ギルドマスターのお姉さんは秘書君を拾う

くさもち

短編

「あなた私と離婚しましょ?私、侯爵様と結婚するから」

「え?急にどうして!」

「どうしてって、あなた分からないの?高級なネックレスも買ってくれないし、誕生日の日なんて花束くらいで私が喜ぶとでも思った?」

「だって!これからいろいろお金は必要になってくるだろうから…」

「知らないわよ!おかげで私は散々嫌な思いしてきたの!けど侯爵様はあなたみたいなゴミとは違ってすぐ私のことを受け入れてくれたし、気持ちよくしてくれた。」

「もしかして…」

「ああ、知らなかったのね。まぁ知らないか、君はまだするつもりはないとか言ってたもんね?」

「最低だな」

「最低でもなんとでも言えばいいわ。けどあなたの職場は私のお父様が経営してるし居場所ないねw」

「こんなの君のお父様は分かってくれる!」

「いや?もう私のお父様は侯爵様との結婚に賛成してくれてるわ」


そんな…

「じゃあね。見たくないからさっさと私の家から出てって」

「分かった…」

もう職場にも行けない。外はもう夜だ。

とりあえず風が当たらなさそうな所に行こう。ここにいても迷惑をかけてしまうだけだ。

~~~~~~~

「うう。これからどうすればいいんだ」

僕はなにもできなかった悔しさと虚しさで1人泣いていた。

全財産、あの人の所に置いてきた。今戻っても無理だ。せっかくこの1年間貯めてきたのに。

僕はもう誰にも必要とされていない。

もう死のう。

そう思い僕は魔物のいる森に向かおうとした。夜は特に魔物が増える。だけど関係ない。早く行こう。

ギルドを通りかかっていると


「ちょっと君、おーい、君だよ!」

と声をかけられている。

「はい?」

「どうしたの?もうどこも店は開いてないよ?」

「いいんです。ほっといてください。僕は…」

「どうしたの?大丈夫…じゃないね一旦おいでよ」

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」

「もういいから!」


無理やりギルドに連れてかれる。もうギルドも開いていないはずなのに入れさせてもらえた。

「なんで入れたのかっていう顔をしているね。それは私がギルドマスターだから!」

「凄いですね、その若さでギルドマスターって」

ギルドの偉い人ってお年寄りばっかのイメージがある。

けどこの人は僕よりちょっと年上そう。

「あー自己紹介してないね。私はニル。見てのとおり獣人だから耳が縦なんだー」

と自慢してくる。耳は猫のような感じだ

獣人といえど、しっぽとかはついていない。

「僕はリリっていいます。」

「へぇーリリ君って言うのか。で、どうしてこんなみんなが寝ているような時間帯に町を歩いていたんだい?顔が失礼だけど死んだような感じだったよ」

「すいません。けどこれから死んでくるので…では」席を立ち上がろうとする。

「何言ってるの!君は私より年下なのに命を捨てようなんてしない!」

と肩を掴んで席に座るよう促された。

「優しいですね。ニルさんは。もう誰にも必要とされていない僕なんかに声かけてこうしてお茶までごちそうしてくれて」

「そんなさ、自分を下に見ない。」

「ニルさんなんかには分かりませんよ!何回努力しても報われないゴミと言われる人のことなんか!」

と机をドンッ!と叩いてしまう。


「ひゃ!ごめんなさい」

「あ、ごめんなさい!」土下座する。

「こっちが聞いたんだから。ね?だから顔を上げて?」

僕は本当に迷惑しかかけないゴミだな

「大丈夫?泣いてるの?」

「泣いてなんか…」

頬を触る。確かに泣いてるのか。僕

「うわぁぁぁぁ」

そこから僕は涙が枯れるまで泣いた。横ではニルさんが背中をさすってくれていた。


ようやく泣き終わる。

「ごめんなさい。ニルさん。情けない所を見せてしまって」

「そんなことないよ。失礼なことを聞くんだけど…」

「大丈夫ですよ。情けない所を見せてしまったのでニルさんの質問ならなんでも答えますよ?」

「じゃあ!なんで君はこんな夜中に町を歩いてて、死にたいとかそんなことを思ってるの!?」

「それは…分かりました。話が長くなりますけど聞いてくれますか?」

「本当にいいの?辛かったら無理に話さなくても…」

「いいんですよ。むしろ聞いてくれますか?」

「はい。」

「じゃあ僕が物心ついた頃から話しましょうか」

