響く校歌の合唱に俺の声は入っていない
白川津 中々
■
三月一日、卒業。
泣き笑いするクラスメイト。互いに過ごした三年間について語り合い、これから先にある未来を夢見る初年少女。感動的なシーン。しかし俺には縁のない話だ。
入学して三年。友達などできず、休み時間はひたすら寝たふりをかまし時間を潰していた。放課後休日は誰と交わる事もなく孤独にwebラジオのネタを考える日々。採用された事など一度もないが、それくらいしか趣味がない。後はゲームと漫画とアニメを人並みにといった感じ。そこに介入してくる人間は一人もおらず、ただ俺一人の世界が構築されていた。
「三年間ありがとう」などと熱い涙を流す人間達とは明らかに質が違う存在。卒業という高校生活の終焉を前に一つも心動かされず冷めきてっているのは、思い出などありはしないからだ。ただ、授業で何かをやった。修学旅行ではこれをした。文化祭、体育祭を行ったという結果の記憶しかない。皆が共有する、喜楽の感情が湧きあがった青春の一ページは、俺だけ真っ白となっている。
「卒業しても遊ぼうね!」
「私就職するから、初任給でラーメン奢るね!」
「ラーメンてwwwもっといいもの奢ってよwwww」
「たかるなwwwww」
まったく関りの無かった女子の会話が聞こえる。
彼女たちは卒業後もまだ交友が続くと固く信じているようだ。
高校で出会い、別れていく。その中で生涯続く友情を結べる人間がどれだけいるかは知らん。けれど、一瞬でもそれが存在している思えるのであれば、仮に錯覚や勘違いであっても、幸せな事だろう。どちらもなかった俺だからこそ、羨ましく、また尊く思える。
俺は、誰とも何もなかった。
それだけの三年間だった。
俺の世界は未だ、俺しかいない。
令和三年。三月一日。
俺は高校を卒業する。
出会いも分かれも、ないままに……
響く校歌の合唱に俺の声は入っていない 白川津 中々 @taka1212384
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