M嬢の物語

浅野浩二

第1話М嬢の物語

(1)

その年、私は大学を卒業して、ある都内の会社に入社しました。元来口ベタである上にドモリがあり、特に女の人の前ではどもってしまうのです。おなじ課で、私より一年先輩の優子さんは何故だか私に親切にしてくれるのです。分からないことを教えてくれたり。昼、一人で自分の席で弁当を食べていると、いきなり私の隣の席について、

「はい。これ。どうぞ。」

と言って、お茶を入れてもって来たりするのです。私があせって、

「ど、どうもありがとうございます。」

というと、彼女は

「純さんてまじめでえらいわね。」

と言って、クスッと微笑んだりします。私には、どうして彼女が私に好意をもってくれるのか、わかりません。きっと私が無口で内気だからでしょう。ある時、彼女が私のところにやってきて、

「今晩、いっしょにお食事しませんか。」

と言いました。レストランで私がうつむいて食べているのを彼女はニッコリ笑ってみながら、食べていました。私は内心、明るくてきれいな彼女に好感をもっていたのですが、彼女は私をどう思っているのか分らず、ともかく食事に誘ってくれたりするのですから、私に好意をもってくれていることは間違いなさそうと思うのですが、女性が男に本気で恋したら、もっとそれは、切なさ、や、恥じらいから遠慮した言い方になる、のでは。そうでないのは、友達のような感覚、彼氏ができるまでの一時的なつきあい、私の内気さを、からかい半分のような気持ちなのかもしれません。本命の彼氏ができるまでのタイクツしのぎ、なのかもしれません。私は自分自信を顧みても、どこにも自分が女性に好意をもたれる理由を見つけられません。女の心をとろけさせるような美形でもないし、性格も臆病でクライ。彼女の口ぶり、からも私に対する「恋愛」の感情は感じられません。もしかすると、彼女は私に親しくすることで、私の、彼女に対する「思慕」を募らせて、私が真剣な「告白」をしたとき、みなで笑いものにするコンタンなのかもしれません。そんなことになったら、私の弱い神経ではとても耐えられない。それで私は、彼女に告白できぬまま、彼女が持ち出す話題にあたりさわりのない相槌を打つだけでした。でも、少なくとも私にも一つ、女の好意を引く点があるのかもしれません。それは私があまりに内気なため、対等な男女関係がもてないため、相手の女性に、この男なら安全だ、と思われる点、ではないかと思います。この男ならテキトーに付き合って、ふってもしつこく付き合いを強要する、ことなどなさそうだ、とみえる点は私の唯一の長所かもしれません。実際私は引っ込み思案で、恋したことは何度もありますが、すべて、心の中での片思いでした。そんな悶々とした気持ちの中での、ある日のこと、彼女に誘われて、彼女の車で、レストランへ向かっている時でした。

「あっ。そうそう。レストランもいいけど、今日は私の手料理はどう。」

と言いました。私が小さな声で、「はい。」と言うと、彼女は元気よく、ハンドルを自宅のマンションの方へと向けました。

   ☆   ☆   ☆

彼女の部屋に入り、食卓につくと、私はただただ緊張のあまり、赤面して、膝をカタカタさせていました。女性が自分の部屋へ男性を招く、そして男がそれを諒解する、しかも、付き合っている間柄で。これはもう、双方合意の諒解です。普通の男ならいきなり女をおしたおす場面でしょう。しかし、私にはそういうワイルドな男性らしさが全くない。もしかすると、「レイプされた」といって訴えないかわりに慰謝料を要求する気なのかもしれないと思っていました。彼女がつくってくれたピザを食べ終わると、私はまた、もとのように、うつむいていました。ちょっとここまでいくと被害妄想的だと自分でも思っています。しかし、ともかく私が彼女に諒解を求めて、彼女が拒絶したら、これまた私は、その恥ずかしさ、に、耐える勇気もありません。そんな私の不安を見透かしているかのように彼女は、

「大丈夫よ。純さん。考えすぎよ。私がそんな性悪な女にみえる?」

と言ってクスクス笑います。彼女はさらに続けて言います。

「もう、かくしごとはやめにして本心を言うわ。確かに私は純さんの、しつこくなさそうな性格に目をつけて、いつでも別れられる、一時の付き合い友達にできると思ったことは事実なの。普通の男の人にこんなことをヌケヌケと言ったら、おこる人も多いわね。ごめんなさい。でも、もう一つ、別の理由があるの。」

と言った後、彼女から朗らかな様子が消え、まるで今までの私の態度のように、

「あ、あの…。」

と口唇をピクピクと恐怖に震わせながら、切り出そうとしますが、なかなか切り出せず、それが彼女をますます赤面させていきます。しかしとうとう彼女は思い切りをつけて、「ある別の理由」を語り出しました。

「わ、私、実はマゾなんです。」

と言って彼女は赤面して続けました。

「これはもう物こごろつく頃からあって、生まれつきのものなんです。子供の頃から私の性的な夢想は、いつも、裸にされて、縛られて、みじめの極地にされることでした。中学になってはじめてSMという言葉を知って自分はマゾなんだな、と思い知らされました。古本屋で勇気を出してSM雑誌を買って家でそっと項をめくった時には自分だけの夢想と思っていたものが、現実に行われている、と知ってとてもショックを受けました。引出しの中に隠しておいたのですが、学校から帰ってそれをみる度に、だんだん羨望が募っていきました。私も彼女たちと同じようにされたい、と。でも私は中学生で、世間のことはまだ全然分りませんでしたし、そんな写真が全国にわたって、万一知人に知られたら、とてもとても私には耐えられるものではありません。本当に発狂してしまうかもしれません。二十歳を過ぎてもプライベートなSMプレイというのも、したい、と思いながらも出来ませんでした。というのは、たとえ遊びであっても、いじめられることは、こわかったんです。演技であっても、あらっぽく女性をいじめて快感を感じられる人っていうのは、いくらプレーの中だけ、といっても、そういう心があるからでしょう。ワガママで無神経な男にいじめられっぱなしっていうの、いやなんです。人をいじめて満足してるような無神経な男の人はイヤなんです。でも私のマゾの度合いは、とても強くて、激しいくらい強くて、うんとうんと惨い、いじめをされたくてしかたがないんです。それで…。」

といって彼女は頬を赤らめて、

「失礼で、申し訳ないんですけど、純さんに目をつけたんです。純さんならやさしそうだし。人をいじめることに快感を感じるような性格でもなさそうだし。私、純さんにうんと酷くいじめられたいんです。どうでしょうか。私をいじめてくださらない。こんな下心をもって近づいてきた悪い女をこらしめると思って。」

と言いました。私は正直なところ、今までわからずに悩まされてきた彼女の心を知れてほっとしました。また私が、彼女の異常な性欲をマンゾクさせるための道具のような役割、というのが、私に対する彼女の思い、というようなことが分っても、別に腹が立つどころか、むしろ無上にうれしく思いました。何はともあれ、彼女は私を選んでくれたのですから。しかもそれは私の「人格」に対してであり、私にとっては、片思いの女性の傍にいられる、ということだけで無上の幸福なのですから。彼女は私に、

「純さん。いい? 私をいじめてくれる? それともイヤ? そんな変なことするのイヤ?」

と聞きます。私自身はSMの心理というものはよく分らず、心の内に、あこがれている人をみると、ただただ矮小化してしまい、ムチ打ったり、虐めたりすることなど想像ですら恥ずかしくて出来ません。想像の絵画の中に、私という人物を入れることなど、臆病な私にはとても出来ません。ビキニ姿を想像するだけで、頭がボーとなり、下腹部が膨隆してきます。なのでSなどというおそろしい心はとてももちあわせていないことは、間違いありません。むしろ、恋する人に仕えることや、その人の持ち物を想像すると、いいようなく興奮するのですから、M的な心理はわかります。しかし、優子さんのような激しい自虐的な心理は理解できません。恋した時に、誰にでもおこるような軽いMの心理は、分ります。が、自己破壊的な、はげしいMの心理というものは分りません。しかし、ともかく彼女と付き合ってもらえるのであれば、何でもありません。私は小声で「は、はい。」と言って小さくうなづきました。すると彼女は、

「わー。うれしー。夢実現!!」

といって、跳び上がってよろこびました。

「もうこれで一人で悩まなくてすむー!!」

といって目をパチクリさせて、神仏に感謝するかのごとく手を組んだりするようなよろこび具合です。彼女は、

「ねえ。みてみて。」

といって私の手を引いて、隣の部屋に私を連れて行きました。そこには何やら拷問用の木馬らしきものがあります。

「これ。私がつくったの。休日、裸になって、手を後ろで組んで、木馬に跨って、悪漢につかまって責められる想像にふけってたの。でも一人での想像じゃ、やっぱりむなしくって。それに一人じゃ自分で自分を縛ることも出来ないし…。でも、これからは純さんに本当に縛られて、想像じゃない、本当の木馬責めにかけてもらえるのね。」

と彼女はうれしそうな口調で言います。私は思わず、彼女が裸になって一人、木馬にのっている姿を想像して勃起しました。また、今まで激しい性欲を一人むなしく自慰していた彼女が何ともかわいそうにも思われました。彼女は、それ以外にもくすぐり責め用の毛筆、麻縄、鼻輪、などの小道具を並べて見せて、自分で毛筆で脇をくすぐってみたり、鼻輪をつけて、紐でひっぱってみたりして、あらん限りの方法で自分をみじめにしていたことを話しました。

「私をいじめてくれる人がほしい。でもこわい。本当にやさしい人で、思いきり私をいじめてくれる人っていないかしら、ってずっと待ち焦がれていたの。」

「それで、純さんをはじめてみた時、ついドキンとしちゃったの。この人には本当のやさしさがある。この人になら身を任せられるって。でも、もしかすると私の変な願望を話したら、気味悪がってしまうんじゃないかって、不安もあったの。私、今日ほど幸せな日、生まれてはじめて!!」

「純さんにいじめ抜かれることを想像すると、もうワクワクしちゃってるの。」

彼女は一方的にしゃべった後、

「ねえ。純さん。こんな私を知って嫌いになった? 嫌いになったら、今からでもあきらめるわ。私、最初に、私をいじめてくださらないって頼んだ時、純さんが嫌そうな顔でなく、肯いてくれたことだけで十分過ぎるくらいうれしいの。もし、こんな変なこと、嫌だったら、今まで通りの普通のお付き合いでもいいわ。これからは純さんにいじめられることを想像して出来るから、ずっとマンゾクできるわ。」

「ねえ。純さん。こんな私、嫌いになった? 遠慮なさらなくていいのよ。」

私は答えました。

「とんでもありません。私をそこまで信頼して下さっていたなんて、私の方こそ無上の幸せです。でも私は気が小さいから、優子さんをいじめることなんて出来るだろうかって心配してます。」

というと彼女は、

「うれしー。ありがとう。本当にありがとう。」

と言ってギュッと私の手を握りしめます。

「これから私、純さんのドレイです。うんといじめぬいて下さい。泣き叫んでゆるしを乞うてもかまわずいじめ抜いて下さい。」

「そ、そんなこと言われても、憧れの優子さんに、はたしてそんなことができるかどうか。」

と私がためらいのコトバを言うと、

「いいの。私の命はもう純さんのものです。」

と言って、

「責め、の本もありますから参考にして下さい。純さんも気に入ってくれる責め方もあると思います。今度お会いする時には、竹や乗馬ムチ、とか、滑車、とか、もっと、責め、の道具をそろえておきます。」

彼女は子供のようにウキウキしています。彼女は、責め、の相手を見つけて有頂天のようでしたが、何を私がしてもいい、というなら、いじめないで、マッサージしたり、優しく髪を撫でたりするというのでもいいんだよな、とも思っていました。玄関で、

「今日は本当にどうもありがとうございました。」

と、先に言ったのは私の方です。玄関に向かう途中、先手をとろうと心の中で準備していたからです。

   ☆   ☆   ☆

その日から、私の心は上がりきっていました。

翌週の昼休み、私は始めて自分の方から声をかけて彼女を社内の喫茶店に誘いました。私がヘドモドして、

「この前はありがとうございました。」

と微笑みかけると、彼女は、

「いやです。私、気が変わったんです。もうあなたとの付き合いはおしまいにして下さい。」

と、ピシャリといって、レジをもって立ち上がると、私をのこしたまま、立ち去って行きました。私はガクゼンとしました。夢が一夜にして崩れ去ったような。しかし、ことが、ことですし、彼女のためらいの強い性格から、嫌気がさしてしまったことも十分わかり得ることです。気が変わると、最高の快感が最悪の嫌悪感に変わってしまうことは十分察しがつきます。その夜、勤務が終わると私はトボトボと家路へ向かいました。すると、後ろから車が小さな軋り音を立てて止まりました。彼女の白のカリーナでした。彼女はドアを開けると、「乗って。」と言います。その口調は昼間とは違う、きわめて明るいものでした。私が入ると彼女は人が変わったような陽気な口調で語り出しました。

「へへ。純さん。ゴメンなさい。昼の時のこと、全くのウソ、お芝居なの。あの日から気が変わったことなんか一度もないわ。でも、あんまりうれしすぎて。会社でも親しくするのって月並みすぎて、これから会社では、どういう顔で接しようかなって思って。会社でも親しくする、と、緊張がなくなっちゃうでしょ。だから会社ではあくまでビジネスとしての付き合いとして、二人きりの時は豹変した関係、というようなジキル博士とハイド氏のような、二面性にしたほうが面白い、と思ったの。いきなりおどかしちゃって御免なさい。こんな悪い女、お仕置きしようって気持ち、うんと起こして。」

私は天国に上り詰めたり、地獄に落とされたり、何か彼女に翻弄されているような気持ちになり、今、言っていることも彼女の本心かな、と思いました。もしかすると本当はイヤ気がさしたことがあったのかもしれないし、少し積極的になった私をピシャリと拒否して、私の出方を見ようという考えがあったのかもしれない、とも思いました。立場の弱い女性にはそれは当然のことのようにも思います。黙っている私をみて、それを察したのか、彼女は、

「へへ。純さん。ごめんなさい。ウソは言いません。いきなり純さんをおどかして、その反応をみてみたいという気持ちはありました。でも純さんがどうでるかは100%の確信で予想できていました。それを実感してみたかっただけなんです。不安感から、試してみたい、という気持ちはありませんでした。それと、純さんがしょげてさびしそうに帰る姿をみたくって。」

「いいです。優子さんがまた付き合って下さると言って下さっただけで十分幸せです。イヤになったらいつでもすてて下さい。」

「ごめんなさい。純さんて本当に控えめな方なんですね。今度の土曜、きっと来てくださいね。楽しみに待っています。」

と言いました。私が車から降りると彼女は勢いよく車を走らせました。

   ☆   ☆   ☆

 土曜になり、私は約束通り彼女のマンションへ行きました。どうなるものかとそれまで私は内心ヒヤヒヤしっぱなしでした。彼女がつくってくれた食事を食べながら彼女は言います。

「ふふ。こうして普通に向き合って会話しているのに、これから私だけ裸にされてみじめにされるのね。ゾクゾクしちゃうわ。」

彼女は食事がすむと、

「ちょっと待ってて。」

と言って隣室へ行きました。戻ってきた彼女をみて、私は真っ赤になりました。彼女は露出度の高いセクシーなハイレグの下着姿で来たからです。海で女が男を挑発するような。私は海に一人行くことがありましたが、何度、彼女達の姿に悩まされたことかしれません。

「さあ。純さん。私を吊るして。そしてムチ打って。」

と言って、彼女は天井につけられた滑車の下に立ち、立ち縛りにされて、鞭打たれることを要求します。しかし、私にはとてもそんなことをする勇気はもてません。彼女のビキニ姿をみているだけでビンビンに勃起して、それだけでもう十分マンゾクでした。私が黙っていると、

「私に恥をかかさないで。おねがい。」

と、ひれ伏すような口調で言います。しかし私がためらって決断できないでいると、彼女は強い、皮肉っぽい口調で、

「そう。やっぱりダメなのね。こんな変なこと。じゃあ、もうお付き合いも終わりですね。」

と言います。彼女にふられてしまうのでは大変なので、

「わ、わかりました。いたします。」

と私はあわてて言いました。

「ふふ。」

と彼女は笑いました。

「ふふ。きりふだね。」

と言います。確かにそのセリフは彼女にとって決定的に有利な、そして私にとって決定的に不利な「切り札」のセリフです。

「純さん。座って。はらばいになって。」

と言います。私は彼女に命じられることは、むしろうれしいので、「はい」と言って、どうするのかギモンに思っていると、

「手をだして。」

と言います。どうするのかな、と思っていると彼女は玄関からハイヒールをもって来て履き、いきなり私の手の甲を、ヒールで踏みつけてきたのです。しかも体重を全部のせて。私は痛み、に、こらえきれず、

「ああー。」

と悲鳴を上げました。

「私をいじめてくれないバツよ。」

と言います。これは女王様とM男の図です。しかし、無上にしたっている彼女にされているのですから。苦痛の中に私は快感さえ感じていました。Mの快感とはこういうものなのか、と思いました。しかし、彼女はMを強く訴えたのに、こういうサディスティックなこともためらうことなく楽しんでいる様子が感じられ、Sの性格もあわせもっているのかもしれない。と思いました。もしかすると彼女はMなのではなくSで、私をいたぶりたい、というのが本当の彼女の願望で、Mを装って私に近づいてきたのかもしれない、とも思いました。すると彼女がみせた木馬や、責めの道具は、すべて私に向けられることになるのかもしれない。彼女が訴えた激しい責めがすべて実は私に向けられることになるのかもしれない。しかし、私はそれでも一向にかまわない、という心境になっていました。今の彼女のヒールの本気の痛みを受けても快感さえ起こったのですから。彼女は私をだましたのだ。でもかまわない。しかし、私が彼女の責めにどこまで耐えられるか、耐えられなくなったら、ひたすらひれ伏して許しを乞おう。と思っていると、彼女は予想に反し、

「ゴメンなさい。純さん。いきなりひどいことをしちゃって。」

と言ってヒールをおろしました。

「私、純さんをいじめたい、なんて思っていません。でもやさしい純さんのことだから、私を本気でいじめてって言ってもきっとすくんでしまうと思ったの。だからこうして純さんをシゲキとして少しいじめて、私を本気でいじめる口実と感情を起こさせたい、と思ったの。私の本性はMです。安心して。」