~~~~~~~

僕はある男爵の息子として生まれました。

僕が生まれたのと引き換えに母さんは亡くなりました。なので母さんの顔は見たことがないです。

僕が物心ついた頃には僕と同じ歳の異母兄弟がいました。

母さんが亡くなった後父さんは側室の義理の母親と一緒に暮らすことになりました。

僕は小さい頃から義理の母そして大きくなると異母兄弟にまでいじめられるようになりました。

最初は優しいものでした。割れた花瓶を僕のせいにされたり、ご飯が僕のだけ少なかったり。メイドさんや執事さんもいましたが、誰も助けてくれる人はいませんでした。

助けようとしてくれたメイドさんがいましたが、翌日クビにされてしまいました。

それからは誰も助けてくれる人はいませんでした。僕よりちょっと年上の優しい正義感のある人。僕はあの人の人生をめちゃくちゃにしてしまった…また枯れていたはずの涙が落ちる。

すいません。それでも父は無関心で何もしてきませんでした。

それを見た母と異母兄弟からの嫌がらせはヒートアップしました。

僕を毎日働かせ、できてないとムチで叩かれたり、異母兄弟の剣術の授業を見たくて覗きにいったらそれが執事にばれ、また義母からムチで叩かれ、

1回剣を渡された時ははしゃぎました。けどそれは違くて、何にも習っていない僕と異母兄弟で真剣を使った勝負をされて、

足とか腕とかを切られて、ヒールされての繰り返しでした。

ひどいですよね。それ用に宮廷魔術師を呼んでるんですよ?

まぁその人も義母の浮気相手でクズでしたけど。

ニルさんの顔を見る。涙目になってる。

「ごめんなさい!ニルさん。話が重すぎましたね!」

「いいよ。まだ君の話聞きたい」

「いいんですか?」

「いいよ。」

「分かりました」


それから7年間ほどこのような地獄の日々が続きました。

それでやっと12歳になり貴族学院に入れる年齢になりました。

父も一応男爵の息子だからと入れてくれました。

これでやっと義母や異母兄弟から抜け出せると思ったんですよ。けど現実は上手くいくはずがなく、異母兄弟が柄の悪い奴らと一緒になって僕を標的にしていじめられました。

それでもここでは剣術や魔術を習えるから。

いくらでもあいつらに対抗出来ると思ってました。

結果は剣術も適正なし。魔術も若干ありましたがアイツらの足元までには到底及ばず、

ますます標的にされました。ゴミとか言われて

けど、悪いことばかりじゃないんです。

僕は記憶力がいい方だったので勉強は学年でベスト10に入るほどありました。

それで父にこのことを報告しても、何も言われず、異母兄弟のことばかり褒めてました。

「お前は剣術ができてすごいなー」だとか

「魔術も使えるのかー」とか。終いには「ゴミと違ってすごいなー」って言われました。


もうこの人は僕と僕の母も邪魔なのかと思いました。もともと母はお見合いで結婚したらしいです。

それから家には1度も帰っていません。けど学院でのいじめは卒業の22歳まで続きました。あー学院は初等、中等、高等合わせて10年ありますね。6年目くらいで担任していた先生が助けてくれたんですけど、相手が貴族ということもあって辞めてしまいました。けどその人は今は12歳未満の子どもたちに勉強を教えてるってほかの先生に聞きました。

