リズディア 〜恋心 の めばえ〜  パワードスーツ ガイファント外伝 〜幼なじみの一言が、リズディアの恋心をくすぐった。〜 KAC20228

逢明日いずな

第1話 リズディアのイルルミューラン


 大ツ・バール帝国 第21代皇帝、ツ・リンクン・エイクオンの正室から子供は生まれてないが、10人の側室から、女子12人と男子8人を授かっていた。


 当初、続けて男子を2人の後、3人目で女子を授かり、皇女の名前を、ツ・レイオイ・リズディアと名付けた。


 長男次男と、このリズディアは、才能に恵まれていた。


 男子2人は、武芸も必要とされたが、リズディアは、女子ということで、武芸は免除された。


 その空いた時間をリズディアは、宮廷内の図書室で過ごしていた。


 皇族という事もあったが、リズディアは、知識欲が強く、書物からの知識と、人からの知らない話を聞くのが好きだった。


 リズディアの知識欲は、帝国経済についても、そして、帝国のアキレス腱とも言える東の森の魔物についても把握し、対応策も少女時代に考えに及んでいた。


 そして、父であるツ・リンクン・エイクオンの友人である、下級貴族のスツ・メンヲン・イスカミューレンに目をつけた。


 イスカミューレンは、父、エイクオンの幼馴染みであり、帝都で商会を営んでいるので、宮廷に訪れては、エイクオンの話し相手をしていた。


 リズディアは、イスカミューレンから、帝国の経済について知りたいと思い、機会を窺っていた。


 ある面会中に、エイクオンが、公務で呼び出された時、イスカミューレンが、1人部屋に残された隙間を狙って、リズディアが、父の代役として、イスカミューレンの話し相手をしたのだ。


 リズディアは、帝国の置かれた立場、世界の情勢について、正確に把握していた事もあり、イスカミューレンとの話は、かなり高度なものになっていた。


(殿下は、本当に、勉強なさっている。 東の森の魔物についても、詳しく知っている。 これは、本物かもしれない)


 イスカミューレンは、大人の話に平気で付いてくるリズディアに驚いた。


 その後も、リズディアは、イスカミューレンとエイクオンの面会に同席するようになり、2人の話を面白そうに聞いていた。


 ただ、時々、子供には聞かせられない話がある場合は、断られてしまうのだが、リズディアが、煩く参加を迫ると、イスカミューレンが、息子のイルルミューランを連れてくるようになった。


 リズディア10歳、イルルミューラン6歳の時に、2人は初めて出会っていた。


 エイクオンの頼みで、イスカミューレンが気を利かせてイルルミューランを連れてきて、そのお守りをリズディアに頼むことで、厄介払いしたのだ。




 そんな日は、仕方がないので、リズディアは、イルルミューランを連れて、後宮の散歩をする。


 イルルミューランとしても、美人で聡明な年上の美少女であるリズディアと一緒に居られる事は、とても嬉しいことなのだ。




 ある日、2人が、後宮を散策していると、男の子の言い争う声が聞こえてきた。


「あら、ルインカンとイヨリオンの声だわ」


 ツ・リンワト・ルインカンは、第4皇子で、もう1人のツ・リンウイ・イヨリオンは、第5皇子だった。


 第5皇子のイヨリオンは、母親が、宮廷の下働きの女性だったので、皇位継承権を返上している。


 そして、第4皇子のルインカンの母は、貴族の出身ではあるが、継承権第4位では、上位の皇子が結婚して子供ができれば、更に継承権順位は下がる。


 結果、第4皇子程度では、余程の事件が無い限り、皇位が回ってくる事はないが、第6位以下なら、他の貴族に婿入りする目的で、皇位継承権を返上するのだが、第4位は微妙な順位でもあり、ルインカンは、返上する事もなく常に上の兄達を羨んでいた。


 その腹いせを、早々に皇位継承権を返上した、貴族の家系でもない弟に向けられていたのだ。


「また、ルインカンたら、イヨリオンをいじめているわ。 イヨリオンも、やられるだけだから、付け上がられるのよ」


 リズディアが、放置して行こうとすると、イルルミューランが、その手を引っ張った。


「どうしたの、イルル。 行くわよ」


 もう一度、引っ張るが、イルルミューランは、動こうとしない。


「お二人を止めなくて、よろしいのでしょうか? 」


「イヨリオンが、やられっぱなしになるから、いけないのよ。 反撃すれば、ルインカンも、次から控えるわよ」


 そう言って、歩き出そうとするが、動かない。


「それは、リズディア様が、ルインカン様のお姉様だからです」


「どういうことなのよ」


「リズディア様は、立場が上です。 イヨリオン様は、お母様も貴族ではなく、皇位継承権も返上してます。 立場的に、ルインカン様に、口答えも歯向かう事はできないのです」