「いえ。いいです。今、踏まれて気づいたんです。私がいじめられる方があってるって。本気で踏まれて、快感が起こったのですから。」

「そういう純さんだから安心して身を任せられるんです。今のいたずらを本気にしないでね。」

「でも、切り札のセリフは本当かもしれないわ。」

と言って彼女は、

「ふふふ。」

と笑いました。私は何か少し彼女に対する躊躇の気持ちに、踏ん切りがついたような思いでした。いきなり踏みつけることで彼女に対する私の煮え切らない気持ちを捨てさせようとした彼女の作戦通りなのです。私も少し彼女に笑顔をつくって話せるような気持ちになってきました。

「では、優子さんをいじめたらその後、仕返しに今のように私もいじめ返してください。それならば何とかできる様な気がしてきました。」

と言いました。

彼女は座って立て膝になり、手で前を覆いながら、自らパンティーを抜きとってしまいました。そして同様にブラジャーもはずし、覆うもの何一つない丸裸になりました。彼女は両手を後ろにまわすと、

「さあ。純さん。縛って。」

と言って背中で手首を重ね合わせます。私は彼女に言われるまま、彼女の手首を縛り、縄尻をとりました。彼女は覆うもの一枚ない丸裸という格好で手を後ろで縛られたまま、立膝で何とか下を見られないように立て膝で脚を寄り合わせています。女は男と違って、裸で手を縛られても、脚をピッタリ閉じて、重ね合わすことで最も恥ずかしい部分をかろうじて隠すことができます。しかし、お尻までは隠せません。覆うもの何一つない丸裸という屈辱的な姿勢になっても、それでも最恥の部分は死守しようと力んでピッタリと脚を寄り合わせている姿。それはなんとも言いようなく艶かしく、私は頭に血が上り、モヤモヤした気分になってきました。

「おねがい。みないで。」

と彼女は言ったりします。彼女自身の、彼女の想像の性欲のイメージの自分を満足させるための哀願のコトバだと思いますが、私をモヤモヤした気分にさせるため、もあるかもしれません。実際私はモヤモヤしてしまっているのです。私は子供の頃から、単なる女のヌード写真をみても勃起したことはありません。むしろきわどい水着姿に興奮します。それと、最も興奮させられるイメージというのは、女性が裸にされて縛られて、必死で男の淫靡な視腺から身を守ろうと、むなしい、あがき、をしている図でした。私の性向として、女性をムチ打ったり、責めたりすることには、とてもこわくて想像でも出来ませんでした。恥ずかしがって困っている女性の姿が最も私をシゲキしました。テレビの時代物でも、女性が縛られて、悪役に縄尻をとられて歩かされている場面を見ると何とも下半身がムズムズしてきてしまうのです。私が悪代官になって、女性を裸にしたい、という欲求もありましたが、それ以上に、縄尻をとられて、おびえている女性の姿態と、困惑した表情に無上のエロティックな美しさを感じてしまうのです。

彼女はハードな責めを願望しましたが、そういうソフトなMの願望もあるに違いありません。

「純さん。さあ。私をどうか立たせて、部屋の中を引き回して下さい。」

と言って彼女はゆっくりと立ちあがりました。1mくらいの感覚で縄尻をとると、彼女は引き回されているかのように、シズシズとゆっくり歩き出しました。背中の真中で華奢な手が縛められ、その下ではムッチリした豊満な尻が歩くたびに左右にプルプルとゆれますが、その尻を見られたくない心理もあるためでしょう、ピッチリと尻を閉じあわそうとして力んでいるため左右の肉が、押し合わされて、谷間の割れ目がよけい、くっきりと強調されて見えます。彼女は、

「あん。」

と言って、わざとか本当か、つまずいて、そのまますくんでしまいます。そのときピンと縄尻の手応えが伝わり、何か私は彼女の演技のうまさに引き込まれ、彼女を引き回す悪代官の嗜虐的な快感のようなものが徐々に生まれてきました。

私は自分の官能の欲求が、困惑している女性が放つ美、に、懊悩する、受身から、行為者の能動的なものへと少し変わっているのに気づきました。私の臆病な性格に、加虐心を起こさせようとの彼女の意図に見事に私はかかってしまいました。彼女はうずくまったまま、

「あん。ゆるして。」

と言って泣きそうな、おびえた顔をこちらに向けます。立ち往生、ならぬ、座ったままでいるわけにもいかず、私は、

「さあ。立って。」

と言って、彼女の縄尻をグイと引きました。彼女の巧みな演技で刺激されていなければ、「立って。」という命令的なコトバは言えなかったでしょう。「立って下さい。」とも言えず、彼女が自分の意志で立つまで座りこんでしまったでしょう。こうして私はだんだん彼女の演技に引き込まれていくようになりました。私に命じられて、彼女は、

「はい。」

と言って、ソロソロと立ちあがりました。部屋を一回りして、はじめの場所に戻ってくると、彼女は再び座りこんで脚を寄り合わせ、ピッチリ閉じて、体を震わせて、裸の縛めの屈辱に耐える姿をつくっています。彼女の媚態は私にとって強力な強精剤となってしまい、私は彼女に飛びついて、むしゃぶりつきたいくらい、私の一部は、はちきれんばかりに怒張し、みなぎっていました。彼女の傍らには、さっき彼女が自ら脱いだセクシーなハイレグの下着があります。私の本能を押さえる理性は限界を超していました。私はそのことを表明するようにことさら声を大に、

「もう。がまんできない。」

と言って彼女のパンティーをとると餓えた野獣が肉をあさるように彼女の、特に女の部分が当たるところに鼻を押し当てて、一心にむさぼり嗅ぎました。彼女は、

「いや。」

と言って顔を赤らめて、首を振ります。つい、「いや。」というコトバが彼女の口から出たので、私は少し躊躇しそうになると、彼女は、

「いいのよ。本気にしないで。何をしてもいいのよ。また、この部屋にある物は何でも、自由に使って下さいね。」

と言います。私は安心すると同時に、再び、押さえられない興奮に襲われ出しました。私は再び彼女のパンティーに鼻を当てました。彼女は、

「ねえ。純さん。私、少しおなか空いてしまって何か食べたいの。でも手が使えないから自分ではなにも出来ないわ。何か食べさせて下さらない。」

と言うので私は食卓にあったコーンポタージュスープをレンジで温めて、もって来ました。彼女の傍らに座ると一瞬、食事のために彼女の縛めを解こうかという気が起こりましたが、それを彼女は察したらしく、

「うん。縛られたままじゃ飲めないわ。食べさせて下さらない。」

と鼻にかかったあまい声で、ねだるように言います。私がスープをスプーンですくって、彼女の口元までもっていくと彼女は口を大きく開けます。私はこぼれないように注意して口の中にスープをそそぎこみました。ゴクリと飲みこむのをみると何とも彼女が生きた人形のように思われてきて、愉快な気分になります。彼女は、

「もっと。」

とねだるので、

「はい。口を大きく開けてアーンして。」

と言ってスープを飲ませました。

「ねえ。吊るして下さらない。」

と彼女が言います。もう私は彼女の要求に躊躇する心境はなくなりました。彼女は両手首を頭の上で縛ってほしい、と言うので、いったん後ろ手の縄を解き、頭の上で両手首をはずれないようしっかり縛りました。そして彼女に言われて、洗面所からヤカンを持ってきて、結び目に水をかけました。水を含んだ縄は収縮して固くなり、自力ではまずはずすことが出来ない状態となりました。天井を見ると梁に滑車がとりつけられてあります。

「あれに縄のあまりを通して、つま先立ちにして下さい。」

と言います。私が滑車に縄のあまりを通して、引き上げていくと、否応なく、だんだん彼女は立たされていきます。両腕がピンと張るようになって腋下が丸見えになり、形のいい胸があらわになります。もともと胸の隠しはありませんでしたが、後ろ手で縛められても女性にとっては胸も恥部の一つですから、前かがみになって、肩で覆うようにします。見えてもあらわ、からは守れる。精神的には隠している、という心理が起こります。しかし、吊るすと背はピンと張らされ、胸は隠しようなく、全貌があらわになってしまいます。尻も前の最も恥ずかしい所も同じです。つま先立ちの立ち縛り責め、は、苦痛と同時に、いや、それ以上に女にとって耐えがたい羞恥責めでもあります。彼女は、

「ああ。おねがい。みないで。」

と言って腿を寄り合わせようとします。全裸で立ち晒しになっても、最後まで最も恥ずかしい所は隠そうとする女の抵抗の姿はなんとも艶めかしく、いじらしくみえます。隠す覆いが全くなくなっても脚の寄り合わせによって、かろうじてギリギリ最後の秘所だけは隠せるところに女の体の構造の苦しさ、つらさ、が、あります。

「ああ。純さん。恥ずかしくて、みじめだわ。でもこのみじめさ、がたまらないの。冷蔵庫に、飲み物やおつまみがありますから、どうか、みじめな私をとっくりと笑って下さい。」

彼女に言われるまま、私は冷蔵庫へ行きました。酒は飲めないのでジュースと、つまみ、をもって来ました。彼女は前面を避けようと、側面に向けようとしたりしますが、側面では、ヒップにつづく美しい下肢の姿がまちうけていて、それを見られるのも、これまた恥ずかしく、結局、特定のポーズを固定してしまうことは全裸を見られることに対する抵抗のあきらめ、であり、見られたくないという気持ちがある以上絶えず一定のポーズから逃げるように、体をモジつかせなくてはなりません。その姿は一層かえって逆に女性を艶めかしい、苦しい、恥じらいのショーにしてしまいます。彼女はとうとう脚の疲れに耐えきれなくなって、

「ああ。純さん。おねがい。」

と哀願的な口調で言いました。

「何でしょうか。」

と私が聞くと、彼女は顔を真っ赤にして、

「ああ。純さん。どうか何か、身につけるものを。贅沢はもうしません。どうかお慈悲を。箪笥の中にバタフライがありますから、せめてそれを…つけることをお許し下さい。」 

と身をくねらせて言います。

「はい。」

と言って私は箪笥の中を探すと、女の最低限の所を隠すだけのハート形の小さなピンクのバタフライがありました。その覆いには腰に取り付けておくために三方に糸がついているだけでした。これではお尻も丸見えで、本当に女の最低限だけを隠すことしか出来ない覆いです。私がそれを彼女に取り付けると、彼女は、

「ありがとうございます。お慈悲を下さって。」

と言って、

「さらに要求するあつかましさをお許し下さいましょうか。」

と言います。

「何でしょうか。」

と聞くと、彼女は真っ赤にした顔をそむけ、

「ど、どうか。胸にも。箪笥に、小さいビキニのブラジャーがありますので。どうか、それもお慈悲で。」

と言います。引出しを開けると、確かにそれらしきものがありました。しかしそれはブラジャーというにはあまりにも、胸を隠す部分が小さく、ほんの乳首だけを隠すような、胸のバタフライとでもいうような物でした。私はそれも彼女に取り付けました。彼女は上下の最低限を隠せた安心感から、ほっとして、

「ありがとうございます。」

と深く頭を下げました。彼女はもう、最低限を隠す必要がなくなって、私の正面を向いて、うつむいています。後ろからみれば、お尻は丸見えで全裸同様です。私はただでさえ女性のビキニ姿に最も興奮する上に、最低限のバタフライの姿になった彼女に、かえって欲情を制止できなくなり、見栄も外聞も忘れ、彼女の腰に抱きついて、

「ああ。優子さん。好きです。もうガマンできません。」

と大声で言いました。彼女のつま先立ちがつらそうなので、私は、縄の張りを少し緩め、踵が床について、疲れないようにしました。私はむさぼるように彼女の体のあちこちにキスしました。

「純様。つま先立ちを許してくださってありがとうございます。どうぞ遠慮なさらず、好きなように責めなぶって下さい。」

と丁寧な口調で言いますがとてもそんなことできず、返答に窮していると、

「隣の部屋に乗馬ムチがありますから、思う存分ムチ打って下さい。」

と言います。が、

「そ、そんなこと、できません。」

と言うと、

「それならば、くすぐり抜いていじめて下さい。この前お見せした毛筆が二本、ガペンも隣の部屋にありますので、くすぐり抜いていじめて下さい。」

と言います。私はくすぐり責めならば、痛みも、キズもつかないし、それならばやってみようと思いました。しかし、くすぐり責め、は、触覚の敏感な人にとっては大変つらい責め、であり、江戸時代には立派な拷問法の一つです。彼女は、

「純さん。立ったまま責めるのはお疲れになるでしょう。椅子をもって来てどうぞそれに腰掛けて責めて下さい。」

と言います。私は椅子をもって来ました。

「どうすればいいのでしょうか。」

と私がとまどっていると、彼女は、

「好きなようになさって下さい。両方の脇の下をくすぐって下さい。そこが一番つらいんです。私が耐えられなくなって、許しを求めても、泣き叫んでも無視して下さい。」

と言います。

彼女に言われたように、私は隣の部屋から、毛筆などの小道具を持って来ましたが、どのようにしたらいいのか分らず、躊躇していると、彼女は、

「さあ。いじめてください。やさしい純さんの心を、もてあそんだり、ヒールで踏んだりした悪い女です。」

と言います。が、どうしても、思いきりがつかないでいると、彼女はそれを察したかのように、

「鼻の穴を洗濯バサミで挟んで牛のように鼻輪をして下さい。そうすれば、きっと純さんもフンギリがついて、いじめれる心境になれると思います。」

と言います。私は、おそるおそる彼女の鼻の穴に、洗濯バサミをを入れて、そっと手を離しました。洗濯バサミのバネの力で、キュッと彼女の鼻がはさまれました。私はこれは、うまい手だな、と思いました。いきなり、「ムチで打って。」と言われても、すくんでしまったでしょうが、洗濯バサミなら、私の意志と別に、独立して彼女を、いたぶりの状態に出来るのですから。そして、これは、痛さと同じに、みじめ、に、おとしめる責めでもあります。鼻は顔の中でも気品をあらわす個所であり、その鼻に洗濯バサミをとりつけると、美しい女性が、あたかも鼻輪をとりつけられた家畜のようになった様な気もしてきます。彼女は首を振って、

「ああ。みじめだわ。こんな姿、恥ずかしくって、とても人には見せられないわ。でも、そのみじめさがいいの。手を縛られているから、自分ではどうにもできないわ。裸同然の格好にされて、こんなことされているなんて、友達がみたら、どんなに笑うことかしら。」

とか、

「今までは、自分でとれたけれど、今は自分ではとれないもの。うれしい。」

などと喜びの告白をします。心なしか、彼女の目に涙さえ浮かんでいるようにも思えました。私は思わず彼女の均整のとれた体を我を忘れて食い入るように見つめていました。女性にとって最羞の部分である、秘部と乳首を小さなハート形のバタフライを貼りつけてあるだけで、全裸と変わりなく、むしろその小さな覆いは全裸より一層男を挑発し、悩ませる覆いであり、彼女も見られていることを意識してか、秘部に視線が固定するのを恐れて脚をモジつかせます。紐だけで繋がれたバタフライは、自分の意志で身に着けている覆いというより、加虐者の意地悪なフザケによっと取りつけられた覆いであり、それは、かえって被虐者をもてあそんでいる道具にすぎず、豊満な胸、といい、キュッとしまった腰のくびれといい、その下に続くしなやかな脚線といい、あまりに美しく、この世にこれ以上、美しい形、というものがあるだろうかと、美しい芸術品を鑑賞するように、しばし陶然として、ボーと見惚れていましたが、いつしか私は我を忘れて彼女の前に屈み込み、ピッタリと、男を惹きつける色香を発散している女の最も女である部分にくっついたバタフライに、吸い寄せられるように、その部分を固唾を呑んで凝視していました。それをみて彼女は紅潮して首を振り私の視線を払おうと脚を左右に振ります。するとそれはクネクネとした一層男を挑発させる腰の動きに見えてきて、私は一層見入ってしまっていました。後ろに廻るとお尻は丸見えで、バタフライを繋ぎ止めておくための糸の一つは、割れ目に食い込んでいるように見え、糸の褌をはいているようにも見え、それもかえって、みじめさをつくるだけに見えます。糸でもかろうじて覆いであり、それにすがろうとする気持ちがかえって女性を苦しめて、臀筋に力を入れてピタリと閉じ合わせ、もどかしそうに尻を左右に振ります。

「あん。いや。そんなに見ないで。」

と、鼻にかかった声で言います。尻は大きく、弾力があって、視線から避けようとしても、避けようがなく、こればかりは見られることを諦めるしかなく、それが女性を苦しめます。「ああ。みじめだわ。こんな姿、人が見たらなんて言うかしら。こんなみじめな目にあうなんて死にたいくらい恥ずかしいわ。でもそれがいいの。純さん。みじめな私をうんと笑って下さい。」

と言って尻をモジつかせます。私は耐えられず、

「ああ。優子さん。好きです。」

と言って、彼女の弾力のある尻にしがみつきました。

「ああ。いや。」

と言うのもかまわず、そのムッチリした二つの肉の盛り上がりに顔を推しつけると、柔らかい弾力が戻ってきます。私は耐えられなくなって、前に廻り、腰をしっかり掴んで、顔を谷間にうずめるようにバタフライに鼻先を強く押し当てました。

「ああっ。いやっ。おねがい。」

と彼女は激しく首を振りますが私はもう無我夢中でそこを貪り嗅ぎました。すると彼女に特有の色香がむっと嗅覚に伝わってきました。しばししてやっと落ち着きを取り戻し、私は彼女の腰から顔を離しました。すると彼女もほっと一息ついて落ち着いた表情になりました。

「鼻の洗濯バサミ、痛いでしょう。とります。」

と私が言うと、

「ええ。少し。でもいいんです。こうされていることがうれしいんですから。純さん。みじめな晒し者の私を笑ってください。」

私は立ち上がって彼女の洗濯バサミをとりました。

「ああ。純さん。お慈悲をありがとうございます。」

と彼女は言います。我を忘れて均整のとれた彼女の体をじっと眺めていると、彼女は顔を赤くして、

「ああ。純さん。そんなに見ちゃいや。恥ずかしいわ。でも幸せ。私、子供の頃から、ずっとこうされたかったの。うんと困らせて。私、子供の頃から、テレビでもマンガでも、多くの人に寄ってたかって、どうしようもなく、いじめ抜かれ、笑われている場面を見ると、いじめられてる子がすごくうらやましかったの。なぜだか分らないわ。純さんはなぜだか分りますか?」

