二人の魔女
曙雪
二人の魔女
昔々のお話です。森の奥深くに二人の魔女がいました。
一人は燃えるような赤毛の魔女で、もう一人は夜を閉じ込めたような黒髪の魔女でした。
二人は森の中の小さな塔で仲良く暮らしていました。
魔女は皆の嫌われ者です。
森の外にある村では、二人の魔女の居場所はありませんでした。
パンを買いに行けば、石を投げつけられます。
魔法で治療を施せば、殴られます。
それでも二人は手を取り合って、仲良く暮らしていました。
ある日、二人の魔女は森の入り口で小さな赤子を見つけます。
可哀想に、血も涙もない誰かが捨てていったのです。
二人の魔女は赤子を保護し、育てることに決めました。
赤毛の魔女は赤子のためのミルクを求めて町に行きました。
黒髪の魔女は赤子のためのベッドを塔にあるもので作りました。
その日、赤毛と同じくらい顔を腫らした赤毛の魔女を抱きしめて、赤子をあやしながら黒髪の魔女は夜を過ごしました。
二人の魔女が拾った赤子は男の子でした。
二人は小さな坊やを慈しみ、育てました。
森の中で追いかけっこをし、小川で水浴びをし、小さな坊やはすくすくと育ちました。
二人の魔女は笑顔で小さな坊やの成長を見守りました。
小さな坊やは大きくなり、少年になりました。
少年は学校に通う年になりました。
しかし、二人の魔女には少年を学校に通わせてあげるお金がありませんでした。
薬草を売り、治療を施し、お金を稼ぎますが、まだまだ足りません。
そこで、黒髪の魔女は自分の髪を売りに行くことを決めました。
魔法で顔を変え、隣町まで行き、黒髪の魔女は髪を売りました。
腰にかかるほどあった長く美しい髪は肩より短くなってしまいました。
その日、赤毛の魔女はお金をしまい、黒髪の魔女の短くなった髪を撫でて夜を過ごしました。
それは、少年が学校に通う年になって一年が過ぎた日のことでした。
少年は一年ほど遅れましたが、学校に通えるようになりました。
毎日学校で勉強し、放課後には初めてのお友達と遊びました。
森での生活とは違う、新鮮で楽しい毎日でした。
そんなある日、町に魔物が出ました。
可哀想な少年は、友達と遊んでいるところで魔物に出会ってしまいました。
勇敢にも少年は、近くに転がっていた太い木の枝で魔物と戦いました。
しかし、まだ幼い少年の力では魔物に敵いません。
木の枝が振り払われ、魔物が少年の喉元に狙いを定めたその時、少年の右手の甲が強い光を発しました。
光が収まると、少年の手の甲には紋章が現れていました。
もう一度少年が魔物に立ち向かえば、ただの木の枝にも関わらず、魔物を撃退できました。
少年に現れたのは勇者の紋章だったのです。
それからのことです。少年は勇者だと町でもてはやされるようになりました。
そして、噂を聞きつけた王は少年を城へと招いたのです。
王は、魔王を倒して欲しいと少年に頼みました。
少年は一つ返事で頷きました。少年にはもう力の使い方がわかっていました。
魔王を倒すため、少年は旅立ちました。
少年は二人の魔女が住む塔には帰ってきませんでした。
けれど二人の魔女は少年の無事を祈っていました。
少年が旅立ってから長い月日が経ちました。
村では魔王が倒されたとお祭り騒ぎです。
二人の魔女は塔からそれを眺めていました。
その夜、塔を訪ねてくる人がいました。
警戒しながらも赤毛の魔女が扉を開けると、そこには勇者がいました。
赤毛の魔女は、あの小さな坊やが立派に成長したことに涙を流して喜びました。
黒髪の魔女もすぐにその場に駆け付け、同じように涙を流して喜びました。
赤毛の魔女は、勇者を抱きしめようとしました。
けれど、できませんでした。
勇者は近づいてきた赤毛の魔女を腰に下げた大きな剣で貫いたのです。
黒髪の魔女は赤毛の魔女が倒れていくのを見ていることしかできませんでした。
目を血走らせた勇者が叫びます。
憎い。私を肉親から切り離し浚ったおまえたちが、学校にも通わせようとしなかったお前たちが憎い。
勇者は赤く染まった剣を黒髪の魔女へと振りかぶりました。
黒髪の魔女はただそれを眺めていました。
剣の切っ先が黒髪の魔女の首に差し掛かった時、勇者は森の入り口まで吹き飛ばされました。
赤毛の魔女が最後の力で親友を守ったのです。
血だまりに跪き、黒髪の魔女は赤毛の魔女の手を取って言いました。
いつか、必ず迎えに行くわ。
赤毛の魔女は微笑んで言いました。
待っているわ。
赤毛の魔女は静かに息を引き取りました。
それ以来、魔女の住む森には誰も立ち入ることができません。
魔王が倒された日から、百年の月日が過ぎました。
村ではとても美しい赤毛の女の子が生まれていました。
赤毛の女の子は沢山の人に愛されて育ちました。
少女と呼べるほどに成長した彼女は、ある日、お花を摘みに出かけていました。
お花に夢中になった赤毛の少女は森の入り口まで来ていることに気づきません。
お嬢さん。
赤毛の少女にフードで顔を隠した女が声を掛けました。
赤毛の少女は森の入り口に佇む、不思議な女に声を掛けられてやっとその存在に気が付きました。
あなたはだあれ?
私は魔女よ。
魔女!大人は皆そう言って子どもを騙すのよ!私は騙されないわ!
村の人は魔女がいると言って、子どもが森の中に入らないように言い聞かせるのです。
お転婆さんね。それじゃあお詫びに美味しいケーキとお茶を御馳走するわ。
ケーキ!行く、行くわ!
赤毛の少女は女の誘いに乗って、森の中へと入っていきました。
森には恐ろしい魔女が住んでいる。見つかったら浚われて、二度と帰ってこられない。
だから、森には決して近づいてはいけないよ。
赤毛の少女が村に戻ってくることはありませんでした。
二人の魔女 曙雪 @m-tree
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