第7話 那月のご飯

さて、皐さんは今頃お仕事頑張ってるんだろうなぁ。


きっと、お腹を空かせて帰ってくるはず。


僕は、腕に縒りをかけてご飯の準備をすることにした。しかし、冷蔵庫を開けたとき、僕は絶望した。


酒とつまみしか入ってない。


皐さん、普段は『完璧』が似合う女性なのに、突然ポンコツが顔を出す。そこがまた魅力的ではある。


「これだと、買い出しに行った方がいいかな?」


時間を見る。うん、まだ行ける。幸いにもスーパーはここから徒歩10分。先生が仕事を終えて帰って来ても、間に合うはず。


僕は急いでスーパーへ向かう。


ここのスーパーは僕もよく使うので、店員さん達とも仲がいい。


「あら?那月くん、かわいいエプロンしてるわね?」


「えっ!?」


エプロンしてるの忘れてたぁぁぁ!!

でも、今更外すのも恥ずかしいので、僕はこの羞恥心に耐えることにした。


「今日はお野菜が安いよ」


「ありがとうございます、おばさん」


野菜が安いのかぁ。


ふむふむ。にんじん、じゃがいも、軒並み安いな。うん、肉じゃがにしようかな?


豚肉は、あった。


2人分ならこんなもんかな。僕は、2人分の材料をカゴに入れていく。


「あれ、那月くん。今日は少ないのね」


「え、えぇ、今回は2人分で足りるんで」


「もしかして、彼女?」


「ち、ちち、違いましゅ!あぅぅ」


「本当にかわいいわねぇ。こんな彼氏がいるなんて相手が羨ましいわ」


「揶揄わないでください、もう」


僕は、無事に買い物を済ませると、急いで皐さんの家へ戻る。よし、まだ帰って来てない。


早く準備しちゃおう。



ーーーーーーーーーー


買い物から帰ってきた僕は、手を洗うとそのまま料理に取りかかる。


肉じゃがは僕の得意料理の一つだ。皐さんも好きだといいなぁ。


ジャガイモまでしっかり味が染み込むように、しっかり煮込まないとな。


僕はもくもくと料理を作るが、なかなか皐さんが帰ってこない。


「どうしたんだろう?残業かなぁ?」


そんなことを考えていると、玄関の方で音がした。


ガチャガチャッ


「あ、帰ってきた!」


僕はおたまを片手に、玄関へ向かった。


「ただいまー、ぶっっっ!!!」


「お帰りなさい、皐さん」


なんだか、すごく驚いた表情の皐さんは、口を手で押さえている。ほんのり頬を赤く染めていてすごく可愛い。


「すぐに夕飯出来るので、お部屋で待っててくださいね」


僕は皐さんから鞄を受け取り、部屋の方へ通した。綺麗になった部屋を見て感動した様子の皐さん。


あぁ、この顔を見られただけで、やったかいがあったなぁ。皐さんが腰を下ろしたの確認するとキッチンへ戻って夕飯の支度をする。


ご飯の支度は、ほぼほぼ出来上がっていたので盛り付けをして持っていくだけだ。僕は、ご飯を盛り付けようとするが、食器が・・・。


「一人暮らしだと、食器は一人分しかなくても仕方ないよな」


仕方ないと思ったが、紙皿などないか確認することにした。


「すみません皐さん。紙皿とかありますか?」


「紙皿?あ、那月の食器か。ふふふ、ちゃんと用意してあるぞっ!」


そう言って、皐さんはクローゼットから紙袋を取り出した。紙袋の中には、2人分の食器が入っていた。しかも、どれもペアになっているようだ。


「皐さん、これ可愛いですね!」


「だろ?那月が好きそうだなと思ってな。気に入ったか?」


「はいっ!すっごく気に入りました!」


お茶碗や箸、コップなど、全て僕が好きな猫のイラストが描かれていた。それに皐さんとお揃いだ。


僕は食器を一度洗ってから、ご飯などの盛り付けをする。


「皐さん、出来ましたよー」


「お、待ってました。って、こりゃすごいな」


「へへへ、ちょっと頑張りました」


今日のご飯は、肉じゃがに、味噌汁、茄子ときゅうりの炒め物、炊き込みご飯だ。肉じゃが以外は簡単なものだし、気に入ってもらえればいいな。


「那月、早速だが食べてもいいか?早く食べたい」


「あ、はい。じゃあ食べましょうか」


「「いただきます」」


僕は皐さんの反応を見ながら、肉じゃがに手を伸ばした。ふむふむ、上々の出来だ。これなら大丈夫かな?