「いえ。わかりません。」

「こんな変な女、嫌いになった?」

「いえ。とんでもありません。一層好きになってしまいました。」

「私のこの変な性格、人に言わないでくださいね。」

「いいませんとも。」

と私は誓うように、声に力を込めて言いました。

「純さん。」

「はい。なんですか。」

「私、恥ずかしい告白を全部してしまったわ。でも純さんは恥ずかしがって警戒しているわ。純さんも何をしてくださってもいいのよ。私も誰にも言わないわ。」

私が黙っていると彼女は、

「おねがい。私に恥をかかせないで。」

と言います。私が躊躇していると彼女は、

「ごめんなさい。無理な注文をしてしまって。一方的に私の妄想の世界に引きずり込んでしまって、それを聞いて下さって、それだけでも十分幸せなのに、無理矢理、純さんの告白を要求するなんて。私、ワガママ過ぎるわね。純さんには純さんの立場がありますものね。ごめんなさい。今の要求は取り消しますので忘れて下さい。」

さらに彼女は語を次ぎました。

「ごめんなさい。気になさらないで。一方的に見られる、というのもすごくみじめでうれしいんです。」

(2)

 私は確かに彼女の言う通りだと思いました。確かに一方的に彼女に恥をかかせてしまうというのはずるい。精神的にも肉体的にも、恥をかいているのは彼女だけであって、自分は彼女に要求された、という口実で、うまい汁だけ吸っているというのは、ひきょうだ。という気持ちが強く起こってきました。私は立ち上がり、彼女の背後に廻って、肩を掴みました。

「ごめんなさい。優子さん。一方的に恥をかかせてしまって。確かに優子さんの言う通りです。女の人に一方的に恥をかかせっぱなしにするなんて男として最低です。僕の告白も聞いて下さい。」

と言って私は話し出しました。

「僕も優子さんをはじめて見た時から心臓がドキンと高鳴りました。親しくしてくれるにつれ、思慕は一層つのりました。何度も寝苦しい夜を過ごしました。僕の優子さんに対する夢想は、せいぜい、優子さんのビキニ姿どまりです。僕は気が弱いので、女性を犯すことは、想像でも、とても出来ません。優子さんが身に着けている物がほしい、と、悩まされていました。優子さんに踏まれた時は、優子さんにいじめられたい、とも思うようにもなりました。僕は、子供の頃から、困っている女性の姿を見ると、すごく興奮してしまう性格があるんです。でも、自分が手をかけたいという気持ちはありませんでした。その場面に興奮してしまうんです。でも優子さんの、演技も混じっていると思いますが、困っている姿、を見ているうちにだんだん優子さんのような人になら、自分も悪代官になって、女の人を困らせたい、という気持ちが起こってきました。」

「ありがとう。」

と彼女は言いました。

「優子さん。それじゃ、いじめあいっこにしませんか。一方的にいじめる、というのはどうも出来にくい。それでは私の気がすみません。私が優子さんをいじめたら、その後、優子さんがマンゾク出来るだけ、私をいじめる、というのはどうでしょうか。」

「ありがとう。純さんてやさしいんですね。でも、そうしなくてもいいの。双方の合意があって、双方とも快感を得ている、といっても、いじめている人の方がずっと多く搾取していることは間違いないと私は思います。いじめる人には、肉体的なキズはつきませんが、いじめられる人には傷痕がつきますもの。でも純さんの場合は、私がいじめられることに、私が一方的に快感を得ているだけですもの。貸借関係はありません。私が受け取っている分の方がずっと多いんですもの。気になさらないで。」

「それは違います。私は優子さんから快感を貪ってしまいました。僕の気がすみません。」

というと彼女は、

「じゃあ。私もちょっと純さんをいじめちゃおうかしら。」

といって、「ふふ。」と笑いました。私は、

「はい。そうしてください。」

と言いました。私は心にフンギリがついた思いがしました。もしかすると私は、このような関係にしようとした彼女の最初からの計算に、まんまとひっかかってしまったのかもしれません。でももう運命共同体です。もう心をすべて明かしてしまった以上、ためらい、も、消えてしまいました。彼女は笑って、

「ふふ。純さんの秘密きいちゃった。人に言っちゃおうかしら。私ってけっこう口が軽いかもしれないわよ。」

などと言います。

「そんな事されたんじゃたまらない。それじゃあ、責めますよ。覚悟してください。」

と言うと、彼女は、「はい。」とカンネンした口調で言いました。私は毛筆を二本とると、彼女の背後に立ち、両脇をそっとくすぐり始めました。両手首を縛られて吊るされているのですからこれでは逃げようがありません。彼女は触覚が敏感とみえて、毛筆が触れたとたんに、「あっ。」と言って、身震いして必死に毛筆から逃げようとします。彼女がどれほどつらがっているかは、頭の上で縛められた手をギュッと握りしめ、足指を力強く、挟んだりして、何とか、つらさ、を、そちらに逃がそうとしている様子でわかります。

「お、おねがい。純さん。ゆるして。」

私はかまわず、くすぐりつづけました。だんだん拷問者の快感が私に起こってきました。私は責めるのに良い口実を思いつきました。そしてそれは本当に私に分っていなく、知りたい事実なのです。私は一時、くすぐりの筆を休めました。

「優子さん。本当は私をいじめたいと言う気持ちもあったんでしょう。」

と言うと彼女は、

「いえ。決してそんな気持ちはありません。私がいじめられたかっただけです。」

「それにしては、いきなりヒールで踏む、というのはおかしいじゃありませんか。事実、結局、いじめあいっこという条件になってしまっているじゃありませんか。優子さんは、最初からこういう関係にしようと思ってたんですね。」

「いえ。決してそんなことありません。」

「いえ。信じられません。何か、僕はだまされてしまったような気がしてます。本当のことを言ってください。白状するまで責めつづけますよ。」

と言って、私は再び毛筆を彼女の両脇に当てました。彼女は身を震わせて、

「ああ。ゆるしてください。」

と全身をゆすって訴えます。だんだん彼女の息は荒くなっていきました。私の口調は、だんだん拷問者の強気な口調になることに抵抗を感じなくなり始めました。

「さあ。白状して下さい。」

と私は責めつづけます。

「純さん。」

「なんですか。」

「お、おねがいがあるの。」

「なんですか。」

と、私は言いました。彼女は頬を赤くして、言いづらそうな困惑した表情を作っていましたが、おそるおそる、ためらいがちに口を開きました。

「あ、あの。尿意がしてきたんです。」

本当かどうか分りませんが、彼女は脚をピッチリつけ、足踏みするように下肢をモジモジさせています。演技かもしれませんが、もしかすると本当かもしれない。くすぐりの、もどかしい刺激は反射的に尿意を起こさせることは生理的にも事実なのですから。尿意があるというのを無理に続けるわけにはいきません。もらしてしまって床が濡れてしまってはかわいそうです。

「おねがい。耐えられない。」

と、彼女は、油汗を流しながら、身をよじります。

「わかりました。じゃあ、今、縄尻を解きますので。」

と言って、つなぎ止めてある縄尻を外そうとしました。すると彼女はあわてて、

「あっ。まって。」

と言って制し、

「ごめんなさい。本当は尿意は起こってないの。どうぞ責めつづけてください。」

と言います。私はまんまと彼女にいっぱい食わされた自分を自覚して恥じるとともに、私より一枚上手な彼女に舌を巻きました。人間は、分らないところに魅力があります。一体彼女の本心は何なのか。人を翻弄しているのか、それとも誠実なのか。現に私は彼女に翻弄されているようなものですが、しかし同時に私は翻弄されていることに、うれしさも感じていました。そして彼女の本心を言わせるために責めてみたいという気持ちが本気で起こりました。すべて彼女の念入りな計算に、まんまと私がはまっているのかもしれません。しかし、彼女には誠実な性格があることも間違いない、とも確信しています。そもそも、いじめられたい、と思う感性は、人をいじめてよろこぶ無神経な感性とは正反対の、弱く、美しい感性です。どっちが翻弄されているのか分らない。しかし私はもう細かく考えることをやめようと思いました。これほど魅力のある謎の人に翻弄されていることは無上にうれしいのですから。私が彼女の心を揣摩憶測するより、私は私の思いに忠実になれば、それでいいのだ、と思いました。私は彼女の肩を掴んで抱きしめました。彼女は肩をゆすって、

「あん。純さん。私は悪い女です。やさしくしないで、いじめてください。」

と言います。

「優子さん。私はあなたの心の底は分らない。責め、を利用してあなたの本心を聞き出そうかとも思いました。私はまんまとあなたの思惑にはまってしまったのかもしれない。でも、それはもうどうでもよくなりました。あなたのような魅力的な人に翻弄されるのなら無上の幸せです。」

そう言ってさらに私は、

「では私も手加減しませんよ。好きなことをさせてもらいますよ。」

と言うと彼女は、

「はい。」

と小さく肯きました。私は後ろから両手で彼女の胸を掴みました。掴むというよりは、手で彼女の胸をブラジャーのように覆ったという程度です。彼女の胸のふくらみの感触を私はしばし、我を忘れて浸っていました。私にとっては、憧れの優子さんにこんなことが出来るとは夢のような思いでした。こんな機会をまたもつことが出来るのか、もしかするとこれが最後かもしれない。慎重な私はそんな心配も起こってきて、一生この感触を覚えておこうとじっと手をのせていました。彼女の胸の感触がかえってきます。彼女の両手は頭の上でピンと縛められているので、抵抗できません。私は自分が何か女性の部屋に忍び込んで、おびえる女性を縛り上げ、強姦している悪漢になったような気がしてきました。会社では体にピタリとフィットする制服のスーツ姿しか見ることができませんでしたが、はたして彼女も夏、海水浴場に行ったりするのだろうか、行くとすればどんな水着を着るんだろうか、セクシーな水着で男を挑発しようなんていたずらな心も持っているのだろうか、私はいつも会社で彼女をみる度にそんな事が気になっていました。しかし、私は床につくと、彼女がセクシーな水着を着て、胸を揺らしながら、天真爛漫の笑顔で、真夏の太陽のもと、波打際をかけていく姿が勝手に浮かんできて夢精してしまったこともあります。女性の胸は男の側から見れば、男を悩ませ、ひきつける魅力の房です。しかし、女性の側からすればそう単純ではない。女性に矛盾した二重の感覚を与える器官です。一つは男の視点に一致した男を挑発し、引きつけ、悩ましてやろうという天性のアクセサリーです。しかし、もう一つ、それとは正反対の否定的な一面も持っているはずです。それは女性が自分の意志で身につけている、いつでも着脱できるアクセサリーではなく、造物主によって押しつけられたアクセサリーであり、人間として行動する時、絶えず気にしていなくてはならない、厄介なものでもあるはずです。そもそも生物学的にも、女性の胸は自分の子供に栄養を与えるために存在する器官であるのに、男に乱暴に揉まれることにもその目的とプライドを持っているのですから、女とはかわいそうな存在です。私がそんなことを考えながら、彼女の胸を触っていると、彼女は、

「あん。純さん。恥ずかしいわ。ゆるして。」

と言います。

「だめです。優子さんは悪い痴漢にあってるんです。」

私はだんだん興奮してきて、息が荒くなってきました。しかし、もう彼女に性格を軽蔑されようとも、自分の思いをすべてさらけ出してやろうという開き直りの心境になっていました。私は片手を胸から離し、みぞおち、からヘソ、へと、体の上をゆっくりと下のほうに手を這わせていきました。この鈍行の目的地は、女性なら分るはずです。彼女は、

「ああっ。いやっ。」

と言いながら目的地に手が達することを何とか避けようと、腰の向きを変えようと身をくねらせています。しかし頭の上で手首を縛られて吊るされている以上、何をされても逃げる事は出来ません。目的地に達すると私は女の部分に胸と同じように手をピッタリと当てました。手のブラジャーと手のパンティーで覆っているようなかたちです。彼女のぬくもりが伝わってきます。

「どうです。痴漢に襲われている気分は?」

「い、言えません。」

「言ってください。言ってくれなければずっとこのままですよ。最も僕はずっとこのままの方がいいですけど。」

彼女がいくら腰を引いても私はピッタリと手をくっつけて離しませんでした。彼女も、ついに腰を引く抵抗を諦めました。ジーンと彼女のぬくもりが伝わってきます。

「優子さんは痴漢にあったことはありますか。」

「あ、ありません。で、でも…。」

「でも何です?」

私はもう心の内を知られることに抵抗を感じない心境になっていたので、むしろことさら本心を言ってやりたいという開き直りの心境になっていました。

「僕は電車の中で痴漢してみたいと思ったことはありません。もちろん、きれいな女性を見ると頭がクラクラしてしまうことは何度もありました。が、女性に訴えられて、社会的ハメツになることを思うと、とても気の小さい僕にはそんな勇気はありません。僕には女性が、美の化身に見えることもあれば、夜叉に見えることもあるんです。僕には痴漢する人の気持ちが分りません。勇気があるというのか、自制心がないのか。女性に手を捩じ上げられて、衆目に晒されることを想像すると、恐ろしくってとても痴漢などしたいという欲求なんか起こりませんでした。ただ、ギューギューずめの満員電車で、女性と体が触れると不可抗力であることをいいことに女性の体の柔らかいぬくもりを感じていたことは何回もあります。」

と私は彼女に後ろから抱きついたまま言いました。

「でもこうして痴漢のようなことをしているとすごく興奮してしまっているのですから、僕にも痴漢願望というものはあったんですね。それを優子さんが目覚めさせてしまったんでしょう。」

「もう僕は痴漢になりきります。」

そう言って私は彼女の乳首をキュッと掴んでみたり、腰のくびれをなぞってみたり、臍のごまをとろうとしたり、しなやかな脚を念入りに触ったり、揉んだりしました。そしてお尻の割れ目をスッとなぞってみたりしました。彼女は、

「あっ。いやっ。」

と言って、腰を前に突き出そうとしたので、私は待ってましたとばかり彼女の秘部に右手を当てました。彼女はあわてて腰を引きました。そのため閉じられていた尻の割れ目がパックリ開きました。今度は逃げられないよう左手を尻の割れ目にピタリと当てがって、逃げ場をなくしました。こういった行為は、私の心に秘めていたいやらしい欲望を彼女に行為で告白しているようなもので、彼女より私のほうがずっと恥ずかしい気持ちです。ずっとそのままの状態を続けていると彼女は耐えきれなくなって、

「恥ずかしいわ。」

と顔を赤くして言いました。

「どんなところがですか?」

と聞くと彼女は赤くなった顔をそむけました。

「痴漢にあったことはあるんですか。」

私は女性の痴漢に対する心理を聞きたい探求心から、やや、真面目な口調で聞きました。彼女は首を振って否定しました。

「純さん。私が恥ずかしいのは、はじめてでもありますけど、真面目な純さんにさわられているということがずっと恥ずかしいんです。痴漢にあったことはありません。でも満員電車で男の人と体が触れると複雑な心境でした。」

と私は告白しました。下を見るとピンク色のペディキュアの施されている彼女の美しい足指が目に止まりました。私は思わず責めの手を離し、彼女の足元に屈み込みました。

「美しい足ですね。ペディキュアがよく似合っていますよ。僕、女の人の足にすごく魅力を感じるんです。夏、サンダルでペディキュアのぬられた女性の素足を見ると、モヤモヤした気持ちになってしまうんです。」

私がじっとペディキュアの施された彼女のきれいな足指を見ていると彼女は顔を赤くして、

「あん。そんなに見ないで。」

と言ってもどかしそうに足をモジつかせました。

「でも見てほしいからペディキュアをするんでしょう。」

「い、いじわる言わないで。」

そう言って彼女はもどかしそうに足をモジつかせました。私は逃げようとする彼女の足首を掴んで、丹念に検査するように足指の股を一本一本広げてみたり、イヤ、イヤ、という彼女の制止を無視して、鼻を近づけてクンクンと匂いをかいでみたりしました。私は彼女の薬指を口そっとに含みました。彼女は反射的に、

「あっ。純さん。いや。そんなこと。」

と言いますが、私はかまわず、薬指から小指へと全部の指を、そして一方が終わると、もう一方の足へと同じことをしました。そして足を元に戻しました。彼女の立ちっぱなしの体重を支えている足がかわいそうに思えてきます。ある、不埒ないたずらが私の心の中で思いつかれました。

「優子さん。」

「は、はい。何ですか。」

「優子さんの美しい静止した姿を見ているうちに何か優子さんが美しい人形のように見えてきてしまいました。女の子の人形って、着せ替えて遊ぶものでしょう。」

「そ、そうですわね。」

と彼女はおそるおそるの口調でやむを得ずの同調の相槌を打ちました。

「僕、優子さんの水着姿がむしょうに見たくなってしまったんです。水着に着せ替えてもいいですか。」

彼女はコクリと肯きました。

「は、はい。私は純さんの奴隷ですもの。拒否する資格なんてありませんわ。」

「水着はどこにありますか。」

「引出しの下の段の中にあります。」

引出しを開けると幾組かの水着がありました。私はピンク色のビキニを取り出して、彼女の傍らに寄りました。

「じゃあ、ビキニを着けるためにバタフライをとらせていただきます。」

「は、はい。純様。で、でも。恥ずかしいんです。どうかお慈悲を。で、できれば後ろから、お、お願いします。」

と、消え入りそうな声で言いました。そういえば私は彼女の体つきは目に焼きつくくらい十分にみてしまいましたが、決定的な羞恥の部分は、まだ見ていませんでした。

「はい。そうします。見ませんよ。」

そう言って私は彼女の上下のバタフライを取り外しました。覆うもの一枚ない全裸になった彼女は、

「あっ。いやっ。恥ずかしい。」

と言って脚を寄せ合わせました。前は見られていなくても、脱がされるという行為は女性にとってこの上なく恥ずかしいものです。前に気まぐれで廻られたら、見られてしまうのですから。