それから僕は異母兄弟に男爵の地位を譲り、宮廷文官になりました。

仕事場では優しくしてくださり、その中で知り合った、文官の中でも地位が高い人の娘さんと結婚しました。

「え?」

「どうしたんですか?あー今は指輪も取られて離婚しています」

はまっていない左手の薬指を見せる。

「良かった〜う、うん!どうぞ続けて」

最初の部分が聞こえなかったけどまぁいいや。


出会った当初はちょっぴりワガママなところがかわいいと思いました。

結婚後は、子供はもうちょっと後で今は仕事に集中したい。お金も将来のために貯めておきたいと言いましたが、彼女はそんなをお構いなしにブランド物や宝石アクセサリーなどにめちゃくちゃ使われました。

さらに半年くらいたってから仕事場の知り合いに独身の侯爵と仲良く夜歩いているところを見たと言われました。

そのころから薄々気づいていたのですが、また自分の所に帰ってきてくれるだろうと思い、知らないふりをしていました。

そしたら急に

「離婚しよ、侯爵と結婚するから」

と全財産持ってかれ、家も追い出され、仕事場も文官の偉い人がお父さんなので圧力をかけられクビに。こうして今に至ります。

~~~~~~

「っていう感じですね」

再びニルさんの顔を見る。泣いてる!?

「すいません!本当にごめんなさい!僕がこんな話するべきじゃなくて…」

と急に抱きしめられた

「頑張ったね。もう大丈夫だよ。」

やさしく包み込んでくれた。

なんか懐かしいいい匂いがする。

うん?懐かしい?

「もしかして…昔僕のメイドさんでした?」

聞かなきゃ!つい口が動いてしまう。

「そうだよ君のせいでクビになったメイドさんですよ?」

え?この人が…確かに昔僕よりちょっと年上で縦の猫耳があった。

「ごめんなさい!ごめんなさい!僕はあなたの人生をめちゃくちゃにしてしまった!ごめんなさい!ごめんなさい」

僕は何度も土下座した。途中で顔を上げてとか聞こえてくるけど、土下座しても償いきれない。

「そうだ。ニルさん。僕を奴隷にさせてください。そうすれば…」

「いい加減にして!」

ニルさんを見る。余計に泣かせてしまった。やっぱり死で償おう。そう言おうとした時、

「あなたはゴミでも、奴隷でもなんでもない!なんで私が君を助けたと思う?それは君が好きだったから!大好きな人がムチで叩かれたりしてるところを見るなんて耐えられなかった!だから助けたんだよ!」

僕もまた泣いてしまう。これは悔し涙なんかじゃない。嬉し涙だ。

今まで誰も助けてくれなかった。けどこの人は昔も今も僕を助けてくれた。

「ごめん、辛かったよね。よく耐えてきたよ」頭を撫でられる。


しばらく僕はまた泣いた。

「ニルさん。」

「うん?」

「僕を拾ってください」

「いいよ。拾ってあげる!」

昔の明るい笑顔と変わらない。

この人のことを好きになってしまってもいいのか。

翌日から僕はギルドマスターの秘書として働き始めた。

幸い宮廷文官の頃よりも仕事が簡単なので、全部自分で終わらす勢いでこなしていく。

「そんなに気を張り詰めずにしさ。ちょっとお話しない?」

とお茶を出される。

話によるとニルさんはあの後Aランク冒険者になってやめようとしたらこの仕事を勧められたらしい。

「そうなんですねー。」

「そう。だから君のおかげでもあるんだよ?」

「僕のおかげですか?」

「あの時君を助けようとしたから今があるから」

「けど僕を助けようとしなければあのままメイドとして雇われてたんですよ?」

「嫌だよーあんな所ー」

「確かに」

と、笑い合う。

もっとニルさんと一緒にいたいと思ってしまう。

伝えよう。好きだってことを

そこから行動は早かった。あのクズのところから全部とはいかないが、だいたい返して貰えた。

ギルドで知り合った体格のいい人何人か連れてったら、あいつと侯爵が腰を抜かして

渡してきた。

もちろん酒場で全額奢った。

それでそのお金でプロポーズ用の婚約指輪を買った。合わせて金貨20枚といった所だが、まだ余りに余る。これからの新婚旅行や結婚式用にとっておこう。

そして1週間くらいたった今日夜プロポーズしようと思う。

けど今はまだお昼で、ニルさんは友達とお茶してくるといった。まぁ下の階の所だからすぐ何かあったらいける。

「あ、これニルさんのハンコがいるなー」

ハンコを探すが見つからない。

仕方ない。迷惑かもしれないけど直接本人に聞くしかない。

下の階に向かうと、お友達とお茶しているニルさんを見つける。

やっぱり綺麗だよなー。飲んでいる姿も昔とは違ってなんか色気があるというか。


昨日話してて

「そういえばニルさんは彼氏さんとかいたりするんですか?」

「ぶぅー!」

「大丈夫ですか!?すみません仕事中に聞いてしまって」

「大丈夫。ありがとう。私は昔も今も君のことが好きだからいたことなんていないよ?」

「そ、そうですか/////」

聞いた方が恥ずかしくなるってあり?

なんてことがあった。

と思ってるとニルさんに大声で話しかけられる。

行くと、今日お友達と僕の歓迎会をするらしい。ニルさんのお友達を紹介される。

お友達のセーナさんはなんか僕のことが嫌いみたいだ。

けどニルさんは口調がそうなってるだけで本心は違うと言われる。

本当なのか?と思ってると夫という人が来たらしい。見ると僕より背が低く、年下らしい。

年齢を聞くと16らしい。

「これからよろしくお願いします!リリ兄さん」と言われる。横では

「かわいいなー♡」と本人に聞こえないようにつぶやいているセーナさんがいる。

確かにアルくんは弟みたいな感じがする。明るくて、優しそうな感じがする。

仲良くなれそうだな。

そういえば今日夜歓迎会をする?うん?

マジかー!?

え、僕の予想では仕事終わりにプロポーズする予定だったのに。

まぁニルさんが言ってくれたことだし、ここは勇気をだして言うしかない。