ちらっと皐さんの方を伺うと、ふにゃっとした笑顔で肉じゃがを味わっている。


「これは、美味いな。いや、美味すぎるぞ」


「それはよかったです。どんどん食べてください」


「あぁ、ありがとう」


それから、ご飯に舌鼓を打ちながら黙々とご飯を食べた。


ーーーーーーーーーー


私は、大人として、恋人として失格かもしれないが、那月のご飯が美味しくてたまらない。


「ふぅ、那月のご飯が美味しいのは、普段のお弁当で知っていたけど、こういう家庭料理はさらに美味いな」


「それはよかったです」


むむむ、普段のお弁当に、夕飯まで。どうお礼をすればいいのか?

あれ?そういえば、うちの冷蔵庫にこんなに食材入ってたっけ??


「那月、もしかして買い物に行ったのか?」


「はい、流石に食材が足りなかったので。だめでしたか?」


那月は不安に思ったのか、目をウルウルさせながらこちらを見つめてくる。


「い、いや、ダメじゃないさ。ちょっと気になっただけだ。だから、そんな目で私を見ないでくれ」


「そんな目って?」


やばい、那月と二人でいると変な気分になってくる。いや、別に付き合っているのだから構わないのでは?


ちらっと那月の方を見てみるが私が色々考えている間に、那月は目の前にいなかった。どうやら、後片付けをしてくれているようだ。


ふむ、やっぱりご褒美は必要だよな。うん。そう、ご褒美だ。これは決してイチャイチャしたいとかそんなことじゃない。


そんなことを考えていると、片付けが終わった那月が部屋へと戻ってきた。


「片付け終わりましたよ、皐さん」


「そうか、ありがとう。ちょっとこっちに来てくれ」


「ん?はい、でもそろそろ帰らないと」


「あぁ、すぐに終わるさ」


そろそろ時間も遅くなってきたし、送ってあげないとな。でも、その前にちょっとくらい・・・いいよな。


ドンッ!


私の隣に座った那月を、勢いよく押し倒した。


「さ、皐さん!?」


「那月、今日はありがとう。それと、日頃のお弁当も」


私たちは顔が当たりそうなギリギリの距離で会話をしている。那月は、あたふたと落ち着きがない。ふふ、私の彼氏は可愛いな。


「これは、お礼だ」


「んむっ!?」


私は、那月の口を優しく塞ぐ。いつもより、優しく、じっくりと。どれだけの時間が経っただろうか?顔を真っ赤にして悶える彼氏に、悪戯心が芽生えてしまう。


私はTシャツの中に手を忍ばせると、那月の体を刺激する。とろとろになった那月の顔を見ると、愛おしくてたまらなかった。


「さ、皐・・・さん」


「可愛いな。でも、今日は時間がないから・・・」


流石に遅くなってしまうから、そろそろ潮時だと思い、服から手を抜いて那月から少し離れる。しかし、ここであるものに目が奪われる。


そ、そりゃそうだよね。


流石に可哀想か・・・。


「すぐ終わるから、じっとしてるんだぞ」


「えっ?あ、あの、皐さんっ!?ちょっ!?」


初めてだったから、うまく出来たかわからないが、那月の反応とすぐに果てた様子を見るとうまく出来たのだろう。私は思ったよりもSっ気が強いようだ。ふふふ、学校でも少し悪戯してみようかな。


那月を家に送り届ける車の中で、私はそんなことを考えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

先生は今日も僕を甘やかす クロネコ @kuroneko0402

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