「ふふ。困っている優子さんってとってもかわいいです。見てみたいな。でも約束は約束だからな。」

と言ってじらせたりします。

「そうだ。鏡台を前に置けばいいんだ。」

私はそんなことを一人言のように行って無防備の姿の彼女の時間を長引かせようとします。今までつけていたかろうじての覆いのバタフライでも覆いは覆いであり、それを体につけておく糸は、裸同然でも体を隠す衣類を身につけているという感覚を起こします。しかし、今は完全な全裸で、しかも立ち縛りの状態です。恥ずかしくないわけはありません。後ろからでも、あらわになった胸の輪郭が脇の下から、くっきり見えます。私はしばし、我を忘れて、彼女の全裸の後姿に見惚れてしまいました。

「お、おねがい。純さん。」

「何ですか。」

「お、おねがいです。」

と言って彼女は身を震わせました。彼女の、お願い、とは、聞かずとも分ります。しかしそれを口に出すのも恥ずかしいことは十分わかります。脱がされるのも恥ずかしいが、身につけさせられるのも恥ずかしい。他人による着脱は、もてあそばれている、みじめな感覚しか起こしません。私が行動を起こさないので、ついに彼女は耐えきれなくなったとみえ、

「ビ、ビキニを身につけさせてください。」

と声を震わせて言いました。私はビキニのブラジャーをできるだけ、彼女の肌に触れないように後ろからつけました。胸を覆い隠せて彼女は少しほっとした様子です。ある不埒な考えが私に起こり、私は座り込みました。しばししても行動を起こさない私に彼女は不安を感じ出し、

「み、水着をつけさせて下さい。」

と声を震わせて言いました。私はそらとぼけて、

「水着はつけたじゃありませんか。」

と開き直るように言うと、彼女は顔を真っ赤にして、

「し、下もお願いします。」

と消え入るような小さな声で言いました。

「上だけちゃんとつけて下がないのって面白い格好ですね。少し鑑賞させてもらおうかな。」

と意地悪を言うと、

「お、お願い。どうか下も。」

と、彼女はお尻をプルプル震わせて言うので、私は足をつかみ、片足ずつ水着を通して引き上げていき、ピチンと腰の位置で離しました。ビキニは尻の下がかなり露出されている挑発的な水着でした。しかし恥という観念は社会の共通意識によって造られるものなので、そこには恥ずかしさはさほど生まれず、彼女は完全な衣類をまとえた安心感からほっとした表情で、

「ありがとうございます。」

と言って、もう安全領域に入れた安心感から困惑の震えはなくなりました。他人によってつけられた屈辱は、いったん身につけてしまえばもうなくなり、かえって彼女は心なしか自分の水着姿を自慢するかのごときポーズをとっている感が見えました。彼女の顔から屈辱が消え栄光がもどりました。私は前に廻りました。縛められているとはいえ彼女に、もはや困惑はありませんでした。むしろ女の体の稜線がつくりだす美を見せつけて誇るプライドを満喫しているような様子です。私は思わず唾を飲んで、

「き、きれいだ。優子さん。美しすぎる。」

と言いました。彼女は小さく「ふふふ。」とゆとりの笑いをもらしました。

「優子さん。」

「何ですか。」

「優子さんは毎年、夏、海に行くんですか。」

「…。」

彼女は少し答えることを躊躇している様子です。

「どこの海へ、何の目的で行くんですか。」

と私が再度聞いても彼女は黙っています。

「言わないなら言うまで責めますよ。」

私は毛筆をとって彼女の背後に廻り、毛筆の先を無防備の両脇に当てました。触れたとたん、彼女は、

「あっ。」

と言って、

「お、おねがい。ゆるして。」

と言って体をプルプル震わせました。

「言えばやめます。言わなければいつまでも続けます。」

私は丹念に、最もくすぐったい腋下の窪みの所を執拗に擽りつづけました。彼女はとうとう耐えきれず、

「わ、わかりました。言います。言いますから、ゆるしてください。」

彼女はハアハアと一息ついた後、荒い呼吸がもとにおさまると、私の聞いた二つの質問に答えました。

「海は毎年行きます。出来るだけ遠いところへ。目的は体を焼く、というより裸に近い姿を多くの人に公然と見られたかったからです。」

「悪い人だ。そういう女の人の挑発的な姿がどれだけ男を悩ませていることか。そのことが気になって勉強が手につかず、第一志望を落としてしまった受験生だっているんですよ。」

「ご、ごめんなさい。」

「少しお仕置きしておきましょう。」

と言って私は再び毛筆を彼女の腋につけてゆっくりと刷きました。

ある不埒ないたずらのアイデアが浮かびました。

「優子さん。水着を着ていると海に来ているような感覚が起こりませんか。」

「ええ。少し。」

「じゃあ、ここは海水浴場です。優子さんは誰かに日焼け用オイルをぬってもらったことはありますか。」

「い、いえ。」

と彼女は顔を赤らめて言いました。

「じゃあ、僕が体中くまなくぬらせていただきます。」

「そ、そんな。」

水着のある箪笥の引出しを開けた時、コパトーンがあったので、私はそれを持ってきました。彼女のためらいを無視して私はコパトーンをたっぷり掌にぬって、彼女にぬり始めました。足首から腿へ。じっくり時間をかけて。私はオイルをぬるという口実に名を借りて、じっくり彼女の体を隅々まで、その感触を感じ取っていました。しなやかな腿からはゴムマリのような弾力が返ってきて、オイルを塗ることが、ただ触ることより、いっそう感触の記憶を頭に定着させ、私はエステティシャン、や、マッサージ師の微妙な役得とはこういうものなのだな、と思いながら丹念に塗り込んでいきました。下肢の前面を塗り終わると私は後ろに廻りました。

「安心して下さい。塗り残しの部分がないよう、くまなく塗りますから。」

そう言って半分近く露出されている彼女のお尻に堂々と触れていきました。

「あっ。い、いや。」

彼女の制止を無視して、尻の部分を塗り終わると、そのまま這い上がって行って背中をくまなくぬり、背後が終わると私は再び前に廻りました。今度は彼女の上半身を塗ろうと、良くくびれたウエストから腹全体へとくまなく塗り込んでいきました。

「縦長のかわいいお臍ですね。お臍の穴にもちゃんと塗りますから安心して下さい。」

などと表面は真面目な口調で臍の穴に執拗に塗り込んでいきました。

「あっ。い、いや。くすぐったい。ゆ、ゆるして。」

「だって塗り残しができたら良くないじゃありませんか。」

ブラジャーの境界線いっぱいまで塗ろうとするので手の甲が豊満な乳房の感触に触れるのを避け得ず、さらに腋下の窪みにまで丹念に塗りました。

「あ、ああ。くすぐったい。ゆ、ゆるして。」

私はオイルを塗るという口実で公然と彼女の脇の下を素手でくすぐる意図も含めて、ゆっくり塗り込んでいきました。彼女は耐えられなくなって、

「ああ。純さん。おねがい。ゆるして。」

と髪を振り乱して声を大にして言います。もうほとんど全身にくまなく塗ったので私はオイル塗りをやめ、彼女の真正面でドッカと座りこみました。私は彼女の体の感触の余韻に浸りながらあらためて彼女のビキニ姿に見入っていました。ビキニ姿を誇るつもりだったのが、隅々まで体をもてあそばれ、彼女はみじめそうな表情で、ガックリ首を落としています。しかし、塗られたオイルのため、体がテカテカ光り、私は何か美しい人魚の像を手入れしたような気分でした。しばしの間、私は彼女を美しい彫像を鑑賞するように我を忘れて見入っていました。これほどまじまじと女性の体を目前に見たことは始めてだったので、私は女性の体とは何と美しい形なのかとあらためて思い知らされたような気分でした。

「ごめんなさい。優子さん。いたずらしちゃって。今、拭きます。」

と言ってタオルのある場所を聞き、オイルを丁寧に拭き取り、もう数度タオルを水で絞って、完全にオイルを拭き取りました。私は彼女のビキニ姿をこうまで、まじまじと見る機会が今後あるだろうかという気持ちに襲われて、恥も外聞も忘れ、食い入るように、女の部分を見入っていました。すると彼女は私の視線がそこに固定しているのに気づき、

「あん。恥ずかしい。あんまり見つめないで。」

と言って脚を寄り合わせます。

「すみません。あんまり美しいもので。でも、ビキニって男に見られたいために着るんでしょ。」

「い、いじわるゆわないで。」

彼女にそう言われて私は視線を床に落とすと、彼女が脱いだ下着が目に止まりました。ある不埒なイタズラを思いつきました。

「優子さん。」

「何ですか。」

「せっかくつけた水着で申し訳ありませんが下着につけ替えさせてもらってもよろしいでしょうか。」

「私は純さんのドレイです。純さんの言うことにはさからう資格なんてありません。」

「それじゃあ。」

と言って、私は彼女の下着をとって彼女の背後に廻りました。私はビキニを外して再び彼女を裸にしました。彼女は着せ替え人形のようにおとなしく、されるがままになっています。私は下着をブラジャーから着ける意地悪をしないで、パンティーを先につけ、次いでブラジャーをつけました。彼女はほっと一安心したような様子でした。前に廻って彼女をみつめても、彼女は視線をそらそうとはせず、私の行為をやさしさ、と思ったのか、やっと落ち着いたというような様子でした。私が微笑むと彼女も僅かに微笑しました。

「やっぱり純さんてやさしいんですね。」

「そうみえますか。前は僕もそう思っていました。でも今はそんなにやさしい人間じゃないように思えてきました。むしろ意地悪な人間なのかもしれない。」

彼女はキョトンとしています。

「どうして僕が下着に替えさせたか分りますか。」

彼女は黙っています。私は彼女の後ろに廻って屈み、パンティーのゴムに両手をかけました。

「こうするためですよ。」

と言って私は彼女のパンティーをグイと引きおろしました。そして膝と尻の中間の中途半端なところで放置しました。安全に隠されていたお尻が丸出しになりました。

「ああ。いや。」

と言って、彼女は反射的に膝をピッタリ閉じ、腰を引きました。彼女は最羞の前を隠すため、必死で腰を引こうとしますが、そうすると尻の割れ目が開かれてしまうため、どうすることも出来ない、といった様子でプルプルと尻を震わせながら困惑しています。胸はブラジャーで隠されているのに下は丸見えで、パンティーは自分の意志で引き上げることは出来ず、この上なくみじめな格好です。

「ああ。純さん。おねがいです。」

「何のおねがいですか。」

私はそらとぼけた返答をしました。

「パ、パンティーを。」

「パンティーをどうするんですか。」

「パ、パンティーを元に戻して下さい。」

「ごめんなさい。優子さん。僕は優子さんのこの姿が見たくてこうしたんです。」

「お、おねがい。純さん。パンティーをはかせてください。」

と言って彼女は油汗を流しながら必死で腰を屈めようとしています。

「あんまり腰を屈めるとお尻の割れ目が開いちゃいますよ。」

「ああ。いじわる言わないで。ああ。みじめだわ。こんな格好、死にたいほど恥ずかしいわ。」

「でも優子さんの困ってる姿、とっても美しいや。美しいものを美しいままにしておくことは良いことなんじゃないかなー。」

私はそらとぼけて一人言のように言いました。

「ムチ打って。好きなだけムチ打って下さい。その代りどうかお慈悲でパンティーだけは元に戻して下さい。」

「こんなきれいな柔らかい肌、鞭打つことなんてとても出来ません。それより優子さんのこの姿が一番美しいや。じゃあ、しばらくとっくり鑑賞させてもらいます。」

と言って私はドッカと腰を下ろしました。彼女は私に対して横向きになって視腺から身を守ろうとしています。

「横向き、もきれいだ。いや、横向きが一番きれいなのかもしれない。」

などと私が揶揄的な独り言を言うと彼女はパンティーを中途半端に下ろされているという、惨めな姿をみられている屈辱に耐えようと、必死で腰を引いて、全身をプルプル震わせながら、

「た、耐えます。みじめですけど純さんの命令には逆らえませんもの。」

と声を震わせて言います。

「でも優子さんは、こうされることが嫌なだけじゃなくて、気持ちよさも感じるんじゃないですか。僕にはよく分りませんけど。」

彼女は顔を真っ赤にして、

「い、いや。いじめないで。」

と言いました。私は立ち上がって彼女のパンティーを引き上げて元に戻しました。

「あ、ありがとうございます。」

私は黙って再び座りました。しばしたって羞恥の気持ちが消えると、安心感から笑顔も生まれたらしく、

「やっぱり純さんてやさしいんですね。」

と笑顔を私に向けました。彼女の下着姿もいいものだな、と私は思ってしばし眺めていましたが、時計を見るともう九時をまわっていました。彼女は笑顔を向けていますが、いいかげん長時間立ったままで吊るされているのですから疲れているのは間違いありません。彼女も長年の願望がかなって、うれしいのだろうと思いますが、気分が乗ってきた私を慮ってくれているに違いありません。

「優子さん。疲れたでしょう。もうこのくらいにしておきましょう。」

と言って、私は吊りを解き、手首の縛めも解きました。彼女はお礼を言うと、

「純さん。すみませんが、ちょっと後ろを向いていて。」

と言いました。私が後ろを向くとゴソゴソと音がします。

「もういいわ。」

と言われて振り返ると、彼女は白のブラウスにアイボリーホワイトのタイトスカート姿で微笑んでいました。私は一瞬、「うっ」と喉をつまらせて、何ともいえない気持ちになりました。エロティックな感情は日常が非日常に移るとき起こりますが、その逆に非日常が日常に戻ったときにも起こるものだとつくづく思いました。普段着姿の彼女を見ると今までずっと裸近い姿だった彼女とが、頭の中で比較されてしまい、自分が、かくも美しい人に、本能のまま、はしたない事をしてしまったことがいやおうなく思い出されてしまいます。そして、もう手が出せないことに、ちょっぴり寂しさを感じるとともに、それと反対に、手が出せないことが女性の魅力だと思うと、何とももどかしい快感が起こりました。また、彼女も私にそういう気持ちを起こさせようとの魂胆があって、私に後ろを向かせている間に普段着を着て、いきなり日常に戻った姿を見せつけたのに違いありません。実際、彼女からは美の持ち主の優越感を見せつけて楽しんでいるような様子が感じられます。彼女に促されて私たちは食卓に向かい合わせに座りました。

「純さん。ありがとう。モヤモヤした欲求が解消して、とてもすっきりしました。」

私は恥ずかしさに耐えきれず、彼女の足元に土下座して、床に頭をつけ、

「ごめんなさい。ひどい事をしちゃって。お願いです。どうか存分にけって下さい。」

と叫びました。彼女は私の手をとって元の椅子に座らせ、朗らかな口調で、

「いいのよ。私が頼んだことじゃない。純さんが謝る理由なんてどこにもないわ。」

「で、でも、それでは僕の気がすみません。さっきのようにヒールで思いきり踏んでください。」

「そんなことできるわけないわ。純さんの性格に合わない、私の一方的な要求を一生懸命して下さったのに。お礼を言うのは私の方だわ。つかれたでしょう。」

「い、いえ。」

私はヘドモドして答えました。

「また、いじめてくださいね。ストレス解消として、何をなさってくださってもいいのよ。」

「で、でも・・・。」

私がためらっていると彼女は思い出したように、

「あっ。そうそう。こんなことしてることが万一、会社にわかって噂になったら、いやだから会社ではあまり親しくしないで、付き合いのない関係のように、装ってもいいかしら?」

「ええ。もちろんです。」

彼女はチーズケーキと紅茶をだしてくれたので、私はあわててそれを食べると、お礼を言って彼女のアパートを出ました。

 私は夢心地でアパートに帰りました。もう夢じゃない、自分はもう彼女と深いつながりを持てたんだ、と思うと床に就いても彼女との夢のような一連の遊戯が浮かんできてなかなか寝付くことができませんでした。

   ☆   ☆   ☆

翌週の月曜から再び会社での勤めが始まりました。会社では彼女が言ったとおり、彼女は私に事務的に接するだけです。よもや私たちがプライベートではあんな事をしていると思いつく人はいない、彼女の隠れた秘密を知っているのは私だけ、と思うと何か愉快な気分になりました。確かに彼女が言ったとおり会社では事務的に接する二面性をつくっておいた方が面白い、と言う彼女の言葉通りだと思いました。昼休みも社員食堂で一緒に食事するという事も、私の隣に来て笑顔で話しかけるという事もなくなりました。何しろ事が事ですから、会社で親しくして、人に少しでも二人の関係を感づかれることを恐れる彼女の気持ちはわかります。

しかし、しばしするうちに私は何か言いようのない寂しさを感じるようになりました。昼休みなど、彼女は同僚の女友達と屈託ない笑顔で笑い合っています。同僚の女友達だけでなく、彼女は男の同僚とも、誰とも親しく付き合うことが出来ます。しかし私は元来内気で、人付き合いが苦手なため、友達も少なく、昼休みなど一人でポツンとしてしまうことが多いのです。そんな時、友達と屈託なく笑っている彼女がとてもうらやましく見えてきて、そんな時はとてもさびしい気持ちになります。彼女の誰とでも話せる外交的な明るい性格の前では、彼女の裸を触ったことなどに少しの自慢の気持ちも起こりません。もし彼女が私との付き合いを拒否すればもう私は彼女に指一本触れることも出来なくなるのです。私は彼女のオナニーの道具のようなものです。もしかすると彼女は私をこのような惨めな立場にするために、公私を分ける二面性にしたのかもしれません。いたずらな性格もある彼女のことですからもしかするとそうなのかもしれません。会社で私に惨めさを感じさせて優越感に浸る意地悪をしようという気持ちがあるのかもしれません。しかしそれでも私はかまいませんでした。たとえ彼女のオナニーの道具でも、手も届かないと思っていた彼女とあんなに親しくなる機会を一度でも持てたのですから。

   ☆   ☆   ☆

 そんな状態で数日過ごしました。そんなある日、仕事が終わってトボトボとアパートへ向かっている時でした。後ろから彼女の白のカリーナが軋り音を立てて止まりました。彼女はドアを開け、私を車の中に入れました。彼女は屈託ない笑顔で言いました。

「へへ。純さん。さびしい思いをさせちゃって御免なさい。私、悪意で純さんをさびしがらせようなどと計画してませんでした。でも純さんがさびしそうにしてるのを見ると何かちょっぴりうれしい気持ちが起こってしまいました。私って悪い性格なのね。本心では私、純さんを弄ぼうなんて気持ちありません。だって純さんしか心を許せる人いませんもの。会社でも少しは個人的に話す機会もつくろうと思います。でも純さんがさびしそうにしてる姿、とてもかわいかったでした。ごめんなさい。今度の土曜、また来て下さいね。待ってます。」

