母さんたちとしばらく隠れてろ」
「え。はい」
「ほかの生徒たちを見てきます」
クラブの顧問、阿賀川はルルウラ=レイに、
「この人たちを守っていてくれ」
と耳打ちし、階段を駆け上がった。
「……ミラー夫人って……」
「私たちを閉じ込めた、ケバい人よね? 最初はカオルくんのお母さんそっくりだったけれど」
食堂に避難したお母さんたちは顔を見合わせてさっき見た動画の内容を思い出していた。
「身近な人に姿を変えて、って言ってましたよね?」
「わたしたち、保護者としてこうしてはいられないんじゃないかしら」
「マコト、ここでおとなしく待ってるのよ?」
「えっ、お母さん?」
さっきの怪人がどこにいるかもわからないのに。
「僕も行くよ!」
「あれ?」
ルルウラ=レイが取り残された。
「僕も行かなきゃいけないじゃないか」
* *
「何っ?」
プラニセイバーのイエローは、ミラー夫人の攻撃で左足にダメージを受けていた。
ブルーは、全身に電撃を受け、意識が朦朧としている。
そこに戦闘員のひとりがミラー夫人に耳打ちしに来た。
「私の空間が破られた? なぜだ?」
ミラー夫人はまだ、『ザムザムちゃんねる』の件を知らないようである。あのアカウントは思いのほか短時間の間にアップされ、すぐさま凍結されたようだ。
「くっ、命拾いしたな。この屋敷は何としても押さえておかねばならぬのでな!」
身を翻して去ろうとしたそのとき。
「何?」
スマホカメラのフラッシュがミラー夫人の足を止めた。
「やった! 特定した!」
はしゃぐ声。
「ここだったんですねえ」
次々に若者が屋敷に押し寄せて来る。
「え? なに?」
ブルーがぽかんとしているとイエローが、
「動画を見て、ネット界隈にできた怪人特定班が動き出したんだわ」
「特定班?」
「今私が勝手に名付けたんだけれど」
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