第43話 無関心よりは良いけどさ

「―ふーん? じゃあ結局、部活は続けてるんだ?」


 そう言って部活帰りの俺を出迎えたのは、リビングでいつものように酒を飲みながらくつろいでいるだらしない姉―須藤 緋由(すどう ひゆ)だ。


 大学生でありながら、相変わらず酒に少し酔った様子で赤い顔でそう返す緋由に俺は片手でフライパンを操りながら応じてやる。


「……まあ、一応続けてるよ。特に不便も無いしな」

「ヒロもあの子達もまだまだ若いねぇ。それに、都合良いように利用されてるだけだと思うけど、ヒロはそれで良いの?」


「別に? 俺も成績の事とか考えれば部活に入る必要があったし、こっちからしたらむしろ都合が良いのはあいつらだよ。何せ、部活の仕事やらない幽霊部員で良いつーんだからな」

「そんな事言って〜。ただ単にあの子達からの頼みが断れないだけでしょ? ほら、ヒロって優しいから」


「ったく、アホな事言ってんじゃねぇよ……良いから飯でも食って黙ってろ」


 相変わらず口が無駄に回る姉に呆れると、俺はフライパンで調理したオムライスを机に置いてやる。すると、気だるげな表情をしていた緋由の表情が一転、身内ながら美人と十分に評せる笑顔で俺を褒めてきた。


「わーお!文句言いつつ、ちゃんと料理してくれるヒロが私好き。結婚して」

「知ってるか? 姉弟は結婚出来ねぇんだよ。法律改正してから出直して来い」

「じゃあ、明日から私、総理大臣になろうかな?」


「アホか。そんなどうでも良い理由で総理になる奴に国を任せられるかよ……ほらよ、デザート。カロリー少ないから気にせず食え」

「……ヒロがどんどん主夫スキルを身に付け過ぎて、私、女として自信無くして来たよ」


「今の時代、男も料理出来なきゃモテないんだよ。食って寝るだけの生活でモテるなら俺もぜひそうして欲しいね」

「そうは言うけど、ヒロって絶対結婚相手に家事を任せきりに出来ないよね?」


「……過剰に持ち上げてんじゃねぇよ。俺はそんな人間じゃねぇっつの」

「っていうか、ヒロがモテないのは周りの女子の見る目が無いだけ。お姉ちゃんが保証してあげる。理由はお姉ちゃんがモテるから」


「露骨なモテますアピールご馳走さん……どうせ、お前みたいな陽キャと違って、陰キャな俺はモテねぇよ」

「拗ねないでよ〜。もし、お姉ちゃんが同級生だったら間違いなく落としに行こうとするくらいは格好良いよ?」


「何が悲しくて身内に落とされなきゃいけねぇんだよ……別に非モテで良いんだよ。女なんてただ面倒なだけだし」


 俺はそう口にしながら自分の分のオムライスを用意するべく器の中に卵を割り入れると、そんな俺の背に緋由の能天気な声が掛けられる。


「まあ、良いけどね。ヒロがモテモテだと、私の食事がもれなくピザ一択になるし」

「料理くらい出来んだろ……大体の事は出来んだし、お前。てか、何でよりによってピザ……」

「私は自分の料理は食べない主義なの。それと、ピザって方がヤバさが伝わるでしょ? あ、でも、ヒロの為なら作ったげるよ?」


「はいはい……そう言って、作ってもらったのは何年前が最後だったっけかな」

「ヒロがまだ中学の頃?」

「記憶力は大丈夫みたいだな。なら、口先だけじゃなくて普通に飯くらい作ってもらいたいもんだ」


 緋由の下らない軽口に付き合いつつ、俺は軽くボタンを押してフライパンを温める。


「料理も出来て、家事も万能なイケイケな弟がモテないなんて、お姉ちゃん疑問だな~。あ、でも結婚相手なら良いんじゃない?」

「何年先の話だよ、それ……彼女すっ飛ばして結婚とか言われても、全然実感湧かねぇよ」


「大丈夫大丈夫。ヒロなら炊事洗濯、仕事の送り迎えから全部込みでマッチングアプリでオススメ出来るから」

「それってただの主従契約なんだよなぁ……」


 下らない話をしているうちに自分のオムライスも作り終えると、緋由の向かいの席に座り、手を合わせて飯を食べる挨拶を済ませる。


「いただきます」

「いただきま~す……う~ん、美味しい!」


 頬を抑えて大袈裟な反応を見せる姉にため息を吐く。


「先に食えば良かっただろ。冷えても困るし」

「私は一人で暖かいご飯を食べるより、ヒロと一緒に冷めたご飯を食べる方を選ぶの」


「じゃあ、夏場はかき氷でも食うか」

「良いね!」

「いや、本気で受け取られても困るんだが……冷めた飯っていうから皮肉であえてかき氷を言ったのによ」


「うん、知ってる。でも、ヒロのそーゆう嫌味は私には通用しないよ。何年あんたの姉貴やってると思ってんの?」

「約二十ね―って、痛ぇよ!」


「女の前で年齢の話はしちゃ駄目でしょ?」

「いや、何だよ、その理不尽……」

「ま、でも、困った事があったらお姉ちゃんに相談しなさい。大学サボってでも向かったげるから」


「いや、大学はまともに卒業してくれよ……」


 そんな馬鹿話をしながら、俺は自分で作ったオムライスを口にしながら肩を竦める。相変わらず、こいつは自由奔放というか何というか……まあ、無関心よりは良いけどさ。

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その恋を、俺達は語らない~再会した元カノ達が俺に求めたのは『都合のいいトモダチ』だった~ 月下文庫(ゲッカブンコ) @sekiya_ookami

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