そう言って彼女は私を降ろすと勢いよく車を飛ばしました。

私は彼女の隠し事のない本心を聞けて飛び上がりたいほどうれしい気持ちでした。

(3)

 約束の土曜になり、彼女のアパートへ行くと、彼女は満面の笑顔で私を迎え入れてくれました。彼女の用意してくれた料理を、食卓に着いて、向かい合わせに食べていると、彼女はワクワクした様子で、

「うれしい。今、こうやって対等にしているけど、これから私だけ裸にされて、みじめのどん底に落とされるのね。そう思うとゾクゾクしちゃうわ。」

と、喜びの内にも少し不安と緊張の混ざった口調で言います。彼女のこういう性格は、前回で十分わかっていたので、黙って料理を食べていましたが、ことさら喜びの表明をしたことに思わず私はクスッと笑ってしまいました。彼女も緊張が解けたのか、身を乗り出して、

「ねえ。純さん。この前はお手柔らかだったけど、今度はもっと徹底的に、情け容赦なくいじめ抜いて。一人暮らしの女のアパートに忍び込んだ強盗になったつもりで、うんと乱暴して。物をこわしたり、殴ったり蹴ったりして下さってもかまわないわ。いえ、むしろそうしてほしいの。」

と言いますが、私はたじろいで、

「で、でも、いくらなんでもそんな事は・・・。」

と尻込みしていると彼女は椅子から立って床にうつ伏せになって、

「さあ。純さん。私を踏んで。」

と催促します。私はやむを得ず立ち上がって、彼女の肩にそっと足をのせました。が、何もしないでいると、彼女は物足りないもどかしさを訴えるように、

「純さん。もっと体重をのせて、力いっぱい踏みつけて。」

と、叱るような強い口調で訴えます。私はのせていた足に少し体重を加えてみました。が、そうすると柔らかい、華奢な、ちょっとでも荒く扱うと壊れそうな女性の体の感触が伝わってきて、私はそれ以上、体重をのせることに耐えられず、彼女の元にペタリと座り込んで、

「ごめんなさい。優子さん。僕にはとてもそんなこと出来ません。」

と何度も頭を下げました。彼女はゆっくり起き上がると、穏やかな笑顔で、

「いいのよ。純さん。無理な注文をしちゃってごめんなさい。」

と慰めるように言いました。彼女はしばし何かを悩んでいるらしく、口唇を噛んで手をモジモジさせていましたが、ついに決断がついたらしく、それじゃあ、と言って立ち上がり、洗面所から石鹸や泡だて器、タオルなどを洗面器に入れて持って来て、私の前にトンと置きました。そして隣の部屋から一冊の本を持って来て私の前に置きました。

それはSM写真集でした。彼女は手を震わせながら、おそるおそるある項を開き、私に見せました。

「こ、こうしてほしいんです。」

と言って彼女は顔を真っ赤にしてうつむいてしまいました。その写真を見て私はびっくりしました。何と全裸の女性が片足を吊り上げられている写真です。手は後ろで縛られて拘束され、秘部は泡立てられた石鹸が塗られていて隠されています。そしてその横で男が剃刀を持って、女の毛を剃ろうと待ち構えています。私があっけにとられていると、彼女は彼女は顔を真っ赤にして、

「こ、この写真のようにしてください。」

と言います。私はあせって、

「い、いいんですか。こんなことして。」

と聞き返しましたが、彼女は、

「押し入り強盗なら、このくらいのこと平気でするでしょ。」

と紅潮した顔を床に向けて言いました。

ただでさえ全裸で片足を吊り上げられる、という姿を見られるだけでもこの上ない恥ずかしい事なのに、その姿のまま、人に毛を剃られるなどということは普通の神経の女性にはとても耐えられるものではないはずです。私は彼女の裸姿は前回十分見て知っていますが、彼女の決定的な部分はまだ見ていませんでした。このようなことをすれば彼女の決定的な部分をまじかに見てしまうことになります。当然それは彼女もわかっているはずです。何か彼女は自分を極限状態に追い詰めるようなことばかりしますが、私には彼女にそうさせようとする衝動がいったい何なのかまったくわかりません。私としては彼女の決定的な部分は見ないほうが緊張感があっていいと思っていました。しかしともかく、彼女の言うことは何でも聞くと約束した以上、しないわけにはいきません。彼女は服を脱いで全裸になると、天井の梁に取り付けられている滑車の下に座り、

「さ、さあ。写真の様にしてください。」

と言って両手を後ろに回しました。私が彼女を後ろ手に縛ると、彼女は床に横たえました。

「さ、さあ、足を縛ってください。」

と言われて、私は彼女の片足を縛り、縄尻を滑車に通しました。

彼女に言われて、もう片方の脚は足首と膝を縛りました。彼女はピクピクと全身を震わせています。

「こ、こわいわ。」

「じゃあ、やめましょうか。」

「い、いえ。純さんにお任せした身ですもの。」

「では。」

と言って、私は縄尻をゆっくり引き上げていきました。

「ああー。」

と、つらそうな声を上げ、後ろ手に縛られた背後で、親指を隠すようにぎュと握りしめています。女性の秘所をせめても威容をもって隠そうと叢生している茂み。その下の女の最も恥ずかしい部分もはや全貌があらわになっていきます。

「ああ。みないで。」

と彼女は赤面した顔を横にそむけて言います。でもこれはどうしても避けられないので止むを得ません。

「できるだけみないようにします。」

と言って私は剃毛にかかりました。まず毛をハサミで大雑把にジョキジョキ切っていきました。そして刷毛を水にぬらし、石鹸で泡立てて、お尻の穴の周りまで丁寧に湿らせて、床屋のように一度蒸しタオルを載せ、再びシャボンをつけ、ショリショリと剃っていきました。

「あ、ああ。みじめだわ。」

彼女の艶のある長い黒髪が床の上に開扇状にこぼれ、睫毛をフルフル震わせています。視線を戻して私は彼女の羞恥の意味を解しました。石鹸の泡とは別の、粘りけのある液体が、いつの間にか、涌き出た泉のように女の窪地を満たし、ついに溢れて一筋の水路をつくっていました。

「純さん。何か言ってください。笑って。言葉で笑いものにしてください。純さんがどう思っているか、わからないとこわいんです。」

私が黙っていると彼女は耐えられなくなったような口調で、

「純さん。私のグロテスクな所を見てゲンメツしてしまったのね。いいです。私を笑って。蹴って。そして捨ててください。」

と涙がかった口調で言いました。私は黙って、かまわず仕事を続けていきました。ついに全部きれいに剃り終えると、私は丁寧にシャボンを拭き取り、毛を剃られて全貌があらわになっている女の最も羞恥の部分にタオルをのせて、そこを見えないようにしました。私は彼女の耳元に口を近づけてささやきかけるように、

「ゲンメツなんかしていません。優子さんの体は、どこも美しいです。それに僕は忘れっぽいから見たものはすぐに忘れてしまいます。」

「あ、ありがとう。ウソでもうれしいわ。」

「ウソじゃありません。優子さんも疑い深いですね。」

タオルで秘部だけ覆われた姿は全裸以上にエロティックで、狂おしいほど欲情をかきたてさせます。

私はこれをいい機会に彼女の体をくまなくうっとりと髪の先から足の先まで見惚れていました。腰までとどくつややかな髪が開扇状にばらけ、口は屈辱に耐えようとキュッと真一文字に閉じられ、睫毛が微かにピクピク震えています。美しく整った形の下顎から喉仏。その下ではいやでも男の注目を惹いてしまう二つのたわわに実った房がペタリと体に貼り付き、それは思わず触れてその弾力を確かめてみたくなる感情を起こします。それは、「こぶとりじいさん」の話しのように、女を困らすためにむりやり意地の悪い鬼に取り付けられた、瘤のようにもみえ、その下では雨だれによって、穿たれたような縦長のヘソ。見事にくびれたウエストがあり、その下では実用の些細な動作まで困らせるほどの分量で肉付けされた豊満な尻が華奢なつくりの胴から反発するようにもりあがっています。

私が彼女に見惚れていると、

「純さん。な、なにを考えているの。」

「いえ。あまりにも優子さんの体が美しいものでつい見とれていました。」

彼女は顔を赤くして、

「い、いや。あんまり見ないで。は、恥ずかしいわ。」

「ふふ。優子さん。猟師が仕掛けた罠にはまったエモノのようだ。」

私は彼女が自由を奪われているのをいいことに、彼女の足の指を開いてみたり、しなやかな脚を足の先から付け根の方へとゆっくり手を這わせてみたりしていました。そのたび彼女は、

「い、いや。恥ずかしいわ。」

といって顔をそむけます。

「優子さんの体、くまなく調べてみたいな。でも優子さんが、いや、ということはしませんよ。」

というと彼女は声を震わせて、

「い、いえ。は、恥ずかしいですけど、私の命は純さんのものですもの。なさりたいことは何なりとなさって下さい。私は必死で耐えます。」

恥ずかしさ、から目をそらして体の自由を奪われている彼女が、何をしてもいい、人形のように思えてきて、私は、あることを思いついて洗面所から歯ブラシや歯磨き粉とコップ、水、洗面器、を持ってきました。私は歯磨き粉を歯ブラシにつけて、目をつぶっている彼女に、

「優子さん。口を大きく開けて下さい。」

「な、何をなさるの。」

「歯ミガキです。」

「えっ。」と、驚いた彼女にかまわず、私は歯ブラシを彼女の口の中へ入れ、片手で顎を掴み、奥の方から磨きだしました。口が開いて、歯並びのいい前歯がみえます。

「きれいな歯ですね。まるで真珠か、美しい貝殻のようだ。」

私は丹念に全部をみがきおえると、

「はい。クチュクチュして。」

と言って、彼女の口にコップをあてがいました。彼女は言われたまま、クチュクチュ音をさせて、口の中をゆすぎました。

この時、ある子供じみた、いたずらに私は内心で苦笑していました。

てっきり吐き捨てる洗面器をあてがってもらえると思っていた彼女の顔を私は、何もしないで黙ってみていました。時間がたっても洗面器があてがわれないので、私の意地悪に気づいた彼女は目をパッチリ開いて、救助を求めるように私をみながら眉を寄せて、苦しげな表情で鼻から「んーんー」と苦しげな訴えをしています。歯磨き粉でゆすいだ水をのむのは何とも気持ちが悪いものですし、かといって床に吐き捨てるわけにもいきません。

こらえていると唾液がたまってきてどんどん苦しくなっていきます。

もう限界だ、と見えたところで彼女の口に洗面器をあてがいました。

彼女は、ゲホゲホッと咽びながら勢いよく吐き出しました。

「ごめんなさい。優子さん。つい、イタズラしたくなっちゃって。」

と、照れ笑いしながら言うと、彼女は、「フー」と、息を取り戻し、

「あー。苦しかった。でも純さんが自分の意志でいじめてくれてうれしかったわ。今みたいに私をもっともっと、どうしようもないように追いつめて、困らせていじめてほしいの。ありがとう。」

「もうニ、三回ゆすぎましょう。一回だけじゃ気持ち悪いでしょ。」

と言って、二回目の水を彼女の口にあてがいました。彼女はチラと私を不安げな眼差しで一瞥しました。私は笑って、

「ダイジョーブですよ。もう意地悪はしませんから。」

と言うと彼女は私を信じて安心して口をゆすぎました。ゆすぎ終わったころあいをみて、私は彼女の口に洗面器をあてがいました。彼女は口をゆすいだ水をその中に吐き出しました。

「胸、恥ずかしいでしょう。」

と言って、私は箪笥からブラジャーを取り出して彼女の胸の上に載せて彼女の乳房を隠しました。私は出来ることなら、されるがままの人形の状態の彼女を傍らでずっと見守っていたく思いました。

もうこんなチャンスはめったにないかもしれないし。で、彼女の髪をとかしたり、二の腕を揉んだり、体を拭いたりしました。

「純さん。私を踏んで。竹で叩いて。」

「そんなこと出来ませんよ。」

「純さん。強盗がそんなやさしくする? 悪人がそんなやさしくする?」

彼女は少し寂しげな口調で言いました。彼女の言葉には真剣に訴えるような切実さ、がこもっていました。

「純さんが私の頼みを聞いて下さっただけで、もう十分うれしいんですけど…。」

と言って彼女は語り出しました。

「純さんには分らないかもしれないですけど、私、もっと本当の拷問のように嬲られ尽されたいんです。なぜそんな衝動がおこるのか私にもわからないんですけど、本当なんです。子供の頃からテレビでも、悪者につかまっておびえている人質ってとってもうらやましかったんです。その後どうされるかと思うと。夢想はどんどん膨らんで、三、四人のサングラスをかけた角刈りのヤクザに捕まえられ、丸裸にされて縛られ、土足で踏みつけられ、ありとあらゆる意地悪な拷問にかけられたかったんです。私が泣き叫んでも容赦なく平手打ちされて。純さんにもそれを期待してたんですけど、純さんはやさしいから、やっぱり無理ね。」

とさびしそうに語りました。私はそれをすりかわすように、腕組して、考え深げに頭を垂れ、

「ウーン。わからないなー。確かに悪者に捕まっておびえている女性の顔ってとても哀愁的な魅力を僕も感じます。でも悪に本当に嬲られたいって気持ちは僕にはわからないな。」

と言いました。

   ☆   ☆   ☆

翌週になり、再び会社勤めの生活が始まりました。数日の間は、彼女と二人きりで過ごした無常に心地のいい遊戯の一つ一つが、自然と思い出されてきて、夢心地のような気持ちでした。彼女を陰ではかくまで自由に弄んでいる事を会社の誰も知らない、と思うと痛快でした。もし私たち二人の関係を知ったら、どんなに仰天することか。彼女が同僚と屈託なく笑っているのを見ると、その笑顔からは想像もつかない、美しい悪魔的な性癖を持っていると思うと、何か女の謎に翻弄されているようで、その神秘性のため、よけい彼女がキラキラ輝いて見えます。

 しかし日が経つにつれ、だんだん私は再び寂しさを感じるようになりました。しょせん私は彼女の性欲を満足させるための道具であり、彼女が声をかけてくれなければ私は一人きりなのです。私はそれでも一向にかまいませんが。

 私の方から彼女に話しかけたり、あの不埒な遊戯をまたやろう、と提案する自由はあります。彼女も本心から喜んで応じてくれる可能性は十分あるでしょう。しかし彼女が了解しても、あれは極度に神経の緊張を強いるものです。私は気が小さくて、神経質で、気を使ってしまう性格のため、彼女に少しでも気を使わせることを恐れて、あの遊戯は、私の方からは決して持ち出さないで、彼女の欲求が耐えられないほどつのって、彼女の方から私に持ちかけてきた時だけ応じようと思いました。そもそも私がそういう性格だからこそ彼女は私を選んでくれたのですから。夢心地が消え、一人でポツンとしていると、消極的な性格の私には過去の楽しかった事も悲観的な見方に塗り替えられて思い出されてきます。前回、彼女が、「強盗がそんなにやさしくする?」と、寂しげに訴えたのを私は真剣に受け止めて考えようとせず、「うーん。わからないなー。」などと適当にすりかわしてしまったことが妙に気にかかりだしました。私は何か気にかかることにとらわれると、他のことは手につかなくなって、その事ばかりとことん考え込んでしまう性格です。一日考え抜いた末、ついに私は無意識の内に誤魔化しつづけていた自己欺瞞の正体をはっきりと掴み取りました。それはこうです。

彼女をむごくいじめることが出来ないのは、彼女に対する思いやり、と私は思い続けていましたが、その実、その裏には自分は善でありたい、自分を悪にはしたくない、彼女に自分をこの上ない善人のように見せておきたいという打算があった事。自分は善人なんかではない。自分だって人と同じように悪い心は持っているのに、気が小さいから実行できないだけのずるい人間ではないか。.前回、彼女が

「強盗ゴッコをして。」

といった時、私が躊躇していた時、

「強盗がそんなやさしくする?」

「悪人がそんなにやさしくする?」

と、寂しげな口調で言った彼女の訴えを真剣に聞いていなかった自分を恥じました。私は自分が悪人になりたくなさに、真剣でなかった。しかし彼女は真剣だった。彼女は真剣に心の病の救済を求めていたのに、私は自分にとらわれていた。私は、「いじめられる女性」に、美を感じ、それに踏み込んではならない、という、自分の理屈を優先させ、「暴虐的にいじめられる女」になりたいという彼女の願望を楽観視していたのだ。私は、彼女に最初、「いじめてほしい。」といわれた時、それを引き受けたではないか。彼女は恥をしのんで告白した。私はそれに従う義務がある。彼女の真剣な訴えを私は真剣に受け止めていなかった。軽くみていたじゃないか。そんな、さまざまな自分を責める思いが次々と連想されてきました。

そんなことで沈みがちでいた、ある日の昼休みのこと。

いきなり、彼女にぽんと肩を叩かれました。

「純さん。どうしたの? 元気ないわね。」

彼女の天真爛漫な笑顔があります。私が黙っていると彼女は、屈託ない調子で、

「よかったら、お昼、外でいっしょにしませんか。」

と言います。私は彼女に手を引かれるように、外へ出ました。会社の前の車道を渡り、ある大きなビルの地下の静かな喫茶店に入りました。彼女はサンドイッチと紅茶に決めたので私も彼女と同じものにしました。

「純さん。何か悩んでいるの?」

「いえ。」

彼女はしばし私を黙って見つめていましたが、

「いいのよ。いいたくなければ。無理に聞き出すの悪いもの。」

と言って、おだやかに微笑んで紅茶を一口飲みました。彼女の温かさ、が伝わってくるようです。私は勇気を奮い起こし、自分の心の内をのべ、彼女に対して不誠実であったことをわびました。

「いいのよ。純さんには十分感謝しているんですもの。純さんが疲れない範囲でいいのよ。自分の性格に合わないことを演じるのってすごく疲れちゃうわ。やさしい純さんに、本気で悪になりきって、なんて言った私の頼みの方が自分勝手すぎたわ。無理な注文をしちゃって困らせちゃってごめんなさい。」