 そう言われて、リズディアは考えた。


「そういう見方もあるわね。 ……。 わかったわ、ここで、待ってなさい」


 そう言うと、リズディアは、ルインカンを止めに入った。




 知識の豊富なリズディアなので、一気に捲し立てた喋りに、ルインカンは、二言三言、反論はしたが、姉のリズディアには逆らえないと思うと、屋敷の方に行ってしまった。


 それを確認すると、リズディアは、イヨリオンに向く。


「大丈夫? 怪我は無い? 」


「ええ、大丈夫です。 ありがとうございます。 リズディア姉様」


 転んで、土埃がついているのを、イヨリオンが、手で払っていると、イルルミューランが来て、イヨリオンの背中や、お尻の土埃を払ってくれた。


「ありがとう。 君は? 」


「失礼しました。 私は、スツ・メンサン・イルルミューランと申します」


「ありがとう、イルルミューラン殿」


「私は、貴族といっても、爵位も無い下級貴族です。 どうぞ、お気になさらずに」


「そうよ、イヨリオン。 それにイルルも、ご苦労様」


 イルルミューランに、労いの言葉をかけると、イヨリオンに向く。


「イヨリオンは、ルインカンに、はっきり、嫌だと言った方がいいわよ。 あの子、ちょっと、つけ上がりすぎよ」


「はい」


 イヨリオンは、シュンとする。


「リズディア様、さっきも言いましたけど、目上の方に、嫌と言えない人もいるのですから、そういう言い方は、むしろ逆効果です」


「じゃあ、どうすればいいのよ」


 言い返されて、イルルミューランも困ったようだ。


「あのー、姉様。 イルルミューラン殿に、そのような言い方は、……」


 自分の為に2人が言い争いになりそうだったので、イヨリオンは、止めに入った。


「それなら、リズディア様とイヨリオン様が、ご一緒に過ごすようにしたらいかがでしょうか? 同じ後宮にお住まいなら、顔も合わす事も多いので、その方が、よろしいのではないでしょうか? 」


 すると、イヨリオンは、自分の住む場所が、他の兄弟達とは違い、奥の小さな庭師程度の家なので、暗い表情をした。


「そうね。 イヨリオン。 明日から、私と一緒に行動しなさい。 学校も私と一緒に行き来するのよ。 私と一緒の馬車に乗りなさい」


「えっ、いえ、それは、……」


 そこまで言うとイヨリオンは、言葉に詰まった。


「ダメよ。 必ず来なさい。 私が、懇意にしていると分かれば、ルインカンも明からさまにいじめることはできないでしょう」


「はい」


 イヨリオンは、リズディアに押し切られるように了承した。


 それを聞いていたイルルミューランが、手を叩いて喜んでいた。


「流石は、リズディア様です。 弱きを助け、強きを挫く、立派なご判断だと思います。 貴族は、弱い者を助ける為にあるということを、身を持って示してくれたのですね。 リズディア様のようなお心の方が、皇族にいらっしゃるなら、帝国も安泰です」


 とても、4歳年下の発言とは思えないイルルミューランの言葉に、リズディアは、顔を赤くした。


「ば、バカな事を言うんじゃありません。 イルルが、助けるようにって言ったから、頑張ったのよ。 イルルのおかげなのよ」


 それを聞いて、イヨリオンは、イルルミューランが、リズディアに助言をして、助けてくれたのだと理解した。


「あなたが、姉様を動かしてくれたのですか。 ありがとう」


「あ、いえ、私は、ちょっと、お話をしただけです。 助けてくれたのは、リズディア様です。 リズディア様は、自分のお力の使い方をご存知ですから、イヨリオン様にもお優しいのですよ」


(えっ! イルルったら、何を言っているのよ。 言われるがまま、イヨリオンを助けただけだったのよ。 でも、とても、いい気分だわ。 イルルって、そういえば、今までも、私にアドバイスをくれたわ。 それで、いつも上手くいっている)


 リズディアは、顔に手を当てて、自分の思いにふけっていると、2人だけで話し出した。


「君は、人の気持ちを読み取ることが上手だね。 イルルミューラン殿」


「あ、すみません。 イルルで構いません。 イルルは、リズディア様が、つけてくれた愛称なんです。 とても気に入っているので、使っていただけると嬉しいです」


 その話を聞いて、リズディアは、ドキドキしているようだ。


「そうなのですか。 じゃあ、今度から、イルルと呼ばせてもらいます」


「はい、イヨリオン様にイルルと呼ばれてもリズディア様が、お側にいるようです」


 そう言って、嬉しそうにする。


「イルル! あまり、褒めないで! 」


 2人は、リズディアを見る。


 下を向いて、赤い顔をしているが、なんでなのか理解に苦しんでいるようだ。


(もう、イルルったら、なんで、こんなに私を褒めるの! 私は、ただ、文句を言っただけなのよ。 イルルって、小さいけど、なんだか、とっても、大人って感じよ。 私を包み込んでくれるみたい。 私の行く方向を示してくれるようだわ。 イルルって、わ、わた、私のヒーロー? ううん、私だけのヒーローにしたいわ)


 リズディアは、ニヤニヤしつつ、前を向くと、2人が自分の顔を覗き込んでいるのを見てしまった。


「みっ! 見るなーっ! 」


 リズディアは、自分の恥ずかしい表情を見られてしまい、びっくりして言い放つと、2人は、慌てて、後ろを向いた。


 リズディアは、地面にしゃがみ込んで、顔を覆い、恥ずかしさが消えるまで、そのままでいる。


 男子2人もそれに付き合わされ、直立のまま、次の命令を待っていた。

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