~~~~~~~~~~~~~~~

1度解散してから夜また集まった。ギルドのバーかレストランで迷ったみたいだが、僕が

「レストランがいいです!」って言ったのでレストランにしてもらった。

バーだと余計緊張しちゃう。

歓迎会が始まると向かい側の席に座っているアルくんが質問してくれたり、気軽に話しかけてくれる。

ちなみに席はニルさんと僕が。向かい側にセーナさんとアルくんが座っている。

横ではニルさんとセーナさんが話している。

ニルさんの息が聞こえる。

「リリ兄さん?リリ兄さん!」

「あー!ごめん!すみません!定員さん!」

コップを落としてしまい、中に入っていた水がこぼれてしまう。

「リリったらーおっちょこちょいなんだからー」

と手伝ってくれた。

やっぱりこういう優しいところは昔と変わらない。


歓迎会も終盤に近づいてきた頃、そろそろしようと思う。

「じゃあ今日はもうお開きにしましょうか」

とニルさんが立ち上がる。

「待ってください!」

「ん?どうした?」

「ニルさん!あなたのことが大好きです!僕と結婚してくれませんか?」

と指輪を見せる。ちなみにこれは本で書いてあった。ディアスではなかなかないプロポーズの仕方。けどこれの方がしっくりとくるからやってみた。

ニルさんの顔を見ると急に泣き出してしまった。

「ごめんなさいニルさん。やっぱり僕が…」

そうだ。人生をめちゃくちゃにされたやつからのプロポーズなんて普通に考えたら嫌だよな。

「違うの!嬉しくて…けどいいの私君より年上だし、もう今年で30になるんだよ?」

「関係ないです!ニルさんが僕を救ってくれて、ずっと一緒にいたいと思ったから。だから僕と結婚してくれませんか?」

横ではセーナさんが何故かアルくんに抱きついている。恥ずかしいよな目の前でプロポーズしてる人見ると。

「全然いいよ!よろしくお願いします!私の旦那様!」

「はい!絶対幸せにします!」

こうしてプロポーズは成功できた。

夫婦円満の秘訣はアルくんに聞いてみよう。


《本編と内容が同じになる部分がありましたがこれからもリリとニルは出てきます。リリ視点やダブルデートも本編に入れる予定なので是非本編も見ていただければ嬉しいです(*^^*)》

読んでいただきありがとうございます(o_ _)o


















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