「いえ。優子さん。僕は優子さんに感謝しているくらいなんです。僕は自分のずるさに気づかされました。悪い心は人と同じように持っているくせに、自分はそれに手をそめずに人には善人で通すというのは、ずるい、と気づかされたんです。優子さんが勇気を出してカラを破ったように、僕もカラを破ろうと思います。それに女の優子さんが勇気を出してカラを破ったのに、男の僕がカラから抜け出す勇気を持てないでウジウジしているのって、男として情けない、とも思いました。」

彼女はスプーンでクルクル紅茶をかき混ぜていましたが、

「純さんて考えが深いんですね。」

と言って微笑して紅茶をすすりました。

「でも、うれしいわ。そこまで私のことを考えていてくれたなんて。そういう誠実な純さんだから身を任せたいって思うの。でも何だか純さんにわるいわ。一方的に私の妄想に巻き込んでしまって。純さんのマイペースを掻き乱してしまうのは、わるいわ。やりたくない役をやるのってストレスがたまるでしょうから、あまり無理なさらなくて、できる範囲でいいです。」

「いえ。僕は固く決心しました。どんな役でも演じきってみせます。」

「ありがとう。うれしいわ。じゃあ、どうしようかしら。」

と言って彼女はしばし目の玉を天井に向けて、考えていましたが、思いついたようにパッと視線を戻し、

「じゃあ。この前と同じように強盗ゴッコでいいかしら。」

というので私は、

「それじゃあ僕は強盗になりきります。優子さんも覚悟しておいて下さい。」

と力強く答えました。彼女は笑顔を私に向け、

「うれしい。ワクワクするわ。じゃあ、今週の土曜、楽しみに待ってます。私も強盗に入られておびえる女になりきります。」

と言って目をパチクリさせました。私は心を鬼にして凶悪な強盗になりきろうと決意を新たにしました。

時計を見ると昼休みの時間も残り少なくなっていました。彼女はレジをみて、財布を取り出そうとしましたので、私はそれを取り上げて、黙って彼女の腕をグイと掴み上げてレジへ行き、支払いをしました。男らしさとはこういうものなのだなと私ははじめて感じました。

「ありがとう。純さん。」

と彼女はニコッと微笑みましたが、私はムスッとした表情で、うるさそうに一瞥して、背広の前をはだけ、肩で風切るようにズンズン歩きました。彼女は腕を私の腕に絡ませてきて、

「わー。純さんて逞しいわー。頼もしいわー。どこまでもついて行きたい。」

と言って身を寄せてきました。正直言って私はこういう風に女性と歩くのははじめてでした。でも何か自分が本当に男らしくなったような気分がしてきました。

   ☆   ☆   ☆

約束の土曜日になりました。

私はサングラスに髪形はオールバックにし、ギンギラのヤクザっぽい身なりで彼女の家へ行きました。彼女は私を見ると、

「あっ。純さんですね。私のためにわざわざヤクザっぽい格好をしてきてくれたんですね。ありがとう。どうぞあがって。」

私は何も言わずズンズン上がるといきなり彼女の腕を後ろにねじ上げ、

「おい。金を出せ。」

「出さないときれいなお顔に傷がつくぜ。」

と、ポケットから取り出したナイフで彼女の頬をぴちゃぴちゃ叩きました。

「お、お金はありません。」

彼女は震える声で言います。

「そんなことはねえだろ。キャッシュカードと、暗証番号を教えろ。」

「お金はそんなにありません。それに大切な人との結婚資金なんです。」

私はピシリと容赦なく彼女の頬を平手打ちしました。

「そんな事俺の知ったことじゃねえ。俺は今、指名手配で追われているんだ。当分ここに住まわせてもらうぜ。」

と、ドスのきいた声で言いました。

「おめえは当分かりの女房ってとこだな。」

私は床にあった一本鞭を拾い上げると威嚇するようにピシリと床をたたき、

「おい。俺は腹が減っているんだ。何か作りやがれ。」

と恫喝的な口調で怒鳴りつけました。彼女は、

「は、はい。」

と言って台所へ行き、おかずの野菜をトントン切りだしました。私はそっと背後から忍び寄って、両脇から手を通していきなり彼女の胸をムンズとつかみ、荒々しく揉み始めました。彼女は、

「ああー。」

と言って、包丁の動きを止めました。刃物を扱っているので集中できずに手がすべる危険を恐れたからでしょう。

「ふふ。料理を続けるんだ。」

私は胸をジワジワと揉みつづけながら命じると彼女は、

「は、はい。」

と言って、「あっ。あっ。」と、時々うめきながら、時々仕事の手が止まりそうになりながらも苦しげに料理を続けました。私は片方の手でスカートをたくし上げ、手をそろそろ這い入れて、女の部分にピッタリとあてがいました。彼女は、「ああー。」と言って、脚をピッタリ閉じ、くなくなと倒れそうになりました。

「料理を続けるんだ。」

と叱りつけて、立たせたままにし、スカートの中に入れた手を気味の悪い節足動物が這いまわっているような運動に似せて怖がらせながら、彼女のピッチリ閉じた太腿や尻などの感触を思う存分楽しみました。彼女が耐え切れなくなり、

「ああー。」

と言って手を止めそうになると刺激を一時止め、

「料理をつづけるんだ。」

と命じました。私はだんだん興奮してきて、

「一度これがやってみたかったんだ。」

と息を荒くして言いました。

料理ができたので彼女は恐る恐るそれをテーブルにのせました。私は遠慮なく食卓に着くと、

「うまい。うまい。」

と言いながらバクバク食べました。立っている彼女に、

「おい。お前も座りな。」

と向き合わせに座らせました。料理は二人分ありましたが私は彼女に分けてやらなかったので、彼女は一人でポツンとしています。

食事がすんでタバコを一服すると、おびえている彼女に、

「素っ裸になりな。」

と命じました。彼女は、

「え。」

と、聞き漏らしたコトバをもう一度たずねるように小さく言ったので私は彼女に怒鳴りつけるように大きく、

「素っ裸になれ、と言ってるんだ。女を人質にしたら逃げられないようにするために素っ裸にするのは常識だろう。」

と言って、鞭でピシリと床を叩いて威嚇しました。

「ゆ、許して。それだれは。」

おびえる彼女のブラウスの胸元を掴んで遠慮なくピシリと頬を平手打ちし、ナイフを頬にピシャピシャ当ててから、ブラウスの胸元に刃をあて、

「手間を取らすんじゃねえ。脱がねえんなら、引き裂くまでだぜ。」

と脅すと彼女は、か細い声で、

「はい。」

と言って、服を脱ぎだしました。女性が怯えながら一枚、一枚、服を脱いでいく姿は何とも扇情的で、ブラウスから、スカート、ブラジャーへと、覆いが自らの手で抜き取られていきます。最後の一枚になると彼女は、

「お願い。これだけは許して。」

と哀願しますが、私は彼女の頬をピシリと平手打ちし、艶やかな髪を荒々しくムズと掴み、「手間を取らせるんじゃねえ。脱がねえんなら、髪を切っちまうぞ。」

とナイフの峰を、掴んだ髪にあてがいました。彼女はあきらめて最後の一枚をためらいがちに脱ぎ下ろしました。

脱ぎ終えると彼女は、くなくなと屈み込んでしまいました。彼女は見られないように、胸と秘部をピッタリ押さえています。私は彼女の前に立つと威嚇的にムチをピチピチ体にあてて、

「俺は女にゃ恨み骨髄なんだ。俺がこうなっちまったのも女に騙されたのがもとなんだ。女なんて男を騙すことしか考えてねえ性悪な動物だ。お前だってそうだろう。たっぷり折檻してやるから楽しみにしてろ。」

と吐き捨てるように言いいました。

「こ、こわいわ。」

とおびえて震えている彼女をムチでピシリと床を叩いて威嚇しながらテーブルまで歩かせました。

「そら。その上にのりな。」

「の、のせてどうしようというのです。」

と彼女は胸と秘部を手で覆いながら聞き返しました。

「別にどうもしねえよ。裸の女がテーブルの上にのっちゃいけねえって法はねえだろ。とっとと載りな。」

言われて彼女は恐る恐るテーブルに載って、さっきと同じように胸と秘部をピッタリ手で隠しながら立て膝でじっと屈辱に耐えています。

「どうだ。料理を載せるテーブルの上に素っ裸で載ってる気分は。うれしいか。」

「み、みじめだわ。は、恥ずかしいわ。」

「ほら。手を後ろに回して組みな。そして踏ん張ってウンコする格好するんだ。」

彼女は、「えっ。」と驚きの声を上げた後、悲しげな声で、

「お、お願い。そんなことだけは。許して。」

なかなか行動に移せない彼女の尻をピシャリと平手打ちして、

「ほら。そんなに見られたくねえなら恥ずかしい所はちゃんと隠させてやるから。」

と言って、私は彼女の両手をグイと後ろで握らせて、花のいけてあった花瓶を彼女の秘部の前に置き、両膝をグイと力いっぱい開きました。秘所は花瓶で隠されていて、かろうじて見えませんが、それは全裸以上に逆説的なエロスを生み出しています。

「あ、ああ。みじめだわ。こんな姿、死にたいほどみじめだわ。」

何とか隠そうと、花瓶にくっつくほどに女の部分を密着させて尻を蒟蒻のようにフルフル震わせています。

「ふ。熱烈に寄りつかれて、花瓶が赤くなって火照っているぜ。」

「い、いや。」

と彼女は羞恥心から激しく首を振りました。

「まるで、ガマガエルだな。でっかい尻で踏ん張って。大和撫子は恥じらいの心が無くちゃいけねえぜ。」

などと言って揶揄すると、

「お、お願い。も、もう許して。」

と訴える彼女を無視して、彼女の肩に陶器の皿をのせました。

「な、何をするの?」

と言う彼女を無視して、

「いいか。落とすなよ。落としたら皿がガッシャーンだぜ。10分我慢できたらおろしてやる。」

そう言って私は身動きが取れないのをいいことに両手を後ろで組んでいるために、あらわになっている彼女の両方の乳首を引っ張りました。彼女は眉を寄せ、

「ああー。」

と、苦しげな声を出しながらプルプル体を小刻みに震わせながらも皿を落とさないよう、必死で背筋を伸ばして体を保っています。彼女は身動きの取れない不自由な体を弄ばれながらも10分耐え抜きました。私が不満そうに10分経ったことを伝えると彼女は安心したようにほっと一息つきました。

「ふん。このままこのテーブルに縛りつけて女体盛り、をするってのも面白いけれど勘弁してやらあ。ほら。降りな。」

と言って肩の上の皿を下ろしました。彼女は秘所を押さえながらテーブルを降りると床にうずくまりました。

「ほら。運動して腹が減っただろう。エサをやるから四つん這いになりな。」

躊躇している様子が少しでもみられると、私はムチでピシャリと床をたたいて威嚇しました。彼女はやむを得ず、観念して犬のように四つん這いになりました。私は彼女の前に皿をおいて、イヌにエサをやるように牛乳をそれに注ぎました。

「ほら。イヌのように手を使わずに舌でペチャペチャ舐めな。」

言われて彼女は美しい長い黒髪を床に散しながら、イヌのように舌を出して皿の中の牛乳を掬っています。

「自分が作ったゴーカな料理にはありつけず、イヌのような格好で牛乳一杯とはみじめなもんだな。」

と私は惨めな姿の彼女を揶揄しました。

「ほら。もっとイヌらしく足を開きな。」

と言うと彼女は命令に素直に従って少し足を開きました。一瞬私は、無言で四つん這いで牛乳をすくっている彼女が本当に美しい雌犬になったような錯覚におちいりました。

「さあて。そろそろ拷問にかかるとするか。」

と言って彼女の両手を掴んでグイと後ろにねじ上げ、高手小手に縛り上げようとすると彼女は、

「な、なぜ私を拷問するのですか?」

と激しく聞き返しました。私はフンと不満げな表情のまま、答えようとせず、両手を背後に回し、手首を縛り上げてから縄のあまりを前へ廻し、豊かで形のいい乳房の上下を二巻三巻、強く締め上げてから彼女にさめた視線を向け、

「お前もどうせ男をダマしたことがあるんだろう。」

と言って彼女の顎を掴んでグイと上げました。

「い、いえ。そんなことありません。」

彼女は悲しそうな視線をそらして否定します。

「フン。嘘をつくな。女なんて心の中じゃあ、男をいいように利用しようとしか考えてないんだ。特にお前のような、小奇麗な女はな。だから本心を吐かすのよ。白状するまであらゆる方法で責めてやる。」

彼女はイヤイヤをするように激しく首を振りました。

「お前も気の強い女だ。だがどこまで耐えられるかな。ふふふ。」

私は後ろ手縛りの縄尻のあまりを天井の梁に取り付けられた滑車に通してグイグイ引っ張って彼女を立たせ、縄を固定し彼女を立ち縛りにすると、両足首をそれぞれ縄で縛り、グイと無理やり引っ張って脚を開かせました。そして股の間に椅子を置いて、その上に胴の太い蝋燭を立て、それに点火しました。炎は女の肌の最も弱い所へ向いています。黙々と休むことなく垂直に吹き上げるように放射されつづける炎の熱は、炙るように女の柔肌を過熱しつづけます。

彼女は、「あっ。」「あっ。」と、叫び声を上げつま先立ちになり、

「あついー。」

と言って炎から逃げようと必死で腰を引いています。彼女は下肢からつづく尻をプルプル震わせて、ポロポロ涙をこぼしながら、

「ゆ、許してください。」

と、哀しげな目を私に向けてひたすら哀れみを乞いつづけます。

彼女の身をよじっている苦しみの姿をみていると、私の中に加虐的な欲情が起こっているのに気づかされました。不思議にも残酷な気持ちはありませんでした。つま先立ちのため、ただでさえ長い脚がスラリと強調され、そのピクピク小刻みに震えているしなやかな脚からつづく均整のとれた体、悲哀、苦悩の表情、そのすべてが無上の「美」に見えてきたのです。加虐的行為の観照者とはなり得ても、行為者にはなり得ない、という私の確信がゆらいだのを私は感じました。彼女のあまりにも美しい悪魔的感性が、私の中にあった小さな加虐心を増幅させ、膨張させてしまったのでしょう。しばし茫然と我を忘れて、みていた私を現実が引き戻しました。彼女は火責めの熱さ、に耐えきれなくなって、とうとう恥を忘れ、生理的な手段で消火活動を行いだしました。ねらいを定めて放出された流水によって炎は消されましたが、一度開放された水門は閉じる抵抗力をもてず、消火後も虚しく、みじめに椅子から床へと水滴を滴らせています。それは彼女の心境の涙のようにもみえました。私は蝋燭の載せてある椅子をとりのぞき両方の足首の縛めも解きました。彼女はグッタリと自失したようにうなだれています。

「あーあ。びちゃびちゃにしやがって。恥知らずなやつだ。」

言われても彼女は黙って俯いています。

「ふふふ。何だ。前は。つるつるじゃないか。よく見えるぜ。」

そんなヤクザっぽい揶揄をかけても私は何の違和感も感じませんでした。

「よーし。前に鏡を置いてやる。」

と言って私は等身大の鏡を持って来て、彼女の前に置くと。グッタリうなだれている彼女の顎をつかんでグイと鏡のほうに向かせ、

「みるんだ。」

と恫喝的な口調で命じました。彼女はチラと自分のみじめな裸の縛めの姿を鏡の中にみると、自失から現実に気が戻り、

「いや。恥ずかしいわ。おねがい。許して。」

と激しく身もだえします。私は長い一本鞭を持って彼女の後ろに立ち、調教師が猛獣を従わせるため威嚇するようにピシリと床をたたきました。

「ふふ。火責めにはその手があったな。じゃあ鞭打ち責めといくぜ。永遠に終わりのない鞭打ちだ。」

と脅しつけました。彼女は、

「こ、こわいわ。」

と言ってこれから受ける責めにおびえて体を縮めて全身を小刻みにプルプル震わせています。私は痛快さに心の中で笑いました。

おびえる人間を威嚇することは何と楽しいことなんだろう。

拷問者の気まぐれにおびえている人間は何と滑稽なんだろう。

そして何と悲哀の美しさの魅力があるのだろう。

私は容赦なく後ろから彼女を鞭打ちだしました。

ムチは彼女の体に絡まるように巻きついた後、先端に近づくにつれ、遠心力によって速力を増し、最後にピシリときびしい一撃を加えます。そのたび彼女は、

「ああー。」

と言って顔をのけぞらせます。彼女の肌にはどんどん線状の赤いミミズ腫れが刻まれていきます。彼女は目からポロポロ涙を流し、

「許して。許して。」

と叫びつづけます。容赦ない呵責の鞭がピシリときびしく振り下ろされると、「ああー。」と苦痛の悲鳴を上げてキリキリと舞い踊ります。拷問者の気まぐれな意志におびえて、絶えず小刻みに体を震わせて時々、拷問者の哀れみを乞う弱々しい目を向けながら耐えている姿は悩ましいほどの哀愁の美しさを醸し出しています。

だからといって手加減する気は起こりませんでした。容赦なくいじめれば、いじめるほど、彼女は魅力的に美しくなっていくのですから。

いじめることの甘美な快感の魔力に駆り立てられるように、私は憑かれたように彼女の許し乞いの叫びなど無視して、無我夢中で鞭打ちつづけました。私はもう身も心も本当の拷問者になっていました。

「止めてほしかったら言うんだ。男を騙したことがあるかどうかを。」

と言いながら私は鞭打ちつづけました。

「い、言います。言いますからどうかお許しください。」

私が鞭打ちを休めると彼女はしばらくハアハア呼吸を取り戻していました。私はもう加虐心でいっぱいでした。

「言うんだ。」

と言って尻をピシリと思いきり一打ちしました。「あっ。」と悲鳴が上がり、反射的にキュッと尻に力が入って割れ目の閉じ合わせが強まります。

「お、男の人をだましたことはあります。」

「どんな風に。」

「テレクラで呼び出しといてすっぽかしたり。世の中って女に有利に出来てますから、そういう機会はいくらでもありました。」

「よし。正直に白状したからもう鞭打ちは許してやる。」

「あ、ありがとうございます。」

すべての縛めを解くと彼女は、くたくたと床に倒れるように伏してしまいました。よほどこの責めはつらくて、疲れ果ててしまったたのでしょう。彼女は眠ってしまったかのごとく、目をつぶって微動だにしません。私はもう、責め、も、演技も、もうこれで終わりだなと思いました。彼女の無言の休息も、もう終わりにしてほしいとの意志表示に違いありません。憑かれたような、激しい無我夢中の、役になりきった演技が終わりになって興奮が冷めて我にかえると、弱々しい柔肌に激しい鞭打ちの跡を残して人事不省のように黙って倒れている彼女が、あらためて、一刻も早く救急手当てをしなければならない患者のように見えてきて、私はとんでもない事をしてしまった自分に後悔しながら、あたふたしました。

