出会いと別れ
葉月りり
第1話
藤で編まれた丸い籠。ほとんど球体。そしてその上から三分は蓋になっている。蓋の取手にはレースのリボンが結ばれふわりと下に垂れている。
私はその取手を持ちそっと開けて、蓋を持ったまま中を覗く。
息を呑む。少し胸が苦しくなる。
「そっくり…」
思わず声が出てしまった。
籠の中には子猫がいた。生まれてひと月といったところで、その子の毛並みが1年前に亡くなったトラにそっくりだった。シルバーのアメリカンショートヘアの色を持ちながら、長毛種がかかったような毛並み。雑種とはいえ気品のある猫だった。
籠の中には花柄のクッションが敷いてあり、その子はいわゆるヘソ天状態だ。手をゆるく曲げ足裏を見せ、力がぬけている。肉球はピンクだ。すごくリラックスしたように寝転んでいるが、目は今目覚めたようにキョトンと私を見つめている。目もトラと同じ色だ。
苦しかった胸が余計に苦しくなってくる。
「どうしよう」
このまま籠ごと連れて帰りたい。この子が私の部屋にいる、私の膝にいる、私のベッドにいる…と、想像がどんどん膨らむ。トラが亡くなった時、もう猫は飼うまいと思ったが、この子ならいいだろう。そうだ、この出会いは運命だ。きっとトラが巡り会わせてくれたんだ。
もうほとんど決心したが、取り敢えず触ってみようと籠に手を入れる。指が小さな手に触れようかという時、クッションと籠の間に小さな札が挟まっていることに気付く。まず、そちらを手に取って見る。
「羊毛フェルト 猫(籠付)120,000円」
私はその子に触れるのをやめた。札を戻し、籠の蓋を閉じて子猫に別れを告げた。
「ムリ…」
おわり
出会いと別れ 葉月りり @tennenkobo
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