バーにて

最時

出会い、そして別れ

 私は月の半分は出張で各地をまわっている。

 そんな時の楽しみが各地のバー巡りだ。

 携帯で調べてまだ行ったことないバーを探す。

 ホテルから徒歩数分のバーを見つけた。


 カウンター6席の小さなバーだった。

 暗めの店内。

 レーコードの柔らかい音。

 落ち着く雰囲気だ。

 年配の男性が一人飲んでいた。

 そしていつもの酒を頼む。


 しばらくして男性が声を掛けてきた。

「そのスコッチいいですよね」

 私のグラスを指している。

「はい。いつも、とりあえずこれを飲んでます」

「間違えありませんね。私もよくもらいます。お仕事帰りですか?」

「はい。出張でこちらに来まして」

「この店は初めてですか」

「はい。いいお店に出会えました」

 マスターが笑顔で頭を下げた。

「私も引退前は出張が多くて各地をまわりました。

 大変さもありましたが、良い店や人との出会いもあって、それが私の糧でもあったかなと思います。」

「そうですね。それは私も感じます」

 その後、男性とは仕事、酒や音楽などの話をした。

 楽しかった。

 男性の言うとおり糧の時間だった。

「さて、私はそろそろおいとましようかな。そろそろ彼女が来る。邪魔をしては悪い」

 男性は意味ありげな笑みを浮かべてマスターに会計の合図をする。

「どなたか来るのですか?」

「まあまあ。ありがとう。楽しかったよ。出張先ではこういう別れがあるからまたいいんだよ。良かったらまた寄って下さい」

「ありがとうございました。楽しかったです」

 握手を交わして去った。


 しばらくしてその彼女が来る。

 私と同じ酒スコッチウィスキー。

 女性では珍しい。

「今日はおじさま来てないんですね」

 女性がマスターに声を掛ける。

「先ほどお帰りになりました」

「今日は早いですね。何かあるのかな」


 しばらくして声を掛けてみる。

「それ、美味しいですよね」

「はい。私はいつもこれで」

「女性で、スコッチストレートで飲まれる方はあまり見かけないので」

「そうですよね。ごめんなさい」

「いえ。お好きなんだなと」

「やっぱり女王ですね」

 女性はグラスを眺め、そして一口。

 私も飲む。

 このスコッチは高貴さと優しさを感じる。

 まさに女王だった。

「美味しい。

 実はもっと若い頃は適当なのをまあまあな量飲んでいたんですけど、最近は美味しいのを飲もうと思って」

「私もそうです。ところでまあまあとはどのくらい?」

「そこを聞きますか。秘密です」

 私達は笑った。


 そして再び楽しい時間を過ごせた。

 そしてマスターに会計を頼むと、どうやら先に飲んでいたのは男性が支払ってくれたらしい。女性の分も合図で付けてもらった。

「良かったらまた飲みませんか?」

 と女性がスマホを取り出した。

「あまり、入り浸ってしまうと妻に怒られてしまうので」

「あっ、私も夫に何を言われるか」

 二人笑った。

「今日あった。おじさまも別れがいいと言ってました」

「いいそう。ありがとうございました。楽しかったです。また縁があった」

「また」

 握手を交わして店を出た。


 彼女には飲まされてしまったがたまにはいいだろう。

 まだ人通りの多い街を歩いてホテルへ向かう。

 妻と話したくなり電話を掛ける。

「また飲んでいるんでしょ。何かいいことあった?」

 やっぱり見抜かれてしまうなと。

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バーにて 最時 @ryggdrasil

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