「優子さん。ごめんなさい。さんざんひどい事をしちゃって。もう終わりにしましょう。」

彼女は目を閉じたまま柔らかい微笑を浮かべて、

「はい。」

と返事しました。ベッドに彼女を運ぼうと、彼女を抱き上げようとすると彼女は、

「あっ。待って。」

と言って制し、

「ダイジョーブです。起きられます。」

と言って上半身を起こしました。彼女は裸のまま、ベッドに行くとパタリと倒れ伏すと、

「ゴメンなさい。純さん。少し休ませて。」

と言って目をつぶってスヤスヤと心地よい寝息をたてています。

(4)

 私は彼女に布団をかけ、彼女の下着や服を持ってきて、ベッドの元に置きました。私は雑巾を持って来て蝋燭責めの時に濡れてしまった椅子や床を拭いて、ちらかっている縄や蝋燭を片付けて、部屋を元の状態にしました。私は椅子に腰掛けて、すまない事をしてしまったと、後悔していましたが、ほどなく彼女は目を覚ますと、いつもの快活な声で私を呼びました。

「もういいわ。純さん。ちょっと手をかしてくださらない。」

言われて行くと彼女がブラジャーのホックを後ろではめようとしているところでした。私がホックをはめると、彼女は、

「ありがとうございます。」

と言ってスカートを手にとり、片足をくぐらせました。言い知れぬ官能が私を襲いました。何故かは分りません。本来の姿にもどってしまって、もう裸がみれない未練、の、さみしさ、のせいか、イヌのようにまでして裸にしてさんざん拷問にかけていたのにもうそれは出来ず、手が届かない、今まで通りの、女性という「美」を見せつけられるだけの、くやしさ、のせいか、そんな気持ちからだろうと思います。私は元の気の小さい男にもどり、間違っても「もう一度脱いで」などと言う勇気はありません。私はあくまで彼女が求めてきた時だけ彼女の願望に応じようとの固い決意をしていました。彼女に「もう一度脱いで」と言えば、彼女は笑って私の要求に答えてくれるでしょうが、私の気の小さい性格から、とてもそんなことは言い出せません。彼女はスタスタと歩いてテーブルにつきました。拷問をうけた後とはとても思えず、さっきの疲労も、もう完全に回復して、全く何事もなかったかのようです。

「純さんも来て。」

と明るい声で言われて、私はコソコソと向かいの席につきましたが、彼女の顔を見ることも出来ないほど恥ずかしい思いで、俯いていました。手もとどかない美しい優子さんに、抱いていたいやらしい心の欲求を見られて、見下げられている様なみじめさでいっぱいでした。彼女はニコニコ笑って、

「純さん。ありがとう。モヤモヤした欲求が解消して、とてもすっきりしました。」

私は申し訳なさに耐えきれず、彼女の足元に土下座して、床に頭をつけ、

「ごめんなさい。ひどい事をしちゃって。お願いです。どうか存分にけって下さい。」

と叫びました。彼女は私の手をとって元の椅子に座らせ、朗らかな口調で、

「いいのよ。私が頼んだことじゃない。純さんが謝る理由なんてどこにもないわ。」

「で、でも、それでは僕の気がすみません。いつかのようにヒールで思いきり踏んでください。」

「そんなことできるわけないわ。純さんの性格に合わない、私の一方的な要求を一生懸命して下さったのに。お礼を言うのは私の方だわ。つかれたでしょう。」

「い、いえ。」

「私はちょっと疲れたかもしれないけど、純さんの精神的な疲れの方がずっと大きいと思うわ。お料理の味、どうでしたか。」

「お、おいしかったです。」

私は彼女の手作りの料理を食べておきながら、彼女には四つん這いにして牛乳を舐めさせてしまった事を思い出して消え入りたいほど恥ずかしい思いになりました。だからといって、彼女の作った料理を、「どうぞ食べて下さい」と言うわけにもいかず。

「優子さん。ムチの跡、大丈夫ですか。」

「ええ。二週間くらいすれば、跡形もなく元通りに消えるわ。」

「二週間もかかるんですか。」

「ええ。あのムチってけっこう痛いものよ。純さんは打たれたことがないから感覚が分らないんだわ。でも、手加減して、とも、言いにくかったし。」

「ごめんなさい。」

彼女は笑いながら、

「いいのよ。いちいち謝らなくても。」

「いえ。白状します。はじめは確かに演技だけでした。でもだんだん優子さんを本当にいじめたいという気持ちになってしまったんです。」

「それも私のせいだわ。私が純さんの心を刺激してしまったからだわ。気になさらないで。」

「ともかく僕の気がすまないんです。何か、どんな方法でもマンゾク出来るだけ僕をいじめ返してください。」

彼女は少し困った様子で天井を見ていましたが、やや経ってて、パッと顔を戻し、

「また私をいじめに来て下さる?」

「は、はい。」

「じゃあ、その時ちょっといじめちゃおうかしら。」

と言って「ふふふ」と笑いました。

「は、はい。存分になさってください。」

その後少しくつろいだ会話をしてから私は彼女の笑顔に見送られながら、彼女のアパートを出ました。

   ☆   ☆   ☆

 翌週になり再び会社勤めの生活が始まりました。先週のプレイ以来、私はずっと不安と後悔に悩みつづけました。プレイの時、私はサディストになりきって暴虐の限りを尽くしました。いくら彼女の方から望んだ事とはいえ、普通の女性なら、あんなことをしてしまっては、もう付き合いはおしまいです。彼女は私が意志を持って彼女をいじめることを望み、私は私の本能に従った意志で彼女をいじめました。彼女も私がためらいを捨てた時の私の姿を彼女なりにイメージしていたはずです。はたして私が本能のままとった行動が彼女の期待に合っていたのか、それとも期待とはぜんぜん違って幻滅してしまったのか、私には知る由もありません。彼女は暴虐的になぶられたい欲求はありながらも、そんな事が出来ない私だからこそ、私に好意を持ってくれているのです。それに私自身、女性に対してあんな乱暴を平気で行える人間であったことに気づかされて、ずっと自己嫌悪に陥っていました。また彼女もプレイの時は被虐の快感に酔っていたでしょうが、プレイが終わってさめてしまった後に、あれほどの暴力的陵辱がはたして心地よい快感として思い出されるでしょうか。

 私は我を忘れてサディズムの快感を貪り尽くしてしまいましたが、嵐が去って平常の気持ちに戻った時には、彼女には痛々しい鞭の跡だけしか残らなかったのではないでしょうか。そしてその鞭の跡を見るたびに私に対する幻滅と嫌悪感が起こったのではないでしょうか。こんな考えは気の小さい私だからこそ起こってしまう取り越し苦労の気があるかもしれませんが、いったい虐められっぱなしで何とも思わない人間などいるでしょうか。彼女も性的には被虐心が強くても、それから離れれば喜怒哀楽の感情は他の人と何ら変わりのない良識的な一人の女性です。私は本能のまま行動してしまった事を悔やみました。何より貸し借りの関係がついていないことがすっきりしませんでした。今は彼女を一方的にいじめてしまった、借り、の立場ですので今度のプレイでは彼女に十分に満足できるだけ、徹底的に虐められて、ともかく早く借りを返したい気持ちでいっぱいでした。

それと彼女の本心を知りたい気持ちでいっぱいでした。

会社での昼休み、彼女に誘われて社外のビルの喫茶店に入ってテーブルに着くと私は人目も構わず土下座して、

「ごめんなさい。この前はひどいことをしちゃって。この次はうんと私を気の済むまでいじめて下さい。」

と床に頭をこすりつけて謝りました。彼女は驚いて私の手をとって立たせ、テーブルに着かせました。私が心の内をすべて語ると彼女はクスクス笑って、

「純さん。考えすぎよ。純さんの考え、全部はずれてるわ。鞭の跡を見る度に私は本当に拷問を受けたんだと実感できてうれしくて仕方なかったわ。」

私は彼女は小さいことにこだわらないおおらかな性格なんだと思い知らされました。そして自分を基準にして人を見ていたあさはかさに気づかされました。

「でもそういう風に謝ってしまう性格だから純さんが好き、ということだけはあたってるわ。」

私は彼女に見捨てられずにすんだ事がうれしくてほっとしました。私は強気の口調で、

「とにかく今度は僕を気の済むまでいじめて下さい。優子さんが何と言おうと僕の気持ちがすっきりしないんです。それに次の時は僕をいじめると約束したじゃありませんか。」

と、問い詰めるように言いました。彼女はしばし迷っていましたが、ポソッと、

「今週もいじめられる事を楽しみにしていたんだけど・・・そこまで言うなら仕方がないわ。」

と、あっさりした口調で言いました。

   ☆   ☆   ☆

 約束の土曜になり、私は彼女のアパートへ行きました。今日はうんと彼女にじめられて、借り、を返せると思うと晴れ晴れした気持ちになります。どうせ弱々しい女のすること、しかも彼女はやさしい性格で、根っからのMで、主体的にキビしい拷問など出来ず、竦んでしまって、ママゴトのような責めになるだろうと思うと、何かくすぐったさを感じました。私はあらかじめ、責め、のメニューを考えておきました。彼女が同情して、「もういいわ。」と言っても、「いえ。これだけでは私の気がすみません。もっとつづけて下さい。」と言って、つづけさせ、十分、貸し借り、を清算できたと思うまで私がリードして彼女に責めさせようと思いました。私は責めに耐え抜く雄々しさを示せることにうれしさも感じていました。私のイメージは天体を支えるヘラクレス、岩盤につながれたプロメテウス、権力者の拷問に耐え抜く殉教者などの勇者の姿でした。私もその勇者の一人に加われると思うと何か心地よい気持ちでした。

 しかし現実はそれとはかけ離れたものになってしまいました。

チャイムを押すと彼女の明るい声が返ってきて、笑顔で私を向かい入れてくれました。彼女は何かウキウキした様子です。彼女はおおらかで、私と違い積極的な強い意志を持った性格です。そういえば以前、私の手をヒールで踏みつけたり、私を無視して困らせてみたりと、イタズラな面も持っています。今まで彼女は、ずっとMの役だったので、彼女のSなど想像すらしていませんでしたが、人間とはそんな単純なものであるはずがありません。彼女がSの役になった時、はたしてどう変わるのか、それが全くわからないことに私は少し不安を感じ出しました。彼女はずっとMの役ばかりやって、Sの役はやらなかっただけで、それはSが出来ないという証明にはなりません。私は彼女がSの立場になった時、どうなるかは全く考えてもみなかった、というより、私の勝手なイメージを作り上げてしまっていたことに気づきました。もしかすると彼女のこだわりのない積極的な性格からすると、わりとSもかなり平気で出来るのではないか、という不安が起こってきました。食事の最中も、

「今日は私が純さんをいじめる番ね。」

と、屈託ない口調で笑いながら言います。そんな笑顔の彼女を見ると、私の不安はいっそう募っていき、握っていたナイフとフォークはピクピク震えてきました。相手が絶対的に弱いものだという前提が崩れると、持ち前の臆病な心がフツフツと起こってきて、私は射竦められた小禽のようにおびえの気持ちでいっぱいになってしまいました。食事がおわると彼女は、

「それじゃあ責めさせてもらおうかしら」

と言って、彼女は、

「ふふふ」

と笑いました。私は、

「はい」

と緊張して答えました。彼女に、

「じゃあ服を脱いで」

と言われて私は服を脱いでいきました。黒のビキニのサポーターパンツ一枚になるとそれ以上脱ぐことにためらいを感じて、私は隆起した、その部分を両手で必死におさえていました。

「わあ。黒のビキニだわ。黒のビキニって男の人がもっともセックスアピールする時のだわ。私のために準備してくれたのね。うれしい」

彼女は私をじっと見ながら続けます。

「でもそれも脱いでくれなきゃ裸とは言えないわ。脱いで」

私は逆の立場に立たされて裸になって、見られることのつらさを知りました。

「こ、これは許してください」

私は彼女に哀願しました。

「どうして?」

「は、恥ずかしいんです」

「女が裸をみられることを恥ずかしがるのは分るけど男の人は裸になるのを恥ずかしがったりはしないわ。わけを聞かせて」

彼女は予想していたのとは違う、強気な命令的な口調で言いました。

「い、言えません。許してください」

私が困惑していると彼女はスッと立ち上がって、私の脱いだ服を取り上げてしまいました。

「女の人の裸は美しいですけど男の裸は美しくなくて、みっともないだけです」

「でも約束を守るってこと大事なことじゃないかしら。私だって純さんにさんざんはずかしめられたわ」

彼女はちょっと考えた後、言いました。

「わかったわ。じゃあ、しっかり隠せるものをあげるわ。だから脱いで」

「あ、ありがとうございます」

私は後ろを向いてビキニパンツを脱ぎました。

「こっちを向いて」

と言われて私は、

「はい」

と答え、隆起した部分を必死で押さえていました。彼女は「あっ」という私にかまわずビキニパンツを取り上げてしまいました。「ふふ」と彼女は笑っています。

「どうしてそんなに恥ずかしがるの」

「そ、それは、あこがれの優子さんだからです」

「お世辞はいいわ」

「い、いじめないで下さい」

「何をされてもいいと言ったのに何でそんなにいやがるの」

「そ、それは。サポーターは履いたままで、ムチ打たれたりとか、竹で叩かれたり、とか男にふさわしい責めだと思ったからです」

「そういう早とちりしちゃうと、長い人生で人に騙されちゃうわよ。世の中には悪い人がいっぱいいるんだから」

「ずっとこうしているのもいいわね。そうしようかしら」

「さ、さっきビキニを脱ぐかわりに覆うものをかしてくださると言ったじゃないですか」

「そうね。約束は約束ね」

と言って彼女はポイと私に手に隠していたものを投げました。

「あっ」

と私は声をだしました。それは女のパンティーでした。優子さんのでしょう。

「こ、これはパンティーじゃありませんか」

「そうよ。私のパンティーよ。それは覆い隠せるものじゃなくって?」

私が戸惑っていると、

「履きたくないのならいいわよ。どっちにする」

私は迷ったあげく、裸でいるよりは、と、後ろを向いてソロソロとそれを身につけました。男が女のパンティーを履くなんてみっともないものです。優子さんは私をみじめのどん底に落とそうとしているのだ。優子さんはSの性的嗜好も、かなり強くもっているのだ、と鈍感な私は今になってやっと気づきました。履いて私は「あっ」と叫びました。それは以前優子さんに履かせたビキニのようにお尻が半分近くみえてしまうようなものだったからです。だからといって一度履いたものを脱ぐことも出来にくいものです。私は隆起した部分を必死に手で押さえていました。

「純さん。後ろを向いて」

と言われて、後ろを向くと彼女はグイと手を後ろに回し、縛り上げました。

「さあ。立って。部屋を一周しましょう」

私はおそるおそる立ち、彼女に縄尻をとられ、部屋を一回りしました。女のパンティーを履き、縄尻を取られて歩かされるなんてみっともないものです。

部屋をまわり終わると彼女は縄尻を滑車に通し、私を立ち縛りにしました。

彼女は椅子に座って困惑している私を楽しそうに見つめています。

「どう。女の子になった気分は。」

「誰にも言わないわ。純さんも心も裸になっちゃいなさいよ。いい子でいると疲れるわよ。」

「女の下着をつけて興奮するなんて、純さんて本当は女装趣味があるんでしょう。」

私が膝をモジつかせていると彼女はそんな揶揄の言葉を投げかけます。私には女装趣味はありません。私はデパートでも女性の下着売り場の前を通っただけで興奮してしまうくらい女性の下着に対する拝物的な欲求を強く持っています。しかしそれはあくまで女性の付属物、代替物として惹かれるのです。私には女装趣味の男の心理が分かりません。分からないというより嫌悪を感じつづけていました。私には男性的なたくましさが生来ないため、女を征服する対象とはみなせず、女性は崇拝の対象でした。崇拝が昂じて崇拝の対象である女そのものになりたいという女性化願望は当然のごとく起こりました。指をくわえて美を崇めているのもいいが、美そのものになれたらどんなに幸せなことか。自慰自涜する時、私の精神は完全に女になっています。しかしこれはあくまで想像の中だけでの性転換であって、それは醜悪なものとは思いません。しかし女の下着を実際に履くなどという事は醜悪で、嫌悪感しか感じませんでした。もし私が女のような美しい容貌で女の下着を履いてもグロテスクでないなら私は女装趣味を受け入れられたかもしれません。いや、きっとそうしたと思います。しかし私の顔はとてもそんな女装姿が絵になるような美形ではなく、女装などしたらグロテスクなだけです。物事をすべて、美、という価値観から見る私にはとても出来るものではありませんでした。男の女装趣味は、それが似合って、美になるような、まれな柔和な優男がすればいいのであって、そのような容色に生まれつかなかった男は想像の中でだけ女になって楽しめばいいのだ、と思っていました。美形でないのに自分の女性化願望にまかせて女装するような男は、美、という観念が欠けているのだ、と軽蔑していました。

しかし嫌悪していたはずの女装が彼女の巧妙な言葉の誘導で少しずつ揺らぎ始めました。

彼女は後ろ手に縛められて、立っている私の背後から手を廻して胸にピッタリあてがってゆっくりじらすように揉みながら、

「どう。女の子になった気分は。」

とか、

「誰にも言わないわ。純さんて女装趣味があるんでしょ。誰にも言わないから本心を白状しちゃいなさいよ。」

などと悪魔の誘惑を耳元でささやきます。私は必死に首を振って、

「そ、そんなものありません。」

「じゃあ、どうしてパンティーを履いて興奮しているの。むくむくよ。ほら。」

と言って隆起した部分に手をあてがいました。私は、

「ああー。」

と声をあげ、歯をカチカチ噛み鳴らして必死で耐えていましたが、彼女は面白がってますます責めを強めていきます。女性にこんな風に弄ばれれば男なら誰だって興奮してしまいます、などと言っても弁解などすればするほど猜疑心を強めてしまいます。もう何も言うまい、黙って耐えようと思って無言でうなだれていると、彼女はますます嵩にかかって、

「そう。そんなにパンティー履くのがいやなら脱ぎましょうね。無理に履かせてしまってごめんなさい。」

と言ってパンティーをさげ始めました。

「あっ。」

と私が叫び声を上げた時にはもうすでに遅く、尻が丸出しになり、私は必死でそれ以上、下げられないよう膝をより合わせました。

「どうしたの。パンティー履くのいやなんでしょ。」

彼女は空とぼけて言います。もともと責めは覚悟していた私です。

たとえ彼女の方から頼んだ事とはいえ、一方的に彼女をいじめるというのは、どうも気持ちがすっきりしない。それで、いじめた分、いじめ返されることに私は貸し借りの清算を心待ちに思っていました。しかしそのいじめは、ブリーフは、履いたままで鞭打たれたり、命令に服従したりと、男にふさわしい責めだと思っていました。そして天体を支えるヘラクレスのように責めに絶える雄々しさを憧れの女性の前で示して見せてやる、ということに、うれしささえ少なからず予期していました。しかし彼女のいじめとは予想していたものとは全然違う、心を徹底的になぶる羞恥責めです。これからどうなるのか、彼女がどんなことをするのか、自分が自分でなくなってしまうような、恐ろしさにおののいて、私は身動き出来なくなってすくんでしまいました。彼女は続けて言います。

「どうしたの。パンティー履きたくないんでしょ。」

「お、お願いです。」

「なあに。」

「パ、パンティーを・・・。」

恥ずかしくてその先を言うことが出来ないでいると、

「なあに。パンティーをどうするの。はっきり言ってくれなきゃ分からないわ。」

と言って彼女は含み笑いして、

「でも困ってる純さんて女の子みたいでかわいいわ。ずっとこうしているのもいいわね。」

などといって椅子に座って紅茶を飲み始めます。私は惨めな姿をさらしつづけることに耐えられなくなって、声を振るわせながら、

「パ、パンティーをあげてください。」

と声を震わせて言いました。すると彼女は、

「あげるってどうするの。箪笥の中のパンティーを箪笥の上に載せること。それとも誰か人にあげてっていうの。もっと分かりやすく、はっきりと具体的に言って。」

「パ、パンティーを元のように履かせてください。」

言うと彼女は、してやったりという得意顔で椅子からぴょんと飛び降り、

「わー。やっぱり純さんはパンティーを履きたいのね。やっぱり女装趣味があるんじゃない。恥ずかしくて言えなかったのね。」

と彼女は手をたたいて喜び、パンティーを引き上げました。強制的に言わさせられたとはいえ、惨めなものです。ガックリうなだれていた私の後ろに彼女は廻って、

「ふふふ。純さんが女装趣味があるなんて知らなかったわ。純さんは電車の中で痴漢にあっている女の子よ。本当はこうやって女の子みたいにいじめられたいんでしょ。正直に本心を白状しちゃいなさいよ。」

と言って、痴漢のようにパンティーの辺りを、誘惑するような手つきで巧みに手を這わせたり、胸を揉んだり乳首をキュとつまんだりします。彼女の巧みな誘惑の愛撫が私の心に悪魔の官能を起こし、私の男の部分はびんびんに隆起していました。私は歯をカチカチ噛み鳴らしながら、首を振り、必死で耐えながら、

「優子さん。お願いです。やめてください。」

と首を振りながら叫びました。しかし、彼女は聞く耳を持たず、巧みな愛撫を続けながら、

「純さん。何をしてもいいと言ったじゃない。」

と、うそぶきます。

「ム、ムチ打ってください。好きなだけムチ打ってください。そ、そのかわり、こんなことだけはやめてください。」

と言いますが、彼女は嵩にかかった口調で、

「あーら。何をしてもいい、と言って、条件なんかつけなかったじゃない。約束を守るってこと大切なことじゃないかしら。」

と、突っぱねます。

「純さんが本心を白状するまでずっと続けるわ。」

と言って巧みな愛撫をつづけます。彼女は時々、私の耳元に口を近づけて、

「誰にも言わないわよ。」

とか、

「白状すると楽になるわよ。」

などと悪魔のささやきかけをします。私の頭は彼女の誘惑の愛撫が起こす悪魔の官能でいっぱいで、冷静に考える思考力も麻痺していました。私はもうただ、彼女のしている、じらし責めから逃れたい一心で、もう自分が自分でなくなってもかまわない、という自暴自棄的な気持ちになって、彼女に屈する覚悟をしました。

「わ、わかりました。優子さん。言います。言いますから、どうかもう許してください。」

「そう。じゃ、言って。でもウソっぽかったらダメよ。」

と言って、手の動きを止めました。私には女装趣味はありませんでしたし、女性化願望も精神的なものでした。しかし今は違っています。これは彼女の誘導尋問ですが、もうどうでもよくなっていました。私は検察官の尋問を受けている容疑者がラクになりたさにウソの自白をしてしまう心理をつくづく実感しました。

「私は優子さんの言うとおり、女装趣味があります。一人でいる時は女の下着をつけて興奮していました。私は身も心も女の子になりたいと、ずっと思っていました。夢を叶えて下さった優子さんに感謝しています。どうか、私を女の子のように責めてください。」

と言うと彼女は手をたたいて笑い、

「わー。やっぱりそうだったのね。思ってた通りだったわ。わかったわ。純さんを女の子のようにやさしく虐めてあげるわ。」

と言って彼女は私にアイシャドーをしたり、足に赤いペディキュアをつけたりします。無理に言わせられたとはいえ、彼女の責めに負けてしまった以上、もう恥も体裁もどうでもよくなり、私はもう本当に彼女に女の子のように責められたい、という願望がふつふつとわいてきました。

彼女は再び、私の後ろに廻って痴漢のように体をもてあそび出しました。

「優子さん。」

「なあに。」

「そんなお手柔らかなのじゃなく、もっと徹底的に、めちゃくちゃにして下さい。」

と言うと彼女は「ふふふ。」と笑い、

「わかったわ。じゃ、ちょっと待ってて。」

と言って隣の部屋へ行きました。しばしして戻ってきた彼女を見てびっくりしました。彼女は本格的な黒い皮の女王様ルックで戻ってきたからです。Tバックの、露出度のきわめて激しいハイレグで、一見するときわめて男の欲情をそそるセクシーな姿ですが、ピッチリと体に密着して、わずかに秘部だけ覆っているだけのその衣装は、丈夫な皮の光沢が、厳重な鎧のような感じを呈し、男の侵入を許さない絶対者のような威厳で無言のうちに男を威嚇しているように見えます。目には仮面舞踏会の時するようなアイマスクをし、手にはこの前私がムチ打った一本鞭を握っています。アイマスクで表情が見えないため、彼女が何を考えているのかわからず、それがいっそう恐怖心をつのらせます。彼女はMなのに、こういう女王様ルックも持っているとはどういうことなのでしょうか。彼女もMなだけではなく、男を奴隷にしていじめたいという女王様願望も有るのかもしれません。彼女は、「ふふふ。」と笑い、私の後ろに回ってピシリと床をたたいて威嚇しました。私は恐怖に身をすくませました。彼女は一本鞭で遠慮なく私をムチ打ち出しました。私は激痛のため、見栄も外聞も忘れ、

「ああー。」

と苦痛の叫びを上げ、タップダンスのように足踏みしながら首を激しく振りました。ムチは痛いものだとは思っていましたが、一本鞭がこれほど痛いものだとは知りませんでした。しかし私は最前までは、これをこそ望んでいたのです。前回、彼女を徹底的にいじめてしまった、一方的な借りを、逆に彼女に徹底的にいじめられることによって返せることを心待ちにしていたのです。私はさらに、それを口実に彼女に男らしさを示せるまたとない機械になることにワクワクさえしていました。どんなに容赦なく鞭打たれ続けても黙って耐え続ける姿を見せることによって、一見小心で臆病に見えても、どんな苦難にも耐えぬける強い精神力も持っていることを誇示できるまたとない機会だと思っていたのです。私のイメージは、黒いビキニのサポーター一枚で、天体を支えるヘラクレスのように、黙々と責めに耐え抜く勇者の姿でした。そして、とうとう彼女が根を上げない私に根負けし、同情し、「純さん。痛かったでしょう。ごめんなさい。もうはずします。」と言って縛めを解いても私は平然と何も無かったように、「いえ。大丈夫です。」と答える。

そんなシナリオを無意識のうちに描いていました。

しかし現実は予想とはかけ離れた惨めなものになってしまいました。私は彼女の巧みな愛撫責めに屈してしまいました。一度敗北を認めた以上、もう元へは戻せません。一度屈してしまった後に撤回を求めるなど女々しい悪あがきをする人間だと侮蔑の目で見られるだけです。むしろ一度屈してしまった以上、約束通り行動する方が、せめてもいさぎよさ、を示せます。それにもう私の頭は混乱して、捨て鉢な気持ちも加わって、誰にも知られないことをいいことに心身ともに女の子になりきって、その喜びを味わいつくしたい気持ちでいっぱいになっていました。私は女物のパンティーを履き、身も心も女になりきって、体を震わせながら、

「ああ。優子さん。お願いです。許してください。」

と、泣きながら何度も憐れみを乞いつづけました。私は嬲られる女の心になりきって、何度も哀れみを乞う弱々しい目を向けました。しかし彼女は無言で容赦なくムチ打ち続けるだけなので、私は耐え切れなくなって、

「優子さん。何か言ってください。優子さんが何も言ってくれないとこわいんです。」

と、泣き叫びながら言いました。すると彼女の休む暇なく続いていた呵責の鞭はスッと止まりました。彼女は前に廻って泣き崩れた私の顔を黙って見詰めました。節穴のように小さくくりぬかれたアイマスクの覗き穴から見える表情のわからない不気味な目はいいようのない恐怖感を放っています。彼女がムチ打ちを止めてくれたことに対し、ペコペコ頭を下げ、涙を流しながら、

「あ、ありがとうございます。お許しくださって。」

と言うと、彼女は、「ふふふ。」と笑い、私の頬をやさしく撫でて、

「ふふ。弱虫ちゃんね。」

と言って椅子に座って膝組みし、タバコを取り出して一服しました。彼女はパンティーを履いて恐怖におびえている惨めな姿の私をさも楽しそうに眺めまわしています。黒い女王様ルックに身を包んで、厳しい拷問をしたことなど忘れているかの様なくつろいだ様子の彼女を見ていると、彼女が本格的な女王様のように見えてきます。もしかすると彼女はMだけでなく、強いS、女王様願望の欲求も持っているのかもしれません。しかし彼女の本心を知る由はありません。しかし私はパンティー一枚で彼女の前に惨めにうなだれている自分を思っても抵抗を感じませんでした。気の小さい私には彼女をいじめるより、こうやって虐められている方が合っているんだと何かほっとした気持ちさえありました。しばし黙ってみじめな姿の私を楽しげに見て、タバコを吸いながら一休止していた彼女は、タバコを揉み消すと、ついと立ち上がり、

「さあ。一休みしたからまた始めましょう。」

と、さも当然のように非情に言いました。私はギョッとして、

「ま、まだつづけるんですか。」

と、驚きと恐怖で聞き返しましたが、彼女はそっけない口調で、

「そうよ。当然じゃない。」

と言って私の後ろに廻りました。私は恐怖に耐え切れず、

「お、お願いです。優子さん。どうか鞭打ちだけは、これ以上はお許しください。うんと満足いくまでみじめにして下さい。ですがムチ打ちだけはどうか許してください。」

そう強く訴える私を無視して彼女は私の後ろから容赦なくムチ打ち出しました。激しい痛みに加え、いつ終わりになるのかわらない恐怖感で私はバタバタ足を踏み鳴らし、泣き叫びながら許しを乞う叫びをつづけました。が、私が足をバタバタ踏み鳴らすので、彼女は、「ちょっとこれが邪魔ね。」

と言って私の足元に屈み込んで両足首を縛り、動けないようにして再び遠慮容赦なくムチ打ちだしました。


かなりの鞭打ちがつづいた後、情けをかけてくれたのか、一休みとろうと思ったのか、宙を飛び交っていた鞭の動きが止まりました。私が恐怖におびえる弱々しい視線を彼女に向けると、彼女は私の顎をグイとつかみ、彼女の方に振り向かせ、

「ふふ。純さん。私、本当は純さんをこうして奴隷にしたかったの。私はMの願望が強いけど、純さんを見た時からこうして純さんをいじめ抜いて従わせたいと思ってたの。これから一生、私の奴隷として従うなら許してあげるわ。どう?」

「は、はい。」

私は涙の中に答えました。

「これからは優子さん、じゃなく、優子女王様と呼んで、私の言う事は何でも聞くのよ。」「は、はい。」

私が弱々しく答えると彼女は私の頬をピシャリと平手打ちし、

「はい、じゃなく、はい。優子女王様でしょ。」

と、厳しく叱りつけます。

「はい。優子女王様。」

と私は弱々しく言いました。

「じゃあ、ちゃんと今、奴隷になる宣言をして。そうしたら縄を解いてあげるわ。」

「な、何と言えばいいのでしょうか。優子女王様。」

「それは自分で考えて。それくらい自分で考えられるでしょ。」

私はしばし考えた後、恐る恐る口を開いて奴隷の宣言のコトバを言いました。

「私はこれから一生、優子女王様の忠実な奴隷として、優子女王様の言う事にはすべて従います。」

彼女は、

「上出来。上出来。じゃ、縄を解いてあげるわ。」

と言って、足首と手首の縛めを解きました。私はムチ打ちの疲れからクナクナと力なく座り込んでしまいました。私は少し休みたいと思いましたが、彼女は縄のついた首輪を私の首にはめ、

「さあ。四つん這いになって。」

と命令します。私が犬のように四つん這いになると、

「純さんは犬よ。お散歩しましょうね。」

とムチで尻を撫でながら促します。私は縄尻を取られたまま、四つん這いで部屋を一周しました。彼女は四つん這いになっている私の背中にドンとのると、

「ふふふ。来週もまた来るのよ。たっぷり虐めてあげるわ。」

と言って、首輪の縄をグイと引きました。その後、犬のように皿に盛られた料理を四つん這いのまま食べたり、彼女の命令に従って、足指をぺろぺろ舐めたりと、さんざんみじめな目にあいました。

   ☆   ☆   ☆

 翌週になり私は寂しい思いで会社に出勤しました。もともと彼女のような明るい性格の、美しい女性を、無口で内気な性格の私が自由にいじめる何ていう事は分不相応な夢のような事だという引っかかりは持っていました。彼女が計算家で、まんまと彼女の計画にかかってしまったことは確かにさびしい事でした。しかしこうなる事が私にはふさわしいのだという思いもありました。私はフワフワした夢から覚めて現実へはっきり戻れたことに気が休まる思いでした。それに私は彼女の奴隷になっても悔いはありません。私は彼女にだまされたわけですが、彼女は根本的には真面目で明るい、魅力的な女性なのです。私は彼女が好きで、たとえ奴隷になっても彼女と関係を持てることが十分嬉しいのです。ただ彼女が私をどう思っているのかは、気にかかりました。彼女は私に少しでも好意を持ってくれているのだろうか。人を奴隷にして、いじめたいという気持ちに、はたして愛が少しでも在るのだろうか。彼女にとって私は便利な小間使いで、ストレスを解消できる何の愛もない単なる道具なのではないか。そう思うと寂しさを感じずにはいられませんでした。

彼女にとって私は、何の想いもない、単なる道具なのか、それともほんの少しでも私に好意を持ってくれているのか、それだけは今度会ったら勇気を出して聞いてみようと思いま

した。

   ☆   ☆   ☆

 約束の土曜になり私は陰鬱な気持ちで彼女のアパートへ行きました。チャイムを押すと、

「あっ。純さんですね。今開けます。」

と、予想に反した明るい声が返ってきました。私はSMに関する作法というものを知らないので、いったん奴隷となった以上、対等な挨拶などというものは無く、会ったときから絶対服従するものだと思っていたのでちょっと戸惑いました。ドアが開くと、さわやかな白のブラウスにフレアースカート姿の彼女が笑顔で迎え入れてくれたので、また拍子抜けしてしまいました。私はてっきり彼女は女王様ルックで、アイマスクをしているものだと思っていました。

彼女に手を曳かれてテーブルの前まで来ると、私は恐怖心からあわてて土下座して、

「優子女王様。今日もよろしく御調教よろしくお願い致します。」

と床に頭をこすり付けんばかりにして精一杯心を込めた、恭しい口調で言いました。

こうやって心を込めて絶対服従の意思を示せば、ハードな拷問にも少しは手加減してくれる情けが入ってくれるのではと、そればかりを祈るような思いでした。

彼女は黙って私の手をとって立たせ、テーブルに向かい合わせに着きました。テーブルには手をかけて作った料理が二人分、用意されています。彼女は私を見ると、「ふふふ。」と笑い、照れくさそうに話し出しました。

「純さん。一週間いじめちゃってゴメンなさい。私、純さんを奴隷にする気なんて全く無いわ。私が純さんに絶対服従する奴隷だわ。私は大雑把な性格だから、こんなイタズラも平気でやっちゃうけど、純さんはデリケートな性格だから恐怖感におびえているだろうことは十分察しがついたわ。本当に悪い事をしちゃって、すまないな、と思っていたけど、一週間だけ辛い思いをさせて、今日一気に喜ばせてあげたいと思ったの。本当にゴメンなさい。今日はその仕返しでうんといじめて。」

そう言って彼女は立ち上がり、縄や首輪を持って来て、床に置き、着ていた服を全部脱いで丸裸になり、腰を下ろして立て膝の姿勢になると、両手を後ろに回して手首を重ね合わせ、

「さあ、縛って。そしてうんといじめてください。」

と言いました。私は彼女を力強く抱きしめて、

「ああ。優子さん。好きです。世界一好きです。」

と泣きながら大声で叫びました。

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M嬢の物語 浅野浩二 @daitou8

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